大聖堂襲撃は、動く死体が偶然暴れた事件ではなく、グレン王子とサラキア王女の婚姻を潰し、王権派を一気に崩すために仕掛けられた計画だった。
最初に大量の動く死体で護衛を足止めし、その群れへ生身の暗殺者を潜ませ、それでも王族が逃げれば次に合成獣をぶつけるという連続攻撃が組まれている。
婚姻の儀に姿を見せなかったモーリス教皇と、第1期から続く王権派と教皇派の対立を追うと、大聖堂の惨劇が以前から準備されていた権力争いの一手だったことが見えてくる。
※ここからは『片田舎のおっさん、剣聖になるII』第10話までの内容に加え、第1期の王族暗殺未遂とスフェンドヤードバニア国内の対立にも触れます。
第1章 大聖堂襲撃の黒幕は誰?最初に見える答え
動く死体の暴走ではなく、王族二人を狙って組まれた計画的な襲撃だった
大聖堂で起きた惨劇は、
偶然集まった動く死体が暴れ出した事件ではない。
グレン王子とサラキア王女が同じ場所へ揃う婚姻の儀を狙い、
大量の死体、生身の暗殺者、
さらにその先の合成獣まで用意した連続攻撃だった。
第10話では、
サン・グラジェ大聖堂に王族や参列者が集まり、
グレン王子とサラキア王女の婚姻が進められる。
式は大きな混乱もなく進み、
二人が正式に結ばれる直前まで、
ベリルたちも大規模襲撃を予想していない。
ところが拝廊側から突然騒ぎが起こり、
外を守っていた教会騎士の制止も突破される。
大聖堂へ押し寄せたのは、
剣で斬られても痛みで止まらない人影。
ベリルは第1期で見た異常と同じだと判断し、
アリューシアへ胴体や下半身を狙うよう伝える。
さらに死体だけでは終わらない。
群れの中には黒装束の生身の暗殺者が紛れ、
ベリルの隙を突いて王族へ接近する。
短剣の狙いを変えながら動く姿から、
ベリルは死体とは違う人間が混ざっていることを見抜く。
この時点で、
襲撃側が単純な物量だけに頼っていないことが分かる。
死体の群れで護衛を前線へ固定し、
その中へ本物の暗殺者を潜ませる。
最初から王族へ一撃を届かせる仕掛けが組まれている。
しかも王族が大聖堂を脱出した後には、
さらに別の脅威として合成獣の存在まで判明する。
死体で止める。
暗殺者を通す。
それでも逃げれば次の戦力をぶつける。
襲撃側は一つの失敗で計画が終わらないよう、複数の手を重ねていた。
ここまで準備された攻撃なら、
現場の術者や暗殺者だけを見ても全体像は掴めない。
誰が王族二人の婚姻日程を知り、
誰がこれほど大規模な戦力を準備し、
なぜ二人をこの日ここで狙ったのか。
黒幕を見るには、その政治的な背景まで必要になる。
婚姻の儀に姿を見せなかったモーリス教皇が、最重要人物として浮かび上がる
そこで強く引っ掛かるのが、
スフェン教教皇モーリス・パシューシカ。
大聖堂の襲撃現場で戦っていたわけでも、
最初から敵として姿を現したわけでもない。
むしろ重要なのは、婚姻当日にその場へいなかったことだった。
グレン王子とサラキア王女の婚姻は、
一個人同士の小さな式ではない。
王族同士が結ばれる国家級の儀礼であり、
スフェン教の中心地にある大聖堂で行われている。
本来なら教皇が強く関わっても不自然ではない場だった。
ところが実際に式を進めていたのは、
モーリス本人ではなくダートレス大司教。
襲撃が起きても、
モーリスは大聖堂へ姿を見せない。
そして王族二人が同じ場所へ揃った時だけ、
動く死体と暗殺者が一気に流れ込んでくる。
大聖堂を脱出した後、
この違和感へ答えを与える人物がホワイト・メイデン。
それまで声で正体を悟られないよう、
ほとんど筆談で意思を伝えていた彼女が、
合成獣の話が出たところでモーリス・パシューシカの名を口にする。
グレン王子が、
今回の凶行の主犯がモーリスなのかと問い返す。
ホワイト・メイデンは言葉を重ねず肯定する。
ここで教皇不在、
大聖堂襲撃、
王族暗殺、
合成獣という複数の異常が一つの線へ集まり始める。
ただし、
モーリス自身が死体一体ずつを直接操っていたという話ではない。
重要なのは、
これだけの人員と禁忌を使った連続攻撃を進める側の中心に、
教皇派の最高位であるモーリスがいること。
大聖堂襲撃は現場だけ見ても終わらない事件なのである。
第2章 なぜグレン王子とサラキア王女の婚姻が狙われた?
