老デウスの未来が破滅へ入った最初の分岐点は、ヒトガミの助言を受けて地下室を開け、ロキシー死亡へつながった瞬間だった。
ただし「日記」を追うと、その後にもエリスとの再会、シルフィの支え、家族のもとへ戻る機会があり、そこで別の選択をしていれば破滅を小さくできた可能性が見えてくる。
第13話「日記」を軸に、未来のルーデウスがどこで道を外れ、なぜ一度の失敗から老デウスの五十年まで崩れていったのかを追う。
第1章 結論|最初の分岐点は地下室だったが、老デウスの未来を決めたのはその後の選択だった
地下室を開けた瞬間、ロキシー死亡へ向かう未来が始まった
老デウスの未来がここまで悲惨になった最初の分岐点は、
ヒトガミの助言を受けて地下室へ向かい、
その扉を開けてしまった瞬間だった。
第11話「ターニングポイント4」で老デウスが現在のルーデウスを必死に止めたのは、
あの一歩の先に何十年分もの喪失が続くことを知っていたからだ。
地下室から逃げたネズミは、
その場で誰かを襲うわけではない。
家の中へ入り、
食料へ接触し、
そこから妊娠中のロキシーへ魔石病が感染する。
目の前で罠が発動しないからこそ、
現在のルーデウスには危険だと分からない。
未来では、
ロキシーの体調が悪化した後、
ルーデウスは治療法を求めて動き出す。
クリフやザノバと共に神級解毒魔術を探し、
ミリス神聖国まで向かうが、
帰宅した時にはロキシーの身体は結晶化し、
すでに死亡していた。
ここから老デウスの人生は大きく変わる。
ただし、
地下室を開けた時点で、
その後の五十年が全部自動的に決まったわけではない。
日記を追うと、
その後にも何度か「まだ戻れた場所」が残っていたことが分かる。
ロキシー死亡前にはエリスが戻ってくる。
ロキシー死亡後にはシルフィが支えようとする。
家庭が崩れた後にも、
家族の側へ戻る機会は残っていた。
それでも老デウスは一つずつ別の方向を選び、
破滅をさらに深くしていった。
だから老デウスの未来を見る時は、
「地下室を開けたから全部終わった」とだけ考えると少し足りない。
最初の致命的な分岐は地下室。
しかし悲惨な未来を完成させたのは、
その後に重なった複数の選択だった。
老デウス自身も、悲劇の後に何度も「戻れる分岐」を通過していた
第13話「日記」が辛いのは、
最初から最後まで一方的に運命へ押し流された未来ではないところにある。
老デウス自身にも、
途中で方向を変えられた可能性が何度も残っている。
最初の大きな場面が、
エリスとの再会だった。
第1期第23話でルーデウスの前から去ったエリスは、
その後も剣の聖地で修行を続け、
未来では再びルーデウスの前へ戻ってくる。
しかし老デウスは、
第1期の「捨てられた」という認識を抱えたまま、
戻ってきたエリスを受け入れられない。
本来なら、
なぜあの時去ったのか、
何年も何を考えていたのかを聞く機会だったが、
未来ではその会話が成立しなかった。
次に残っていたのが、
シルフィとの家庭だった。
第2期では、
迷宮でパウロを失ったルーデウスをロキシーが支え、
再び立ち上がる場面がある。
未来ではそのロキシーがもういないため、
今度はシルフィが夫を支えようとする。
それでも老デウスは、
悲しみに耐え切れず酒へ逃げ、
シルフィの手を拒み、
外で別の女性と関係を持つ。
ここでも家庭へ戻れる可能性を、
自分の行動でさらに狭くしてしまう。
そしてシルフィまで失った後、
老デウスはヒトガミへの復讐へ人生を振り切る。
世界中を移動し、
魔術を研究し、
若い頃より遥かに強くなる一方、
家族のいる場所から長く離れるようになる。
だから老デウスの未来は、
一つの失敗だけで作られたわけではない。
地下室で最初の歯車が外れ、
その後もエリス、シルフィ、家族という戻り道を通り過ぎ、
最後に復讐だけが残った。
第13話の「日記」が重いのは、
それぞれの場面で
「ここで違う選択をしていれば」と思える余地が残っているからだ。
老デウスの未来は、
最初の罠と、
その後の判断が積み重なって完成した未来だったのである。
第2章 地下室はなぜ最大の分岐点だった?ネズミ一匹から未来全部が崩れ始めた
