アセンションは、アンデッドを単純に消す攻撃ではなく、死霊の怨念を晴らし、現世へ残った魂の欠片を昇天させる冥府魔術である。
ジャンがアンディへ使った場面を入口にすると、普通のスケルトンと怨霊では「魂」の扱いが違い、強い怨念を浄化するほど術者自身の生命力や寿命へ負担が返ることまで見えてくる。
そしてこの術は、死霊を使役しながら最後には送り出すという、ジャンの死霊術師としての思想を最もはっきり映す術でもある
第1章 結論|アセンションとは何?死霊の怨念を晴らして魂の欠片を昇天させる冥府魔術
アンデッドを消す術ではない|現世へ残った魂の欠片を送り出す
アセンションは、
『転生したら剣でした』世界の冥府魔術を代表する術の一つ。
見た目だけならアンデッドを光に包んで消すため、
強力な浄化攻撃のように見える。
だが本質は、
死霊に残った怨念を晴らし、
現世へ引き留められた魂の欠片を昇天させることにある。
第2期の浮遊島編で、
この術が強く印象へ残るのがアンディとの別れ。
ジャンが召喚したアンディは、
ウィンド・ワイバーンの骨格を持つ飛行型アンデッドで、
フラン、師匠、ジャンたちを高高度まで運び、
約千羽規模のボーン・バードを突破する。
浮遊島目前では、
ワイバーン・スケルトンや砲撃まで受けながら飛行を継続。
最後は骨格を球状へ変形させ、
アンデッド・ウーズの分身体で搭乗者を包み、
最大ブレスの反動を推進力へ変えて物理障壁を突破する。
島へ激突した時には、
アンディの骨も魔石もほぼ粉砕される。
判別できるのは、
半分ほど残った頭蓋の一部だけ。
それでも僅かに反応を返すアンディへ、
ジャンは「最後は我が手で送ってやる」と告げてアセンションを使う。
すると残骸から光が立ち上がり、
空へ昇っていく。
フランが別れを告げる。
この場面だけを見ると、
壊れたアンデッドを穏やかに消したようにも見える。
しかし後の説明では、
もっと重い術だと分かる。
アセンションは、
死霊に残った怨念を浄化するだけではない。
魂の欠片そのものへ僅かに干渉し、
現世へ縛られていたものを送り出す。
つまり、
アンデッドを攻撃して破壊する術とは役割が違う。
肉体を砕く。
魔石を壊す。
戦闘不能にする。
そうした処理ではなく、
死者側へ残った執着や怨念を終わらせるための術になる。
だからジャンは、
アンディを「処分」したのではない。
戦力として役目を終えた一体へ、
死霊術師として最後まで責任を取った。
しかも、
この術は便利だから気軽に使えるわけではない。
魂へ干渉するため、
術者側の消耗も激しい。
浄化する怨念が強ければ、
生命力だけでなく寿命へ影響する場合まである。
実際、
浮遊島へ上陸した直後のジャンは、
しばらく戦力にならない。
これから地表のゾンビやスケルトン、
地下迷宮の罠、
さらに高位アンデッドへ対応しなければならない状況で、
自分の戦闘余力を削ってまでアンディを送った。
だからアセンションを見る時、
「昇天させる魔法」で終えると薄い。
どんな死霊へ使うのか。
なぜ魂の欠片が残るのか。
何を浄化しているのか。
術者へどんな代償が返るのか。
そこまで見ると、
この術は『転剣』世界の死霊観そのものへつながる。
そしてジャンという死霊術師が、
死者をただ便利な道具として扱う人物ではないことまで見えてくる。
強い怨念ほど反動も重い|寿命を削る可能性まである
アセンションの怖さは、
魔力消費量が大きいというだけではない。
通常の魔術なら、
MPを使い切れば休息や回復手段で戻せる。
だが魂へ触れる術は、
もっと深い部分へ負荷を掛ける。
作中では、
僅かでも魂へ干渉するため消耗が激しく、
浄化対象の怨念が強い場合には、
術者の寿命まで削ることがあると説明される。
ここで重要なのが、
「怨念の強さ」によって代償が変わること。
小さな未練を残した死霊と、
長年憎悪を蓄積した高位怨霊では、
浄化に必要な負荷が同じではない。
浮遊島そのものが、
死霊属性へ強く染まっている場所。
地表にはゾンビとスケルトン。
上空にはボーン・バード。
地下には高位アンデッド。
さらに奥には、
大量の怨念と結び付いたリッチまで存在する。
ジャンほどの死霊術師でも、
そこで魂へ干渉する術を乱発できない。
だからアセンションは、
死霊に有効な便利技という位置ではなく、
使う対象と状況を選ぶ高負荷の術になる。
アンディの場面でも、
そこが効いている。
アンディはすでに大破。
そのまま放置しても、
アンデッドとして維持できず消滅した可能性が高い。
合理性だけを考えるなら、
ジャンは何もしなくてよかった。
むしろこれからの浮遊島攻略を考えれば、
魔力も生命力も温存すべき状況。
それでもアセンションを使った。
だから師匠は、
ジャンが口では「ギブアンドテイク」と言いながら、
実際にはアンディへ手向けを返していることを見抜く。
この術の代償を知れば知るほど、
ジャンの行動は重くなる。
無料で出来る儀式なら、
情のある人物なら誰でも選びやすい。