二人の結婚は恋愛だけでなく、王権派をさらに強くする政治的な結び付きだった
襲撃側が婚姻の儀を狙った背景には、
グレン王子の立場がある。
第1期の時点で、
スフェンドヤードバニア国内では
教皇派と王権派の対立が強まっていることが明かされていた。
ルーシーがベリルへ説明した内容では、
実際に軍同士がぶつかる内戦ではないものの、
国内は政権争いに近い状態。
宗教国家だから一枚岩というわけではなく、
教皇を中心とする勢力と王家を中心とする勢力が権力を争っていた。
そこで重要になるのが、
第一王子グレンの王位継承順位。
順当に進めば、
グレンが近い将来王位を継ぐ可能性が高い。
これは王権派にとっては自然な流れでも、
教皇派には歓迎しにくい状況だった。
一方、
第二王子ファルクスは敬虔なスフェン教徒。
第1期では、
もしグレンがいなくなりファルクスが王位へ近づけば、
教皇派が王権へ強く影響を及ぼせる可能性までベリルが考えている。
王位継承そのものが、両派の力関係へ直結していた。
だから第1期のグレン王子暗殺未遂でも、
ベリルは単なる個人的恨みではなく、
王位継承を巡る教皇派の思惑を疑う。
実際、刺客を通したロゼと対峙した時には、
「グレン王子が王位を継ぐと都合が悪いのか」と核心へ踏み込んでいる。
この第1期の事件があるからこそ、
第2期の婚姻襲撃も突然ではない。
グレン王子は以前から命を狙われていた。
それでも生き延び、
今度はサラキア王女との婚姻によって、
さらに外部との政治的な結び付きを強めようとしている。
襲撃側から見れば、
放置すれば王権派が以前より安定する。
だから婚姻が成立する前、
しかも王子と王女が同じ場所へ揃う日に狙う。
単に結婚式だから派手な事件を起こしたのではない。
第1期の暗殺未遂で失敗した相手を、今度は婚姻の場でまとめて狙った
第1期でグレン王子が狙われた時、
襲撃側はすでに相当な準備をしていた。
ロゼは教会騎士団副団長という立場にありながら、
刺客を完全には止めず、
結果として王子の近くまで敵を通している。
ベリルがその不自然さを問い詰めると、
ロゼは最初こそ曖昧な態度を取る。
しかし鎧にも剣にもほとんど戦闘の痕跡がなく、
まともに刺客を止めていなかったことは明白。
最終的にはベリルと直接剣を交える流れになる。
ここで第1期の暗殺は失敗する。
グレン王子は生き残り、
王位継承の位置も失っていない。
教皇派側から見れば、
一度排除し損ねた相手がそのまま政治基盤を強めていることになる。
そして第2期では、
サラキア王女との婚姻が進む。
婚姻の儀は、
グレン王子が単独で移動している時より襲撃側に都合がいい。
王子と王女が確実に同じ場所へ現れ、
しかも式典中は行動範囲も限定されるからである。
護衛側も、
自由に戦える状態ではない。
参列者、
聖職者、
外交関係者まで大聖堂内部へ集まっている。
ベリルたちは王族だけを連れて好きな方向へ走ることができず、
周囲の被害まで考えながら迎撃しなければならない。
そこへ大量の動く死体を投入すれば、
護衛戦力を簡単に王族から引き離せる。
さらに死体の群れへ暗殺者を紛れ込ませれば、
大混乱の中で一人だけ王族へ近づくこともできる。
婚姻の儀そのものが、攻撃側にとって利用しやすい状況だった。
だから今回の大聖堂襲撃は、
「グレン王子をもう一度狙った」だけではない。
第1期で失敗した王族暗殺を、
今度は婚姻という政治的転機に合わせ、
サラキア王女まで巻き込んでやり直した形になる。