第11話で老デウスが地下室へ行く現在の自分を必死に止めたのは、この先を全部知っていたから
第11話「ターニングポイント4」で、
現在のルーデウスが地下室へ向かおうとした時、
突然現れた老デウスは強い焦りを見せる。
片腕を失い、
老いた身体で現れた未来の自分が、
何より先に伝えたのが「地下室へ行くな」だった。
この時点の現在のルーデウスには、
地下室がそこまで危険な場所には見えない。
家の中にあるただの地下室で、
ヒトガミからも確認するよう助言されただけ。
敵が待ち伏せしている様子もなく、
命に関わる罠があるようにも見えない。
だからこそ、
老デウスの必死さが異様に映る。
未来の自分は、
地下室の扉を開けた瞬間ではなく、
その後に何が起きるかを知っている。
ネズミが逃げ、
食料へ接触し、
ロキシーへ病気が届き、
そこから家庭全体が崩れる未来まで全部見てきた。
この「その場では何も起きない」という作りが、
地下室を最大の分岐点にしている。
剣で斬られるなら危険だと分かる。
魔物が出れば逃げられる。
しかしネズミ一匹なら、
その時点では大したことに見えない。
未来を知る老デウスだけが、
その小さな出来事の先に、
ロキシー死亡、
シルフィとの決裂、
家族崩壊、
ヒトガミへの復讐まで続くことを知っている。
だから現在の自分へ、
細かい説明より先に地下室を止めた。
ロキシー死亡だけでなく、その後の判断まで狂わせたから地下室が「最初の致命傷」になった
地下室が最大の分岐点なのは、
ロキシー一人が死亡するからだけではない。
その死によって、
未来のルーデウス自身の行動まで変わってしまう。
第2期の迷宮編では、
パウロ死亡後のルーデウスが完全に沈み込み、
食事も取れず、
生きる気力まで失いかける。
そこでロキシーが側に残り、
ルーデウスを現実へ戻す役割を担った。
未来では、
そのロキシー本人が死亡する。
つまり同じように大きな喪失へ直面しても、
以前のように支えてくれる存在がいない。
ここが現在の時間軸との大きな違いになる。
シルフィはいる。
家族もいる。
それでも老デウスは、
ロキシーを失った衝撃から立ち直れず、
残っている人間の手まで振り払う。
地下室の罠は、
ロキシーを奪っただけでなく、
老デウスが次の判断を誤りやすい状態まで作った。
そこから酒へ逃げる。
シルフィとの関係を壊す。
エリスを受け入れない。
家庭から離れる。
ヒトガミへの復讐だけへ傾く。
つまり地下室は、
一つの死亡事件ではなく、
その後の選択へ影響する最初の致命傷だった。
扉を開けた瞬間には何も見えないのに、
後から振り返ると、
そこから老デウスの人生全体が別方向へ流れ始めている。
第13話で日記を読み終えた現在のルーデウスが、
目の前にいる家族を見て強く反応するのも当然だ。
自分が地下室へ行っていれば、
今そこにいるロキシーも、
シルフィも、
家族との生活も、
全く別の姿になっていた可能性がある。
だから「老デウスの未来はどこで分かれた?」への最初の答えは、
やはり地下室になる。
ただし本当に怖いのは、
扉を開けた一瞬ではない。
その一度の選択が、
何年も後の判断まで狂わせ、
老デウス自身が次の破滅を選びやすい状態へ変わっていったことなのである。
第3章 二つ目の分岐|ロキシー死亡後、戻ってきたエリスを老デウスは受け止められなかった
第1期第23話の「捨てられた」が残ったまま、未来で再会してしまった
ロキシーを失った後にも、
老デウスの前には一人で沈み切らずに済む可能性が残っていた。
その一人がエリスだった。
第1期第23話「目覚め、一歩、」で短い手紙を残して去ったエリスは、
剣の聖地で修行した後、未来では再びルーデウスの生活圏へ戻っている。
しかし老デウスの中には、
第23話で受けた傷がそのまま残っていた。
エリス側では、第21話「ターニングポイント2」でオルステッドに何もできず、
ルーデウスが胸を貫かれる姿を見たことで、
今度は隣で戦えるほど強くなるために離れたという流れがある。
ところがルーデウスは、
その事情を十分に知らないまま「捨てられた」と受け取った。
