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【転生したら剣でしたⅡ】リッチはなぜ人間を憎む? 人体実験と「大量の怨念」に飲まれた真相!

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リッチが人間を憎むのは、人体実験で身体と自由を奪われた過去だけではない。
研究者への復讐を終えても憎悪は消えず、本人が静かに暮らしたいと願っているのに、大量に注入された怨念と後の怨念炉が人間への殺意を増幅し続けていた。
だから浮遊島のリッチは、生まれつき残虐な怪物ではなく、人間への憎しみと元の人格が長年せめぎ合った末に「悪霊の王」へ飲み込まれていった存在なのである。

  1. 第1章 結論|リッチはなぜ人間を憎む?本人の憎悪だけでは説明できない
    1. 人間に壊された過去と大量の怨念が重なっている
    2. 本当は静かに暮らしたかった|人間全体への殺意と元の人格は同じではない
  2. 第2章 人間だった頃に何をされた?憎悪の出発点は秘密実験施設
    1. 生まれた時から自由がなく、施設でも人間として扱われなかった
    2. 両足と右腕を失っても解放されない|最後は廃棄前の大規模実験へ回された
  3. 第3章 大量の怨念を入れられると何が起きた?自分の感情だけではなくなった
    1. 拒絶不能の状態で無数の怨念を流し込まれた
    2. リッチになった後も怨念が殺意を押し上げる|復讐心が人間全体へ拡大する
  4. 第4章 研究者へ復讐してもなぜ満たされなかった?消えなかった心の渇き
    1. 直接の加害者を破壊しても終わらない|憎悪は人間全体へ広がっていく
    2. 「静かに暮らしたい」と「全部壊したい」が同居する|本人自身も怨念を恐れていた
  5. 第5章 怨念炉は何を変えた?憎悪を力へ変えるほど人格も壊れていった
    1. 30万GPで怨念炉を設置|復讐の切り札が憎悪そのものを増幅した
    2. 一瞬の空白から週二日、半日、半年へ|元の人格が主人格ではなくなっていく
  6. 第6章 「悪霊の王」は本当の人格だった?最初はジャンを真似た演技だった
    1. 「吾輩」「くかかか」はジャンを見て作った口調|元人格は自分を「僕」と呼んでいた
    2. 遊びで作った仮面へ本当に飲み込まれる|怨念が演技を別人格へ変えた
  7. 第7章 リッチは本当に人間全員を憎んでいた?フランを見た時に残った本心
    1. 半年ぶりに戻った元人格はフランを見て「友達がいたら」と思う
    2. 人間への恨みは本物、それでも無差別な殺意まで全部が本心とは言い切れない

第1章 結論|リッチはなぜ人間を憎む?本人の憎悪だけでは説明できない

人間に壊された過去と大量の怨念が重なっている

浮遊島のリッチが人間を憎むのは、
単に「人間に酷い目へ遭わされたから」だけではない。
確かに出発点には、
レイドス王国の秘密実験施設で受けた虐待と人体実験がある。
生まれた時から奴隷として扱われ、
友達と呼べる存在も持てず、
施設へ送られた後は死霊術研究の実験体として消耗された。

人間だった頃の本人は、
研究者から仲間として見られていない。
死霊術を学ばせてもらったのも、
術者として育てるためではなく、
実験条件を満たすため。
本人が使えたのはレベル1程度の術にすぎず、
現在の「悪霊の王」からは想像しにくいほど弱い立場だった。

しかも実験は一度ではない。
何度も身体を使われ、
最後には両足と右腕まで失う。
そこで治療や解放が与えられるのではなく、
研究価値が落ちたとして廃棄が決定される。
人間として救命されるのではなく、
壊れた実験材料として処分される。

この扱いだけでも、
研究者やレイドス王国を恨むには十分だった。
だが現在のリッチが抱える憎悪は、
そこからさらに異常な形へ増幅されている。

最後の実験で本人は、
鎖へ拘束され、
巨大な魔法陣の中央へ寝かされる。
結界と特殊術式によって怨念を拒絶できない状態にされ、
通常ではあり得ない量の怨念を一気に流し込まれる。

ここで重要なのは、
怨念が単なる魔力ではないこと。
怒り、憎悪、妄執、死者の感情が凝縮した力であり、
受け入れた側の精神へまで強く影響する。

本人自身も研究者を恨んでいた。
そこへ、
他者由来の膨大な怨念まで強制的に混ぜ込まれる。
だからリッチ化した後の「人間を殺したい」という衝動を、
人間時代から持っていた本人の感情だけで説明することはできない。

しかも目覚めた後、
本人はアンデッド化した研究者たちを徹底的に破壊する。
自分を苦しめた加害者への復讐は、
そこで一度達成している。

普通なら、
直接の恨みは少なくとも弱まるはず。
ところが本人の心は全く満たされない。
研究者を壊しても渇きが消えない。
それどころか、
人間全体を憎み、
世界そのものを壊したい衝動まで湧き続ける。

ここが答えになる。
リッチが人間を憎むのは、
過去の虐待だけではない。
その虐待で生まれた本人自身の恨みへ、
実験で注入された大量の怨念が重なり、
さらに後年は怨念炉によって憎悪そのものが増幅され続けた。