王子を排除する。
婚姻を成立させない。
王権派の強化を止める。
その三つを同じ日に狙える場所が、
グレン王子とサラキア王女の婚姻が行われる大聖堂だった。
動く死体、
暗殺者、
そしてその先の合成獣。
ここまで手段を重ねたのは、
一人の王子への私怨では説明しにくい。
婚姻を境に強くなる王権派そのものを叩くための攻撃だったからこそ、
大聖堂が連続攻撃の最初の舞台に選ばれたのである。
第3章 最初の一手は「動く死体」だった
大量の死体を正面から押し込むことで、ベリルたち護衛を王族の前へ固定した
大聖堂襲撃で最初に投入されたのが、
大量の「動く死体」だった。
第10話では拝廊側から騒ぎが大きくなり、
外にいた教会騎士が制止を続けても人影は止まらず、
ついには扉を突破して聖堂内部へ雪崩れ込んでくる。
ここでベリルは、
襲撃のやり方そのものへ違和感を抱いている。
本当に王族を暗殺するだけなら、
警備の正面へ堂々と突っ込み、
教会騎士に抜剣する時間まで与えるのは効率が悪い。
最初は「教皇派も追い詰められて雑な強行策へ出たのか」と考えるほどだった。
ところが人影が大聖堂へ入ると、
その不格好さが別の意味を持ち始める。
外の騎士が「そいつら止まらな……」と叫び切る前に、
押し寄せる群れへ呑み込まれる。
剣で傷を負わせても、
普通の人間のように痛みで退かない相手だった。
ベリルには見覚えがある。
第1期でレビオス司教を捕らえた際、
死者蘇生の研究から生まれた
「操られた死体」と実際に戦っていた。
事件後には、あれを死者蘇生の奇跡の出来損ないだと報告している。
だから今回も、
人間相手のように戦意を折れば終わりとは考えない。
身体を壊して物理的に動けなくする必要がある。
しかも今回は数体ではなく、
王族の婚姻が行われる大聖堂の正面を埋めるほどの物量だった。
重要なのは、
この死体の群れが強敵一体を倒すための戦力ではないこと。
ベリル自身、
正面突破だけなら自分たちが戦えると考えている。
しかしグレン王子とサラキア王女を守りながらとなれば、
話はまったく変わってくる。
王族二人は、
式典の中央にいる。
周囲には聖職者や参列者も残り、
護衛だけが自由に前へ出ることもできない。
ベリルたちは王族の周囲へ残りながら、
入口から増え続ける死体を止め続ける形になる。
つまり死体の大量投入は、
「これだけでベリルを倒す」攻撃ではなかった。
ベリル、
アリューシア、
ヘンブリッツといった戦力を正面へ縫い付け、
王族から遠くへ動けない状況を作る役目を果たしていた。
第1期では禁忌の失敗作だった死体が、第2期では物量を使った足止めへ変わった
第1期のレビオス事件では、
死体を動かすこと自体が異常だった。
レビオスは死者蘇生を研究し、
木箱へ収めていた遺体を動かしてベリルへぶつける。
そこにはミュイの姉と思われる遺体まで含まれていた。
しかし当時の死体は、
レビオス個人の研究成果という色が強かった。
死者を本当に蘇らせることはできず、
人格も記憶も戻らない。
身体だけが不自然に動く、
不完全な結果として描かれている。
第2期では、
同じ系統の禁忌が完全に別の使われ方をしている。
死者を蘇らせたいのではない。
大量に動かし、
警備を押し潰し、
大聖堂の正面を塞ぐこと自体が価値になる。
大聖堂脱出後、
サラキア王女があれは何だったのかと尋ねると、
ヴェルデアピス傭兵団のプリムが、
死体へ魔力をまとわせて動かす魔術だと説明する。