未来でエリスが戻ってきても、
その認識が消えていないため、
目の前のエリスを「何年も自分のために修行して戻った相手」として見ることができなかった。
日記では、
ロキシー死亡後に酒場へ通う老デウスへ、
エリスが時々現れて言いたいことを言い、
最後には殴ってまで止めている。
ギレーヌも一緒にいるのに止めず、
老デウスだけが「なんなんだ、あの女」と苛立ちを強めていく。
ここは大きな分岐だった。
ロキシーを失った直後の老デウスには、
シルフィだけでなくエリスまで近くにいた。
それでも二人の手を「支え」として受け取れず、
むしろ自分を理解しない相手として遠ざけてしまった。
シルフィを追う途中でもエリスは現れたが、「今さら」と拒絶して関係を切った
さらに決定的なのが、
シルフィが家を出た後の再会になる。
老デウスはリーリャに追うよう促され、
ゼニスから何度も頬を叩かれた末、
ようやくアスラ王国へ向かう決心をする。
その旅の途中で、
再びエリスと遭遇する。
エリスは「今なら許してあげる」と声を掛けるが、
老デウスにはその言葉が届かない。
聞く耳を持たず、殴られると魔術で吹き飛ばし、
エリスが剣を抜くとその場から逃げている。
日記に残るのは、
「俺を捨てたくせに、なんで今さら」という感情だった。
ここでも第1期第23話の誤解が、
未来の選択を直接縛っている。
本来なら、
エリスがなぜ戻ったのかを聞けた場面だった。
第21話でオルステッドに何もできなかったこと。
第23話で剣の聖地へ向かったこと。
何年も鍛え続けたこと。
そこまで聞ければ、過去の受け取り方は大きく変わった可能性がある。
しかし老デウスは、
ロキシー死亡と家庭崩壊で心に余裕を失い、
「過去に自分を捨てた女」という認識から抜け出せなかった。
その結果、支えになれたはずのエリスまで、
未来では追い払う相手へ変わっていく。
地下室が最初の分岐なら、
エリス再会は「まだ戻れた二つ目の分岐」だった。
ここで老デウスが過去の傷を解き直せていれば、
少なくとも一人で復讐へ沈んでいく速度は変わっていた可能性がある。
第4章 三つ目の分岐|シルフィは何度も支えようとしたが、老デウスは酒と後悔へ逃げてしまった
第2期ではロキシーに救われたのに、未来ではシルフィの手を振り払った
ロキシー死亡後の老デウスには、
もう一つ大きな戻り道が残っていた。
それがシルフィとの家庭だった。
日記には、シルフィが何度も元気づけようとしていたことが残っている。
ここで第2期の迷宮編を思い出すと、
差がはっきりする。
パウロ死亡後のルーデウスは、
食事も取れず、部屋に閉じこもり、
自分だけ生き残ったことまで責めていた。
その時、側に残って立ち上がるきっかけを作ったのがロキシーだった。
未来では、
そのロキシー本人が死亡している。
だから今度はシルフィが、
夫を一人にしないよう何度も近づく。
自分を抱いてロキシーを忘れてもいいとまで伝え、
何とか夫を家庭へ戻そうとしている。
しかし老デウスは、
「シルフィに何が分かる」と心を閉ざす。
酒を飲まなければロキシーを思い出して泣いてしまうため、
家で飲み続け、
リーリャに小言を言われれば今度は外の酒場へ逃げる。
さらにシルフィが近づくと、
しつこいと感じて怒鳴ってしまう。
この時点では、
乱暴に扱ってしまいそうだから抱かないという自制も残っていた。
完全に壊れていたわけではなく、
まだ家庭へ戻れる位置にいたことが分かる。
娼婦との一夜、シルフィの涙、ゼニスの平手打ちまで「戻れ」という合図は続いていた
ところが酒場で飲んでいた老デウスは、
声を掛けてきた娼婦と宿へ入り、
そのまま関係を持ってしまう。
帰宅した時には女性の匂いが残っており、
それを察したシルフィは泣いて自室へ閉じこもる。
日記では、
シルフィが「なんで、ボクじゃダメなんだよ」と泣き、
扉の奥から嗚咽が聞こえている。
リーリャからも叱られ、
アイシャにまで露骨に嫌な顔をされ、
老デウス自身も「失敗した」と分かっている。
それでも翌日すぐ関係を戻せない。
シルフィは口を利かなくなり、
やがて朝起きると部屋から姿を消している。