つまり、
「人間へ酷い目に遭ったから人間嫌いになった」
という一直線の話ではない。

人間への恨み。
死者たちの怨念。
復讐後も消えない渇き。
怨念炉による増幅。
記憶欠落。
別人格化。

これらが何年も積み重なり、
現在の「悪霊の王」を作っている。

本当は静かに暮らしたかった|人間全体への殺意と元の人格は同じではない

リッチの過去を追ううえで、
最も見落としてはいけないのが、
本人自身は最初から世界中の人間を殺したがっていたわけではないことになる。

リッチとして目覚め、
研究者たちへ復讐した後も、
日記を書く人格は自分を「僕」と呼ぶ。
そして、
ようやく実験体という身分から解放されたのだから、
このまま静かに暮らしたいという感情をはっきり残している。

人間だった頃は自由がない。
生まれた時から奴隷。
秘密施設では身体を壊される。
最後は廃棄対象。
そこから解放されたなら、
誰にも命令されず、
浮遊島で静かに暮らしたい。

この願いはかなり自然。
ところが同時に、
内側から別の衝動が湧き続ける。

人間を殺したい。
全部壊したい。
世界へ復讐したい。

本人は、
この二つが同時に存在することへ苦しむ。
静かに暮らしたい自分と、
殺害や破壊へ向かわせる怨念が
同じ身体の中でせめぎ合う。

だから現在のリッチを見て、
残虐な言動だけを本心と決めるのは早い。
本人は自分の中にある憎悪が、
自分自身の感情だけではないと気付いている。

実際、
後の戦闘でもこの構造は再現される。
リッチは不浄の理や怨念吸収を使い、
周囲へ散った大量の怨念を自分の力へ変える。
吸収するほど魔力と威圧感は増す。

しかし一度に何万もの怨念を取り込むと、
まともな意思が残らないほど暴走する。
ジャン側からも、
もはや正常な思考は残っていない状態だと見抜かれる。

これは人間時代の延長にある。
大量の怨念を入れられたことでリッチになり、
後には自分から怨念を吸収して強くなる。
そのたびに力は増すが、
元の人格は薄くなる。

だからリッチの「人間嫌い」を考える時、
本人の恨みと怨念由来の殺意を分けて見る必要がある。

研究者を恨む。
レイドスを恨む。
それは本人自身の感情。

一方、
人間全体を無差別に殺したい。
世界を壊したい。
自分でも制御できないほど憎悪が膨張する。
そこには大量の怨念と後の人格侵食が強く重なっている。

この差があるからこそ、
リッチは単純な悪役ではない。
被害者だから何をしても許されるわけでもない。
逆に、
残虐だから最初から怪物だったわけでもない。

人間から受けた被害と、
後から注入された怨念。
二つが一体化し、
本人ですらどこまでが自分の感情なのか
分からなくなっていく。

そこが、
浮遊島のリッチが人間を憎む本当の複雑さなのである。

第2章 人間だった頃に何をされた?憎悪の出発点は秘密実験施設

生まれた時から自由がなく、施設でも人間として扱われなかった

リッチの人間への憎悪を厚く見るなら、
秘密実験施設へ入ってからだけでは足りない。
本人の日記では、
そもそも自分は生まれた時から奴隷だったと振り返っている。

つまり、
最初から自由な生活を知らない。
家族や友達と過ごし、
好きな場所へ行き、
自分で進路を選ぶ。
そうした普通の経験が、
本人にはほとんどない。

後にフランを見た時、
自分にもあんな友達がいたらと羨む。
これは単なる感傷ではない。
生まれた時から奴隷だったため、
友達という存在そのものを持った経験がないから出る反応になる。

この過去がある状態で、
さらにレイドス王国の秘密実験施設へ送られる。
そこで待っていたのも自由ではない。
戦争へ利用できる研究なら何でも試す施設で、
本人は死霊術関連の実験へ回される。

研究者は、
本人を一人の人間として扱わない。
日記の中でも、
同じ人間を見る目ではなく、
モルモットを見るような目だったと振り返っている。

死にたいと思った回数も、
一度や二度ではない。
五回、十回程度では足りないほど。
それだけ長期間、
精神的にも肉体的にも追い込まれていた。

死霊術を覚えさせられたことも、
本人の希望ではない。
研究者として育てられたわけでもない。
実験条件として、
生きた死霊術師が必要だったから最低限の術を覚えさせられた。

本人は、
自分が使えたのはレベル1程度だったと書く。
今のリッチは死霊支配と死霊魔術を最大級で持ち、
冥府魔術や時空魔術まで扱う。
その姿と比べると、
人間時代がいかに弱く、
研究者側へ逆らえない立場だったか分かる。

しかも施設は、
身体へ回復不能な損傷が出ても止まらない。
実験を繰り返すうちに、
本人は両足と右腕を失う。

歩けない。
片腕しか残らない。
それでも、
研究者側は治療して解放しない。

ここで決まるのが廃棄。
人間として生存させる価値ではなく、
実験材料として利用価値があるかどうかで扱いが決まる。

この経験が、
後の「人間」という存在への不信の根になる。
本人が出会った人間は、
自由を奪う者。
身体を壊す者。
使えなくなれば捨てる者。
そうした記憶が中心になっている。