つまり自然発生した魔物でも、突然蘇った死者でもない。
さらに大聖堂周辺へ出ると、
被害は建物内部だけでは終わっていない。
周囲の大通りからも悲鳴が飛び交い、
大量に投入された死体が市街へまで流れ出している。
完全な精密操作ではなくても、ある程度進む方向は与えられる状態だった。
ここまで数を用意した時点で、
黒幕側が死体一体一体を大切にしていないことも分かる。
壊されても構わない。
ただ前へ進み、
護衛へ剣を振らせ、
王族の周囲へ混乱を作れば目的の一部を果たせる。
第1期では地下に隠された禁忌。
第2期では王族暗殺のために投入される消耗戦力。
同じ「動く死体」でも、
役割は研究対象から実戦用の駒へ明確に変わっていたのである。
第4章 第二の一手は「生身の暗殺者」だった
死体の群れへ人間を隠し、護衛が物量へ気を取られた瞬間に王族へ近づかせた
動く死体だけでも、
大聖堂内部は十分な混乱状態になっていた。
ところがベリルは戦闘中、
群れの中から明らかに違う動きをする黒装束を見つける。
その人物が手にしていたのは、
死体には不要な切れ味の鋭い短剣だった。
ベリルが前へ入り、
その黒装束の突撃を止める。
すると相手はそのまま押し続けるのではなく、
手首を返してベリルの首へ狙いを変更する。
この反応だけで、
周囲の動く死体とは別の存在だと分かる。
ベリルも即座に戦い方を変える。
右手首を左手で掴み、
腹部へ剣を突き込んで止める。
死体なら痛みでは止まらないが、
生きた人間なら致命傷を負えば身体が動かなくなる。
同じ人影でも、対処方法そのものが違っていた。
そこでベリルは、
襲撃側の仕掛けに気付く。
大量の死体を正面から押し込み、
その山へ生身の暗殺者を隠していた。
死体そのものが暗殺の本命ではなく、
暗殺者を王族まで運ぶための目隠しにもなっていたのである。
しかもベリルは、
この構図から第1期のバルトレーン南区で起きた
グレン王子暗殺未遂を思い出している。
あの時も王族へ刺客が迫り、
ベリルは護衛対象へ身を低くするよう声を掛けながら、
近づく敵を排除していた。
今回もベリルは、
サラキア王女へまず身を屈めるよう指示する。
サラキアは戸惑うのではなく、
隣にいるグレン王子の肩まで押し下げ、
二人で低い姿勢を取る。
護衛が剣を振れる空間を自分たちでも作っている。
死体と暗殺者を同時に使ったことで、護衛側は「斬る」と「見抜く」を同時に迫られた
この二重攻撃が厄介なのは、
目の前の人影を全部同じ敵として扱えないこと。
動く死体は、
傷を負わせても止まらない。
一方の暗殺者は人間で、
ベリルの防御を見て次の急所へ狙いを変える。
つまり護衛側は、
大量の敵を斬りながら、
その一体一体の動きまで見なければならない。
ただ前へ進む死体なのか。
自分で間合いを計り、
王族への道を探している人間なのか。
判断を一度誤れば暗殺者を通すことになる。
しかも原作では、
生身の暗殺者が動く死体から襲われていないことも示される。
大聖堂を抜けた後、
ベリルはこの点から、
死体にある程度の行動方向を持たせられると考えている。
完全に無差別なら、
群れの中へ暗殺者を入れる作戦は成立しない。
ところが実際には、
暗殺者は死体の壁を利用して王族へ近づけた。
黒幕側は最初から、
死体と人間を一組として使う前提で準備していたことになる。
この時点で、
第10話冒頭にベリルが感じた
「襲撃の仕方が雑すぎる」という違和感も反転する。