残されていたのは、
ルーデウスから贈られた服や装飾品だった。
リーリャはすぐ追えと命じる。
それでも老デウスは、
「自分に追う資格があるのか」と迷い続ける。
ここでさらに動かしたのがゼニスだった。
何も言えない母が、
何度も何度も息子の頬を叩く。
言葉はなくても、
「今すぐ追え」と伝わる場面だった。
老デウスもようやくシルフィを追う決心をし、
アリエル、ルークと共にアスラ王国へ向かったことを知る。
ただ、その迷った時間が未来では致命的になる。
アスラへ入ってからも、
指名手配による足止め、
盗賊ギルドとの接触、
偽名と仮面による潜入が重なり、
アリエルたちの行方へ届かない。
ようやく王都へ迫った時には政変が鎮圧され、
シルフィはルークたちと共に死亡していた。
処刑場へ晒されたシルフィは片腕を失い、
顔にも大きな傷が残り、
周囲から石を投げられている。
老デウスは耐え切れず、
シルフィたちの遺体を火魔術で焼き、
邪魔する者まで燃やしてしまう。
ここで老デウスの未来は一段深く沈む。
ロキシー死亡まではヒトガミの罠が大きな起点だった。
しかしシルフィとの関係は、
支えてくれた時に受け入れる、
娼婦との一夜の翌日に謝る、
家を出た直後に追うという複数の分岐が残っていた。
それを一つずつ逃した末に、
老デウスは生きているシルフィではなく、
王都で晒された遺体と再会することになる。
だからこの未来が辛いのは、
「何もできなかった」からではない。
戻れる場面が何度も見えていたのに、
悲しみと後悔で動けず、間に合わなくなっていったからなのである。
第5章 シルフィ死亡後が本当の転落点|日記の空白と家族名の消失が生活崩壊を映していた
シルフィを失った後、日記は何年も途切れ、書かれる内容まで別人のように変わった
シルフィ死亡後の老デウスは、
それまでのように日記を書き続けることすらできなくなる。
原作「日記 後編」で現在のルーデウスが続きを開くと、
昨日まで読んでいた場所から紙質そのものが変わっており、
一年、二年、あるいは五年、十年かもしれないほど長い空白が生まれている。
その後の日記へ戻っても、
以前のような家庭の記録には戻らない。
町で見かけた女性、酒場のウェイトレス、娼館巡り、
女性の身体についての軽薄な記述が増え、
現在のルーデウス自身が「本当に俺なのだろうか」と戸惑うほど内容が荒れている。
さらに重いのは、
何が書かれたかより、
誰の名前が書かれなくなったかだった。
アイシャ、ノルン、リーリャ、ゼニス、ルーシー。
それまで日常の中心にいた家族が、
不気味なほど日記へ登場しなくなっている。
第2期までなら、
家へ戻ればシルフィがいて、
アイシャが家事を手伝い、
ノルンが学校生活を送り、
リーリャとゼニスも同じ家で暮らしていた。
未来では、その食卓から老デウス自身が長く離れ、
家庭より酒場と女性の記録の方が増えていく。
それでも完全に昔の生活を忘れたわけではない。
ザノバとの研究は続き、
ついにはシルフィそっくりの自動人形まで完成する。
自分の意思を持ち、
従順で素直で少し嫉妬深く、
かつてのシルフィを思わせるほど精巧な人形だった。
しかし老デウスは、
それを見ても「これじゃない」と受け入れられない。
最後には自分の手でシルフィ人形を破壊し、
ザノバが謝ると、
むしろ申し訳ないのはこちらだと感じている。
生きていたシルフィの支えは拒んだ。
失った後には、
似た姿を作っても埋まらない。
この場面だけでも、
老デウスが悲惨になったのは人を失った数だけではなく、
失ってからしか大切さを受け取れなくなったことが分かる。
現在のアイシャとの何気ない昼食が、老デウスがまだ戻れた生活をそのまま見せている
未来の日記から家族名が消えていく途中で、
現在のルーデウスは一度読書を止める。
そこへアイシャが昼食を知らせに来て、
いつもの調子で兄をからかいながら食堂へ連れていく。
この場面は派手ではないが、
老デウスの未来と並べると非常に重い。
未来の日記ではアイシャの名前がほとんど出なくなっているのに、
現在では目の前に本人がいて、
料理を作り、冗談を言い、