だから研究者へ恨みを持つこと自体は、
怨念を注入される前から自然に成立していた。

両足と右腕を失っても解放されない|最後は廃棄前の大規模実験へ回された

両足と右腕を失った時点で、
本人の身体はすでに限界へ近い。
それでも施設側は、
これまでの扱いを反省しない。
もう研究に使いにくいなら、
最後に一度だけ大掛かりな実験へ投入して
処分とデータ収集を同時に済ませる。

本人の日記では、
その日自分は殺されそうになっていたと書かれている。
未来を選ぶ余地はない。
逃げる力もない。
助かる可能性も示されない。

実験内容は、
生きた死霊術師へ大量の怨念を注入し、
そのままアンデッド化したら何が生まれるかを見るもの。

本人は鎖で拘束され、
床の巨大魔法陣の中央へ寝かされる。
結界と特殊術式によって、
流し込まれる怨念を拒否することもできない。

この状況は、
本人へ選択肢が全く残っていないことを象徴している。
奴隷として生まれた時から自由がない。
実験施設でも自由がない。
身体を失った後も解放されない。
最後の死に方まで研究者に決められる。

そして、
あり得ない量の怨念が流れ込む。

本人は限界を越える怨念を感じ、
もう死んだと思う。
目の端では、
アンデッド化の魔法陣が発光し始める。

ここまでの段階で、
本人が人間を恨む土台は十分出来ている。
自分の人生で、
人間社会から受け取ったものがほとんど苦痛だからになる。

ただし、
この時点ではまだ
「全人類を滅ぼしたい」という現在の姿まで到達していない。
そこへ大量の怨念が加わることで、
個人的な被害感情が異常な規模へ増幅される。

しかも実験は、
研究者の想定通りには終わらない。
突然ダンジョンコアが出現し、
本人をダンジョンマスターとして認証。
能力が底上げされ、
本来なら耐え切れない怨念の群れを
全て受け入れられる状態になる。

生きたままのアンデッド化術式も完成。
予定ではゾンビ・メイジ程度だった個体が、
三日後にはリッチとして目覚める。

目覚めた時、
島から生きた人間は消えている。
研究者たちはアンデッド化して残っており、
本人は彼らを徹底的に破壊する。

ここで一度、
直接の復讐は果たされる。

それでも心の渇きは終わらない。
だから次の章から重要になるのは、
「人間に何をされたか」ではなく、
「復讐を終えてもなぜ憎悪が残ったか」に変わる。

人間だった頃の被害は、
憎悪の出発点。
大量の怨念は、
その感情を本人自身でも制御できない規模へ膨らませたもの。

この二段階を分けて見ることで、
リッチが人間を憎む感情が
単なる復讐心ではないことが見えてくるのである。

第3章 大量の怨念を入れられると何が起きた?自分の感情だけではなくなった

拒絶不能の状態で無数の怨念を流し込まれた

リッチの人間への憎悪を考える時、
最も重要なのは「怨念」が単なる追加魔力ではないことになる。
秘密実験施設で行われた最後の実験では、
本人は鎖で拘束され、
巨大な魔法陣の中央へ寝かされ、
さらに特殊な結界と術式で怨念を拒絶できない状態へ固定されていた。

本人はすでに両足と右腕を失い、
自力で逃走することも反抗することもできない。
そこへ流し込まれたのは、
通常では耐えられない量の怨念。
怒り、憎悪、恨み、妄執。
死者や苦痛を抱えた者たちが残した負の感情が、
一人の実験体へ集中する。

本人自身にも、
研究者へ向けた憎悪は当然あった。
生まれた時から奴隷。
施設へ送られてからも人間扱いされない。
何度も死にたいと思うほど実験を繰り返され、
両足と右腕まで失う。
最後には治療ではなく廃棄を決められる。

だから研究者を恨む感情は、
怨念を入れられる以前から本人の中に存在する。
ここを全部「外から入れられた感情」と考えると違う。
本人自身の恨みと、
外部から注入された大量の怨念が重なったことが重要になる。

さらに実験中、
予定外にダンジョンコアが出現する。
コアは研究者ではなく被験体の本人を
ダンジョンマスターとして認証。
能力が大幅に強化され、
本来なら受け止め切れなかった怨念まで
全て抱え込めるだけの器へ変わる。

そのままアンデッド化術式も完成。
研究者側の想定ではゾンビ・メイジ程度になるはずだったが、
三日後に目覚めた本人はリッチへ変わっていた。

ここで、
単なる復讐者とは違う状態が完成する。
本人が持っていた研究者への恨み。
実験で流し込まれた大量の怨念。
ダンジョンマスター化による巨大な器。
高位アンデッドとして得た死霊系能力。

全部が同じ身体へ重なる。
だから目覚めた後の感情は、
本人自身でも制御しにくいほど強烈になる。

実際、
アンデッド化した研究者たちを見つけると、
リッチは彼らを徹底的に破壊する。
そこには本人自身の復讐心がある。
自分の身体を壊し、
最後には廃棄しようとした相手。
復讐したいと思うのは不自然ではない。