正面から死体を大量投入すること自体が本命ではなく、
派手な混乱を作ることに価値があった。
教会騎士へ剣を抜かせる。
護衛を入口へ向ける。
参列者を混乱させる。
そして誰もが死体の群れへ視線を奪われたところで、
本物の暗殺者を王族へ近づける。
これなら、
最初の攻撃が不格好に見えたことにも説明が付く。
静かに忍び込む暗殺ではなく、
あえて騒ぎを最大化してから、
その内側へ暗殺者を通す作戦だった。
そしてこの第二の一手まで失敗すると、
襲撃はまだ終わらない。
ハノイたちと大聖堂を脱出したベリルは、
次に合成獣が用意されていることを知らされる。
動く死体も暗殺者も、単独で完結する攻撃ではなかった。
最初に死体で足を止める。
その中へ暗殺者を通す。
それでも王族が生き延びた場合には、
さらに別の戦力をぶつける。
大聖堂襲撃が危険だったのは、敵の数ではなく、
一つ失敗しても次へ進める連続攻撃として組まれていたからなのである。
第5章 第1期から教皇派と王権派の対立は続いていた
グレン王子暗殺未遂の時点で、すでに教皇派が第一王子を邪魔と見る構図は出来ていた
今回の大聖堂襲撃だけを見ると、
モーリス教皇が急に黒幕として浮上したようにも見える。
しかし第1期まで戻ると、
グレン王子と教皇派の対立はすでに一度、
王族暗殺未遂という形で表面化していた。
第1期でルーシーがベリルへ語ったのは、
スフェンドヤードバニア国内が
教皇派と王権派に分かれ、
実際の戦争ではないものの政権争いに近い状態になっているという話だった。
政治の実権は王家が握る。
一方でスフェン教を国教とする宗教国家だけに、
教義上の最高権威は教皇側にある。
王も王族も信徒である以上、
どちらか一方だけで国家を動かせない構造になっていた。
そこで問題になるのが第一王子グレン。
順当に進めば王位継承順位は最上位で、
近い将来に王権を引き継ぐ可能性が高い。
これに対し第二王子ファルクスは、
特に敬虔なスフェン教徒として知られていた。
ルーシーの説明を聞いたベリルも、
もしグレンを排除してファルクスを王位へ近づければ、
教皇派が王家へ影響を及ぼしやすくなるのではないかと考える。
第1期の時点で、第一王子を消す政治的な動機はすでに存在していた。
実際、
グレン王子たちの遊覧中には刺客が現れる。
アリューシアやヘンブリッツが王族を守る中、
ベリルは教会騎士団副団長ロゼの挙動へ強い違和感を抱く。
刺客と戦ったはずなのに、彼女のエストックには血痕がほとんどなかった。
ベリルはそこで、
グレン王子が王位を継ぐと都合が悪いのかと直接踏み込む。
それまで笑みを崩さなかったロゼの表情が変わり、
最終的には彼女自身がベリルと剣を交える流れになる。
政治対立が、すでに護衛現場へまで侵入していた。
ただしロゼ自身は、
教皇派へ完全に心酔していたわけではない。
第1期終盤では、
孤児院の子供たちを利用されていたことを明かす。
だから「教皇派に属する者は全員同じ思想」という単純な構図ではない。
それでも、
王族を狙う側が教会内部の人間まで動かせることは示された。
今回の大聖堂襲撃で、
内部事情を知る者が関わった可能性をベリルが疑うのも、
第1期の経験があるからなのである。
レビオス司教の禁忌も、教皇派の庇護下でひそかに続けられていた
もう一つ、
今回の動く死体と黒幕を結び付ける過去回がある。
第1期でベリルが対峙したレビオス司教事件。
彼は死者蘇生の奇跡を再現しようとし、