だが自分の消耗、
場合によっては寿命まで関わる術だからこそ、
使うという判断自体にその人物の価値観が出る。
アセンションは、
死霊へ何をする術なのかだけではない。
術者が死者へどこまで責任を負うかまで、
行動として見せる魔術なのである。
さらにアンディの場面では、
ジャンの専門職が冥導師であることも効いてくる。
彼は死霊を作って動かすだけの術者ではなく、
死霊属性、魂魄、怨念、昇天まで含めて扱う上位の死霊術師。
魂魄眼で師匠に魂があることを見抜いた人物が、
最後にはアンディの魂の欠片へ干渉して送り出す。
この対比も重要になる。
第2期序盤だけを見ると、
ジャンの能力は「師匠の正体を見抜く不気味な眼」と
「大量のアンデッドを操る危険な術」に見えやすい。
しかしアセンションまで追うと、
同じ死霊術体系の中に、
見抜く術、使役する術、戦わせる術、
そして最後に解放する術まで揃っている。
そのためアセンションは、
ジャンの情だけを示す小道具でもない。
死霊術という技術体系の終着点の一つであり、
使役した存在をどこで終わらせるかという
術者側の責任まで含んだ術として描かれている。
第2章 ジャンはなぜアンディへアセンションを使った?放置しても消滅する状態だった
骨も魔石も粉砕|浮遊島へ届けるため最後の魔力まで使い切った
アンディへのアセンションを理解するには、
まず最後の状態を具体的に見る必要がある。
アンディは、
ただ戦闘で傷付いた程度ではない。
浮遊島へ一行を届けるため、
飛行能力も身体も魔力も
最後まで使い切っている。
ジャンに呼び出された直後から、
アンディの仕事は重い。
師匠たちが以前届かなかった高度を軽々越え、
魔力障壁で寒さと風圧を軽減しながら上昇。
雲を抜け、
巨大な浮遊島が見える位置まで一行を運ぶ。
だが島へ近づいた瞬間、
ダンジョンコアの影響圏へ入る。
地面へ着く前から迷宮扱いになり、
約千羽規模のボーン・バードが群れで襲来する。
アンディは、
フランたちを乗せた状態で戦闘を継続。
自分でもブレスと顎を使い、
師匠、フラン、ウルシ、ジャンも迎撃へ参加する。
約三十分の空中戦。
ようやく群れを抜けても、
次にはワイバーン・スケルトン。
砲撃。
島外周の物理障壁。
安全に着陸できる余裕は残っていない。
そこでジャンは、
アンディを帰還させるのではなく、
浮遊島へ突っ込むための形へ変える。
肋骨と胸骨をせり上げ、
ジャンとフランを包む骨の外殻へ変形。
翼も畳み、
外側から見ると巨大な骨球に近い姿になる。
さらに、
アンデッド・ウーズの分身体を召喚。
赤い粘体で外側を覆い、
着地衝撃を吸収する緩衝材として使う。
そしてアンディは、
進行方向と逆へ首を向ける。
ここで放つのが、
その日最大級のブレス。
敵を焼くためではない。
反動そのものを推進力へ変えるため。
骨の砲弾となったアンディは、
進路上の敵を粉砕。
物理障壁へ激突し、
そのまま浮遊島表面へ突入する。
着地では巨大なクレーターが出来る。
アンデッド・ウーズの分身体は消滅。
搭乗していた側もHPが減る。
衝撃の中心だったアンディは、
全身の骨も魔石も粉々になる。
この状態では、
次の戦闘へ使えない。
修理して再投入できる状態でもない。
アンデッドとしての維持自体が
ほとんど終わっている。
それでも、
残った頭蓋から僅かに反応が返る。
ジャンが忠心を忘れないと告げ、
フランが礼を言い、
ウルシも師匠も働きを認める。
その直後に、
アセンションが使われる。
だからこの術は、
戦闘処理の延長ではない。
戦いが終わった後、
役目を終えたアンディへ返す最後の行為として置かれている。
「使い捨て」と言いながら手向けを返す|ジャンの言葉と行動は一致していない
上陸後、
ジャンは死霊術師としての考え方を師匠たちへ語る。
自分はお人好しではない。
昇天させる代わりに力を貸してもらう。
ギブアンドテイク。
使い捨てにしても感謝されるから都合がいい。
言葉だけなら、
かなり冷たい。
死霊を戦力として使い、
最後に昇天させれば互いに得をする。
合理性だけで成立する関係に見える。
だが師匠は、
その説明をそのまま通さない。
直前に見たアンディへのアセンションと、
ジャンの説明が完全には一致していないから。
アンディは、
放っておいても消滅したはず。
わざわざアセンションを使わなくても、
戦力としての役目はすでに終わっている。
しかも、
術を使ったジャン自身が
上陸後しばらく戦えなくなっている。
つまりジャンは、
実利だけなら明らかに損をしている。
師匠からそこを突かれると、
ジャンは最初の大仰な態度を崩す。
自分がしてやれるのはその程度。
短い間でも忠節を持って仕えたアンディへ、
せめてもの手向けだったと認める。
フランは即座に肯定。
師匠も文句なし。
ウルシも同意する。
するとジャンだけが、
自分で作ったしんみりした空気へ耐えられず、
耳まで赤くして次の話題へ逃げる。
この場面があるから、