ところが、
加害者を破壊しても終わらない。
心の渇きが残る。
人間をもっと殺したい。
全部壊したい。
世界へ復讐したい。
直接の加害者を消した後なのに、
憎悪だけがさらに広がっていく。

ここで本人は、
自分の中にある感情が
単純な個人的恨みだけではないと気付き始める。

リッチになった後も怨念が殺意を押し上げる|復讐心が人間全体へ拡大する

リッチ化後の日記では、
本人の中に相反する感情が何度も現れる。
一方では、
研究者を許せない。
レイドス王国へ復讐したい。
自分たちが受けた扱いを世間へ知らしめたい。

もう一方では、
ようやく実験体という身分から解放されたのだから、
静かに暮らしたいと思っている。

この「静かに暮らしたい」が残っていることが重要になる。
もし本人が人間時代から
全人類の滅亡だけを望んでいたなら、
この感情は必要ない。

本人には、
誰にも命令されず過ごしたい。
浮遊島で静かに生きたい。
過去の苦痛から離れたいという願いが残っている。

ところが、
内側の怨念は逆方向へ押す。
人間を殺せ。
復讐しろ。
全部壊せ。
その衝動が、
本人の平穏への願いを何度も塗り潰そうとする。

この構造は、
後のリッチ戦でさらに露骨に再現される。
ジャンの配下によって怨念炉が破壊されると、
そこへ蓄積されていた怨念は消滅せず、
迷宮内部へ散ったまま残る。

リッチは「不浄の理」を使い、
周囲へ漂う怨念を吸収。
さらに怨念吸収、怨念変換といった能力で、
負の感情そのものを自分の魔力へ変えていく。

吸収するほど強くなる。
実際、
本来の能力を晒したリッチはレベル71。
MPは7000を超え、
魔力も4000を超える。
死霊支配と死霊魔術は最大級。
冥府魔術、時空魔術、
生命吸収、魔力吸収まで持つ。

だが、
怨念を増やせば力だけが増えるわけではない。
一度に大量の怨念を取り込んだ結果、
まともな意思疎通が難しいほど暴走する。

つまり、
人間への憎悪を力へ変えるほど、
本人自身の人格が削られる。
これは最後の人体実験から
ずっと続いている構造になる。

外から怨念を入れられる。
リッチになる。
怨念を抱えたまま迷宮を成長させる。
後には自分から怨念を吸収して強くなる。
そのたびに、
人間時代の「僕」は奥へ押し込まれていく。

だからリッチが人間を憎む感情には、
本人の過去と怨念の増幅を分けて考える必要がある。

研究者を憎むのは本人。
レイドスを憎むのも本人。
しかし人間全体への無差別な殺意まで膨れ上がる部分には、
大量の怨念が強く関与している。

この差が分かると、
リッチの残虐さと被害者としての過去を
同時に見ることができるのである。

第4章 研究者へ復讐してもなぜ満たされなかった?消えなかった心の渇き

直接の加害者を破壊しても終わらない|憎悪は人間全体へ広がっていく

リッチとして目覚めた後、
本人は施設内でアンデッド化して残っていた研究者たちを見つける。
自分を人間扱いしなかった者。
身体を壊した者。
両足と右腕を奪った実験を続けた者。
最後には廃棄対象として
大量の怨念を流し込んだ者たちになる。

リッチは、
彼らを徹底的に破壊する。
これは本人にとって、
最も直接的な復讐。
長年苦しめた加害者が目の前から消える。

ところが、
そこで心は軽くならない。
日記に残るのは、
復讐を終えた達成感ではなく
消えない渇きになる。

人間を殺したい。
もっと壊したい。
世界へ復讐したい。
研究者という具体的な相手を失っても、
殺意だけが行き先を変えて残る。

この変化が、
人間全体への憎悪へ広がる分岐点になる。
最初に恨んでいた対象は、
秘密実験施設の研究者。
その背後には、
施設を動かしていたレイドス王国。
ここまでは本人の被害経験と直結する。

しかし、
感情はそこで止まらない。
関係のない人間まで敵として見る方向へ広がる。
本人自身が、
この異常を完全には肯定していない。

なぜなら同じ日記の中で、
自分は本当は静かに暮らしたいと書いているから。
実験体から解放された今、
誰にも命令されず、
浮遊島で暮らせればそれでいい。
そんな感覚も残っている。

つまり、
復讐したい自分と
復讐から離れたい自分が同時にいる。

ここがリッチを単純な復讐鬼から外す。
加害者へ復讐するだけなら、
研究者を破壊した時点で一つの区切りが付く。
だが本人の中に注入された怨念は、
その区切りを認めない。

さらに時間が経つと、
本人はダンジョンマスターとして
迷宮を拡張していく。
死霊作成工房を取得。
地下を十階層まで広げる。
空域まで支配範囲へ入れる。
飛行アンデッドや罠を整える。