人間の死体へ魔力を加えて動かす研究へ踏み込んでいた。
レビオスは、
犯罪者集団「宵闇の魔手」とつながり、
魔装具を流す代わりに人間や死体を集めさせていた。
その結果、
ミュイが探していた姉と考えられる遺体まで利用され、
ベリルの前で操られることになる。
この事件後、
イブロイから情勢を聞いたベリルは、
レビオスが教皇派に守られていた可能性を知る。
やっていたことは教皇派にとっても表沙汰に出来ない禁忌だが、
庇護があるからこそ水面下で研究を続けられたと考えられていた。
表向きには司教位を剥奪する。
しかし教皇派との関係まで公にすれば、
死体利用や人身売買を黙認していた疑惑まで広がる。
レビオス事件は、一人の暴走だけでは片付けにくい背景を持っていた。
そして第2期の大聖堂では、
その時と同じく死体へ魔力を纏わせた存在が、
今度は数え切れないほど大量投入される。
ベリルが一目で第1期の記憶へ結び付けたのも、
単に見た目が似ていたからではない。
かつて教皇派の庇護下で行われていた禁忌が、
今度は王族暗殺の場へ出てきた。
さらに標的は、
以前から教皇派と対立していた第一王子グレン。
過去の二つの事件が、大聖堂で初めて同じ場所へ重なる。
第1期では、
グレン暗殺未遂とレビオス事件は別々に見えた。
一方は王位継承を巡る政治事件。
もう一方は死者蘇生を巡る禁忌の研究。
しかし第2期では、その二本が「動く死体による王族襲撃」として交差するのである。
第6章 ※原作ネタバレ ホワイト・メイデンがモーリス教皇の名を口にする
ほとんど声を出さなかった彼女が、ここで初めて「モーリス・パシューシカ」と告げる
大聖堂を脱出した直後、
ベリルたちはまだ事件の全容を掴んでいない。
周囲では動く死体が市街へ流れ、
ハノイからはさらに合成獣まで投入されると聞かされる。
ここでようやく「次の攻撃」が存在することが分かる。
サラキア王女は、
なぜハノイがそこまで詳しい情報を知っているのかと尋ねる。
ハノイ自身が調べたわけではない。
彼が情報源として指したのは、
仮面を付けたホワイト・メイデンだった。
全員の視線が彼女へ集まる。
しかしホワイト・メイデンは、
すぐに詳しい説明を始めるわけではない。
それまでと同じように、
最初は静かに首肯するだけだった。
彼女が声を出さなかったのには事情がある。
ホワイト・メイデンの正体はロゼ。
第1期でグレン王子とも直接関わっているため、
声を出せば正体へ気付かれる可能性が高い。
だから第2期では、筆談を中心に意思を伝えていた。
ところが合成獣の出所へ話が進んだ瞬間、
そのロゼが初めて口を開く。
発したのは長い説明ではない。
「スフェン教教皇、モーリス・パシューシカ」
という一人の名前だけだった。
正体を隠すために声まで封じていた人物が、
その危険を承知で名前を口にする。
それだけでも、
ロゼが持っている情報の重さが分かる。
単なる推測なら、ここまでして伝える必要はない。
しかもホワイト・メイデンは、
合成獣が投入されるという情報まで先に掴んでいた。
ハノイへ情報を渡し、
王族護衛へつながる流れを作っている。
大聖堂へ偶然居合わせただけの傭兵ではなく、
襲撃側の動きを事前に追っていたのである。
グレン王子が「この凶行の主犯なのか」と問い、教皇不在から連続攻撃まで一本につながる
モーリスの名を聞いたグレン王子は、
当然その意味を問い返す。
今回の凶行を仕掛けた主犯が、
モーリス教皇なのか。
ホワイト・メイデンは、