アセンションの記事では
アンディの正体そのものより、
「なぜ使ったか」が重要になる。
ジャンは死霊を使役する。
危険な任務も与える。
必要なら消耗させる。
戦場では合理的に扱う。
だが、
忠節まで無価値とは考えていない。
命令に応えた個体へ、
最後に何も返さず終わらせる人物でもない。
しかも返したものが、
単なる感謝の言葉ではなくアセンション。
自分自身が消耗する術を使い、
現世へ残ったものを送り出す。
ここに、
ジャンの死霊術師としての考え方が現れる。
死者を使うこと自体を悪とは考えない。
その代わり、
力を借りたなら最後に出口を用意する。
アンディは、
その思想を最初に具体化した存在になる。
そして次に知るべきなのが、
そもそも全てのスケルトンやゾンビへ
本物の魂が残っているのかという問題。
通常のアンデッド。
自然発生型。
死霊術師が作った個体。
怨霊。
そこでは魂の扱いが同じではない。
アセンションが本当に必要になる場面を理解するには、
『転剣』世界でアンデッドが
何によって動いているのかまで踏み込む必要があるのである。
第3章 普通のスケルトンにも本物の魂は入っている?『転剣』のアンデッド構造
ゾンビやスケルトンは「死者本人の魂」で動いているわけではない
アセンションを理解するには、
まず『転剣』世界でアンデッドが
何によって動いているのかを押さえる必要がある。
師匠も最初は、
死霊魔術とは死者の魂を呼び戻し、
死体へ憑依させて操る術だと思っていた。
ところが浮遊島攻略の途中、
ジャンへ死霊魔術について質問すると、
その理解が大きく修正される。
休憩中の何気ない会話だが、
ここで説明される魂の扱いは、
アセンションの正体へ直結する重要設定になる。
『転剣』世界では、
魂は人間が自由に触れられるものではない。
生物が死亡すると、
魂は冥界の神の下へ旅立つ。
原則として術者が死者本人の魂を捕まえ、
好き勝手に肉体へ戻すような仕組みではない。
だからこの世界では、
死霊魔術そのものが
即座に禁忌扱いされているわけではない。
死体は魂が抜けた後の器であり、
それを術式で動かしても
「死者本人の魂を弄んでいる」とは限らないからだ。
もちろん、
死体をどう扱うかへの感情差はある。
全員が平然と受け入れるわけではない。
しかし少なくとも、
死霊術師=死者の魂を捕縛する邪法使い、
という単純な位置づけではない。
では、
ゾンビやスケルトンは何で動いているのか。
ジャンの説明では、
死者の肉体へ魔力で作った
疑似的な魂魄を組み込み、
それを制御核として動かしている。
この構造は、
師匠が想像していた幽霊憑依より
ゴーレムへ近い。
肉体という器があり、
魔力で作った疑似魂魄があり、
術者がそれを制御することで
アンデッドとして活動させる。
ただし、
単純な人形とも違う。
質の高い術式を使えば、
肉体側へ残っている魔力、
筋肉が覚えている動作、
生前の記憶や技能の残滓まで利用できる。
そのため、
剣士だった死体を使えば
生前の剣技に似た動きを見せることがあり、
魔術師だった個体なら
残存情報から術式適性を引き出せる場合もある。
外から見ると、
本人が蘇ったように見える。
昔と同じ動きをする。
生前に近い技能を使う。
それが「魂まで残っている」と錯覚させる。
しかし原則は違う。
本物の魂は冥界へ向かっており、
残っているのは肉体側の情報と、
魔力によって作られた疑似魂魄。
ここを押さえると、
アセンションが全てのゾンビやスケルトンへ
必要な術ではないことも分かる。
普通のアンデッドを倒したからといって、
毎回「死者本人の魂を救出した」ことにはならない。
浮遊島の森で、
フランたちは大量のゾンビとスケルトンを倒す。
迷宮内部では、
ゾンビ・ソルジャー、
スケルトン・ウォーリア、
アーマー・グールまで現れる。
さらに最初の大部屋では、
魔法陣から死霊が次々に湧き、
最初の一撃で約三十体を倒しても、
まだ五十体以上が残る。
二十分ほど戦い続け、
ようやく部屋の死霊を全滅させる。
だが、
そこで一体ずつ魂を送り出す描写はない。
戦闘後にジャンが部屋を浄化し、
一行はその場で休息へ入る。
つまり通常の死霊討伐と、
アセンションによる魂の昇天は、
同じ処理ではない。
アンデッドだから必ず本人の魂が閉じ込められている、
という世界観ではないからだ。
自然発生アンデッドも魔石が疑似魂魄になる|魂の有無を見分けることが重要
人為的に作られたアンデッドだけでなく、
自然発生した個体も同じ発想で説明される。
野良のゾンビやスケルトンは、
死霊術師が疑似魂魄を埋め込んだわけではない。
そこで制御核になるのが魔石。
自然発生アンデッドでは、
魔石が疑似魂魄に近い役割を担い、
死体や骨格を動かす中枢になる。
だから野生のアンデッドを倒した時も、
基本的には
死者本人の魂を壊しているわけではない。
本体となる魂は、
すでに冥界へ向かっている。
この設定は、
ジャンという人物の印象にも関わる。