表面だけ見れば、
復讐へ向けて着実に力を蓄える
悪の支配者に見える。
だが日記には、
年越しにパンとスープを用意するような
人間時代の習慣まで残っている。

アンデッドだから食べられない。
それでも気分だけでも年越しを味わおうとする。
この小さな行動が、
本人の中に平穏な生活への感覚が残っていた証拠になる。

その「僕」と、
人間を皆殺しにしたい衝動が
同じ身体の中へ共存していた。

「静かに暮らしたい」と「全部壊したい」が同居する|本人自身も怨念を恐れていた

本人が本当に恐れていたのは、
外の人間だけではない。
自分の中で増えていく憎悪そのものになる。

ダンジョンマスターになってから、
リッチは迷宮を成長させ、
防衛戦力を増やす。
そこには、
外敵から自分を守るという実利もある。
だが同時に、
レイドスへ復讐するための力を求め続ける。

その到達点の一つが怨念炉。
三十万GPを貯めて設置した大規模施設で、
ダンジョン内のアンデッドが放つ怨念を吸収し、
魔力へ変換する。

リッチ自身と接続すれば、
さらに大量の魔力と怨念を取り込める。
本人は、
これで復讐へ必要な力へ近づけると考える。

実際、
怨念炉を使い始めると力は増す。
だが翌年の日記で、
本人自身が異常へ気付く。

自分の中の怨念が増している。
それは能力向上でもある。
同時に、
憎しみや恨みまで強くなっている。

ここで初めて、
「強くなること」と
「自分を失うこと」が同じ方向へ進み始める。

さらに数か月後、
本人は記憶がない瞬間があると書く。
怨念炉の影響なのかと疑う。
この段階ではまだ、
異常を観察できるだけの元人格が残っている。

だから怖い。
本人は、
自分が変わっていることへ気付いている。
それでも復讐のためには力が必要。
怨念炉を捨てられない。

やがて記憶欠落は拡大する。
一瞬だった空白が、
週に何日という単位へ増える。
さらに進むと、
元の人格が表へ出る時間そのものが減っていく。

監視記録で、
自分が記憶のない間に何をしていたのか確認する。
そこに映るのは、
残虐で冷酷な「悪霊の王」。

しかもその口調自体は、
以前ジャンを見て面白がり、
自分もリッチらしく見せようと作った演技から始まっている。

最初は、
「僕」では格好が付かない。
なら「吾輩」と名乗ってみよう。
笑い方も「くかかか」にしてみよう。
その程度の遊びだった。

ところが怨念炉による人格侵食が進むと、
演技だった悪霊の王が
本当に本人を押し退ける人格へ変わっていく。

これが、
研究者への復讐後も渇きが消えなかった先に起きたことになる。

恨みを晴らせば終わるはずだった。
だが怨念は終わらせない。
もっと力を求めさせる。
もっと憎ませる。
記憶まで奪う。

そして最後には、
本人自身が自分の感情と
怨念によって作られた人格を区別できなくなっていく。

だからリッチが人間を憎む過程は、
「虐待された→復讐した」という短い線ではない。

人間から傷付けられる。
本人自身の恨みが生まれる。
大量の怨念を入れられる。
加害者へ復讐する。
それでも渇きが残る。
怨念を力へ変える。
さらに憎悪が増す。
記憶が欠ける。
悪霊の王が表へ出る。

この長い連鎖が、
現在のリッチを作っている。

しかも元人格は、
完全には消えていない。
後にフランを見た時、
友達というものへ憧れる感情まで戻ってくる。

だから次に見るべきなのは、
怨念炉がどこまで本人を変えたのか。
力を得る装置だったはずの施設が、
なぜリッチの憎悪と人格を
ここまで飲み込んでいったのかという部分になる。

第5章 怨念炉は何を変えた?憎悪を力へ変えるほど人格も壊れていった

30万GPで怨念炉を設置|復讐の切り札が憎悪そのものを増幅した

リッチの人間への憎悪が、
決定的に別物へ変わるのが怨念炉の導入になる。
設置日は3623年10月28日。
必要GPは30万。
簡単に手へ入る施設ではなく、
本人は浮遊島周辺へ近づく魔獣まで積極的に狩り、
得た魔石を自分で使わずダンジョンへ吸収させてGPを稼いでいる。

レッサー・ワイバーン程度でもGPになる。
魔石は本来なら魔道具素材として残せる。
それでも復讐に必要な設備を優先し、
素材をほぼ全て迷宮強化へ回していく。
この時点で、
リッチの生活目標はかなり明確にレイドスへの報復へ寄っている。

怨念炉の機能は、
周囲の怨念を吸収し、
それを魔力へ変換すること。
しかもリッチ本人と接続すれば、
迷宮に蓄積された怨念と魔力を
継続的に自分へ取り込める。

本人は設置直後、
これで復讐に必要な力へ近づけると期待する。
3624年4月12日の日記でも、
怨念炉のおかげで力が日々増していると記録。
ダンジョンマスターとしての能力、
高位死霊としての魔力、
迷宮から供給される膨大な怨念。
三つが一本につながり始める。