そこで余計な説明をせず静かに肯定する。
この場面で重要なのは、
名前だけ突然出てきたわけではないこと。
まず婚姻の儀に本来いるはずだった教皇が不在だった。
次に大聖堂へ動く死体と暗殺者が投入された。
そして脱出後、さらに合成獣の存在が知らされる。
ベリルも、
モーリスが主犯なら複数の違和感へ説明が付くと考える。
以前ルーシーから聞いた教皇派と王権派の対立。
グレン王子が第一王位継承者であること。
第1期ですでに暗殺未遂まで起きていたこと。
さらに今回は、
王族二人が確実に同じ場所へ揃う婚姻の儀だった。
そこへ動く死体だけを送り込むのではなく、
群れへ生身の暗殺者を潜ませている。
それでも仕留められない場合の二の手まで準備されていた。
アリューシアも、
大聖堂にいた戦力を考えれば
動く死体だけでは王族を確実に仕留めるには不足すると判断する。
ベリル、
アリューシア、
ヘンブリッツ、
教会騎士までいる場所を攻める以上、一手だけでは甘い。
だから最初に死体で場を崩す。
その中へ暗殺者を入れる。
それでも王族が逃げれば、
さらに次の戦力をぶつける。
ここで初めて「連続攻撃」として全体像が見える。
ただし、
ホワイト・メイデンも全情報を握っているわけではない。
アリューシアが合成獣の数や出現場所を尋ねても、
彼女は首を横に振る。
掴んでいたのは計画の断片であって、
作戦表まで手に入れていたわけではなかった。
それでも黒幕へ届くには十分だった。
婚姻当日のモーリス不在。
第1期から続く王権派への敵対。
教皇派と関係の深かったレビオスの禁忌。
そして今回の死体、暗殺者、合成獣。
別々に見えていた材料をつなぐと、
大聖堂襲撃は一部の暴徒や術者が勝手に起こした事件ではない。
グレン王子たち王権派を潰すため、
複数の攻撃手段を重ねた大規模な計画だったことが見えてくる。
ホワイト・メイデンがモーリスの名を口にした場面は、
単なる黒幕発表ではない。
第1期から積み重なっていた政治対立と禁忌が、
第2期の大聖堂襲撃で初めて一つの計画として結び付く場面なのである。
第7章 第三の一手は「合成獣」――連続攻撃は大聖堂の外まで続く
王族が大聖堂を脱出しても終わらず、襲撃側にはさらに次の戦力が残されていた
大聖堂からグレン王子とサラキア王女を逃がせた時点で、
ベリルたちの護衛が成功したようにも見える。
しかし実際には、
動く死体と暗殺者を突破した後にも、
襲撃側はさらに次の戦力を残していた。
大聖堂を出たベリルたちは、
周囲の市街でも動く死体が暴れていることを知る。
聖堂内部だけでなく、
外からも悲鳴や怒号が飛び交い、
襲撃がすでに教都全体へ広がっている状態だった。
そこでハノイが告げるのが、
さらに「合成獣」が用意されているという情報。
死体を倒して終わりではなく、
王族が大聖堂を抜けた後にも、
別系統の危険が待ち受けていたことになる。
グレン王子も、
合成獣という言葉にはすぐ反応する。
過去の記録に残る禁忌として存在を知っており、
自然発生した魔物ではなく、
複数の生物を人為的につなぎ合わせた異常な存在だと理解している。
ここで重要なのは、
襲撃側が最初から一手だけに賭けていないこと。
動く死体で護衛を足止めし、
その中へ暗殺者を潜ませ、
それでも王族が逃げれば次の戦力をぶつける。
最初から失敗を織り込んだ連続攻撃になっている。
しかも大聖堂には、
ベリル、アリューシア、ヘンブリッツといった実力者が揃っていた。
単純な兵力差だけでは、