彼はゾンビやスケルトンを召喚し、
罠へ突っ込ませ、
戦闘で損耗させる。
表面だけなら、
死者へ残酷なことをしているように見える。
浮遊島の地下では、
ジャンがカスタム・レブナントのセルカンを召喚する。
セルカンは罠感知と罠解除へ特化し、
戦闘力より再生能力を優先した特別製。
解除できない罠へは、
自分で踏み込んで起動させる。
実際、
天井から落ちてきた槍に串刺しにされる。
だがすぐ再生し、
何事もなかったように歩き出す。
ジャンは魔力を補給しながら、
セルカンを先導役として使い続ける。
この場面だけ切り取れば、
死体を便利な肉壁にしているように見える。
ところが魂の仕組みを知ると、
本人の魂を拷問しているわけではない。
疑似魂魄を制御核にしたアンデッドを、
用途に合わせて作り、
再生させながら運用している。
ジャンの研究者らしい実利性が、
ここではっきり出る。
だから「死霊術師がアンデッドを使うこと」と、
「魂の欠片を抱えた怨霊を使うこと」は
同じではない。
前者は、
死体と疑似魂魄を利用する技術。
後者は、
現世へ魂の一部が残っている存在へ
直接関わる行為になる。
アセンションが重いのは後者。
魂へ触れるからこそ、
普通の死霊操作とは別格の負担が術者へ返る。
そしてこの違いがあるから、
ジャンは全ての死霊へ
同じ態度を取っているわけではない。
セルカンは用途へ合わせて改良し、
罠処理へ投入する。
アンディは忠節を果たした後、
魂の欠片を送るためアセンションを使う。
外から見れば、
どちらも「ジャンのアンデッド」。
しかし内部構造と最後の扱いは違う。
この差を知ると、
アセンションは単なる高位浄化魔術ではなくなる。
魂が本当に残っている存在へ対し、
その執着を断ち切るための術。
だからこそ、
次に問題になるのが怨霊になる。
普通のスケルトンには残っていない魂の欠片が、
なぜ怨霊には残るのか。
そこへ踏み込むと、
「昇天させる」という言葉の重さがさらに見えてくる。
第4章 怨霊だけは何が違う?魂の欠片が現世へ残る仕組み
「死にたくない」「死ねない」という妄執が魂の一部を現世へ引き留める
通常のゾンビやスケルトンでは、
本物の魂は冥界へ向かう。
それでも例外的に、
魂の一部が現世へ残る場合がある。
その代表が怨霊系アンデッド。
生物が死ぬ瞬間、
あまりにも強い執着や妄執を抱くと、
通常では生まれないほど大きな力が一瞬だけ発生する。
死にたくない。
まだ終われない。
憎い相手へ復讐したい。
ここで消えるわけにはいかない。
そうした極端な感情が、
本来なら冥界へ向かう魂の一部を
現世へ引き留めてしまう。
ジャンの説明では、
それは消える直前の蝋燭が
最後に大きく燃え上がるようなもの。
死の瞬間に生じた強烈な妄執が、
魂の欠片と結び付く。
さらに、
その魂の欠片と妄執の力が魔石へ定着すると、
強力な怨霊系アンデッドになる。
ここが、
通常の自然発生アンデッドとの決定的な差になる。
普通の野良アンデッドは、
魔石が疑似魂魄として働く。
怨霊はそこへ、
実際の魂の欠片まで残っている。
だから怨霊は、
倒せば終わりとは限らない。
現世へ残る原因になった怨念や妄執そのものを
解消しなければ、
魂の欠片は苦しみ続ける。
アセンションが狙うのは、
まさにこの部分。
肉体を砕くのではなく、
怨念を晴らし、
魂の欠片が現世へ残る結び付きを解く。
そのため、
「アンデッドに効く光魔術」とは性格が違う。
肉体破壊でも、
魔石破壊でもなく、
存在の根にある執着へ触れる。
そして魂は、
本来なら神だけが触れられる領域。
アセンションは完全な魂操作ではないにしても、
僅かに魂へ干渉する。
だから反動が重い。
怨念が強ければ強いほど、
それを解く側の生命力まで削られる。
アンディへ使った後、
ジャンがしばらく戦えなくなるのも、
単なるMP切れとは違う。
術者自身の深い部分へ負担が返った結果になる。
死霊術師が怨霊を使役することは「救済」にもなる|ジャンの思想はここから見える
怨霊へ本物の魂の欠片が残っているなら、
死霊術師が使役する行為は
さらに残酷に見えるかもしれない。
ところが『転剣』世界では、
むしろ逆の側面まで説明される。
怨霊は、
妄執や怨念によって現世へ縛られている。
自分の意思だけでは離れられず、
苦しみながら徘徊する。
人間を襲う個体もいる。
憎悪を撒き散らす個体もいる。
放置すれば、
新たな被害を生む可能性がある。
そこで死霊術師が介入する。
怨霊を制御する。
暴走を止める。
必要なら力を借りる。
最後に怨念を浄化し、
魂の欠片を昇天させる。
この流れなら、
使役は単純な搾取だけではない。
人へ害を与える怨霊を一体減らし、
同時に現世へ縛られた魂の欠片へ
終わりを与えることになる。
だから作中では、
怨霊を使役すること自体が
一般的に推奨される側面まである。
中には、
怨霊を浄化して昇天させるため、
諸国を巡って活動する死霊術師もいる。