ところが同じ記録の中で、
本人は早くも異常へ気付く。
増えたのは力だけではない。
自分の中の怨念そのものが、
明らかに以前より強くなっている。

さらに、
憎しみや恨みまで増している。
これはかなり重要になる。
もともと研究者やレイドスへ向けた恨みは本人自身のもの。
そこへ実験で大量の怨念を注入され、
さらに怨念炉から新しい怨念を吸収し続ける。

つまり、
本人自身の復讐心と、
外から取り込んだ無数の負の感情が
区別できないほど混ざっていく。

しかもリッチは、
怨念を力へ変える性質そのものを持つ。
後の戦闘で本来の能力が露わになると、
死霊支配、死霊魔術は最大級。
冥府魔術、時空魔術、
生命吸収、魔力吸収に加え、
怨念吸収や大怨霊まで持っている。

『転剣』世界の大怨霊は、
怨念変換と怨念吸収を含み、
怨念を抱えるほど能力を押し上げる性質を持つ。
だからリッチにとって、
憎悪は精神的な重荷であると同時に
そのまま戦闘力へ変換できる燃料にもなる。

ここに罠がある。
復讐したい。
だから強くなりたい。
強くなるため怨念炉を使う。
怨念炉を使うほど憎悪が増える。
増えた憎悪によって、
さらに復讐したい気持ちが強くなる。

この循環へ入ると、
本人自身が止まりにくい。
静かに暮らしたい人格が残っていても、
力を得るほど復讐心が増幅されるからになる。

しかも3624年11月3日には、
感情変化よりさらに危険な異常が始まる。
本人は日記へ、
最近「記憶がない瞬間」があると残す。
最初は一瞬。
原因として真っ先に怨念炉を疑っている。

つまり本人自身、
怨念炉が自分の精神へ
何かを起こしていると認識していた。
それでも炉を停止しない。
復讐へ必要な力を得ることが、
自分を守ることより優先され始めている。

この選択が、
後の人格侵食を決定的に進めていく。

一瞬の空白から週二日、半日、半年へ|元の人格が主人格ではなくなっていく

怨念炉を設置してから約二年半。
3626年2月24日の日記では、
異常はもう「時々記憶が飛ぶ」程度ではなくなっている。
本人は、
一週間のうち二日間も記憶がないと記録する。

ここでリッチは、
ダンジョン機能に残る映像記録を確認する。
自分が覚えていない時間に、
身体が何をしていたのかを見るためだった。

映像にいたのは、
本人自身が驚くほど別の存在。
暴虐。
冷酷。
残忍。
本人はその姿を、
まさに「悪霊の王」と認識する。

重要なのは、
外見が変わったわけではないこと。
同じ身体。
同じリッチ。
同じ迷宮の支配者。
それでも記憶のある「僕/吾輩」と、
記憶のない時間に活動する人格では
行動原理が大きく違っている。

本人は、
いつか自分がその存在へ飲み込まれると理解する。
それでも完全に拒絶しない。
むしろ復讐を果たすなら、
甘さのないあの人格の方が適しているのではないかと考え始める。

ここに、
元人格自身の諦めまで入る。
自分が壊れていることは分かっている。
だがレイドスへの復讐を達成できるなら、
残虐な人格へ身体を譲っても構わない。
そう考えるほど、
復讐が自己保存より上へ来ている。

3626年10月6日になると、
記憶欠落はさらに拡大。
一日の半分を覚えていない。
それでも日記に書く中心は、
自分の治療方法ではなく復讐計画になる。

浮遊島を王都へ奇襲させる。
王族を暗殺する。
初戦で殺した人間を
アンデッド兵として取り込む。
全面戦争では不利でも、
奇襲なら勝算があると計算する。

決行予定は半年後。
この時点では、
復讐が単なる感情ではなく
軍事作戦として具体化している。

そして3627年3月19日。
元人格が次に意識を取り戻した時、
前回から半年近く経過していた。
本人自身が、
もう主人格は完全に向こうだと認める。

一瞬。
週二日。
一日の半分。
半年。

この段階的な記憶欠落を見ると、
リッチの人格崩壊は突然ではない。
怨念炉へ接続した後、
何年もかけて少しずつ進行している。

人間への憎悪も同じ。
最初から世界中の人間を無差別に憎んでいたのではない。
直接の加害者への恨み。
レイドスへの復讐心。
注入された怨念。
怨念炉による継続吸収。
その蓄積が人格まで作り替えていったのである。

第6章 「悪霊の王」は本当の人格だった?最初はジャンを真似た演技だった

「吾輩」「くかかか」はジャンを見て作った口調|元人格は自分を「僕」と呼んでいた

現在のリッチを見ると、
「吾輩は悪霊の王」と名乗り、
「くかかか」と笑う姿が
最初からの人格に見える。

だが日記を追うと、
この口調には明確な始まりがある。
きっかけは3622年10月10日。
ダンジョンマスターになって初めて、
本格的な侵入者が浮遊島へ現れた日だった。