王族を確実に仕留めるのは難しい。
だからこそ相手側も、
一種類の攻撃へ頼らず段階を重ねていた。
最初の死体は物量。
次の暗殺者は隙を突く人間。
そしてその後に控える合成獣は、
さらに強い突破力を持つ戦力。
役割の違う攻撃を続けて出すことで、
護衛側へ対応の切り替えを何度も強いている。
動く死体・暗殺者・合成獣は別々の敵ではなく、王権派を逃がさないための連続攻撃だった
この三つを別々に見ると、
第10話以降の展開が散らばって見える。
動く死体は禁忌の再利用。
暗殺者は王族狙い。
合成獣はさらに別の異形。
しかし襲撃全体として見ると、役割はきれいにつながっている。
最初に動く死体を大量投入する。
ベリルやアリューシアのような護衛を正面へ固定し、
王族の周囲へ自由に動けない状況を作る。
ここで護衛側の体力と注意を削る。
その次に、
死体の群れへ暗殺者を紛れ込ませる。
死体なら痛みで止まらず、
暗殺者なら状況を見て急所を狙う。
二種類の敵を同時に相手へ押し付けることで、
護衛へ見極めまで要求する。
それでもベリルが暗殺者を見抜き、
ハノイたちが翼廊側から脱出路を作り、
グレン王子とサラキア王女が大聖堂を抜けた。
そこで終わるなら、
襲撃側の計画は失敗したことになる。
しかし実際には、
その後に合成獣が控えている。
つまり黒幕側は、
「大聖堂で仕留められなかった場合」まで考えている。
王族が一度逃げただけでは、
完全に危機を脱したことにならない。
この構造を見ると、
モーリス教皇側の狙いが単なる暗殺一回ではなかったことも見えてくる。
グレン王子とサラキア王女を狙うだけなら、
もっと小規模な刺客でもいい。
それでも死体、暗殺者、合成獣まで重ねたのは、
王権派へ大きな打撃を与える必要があったからである。
第1期では、
グレン王子個人への暗殺未遂が中心だった。
第2期では、
婚姻という政治的な節目を狙い、
王族二人を同時に危険へ巻き込み、
大聖堂と市街まで混乱させる規模へ広がっている。
しかも、
第1期でレビオスが使っていた動く死体の禁忌まで、
今回の攻撃へ組み込まれている。
過去に別々に見えた政治対立と禁忌研究が、
第2期では一つの襲撃計画の中で使われている。
だから大聖堂襲撃の黒幕を考える時、
「誰が死体を動かしたのか」だけでは足りない。
誰が王族の婚姻日程を知り、
誰が暗殺者を用意し、
誰がその先の合成獣まで準備したのか。
複数の手段を一つの目的へ向けて動かした側を見る必要がある。
ホワイト・メイデンが口にした
モーリス・パシューシカという名前は、
その連続攻撃全体をつなぐ中心として浮かび上がる。
教皇不在、
王権派との対立、
過去のグレン暗殺未遂、
レビオスの禁忌まで見れば、偶然とは考えにくい。
動く死体。
暗殺者。
合成獣。
三つは順番に現れた別々の脅威ではなく、
王族を逃がさず、
婚姻と王権派の強化をまとめて潰すために重ねられた攻撃だった。
大聖堂襲撃で本当に重要なのは、
「敵が三種類いた」ということではない。
第一の手が失敗しても第二、
第二が失敗しても第三へ進めるよう、
最初から何重にも出口を塞ぐ計画になっていたこと。
そこまで見て初めて、
第10話の阿鼻叫喚は単なる大規模戦闘ではなく、
第1期から続いてきた教皇派と王権派の対立が、
一気に表面へ噴き出した連続攻撃だったことが分かるのである。


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