この説明を聞いた直後、
ジャンは自分をそんな善人ではないと言う。
昇天させる代わりに力を借りる。
互いに利益がある。
使い捨てにしても感謝される。
だから笑いが止まらない。
いかにもジャンらしい。
善意だけで行動しているように見せたくない。
研究者としても冒険者としても、
常に実利を前面へ出す。
だが師匠は、
直前のアンディへの行動を忘れていない。
本当に利益交換だけなら、
壊れたアンディへアセンションを使う必要はなかった。
そのまま消滅させても、
ジャン側の任務は終わっている。
それでも自分を消耗し、
忠節への手向けとして送り出した。
だからジャンの
「ギブアンドテイク」という説明は、
完全な嘘ではないが全部でもない。
力を借りる。
役目を与える。
使役する。
必要なら危険な仕事もさせる。
しかし最後には、
現世へ縛られたものを解放する。
この一連を、
ジャン自身は死霊術師として当然の取引に近く語る。
そこへ情が混じると、
アンディのような別れになる。
しかもジャンは、
魂の仕組みを知識として語れるだけではない。
魂魄眼で、
師匠に魂があることを見抜いた人物でもある。
鑑定遮断で情報を隠した師匠に対し、
ジャンは通常鑑定とは別の角度から、
魂を持ち念話する存在だと見破る。
つまりジャンの死霊術は、
死体を動かすだけの技術ではない。
疑似魂魄を作る。
魔石を制御核として扱う。
魂の有無を見抜く。
怨念を利用する。
そして最後には魂の欠片を送る。
「見る」「使う」「制御する」「解放する」まで、
一つの体系としてつながっている。
その終端にある術が、
アセンションになる。
だからアセンションを知ると、
アンディの別れだけではなく、
ジャンという人物の専門性そのものが見えてくる。
死霊術師は、
死者を起こす人物ではない。
少なくともジャンの場合、
死体、魔石、疑似魂魄、怨霊、魂の欠片を
区別して扱う専門家になる。
そして怨霊へ本当に魂の欠片が残っている時だけ、
最後に必要になるのが昇天。
この構造まで分かれば、
アセンションが高位な浄化魔術として扱われ、
寿命まで削る危険を抱えることにも筋が通る。
壊す術だから危険なのではない。
本来、人間が自由に触れられない魂へ
僅かでも干渉するから重い。
その代償を知りながら、
ジャンがアンディへ使った。
だからあの短い別れが、
死霊術の設定とジャンの人間性を
同時に見せる場面になっているのである。
第5章 アセンションはなぜ寿命まで削る?魂へ触れる術の代償
魔力切れとは違う|魂へ干渉するほど術者自身の生命力まで削られる
アセンションの代償を、
単なる「MP消費が大きい魔術」と考えると本質を外す。
作中で明言されているのは、
この術が僅かとはいえ魂そのものへ干渉し、
浄化する怨念が強いほど術者側の消耗も増えるということ。
場合によっては、
寿命そのものを削る危険まである。
通常の魔術なら、
大量に魔力を消費しても
休息や魔力回復で立て直せる余地がある。
だがアセンションは、
魂という本来人間が自由に扱えない領域へ触れるため、
魔力だけでは説明できない負担が返る。
その最初の具体例がアンディ。
浮遊島へ突入した直後、
アンディは骨も魔石も砕け、
放置しても消滅へ向かう状態だった。
そこでジャンは、
戦力として再利用するためではなく
忠節への手向けとしてアセンションを使う。
結果、
ジャンは上陸後しばらく戦力にならない。
浮遊島の森には、
すでにゾンビとスケルトンが徘徊している。
地下入口も分からない。
そこから約二時間、
危険な地表を進んで探索しなければならない。
つまりジャンは、
これから最も自分の戦力が必要になる場面で
自分から消耗を抱えたことになる。
もし単なるMP不足なら、
魔力回復薬や休息で済む。
だが師匠が後に思い返すほど、
アンディ一体へのアセンションでも
「凄まじく消耗した」と分かる状態だった。
ここでジャンの行動が重くなる。
アンディはすでに役目を終えていた。
高高度輸送。
約千羽のボーン・バード突破。
ワイバーン・スケルトンとの交戦。
物理障壁突破。
強行着陸。
すべてを終えた後で、
もう戦力として使えない。
それでもジャンは、
自分の生命力を削る可能性がある術を使った。
死霊術師として見れば、
この選択は効率より手向けを優先したものになる。
しかもジャンは、
魂へ触れる術の危険性を知らなかったわけではない。
冥導師として死霊魔術と冥府魔術を高位で扱い、
魂魄眼まで持つ専門家。
自分が何をしているか理解したうえで、
アンディを送り出している。
だから「寿命を削る」という設定は、
後付けの大げさな説明ではない。
ジャン自身が、
使う相手を選ぶ判断へ直結している。
そしてこの危険性は、
後のリッチ戦で
さらに分かりやすい形で再現される。
アンディ一体で終わらない|後のリッチ戦では大規模昇天が生命力を直接削る
浮遊島最深部でリッチと対峙した時、
ジャンは死霊術師としての切り札を使う。