侵入者はジャン・ドゥービー。
グリフォン・スケルトンを従えた高位死霊術師で、
鳥や蝙蝠のアンデッドによる航空防衛を
力技で突破する。

地上の森では、
リッチが仕掛けた幻影罠が機能。
ジャンは道を迷わされ、
行く先々でアンデッドに遭遇し、
徐々に消耗していく。

撤退へ移ると、
リッチは上位アンデッドと
成長した死霊喰らいまで追撃へ投入する。
戦力的には押し込むことに成功するが、
最後はジャンを逃がしてしまう。

それでもリッチの日記は、
怒りより好奇心を強く残す。
捕まえて話を聞きたかった。
場合によっては配下にしてもよかった。
人間への殺意だけで反応しているわけではない。

さらに決定的なのが、
ジャンの第一印象。
髑髏の装飾。
ぼろぼろのローブ。
大仰な言動。
自分の名を高らかに叫びながら、
アンデッドの巣窟を自分に相応しいと笑う。

リッチはそれを見て、
久しぶりに大笑いする。
しかも日記では、
これほど笑ったのは
生まれて初めてかもしれないとまで書く。

馬鹿にしたのではない。
むしろ格好いいと思っている。
「あれこそ真の死霊術師」と感じ、
自分の話し方まで振り返る。

当時の日記の人格は、
自分を普通に「僕」と呼んでいる。
そこで本人は、
リッチなのに「僕」では格好が付かないのではないかと考える。

そして、
今日から話し方を意識してみようと決める。
自分を「吾輩」と呼ぶ。
「悪霊の王、リッチ」と名乗る。
笑い方まで「くかかか」に変える。

つまり現在の恐ろしい口調は、
怨念から自然発生したものではない。
最初はジャンを見て格好いいと思い、
自分も死霊術師らしく見せようと始めた演技だった。

ここは、
人間を憎む記事でも重要になる。
「悪霊の王」という外見上の残虐さと、
本人の本来の人格を同一視できないことが
はっきり分かるからになる。

遊びで作った仮面へ本当に飲み込まれる|怨念が演技を別人格へ変えた

ジャンを真似て作った当初の「悪霊の王」は、
かなり軽いものだった。
本人自身、
慣れるまで時間がかかりそうだと書いている。
口調を変えて遊んでいる感覚が残る。

その約一年後に怨念炉を設置。
そこから憎悪増幅と記憶欠落が始まる。

だから後に監視映像で見る
「暴虐・冷酷・残忍な悪霊の王」は、
最初の演技と同じものではない。

口調だけは同じ。
「吾輩」と名乗る。
大仰に笑う。
悪霊の王を演出する。
だが中身は、
怨念によって本当に残虐化した別人格へ変わっている。

この皮肉が大きい。
元の人格が遊びで作った仮面を、
怨念が後から本物へしてしまった。

そして現在の戦闘場面では、
その人格が前面へ出ている。
フランたちへ余裕たっぷりに語り、
攻撃を挑発し、
迷宮施設を破壊されれば激昂する。

特に怨念炉が破壊された瞬間、
それまで余裕を見せていた態度が崩れる。
迷宮全体が揺れるほどの破壊工作。
リッチは、
怨念炉の魔力が消えることへ激しい怒りを見せる。

ジャン側から見れば、
怨念炉はリッチへ魔力を供給する中枢。
そこを破壊すれば、
大幅に弱体化できる。

しかし炉に蓄えられた怨念そのものは消えない。
迷宮内部へ散った怨念を、
リッチは不浄の理で再吸収する。

さらに怨念吸収と大怨霊の性質が重なり、
吸えば吸うほど力が膨張する。
ところが一度に何万もの怨念を取り込んだ結果、
今度はまともな意思すら残らない。

黒い瘴気のような気配が膨れ上がり、
通常攻撃が通らないほど強化される。
一方で、
ステファンからは
リッチ自身にも正常な思考は残っていないと判断される。

ここまで来ると、
「悪霊の王」という演技すら超えている。
人間を憎む意思を持った人格ではなく、
無数の怨念へ押し流され、
負の感情の集合体に近い状態へ変わっている。

だから現在のリッチを見て、
「あれが本人の本性だった」と結論づけるのは難しい。

元人格は、
ジャンを見て大笑いする。
口調を真似る。
年越しを祝う。
フランを見れば、
友達がいたらと羨む。

別人格は、
侵入者を弄び、
復讐計画を進め、
人間を兵士へ作り替える計画まで立てる。

そして大量の怨念を吸収した最終局面では、
その別人格すら正常な思考を失う。

この三段階を分けると、
リッチの人間への憎悪が
一枚岩ではないことがさらに明確になる。

本人自身の恨み。
怨念炉で強まった別人格。
大量怨念吸収後の暴走。

同じリッチの身体でも、
人間への敵意の中身が違う。

だから第2期で見る「悪霊の王」は、
生まれつきの人格ではない。
人間だった頃の「僕」が作った仮面へ、
長年の怨念が肉を付け、
最後には本人を押し退けるほど巨大になった姿なのである。

第7章 リッチは本当に人間全員を憎んでいた?フランを見た時に残った本心

半年ぶりに戻った元人格はフランを見て「友達がいたら」と思う

怨念炉による人格侵食が進み、
元の人格が表へ出る時間は少しずつ減っていく。
最初は一瞬の記憶欠落。
やがて週に二日。
さらに一日の半分。
そして3627年3月19日、
本人が次に意識を取り戻した時には、
前回から半年近く経過していた。