リッチは大量のアンデッドを召喚。
部屋はゾンビ、スケルトン、高位死霊で埋まり、
正面から一体ずつ倒していては押し切られる状況になる。
そこでジャンが構えるのが、
どのような死霊でも確実に昇天させる効果を持つ神具。
杖から青白い光が溢れ、
部屋全体を一気に包む。
リッチは配下へ逃げるよう命じる。
だが光から逃げ切れる場所はない。
光が収まった時、
それまで部屋を埋めていたアンデッドたちは
一体残らず姿を消している。
戦果だけ見れば圧倒的。
多数の死霊を、
一瞬で昇天させている。
ところが、
直後に代償が来る。
ジャンは言葉を続けようとした途中で
大量の血を吐き、
そのまま片膝をつく。
顔色は土気色。
師匠が、
まるでジャン自身がアンデッドになったようだと感じるほど
生命力が落ちている。
リッチもその状態を見抜く。
広範囲へ高位の昇天呪文を放ち、
大量のアンデッドを同時浄化したのだから
無傷で済むはずがない。
生命力が枯渇寸前だと指摘する。
ここで師匠は、
アンディへアセンションを使った時を思い出す。
一体を送るだけでも
ジャンは大きく消耗した。
今回は、
高位アンデッドを含む大量の死霊を
同時に浄化している。
負担が桁違いになるのは当然。
師匠は、
本当に寿命まで削っているのではないかと危惧する。
この場面があることで、
第1章で出た「寿命を削ることさえある」という説明が
ただの設定文ではなくなる。
ジャンの身体が、
実際にその代償を見せるのである。
さらに重いのは、
ジャンが一度目の大規模昇天で吐血した後にも
神具を再起動していること。
リッチは本来の能力を晒し、
レベル71、
MP7467、
魔力4312という桁違いの数値まで現れる。
死霊支配と死霊魔術は最大級。
冥府魔術。
時空魔術。
生命吸収。
魔力吸収。
さらに怨念吸収と怨念変換まで持つ。
師匠が時空魔術を奪って逃げ道を封じる間、
ジャンは再び杖を頭上へ掲げる。
詠唱は、
怨嗟と恩讐へ囚われた魂へ
安らかな眠りを与える内容。
直前まで生命力枯渇寸前だった術者が、
なお同じ系統の高位昇天を通そうとする。
リッチ側も、
次に杖を使えばジャンの命が尽きる可能性を読んでいる。
それでもジャンは止めない。
光がリッチを包み、
今度は怨念そのものが削られていく。
ここまで来ると、
アセンション系統の術が危険なのは
「一回使うと疲れるから」では済まない。
対象が強大で、
抱えている怨念が濃いほど、
術者の生命力と引き換えに
魂へ食い込むような浄化を続けることになる。
第6章 アセンション系の術はどこまで危険?リッチ戦でジャンが吐血する
ヒールでは戻らない|傷ではなく生命力そのものが枯渇している
ジャンが吐血した直後、
師匠はすぐヒールを使おうとする。
仲間が血を吐き、
立てないほど弱っているなら、
回復魔術を使うのは自然な判断。
だがジャン自身が、
それを止める。
傷ではないから、
通常のヒールを使っても意味がない。
ここが、
アセンション系統の術の危険性を最も分かりやすく見せる。
斬られた。
骨が折れた。
HPを削られた。
そういう肉体損傷ではない。
使い過ぎたのは、
魔力だけでもない。
生命力そのものが減っている。
そこでフランが取り出すのが、
HP回復薬ではなくスタミナポーション。
疲労を回復させ、
生命力を直接補う種類の薬になる。
ジャンはそれを受け取り、
どうにか立て直す。
この細部によって、
「寿命を削る可能性」が比喩ではないことが分かる。
もし単なる魔力切れなら、
マナポーション。
外傷なら、
ヒールやHP回復薬。
しかしジャンが必要としているのは、
生命力側への補給。
アセンション系統の大規模浄化は、
術者の存在そのものを燃料へ近い形で使う
危険な術だと読み取れる。
しかも戦闘は、
そこで終わらない。
大量の配下を昇天させても、
リッチ本人は健在。
ジャンの神具は
「どんな死霊でも確実に昇天させる」はずなのに、
なぜかリッチだけが残る。
リッチは、
最初に見えていた能力を隠していた。
鑑定妨害を解除すると、
本来の能力値が露わになる。
レベル71。
MPは7000を超え、
魔力も4000を超える。
死霊支配、死霊魔術、冥府魔術、
時空魔術、生命吸収、魔力吸収、
瞬間再生まで並ぶ。
最初に見えていた姿より、
遥かに危険な死霊。
しかもダンジョンマスター。
つまりジャンは、
大量の配下を浄化するために生命力を削った直後、
本命であるリッチを前に
弱体化した状態へ追い込まれている。
それでも戦闘から離脱しない。
フラン、師匠、ウルシと連携し、
リッチの施設や能力を削り、
隙を作ろうとする。
この姿を見ると、
アセンション系統の術は
使えば勝てる便利な必殺技ではないと分かる。
浄化できる。
強力。
死霊へ絶大な効果。
その代わり、
術者が次の戦闘を続けられなくなる危険がある。
だからジャンほどの冥導師でも、
状況を選ばず乱発できない。
リッチ戦では怨念そのものが暴走する|浄化と怨念の対立がアセンションの本質を見せる
リッチ戦がさらに重要なのは、
ジャン側が「昇天させる力」を使う一方、
リッチ側は「怨念を取り込む力」で強くなること。
ジャンの配下が、
ダンジョン内の施設を次々に破壊する。
その中でも重要なのが怨念炉。
アンデッドが放つ怨念を集め、
それを魔力へ変換する設備だった。
リッチ自身の日記でも、
三十万GPを貯めて怨念炉を設置したことが残る。
周囲の怨念を吸収して魔力へ変え、
自分と接続すれば
膨大な魔力と怨念を取り込める施設として使っていた。
設置後、
リッチ自身も力が増したと記録する。
一方で、
憎しみや恨みまで強くなった。
さらに時間が経つと、
記憶がない瞬間まで現れ始める。
つまり怨念炉は、
単なる魔力発電設備ではない。
力を増やす一方で、
リッチの人格まで蝕む装置だった。
その怨念炉が、
ジャンの配下によって破壊される。
だが貯め込まれた怨念そのものは消えない。
実体化するほど濃密な怨念が、
迷宮内部へ散ったまま残る。
そこをリッチが吸収する。
不浄の理。
怨念吸収。
怨念変換。
周囲へ漂う負の感情を
自分の魔力と力へ変えていく。
怨念を吸えば、
能力は上がる。
魔力も膨張する。
黒い瘴気のような気配も強くなる。
だが代償は、
ジャンとは逆方向に出る。
ジャンは魂の欠片を解放するため
生命力を削る。
リッチは怨念を抱え込んで強くなる代わりに、
理性を失っていく。
この対比が、
アセンションという術の位置を明確にする。
死霊を強くする方向。
怨念を蓄積する方向。
現世へ縛り付ける方向。
それがリッチ側。
怨念を晴らす。
魂の欠片を解放する。
現世から送り出す。
それがアセンション側。
同じ死霊術体系でも、
向いている方向が真逆になる。
浮遊島の過去では、
大量の怨念を一人の実験体へ流し込んだ結果、
リッチが生まれた。
その後も怨念炉を作り、
迷宮中の怨念を蓄積して自分の力へ変え続けた。
一方、
ジャンが使うアセンションは、
その怨念の結び付きを断つ。
だからアセンションは、
単なる「アンデッド特効技」ではない。
浮遊島編そのものにある
怨念の蓄積と解放という二方向を
象徴する術になっている。
アンディの時は、
小さな一体へ向けた手向け。
リッチ戦では、
大量の死霊へ向けた大規模浄化。
規模は違う。
だが共通するのは、
現世へ残ったものを終わらせるという性質。
そしてそのたびに、
ジャン側も無傷では済まない。
アンディ一体で戦力外。
大規模浄化では吐血。
生命力枯渇。
ヒール無効。
スタミナポーションが必要。
ここまで具体的に積み重なるから、
「寿命を削る可能性」という説明にも重みが出る。
ジャンは、
死霊を操る力だけが強いのではない。
死霊を終わらせる術も持つ。
そしてその終わらせ方には、
自分自身の生命力を差し出す代償がある。
だからアセンションは、
ジャンの死霊術師としての力量だけでなく、
死者へどう向き合う人物なのかまで
見せる術になる。
アンディへ使った時は、
忠節への手向け。
リッチ戦では、
大量の死霊を一気に浄化する戦術。
同じ「昇天」でも、
そこに込められる目的は違う。
ただ共通しているのは、
ジャンが死霊を作って使うだけでなく、
最後に解放するところまで
自分の役目として引き受けていること。
その思想へ踏み込むと、
第7章で見るべきものも明確になる。
ジャンはなぜ、
死霊を使役しながら
最後には昇天させるのか。
そこに、
「皆殺」の二つ名だけでは分からない
ジャン・ドゥービーという死霊術師の本質が現れるのである。
第7章 ジャンはなぜ死霊を使役して最後に昇天させる?アセンションに表れる死霊術師としての思想
「使役する代わりに最後は送る」|ジャンのギブアンドテイクは建前だけではない
ジャンは、
死霊を使役することへ罪悪感を見せない。
ゾンビやスケルトンを戦力として使い、
探索ではセルカンを罠解除役へ投入し、
アンディには高高度輸送と強行突破まで任せる。
必要なら危険な仕事もさせるし、
戦術上の消耗も受け入れる。
そのため、
表面だけ見れば冷酷な死霊術師に見える。
「皆殺」の二つ名もあり、
初対面では師匠もフランも強く警戒した。
魂魄眼で師匠の秘密まで見抜き、
大量のアンデッドを平然と扱う姿は、
敵側の人物に見えても不思議ではない。
だが、
ジャン自身の死霊術観はもっと複雑になる。
通常のゾンビやスケルトンには
死者本人の魂がそのまま残っているわけではなく、
疑似魂魄や魔石を制御核として動かしている。
一方、
強い妄執や怨念によって現世へ残った怨霊には、
本物の魂の欠片が残る場合がある。
その場合、
使役して力を借りる代わりに、
最後は怨念を晴らして昇天させる。
ジャンはこの関係を、
善行とは呼ばない。
自分はお人好しではない。
昇天させてやる代わりに働いてもらう。
互いに得がある。
だからギブアンドテイクだと説明する。
この言葉だけなら、
徹底して合理的。
だが行動を見ると、
その説明より少し情が深い。