この時点で本人自身、
もう主人格は完全に向こう側だと認めている。
自分が身体を使える時間は僅か。
迷宮を動かし、
復讐計画を進め、
侵入者へ残虐な命令を出しているのは、
日記を書いてきた「僕」とは別の人格に近い。

そんな状態で、
元人格が監視映像越しに見るのがフランになる。
ジャンと一緒に浮遊島へ侵入してきた黒猫族の少女。
年齢も、
人間だった頃の自分と大きく離れて見えない。
剣を握り、
仲間と声を掛け合いながら迷宮を進んでいく。

その姿を見たリッチの反応は、
「人間だから殺したい」ではない。
自分にも、
あんな友達がいてくれたらと考える。

ここが人間への憎悪を考えるうえで、
最も重要な場面になる。

本人は生まれた時から奴隷だった。
自由な生活を知らない。
友達を作った経験もない。
そのままレイドス王国の秘密施設へ送られ、
今度は死霊術研究の実験体として扱われる。

人間社会から受けたものは、
自由でも友情でもない。
拘束。
実験。
身体欠損。
廃棄。
最後には大量の怨念まで注入される。

それでも、
人間という存在そのものへ
完全に心を閉ざしていたわけではない。

フランを見て、
友達という関係を羨む。
仲間と一緒に戦う姿を眩しく感じる。
これは人間全体を本心から消したい存在なら、
かなり出にくい感情になる。

むしろ本人の中には、
自分が持てなかったものへの憧れが残っている。
自由。
仲間。
友達。
誰かと一緒にいる普通の生活。

だからリッチの人間嫌いは、
「人間という種族そのものが嫌い」という単純な感情ではない。
本人を壊した人間への恨みと、
外から注入された大量の怨念、
そして後から増幅された別人格の殺意が
長い時間の中で重なったものになる。

人間への恨みは本物、それでも無差別な殺意まで全部が本心とは言い切れない

もちろん、
だからといってリッチの恨みまで
全て怨念のせいにすることはできない。

研究者を憎む感情は本人自身のもの。
レイドス王国へ復讐したい気持ちも、
自分たちが受けた扱いを考えれば
本人の中から生まれた感情として描かれている。

実際、
日記でもレイドスへの報復を何度も考える。
迷宮を拡張し、
死霊作成工房を取得。
航空戦力を増やし、
怨念炉へ30万GPを投入。
最終的には浮遊島を王都へ近づけ、
奇襲で王族を狙う作戦まで具体化する。

だからリッチは、
ただ外部の怨念に操られただけの被害者ではない。
本人自身も復讐を選んでいる。

ただし、
復讐対象が研究者やレイドスから
人間全体へ広がり、
無差別な殺戮へ傾いていく部分には、
本人の感情だけでは説明しにくい異常がある。

研究者を破壊しても渇きが消えない。
静かに暮らしたいと思っても、
内側から殺意が湧く。
怨念炉を使うほど憎悪が強まり、
記憶欠落まで増える。
最後には自分で作った「悪霊の王」という仮面が、
元人格を押し退けるほど大きくなる。

そして戦闘では、
怨念炉が壊された後、
散った大量の怨念を再び吸収する。
力は急激に増す。
しかし同時に、
正常な思考はほとんど失われていく。

この流れを見ると、
人間への敵意には段階がある。

最初は、
自分を虐待した研究者への恨み。
次に、
施設を運営したレイドス王国への復讐。
そこへ大量の怨念が混ざり、
怨念炉でさらに増幅。
最後は人間全体へ向かう無差別な殺意へ変質する。

だから「リッチはなぜ人間を憎む?」への答えも、
一行では足りない。

人間から受けた虐待によって
本人自身の恨みが生まれた。
その感情へ、
人体実験で流し込まれた大量の怨念が重なる。
さらにダンジョンマスターになった後、
怨念炉を使って力を得るたびに
憎悪と人格侵食まで強くなっていった。

それでも、
元の人格は完全には消えなかった。

年越しには、
食べられないパンとスープを用意する。
ジャンを見れば、
その大仰さに大笑いする。
フランを見れば、
友達がいたらと羨む。

この三つは、
現在の「悪霊の王」だけ見ていては出てこない。
日記を書いた元人間の感情が、
最後まで残っていた証拠になる。

さらに師匠側も、
最終的に戦ったリッチが
日記を書いていた人格そのものだったのか、
完全には割り切れない疑問を残す。

そこまで含めると、
リッチは単純な人間嫌いではない。

人間に壊された。
だから恨んだ。
その恨みは本物。

しかし、
人間全体を殺したいほど膨張した憎悪は、
本人の意思だけで育ったものではない。
大量の怨念。
怨念炉。
記憶欠落。
別人格化。
それらが何年も積み重なり、
元の「僕」を押し込めていった。

だからフランを見て
友達を羨んだ場面が重い。

人間を殺したいと叫ぶ悪霊の王の内側に、
本当は誰かと普通に生きたかった元奴隷が残っていた。

この二つが同じ身体の中に存在していたことこそ、
浮遊島のリッチがただの残虐なボスでは終わらない部分なのである。

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