アンディは、
放置しても消滅へ向かう状態だった。
骨も魔石も粉砕。
再利用も難しい。
それでもジャンは、
自分がしばらく戦力外になるほど消耗する
アセンションを使った。
師匠にそこを突かれると、
短い間でも忠節を示したアンディへの
せめてもの手向けだったと認める。
この瞬間、
ジャンの「ギブアンドテイク」は
完全な損得計算だけではないと分かる。
さらにセルカンを見ると、
ジャンの別の側面も見える。
セルカンは罠感知と罠解除へ特化した
カスタム・レブナント。
解除できない罠には、
自分から踏み込んで起動させる。
槍へ串刺しにされても再生し、
再び先導役へ戻る。
ここでは、
ジャンはかなり実利的。
アンデッドの再生能力を前提に、
危険な探索役へ使う。
だがそれは、
本人の魂を苦しめながら使っているわけではない。
疑似魂魄を利用した死霊と、
魂の欠片を抱えた怨霊を
きちんと区別して扱っている。
つまりジャンは、
死霊を一括して「死者」とは見ていない。
肉体。
魔石。
疑似魂魄。
怨念。
魂の欠片。
それぞれを別物として理解し、
用途も最後の処理も変えている。
この専門性があるから、
アセンションも単なる優しさでは終わらない。
必要な死霊へ必要な最後を与える。
そこまで含めて、
ジャンの死霊術になる。
「皆殺」のジャンが単純な死体使いではない|アセンションは最後まで責任を取る術
ジャンの人物像を決定的に変えるのは、
浮遊島後半のリッチ戦。
そこでジャンは、
死霊を作る側ではなく
大量の死霊を昇天させる側へ回る。
神具を掲げ、
青白い光を広範囲へ放つ。
部屋を埋めていたアンデッドが、
逃げ切れず一斉に消えていく。
その直後、
ジャン自身は大量に吐血。
顔色を失い、
片膝をつくほど生命力を削られる。
師匠はヒールを使おうとする。
だがジャンは止める。
傷ではない。
HPを削られた負傷ではなく、
生命力そのものが枯渇している。
そこでフランが渡すのは、
通常の回復薬ではなくスタミナポーション。
疲労と生命力を補う手段が必要になる。
この場面で、
昇天系の術が術者自身へ返す代償が
具体的に示される。
それでもジャンは止まらない。
リッチが本来の能力を晒し、
怨念吸収や怨念変換まで使い始めると、
再び神具を起動する。
一方のリッチは、
怨念を集めるほど強くなる。
怨念炉へ蓄積された負の感情を吸い、
魔力と力へ変える。
だが同時に、
人格まで怨念へ侵食されていく。
ジャンは逆。
怨念を晴らし、
魂の欠片を現世から解放する。
その代わり、
自分の生命力を差し出す。
この対比が、
アセンションの性質を最もはっきり見せる。
怨念を溜める。
現世へ縛る。
力へ変える。
それがリッチ側。
怨念を解く。
魂を送る。
現世から離す。
それがジャン側。
同じ死霊を扱う者でも、
向いている方向が正反対になる。
だからジャンは、
「死霊を操るから危険人物」という一言では片付かない。
死霊を戦力にする。
研究対象にもする。
戦場では徹底して合理的に使う。
だが、
魂の欠片が残っているなら、
最後は送り出す。
そのために自分が消耗しても、
術を使う。
アンディ一体へ使った時は、
忠節への手向け。
リッチ戦では、
大量の死霊を終わらせるための戦術。
規模は違っても、
根底は同じになる。
ジャンにとって死霊術とは、
死者を動かす技術だけではない。
どう作るか。
どう使うか。
どう制御するか。
どこで終わらせるか。
そこまで全部含んでいる。
そしてアセンションは、
その最後を担う術。
だからこの術を見ると、
魂魄眼で師匠の魂を見抜いたことも、
疑似魂魄を利用してセルカンを作ったことも、
アンディを最後に送ったことも、
リッチ戦で大量浄化へ踏み切ったことも
一本につながる。
ジャンは、
魂を知識として観察するだけではない。
扱った存在へ最後まで責任を持つ。
もちろん、
本人はそんな綺麗な言い方を好まない。
善人扱いされれば否定し、
得があるからやっていると言う。
感謝されれば照れ、
大仰な笑いで誤魔化す。
それでも行動は残る。
アンディを送った。
大量の死霊を浄化した。
自分の生命力を削った。
それでも術を止めなかった。
だから「アセンションとは何?」への最終回答は、
昇天魔術という名称だけでは足りない。
死霊の怨念を晴らし、
魂の欠片を現世から解放する冥府魔術。
強い怨念へ触れるほど、
術者自身の生命力や寿命へ重い代償が返る。
そしてジャンにとっては、
使役した死霊を最後まで送り出すための術でもある。
死者を起こす。
戦わせる。
使い切る。
それだけなら、
ジャンはただの冷酷な死霊術師で終わる。
だが、
最後に解放するところまで自分の役目と考える。
この一線があるから、
「皆殺」のジャンは単純な死体使いではない。
アセンションは、
その一線を最もはっきり見せる術なのである。


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