兄と同じ食卓を囲んでいる。
老デウスの日記には、
「アイシャだけは戻ってきて世話を焼いてくれている」と書かれている時期もある。
つまり未来でも、
家族との縁が完全に消えていたわけではない。
アイシャは戻り、
ザノバも研究を続け、
まだ周囲には老デウスを見捨てていない人間が残っていた。
現在のルーデウスは、
未来の自分がそこまで荒れていてもアイシャだけは戻っていたことを知り、
今からでも家族へ優しくしようと考える。
ノルンが帰ってきたら皆で食事へ行こうかと思い、
目の前の家族を今までより強く意識する。
ここが老デウスとの大きな差になる。
現在のルーデウスは日記を読んだことで、
「失う前に今いる家族を見る」方向へ戻れる。
未来の老デウスは、
シルフィとロキシーを失った後も、
残っている家族の方へ生活の中心を戻せなかった。
だからシルフィ死亡後は、
単なる次の悲劇ではない。
日記の空白、
紙質の変化、
家族名の消失、
女性と酒場の記録への偏りまで含め、
老デウス自身が家庭から離れていった本当の転落点だったのである。
第6章 復讐を選んだ老デウスは強くなったのに、ザノバとアイシャまで守れなかった
ヒトガミを殺すため、重力・電撃・治癒魔術まで身につけても家族との距離は広がった
日記の内容が再び大きく変わるのは、
夢へヒトガミが現れた後だった。
老デウスは肩へ触れられた感触まで覚えた状態で目覚め、
「ヒトガミを殺さなければならない」
「シルフィもロキシーも、ロキシーの子供も浮かばれない」と強烈な憎悪を書き残す。
そこから老デウスは、
世界中を移動しながらヒトガミの居場所へ行く方法を探し始める。
長生きしている者ほど何か知っている可能性が高いと考え、
各地の長命種や強者へ接触し、
情報が無ければ次の土地へ向かう生活へ変わっていく。
同時に魔術研究も加速する。
重力を操る魔術、
電気を操る魔術、
声を操る魔術まで開発し、
治癒魔術も聖級まで修得する。
さらに戦った相手には水帝や北帝級の猛者まで含まれ、
後年になると「誰を倒したか」すら詳しく書かないほど戦闘経験を積んでいる。
第1期第21話でオルステッドへほとんど何もできず、
胸を貫かれた頃とは別人だ。
未来の老デウスは、
若い自分が想像できないほど強大な魔術師へ成長している。
しかし強くなるほど、
日記から家族の生活はさらに遠ざかる。
ヒトガミの情報を追い、
各地を渡り歩き、
戦闘と研究へ時間を使うほど、
今まだ生きている家族の側へいる時間が減っていく。
老デウス自身も途中で、
リーリャたちは元気なのか、
ルーシーはどんな子に育ったのか、
ちゃんと食事をしているのかと急に思い出す。
そこで「なぜシルフィが死んだ後、もっとちゃんとしていなかったのか」と後悔している。
つまり本人も気づいていた。
強くなることと、
家族を守ることが同じ方向ではなくなっている。
それでも一度復讐へ人生を振り切った老デウスは、
そこから家庭中心の生活へ戻れなかった。
焼けた屋敷でザノバを見つけ、扉の奥でアイシャまで失った時「何のための力だったのか」が突きつけられた
その代償が最も残酷な形で出るのが、
神殿騎士団によるラノア王国内への侵入だった。
老デウスが駆け付けた時には、
屋敷はすでに焼失している。
地下室の扉前には、
ザノバが真っ黒に焼け焦げた状態で倒れていた。
さらに扉の奥では、
ジンジャー、ジュリ、
そしてザノバへ預けていたアイシャまで切り刻まれている。
第2期では、
ザノバとルーデウスが人形研究に熱中し、
ジュリへ魔術や技術を教え、
アイシャも家事や生活を支えていた。
現在時間軸なら、
普通に会話し、食卓を囲み、
明日もそこにいると思える人間たちだ。
その全員が、
未来では老デウスの不在中に死亡する。
どれほど魔術を極めても、
その瞬間に屋敷へいなければ守れない。
重力魔術も電撃魔術も、
死んだ後のザノバやアイシャを戻すことはできない。
激怒した老デウスは、
ラノア王国内に残っていた神殿騎士団を皆殺しにする。
しかし日記には、
「殺したところでもう遅い」
「なぜあいつのピンチにいてやれなかった」
「何のためにこんな力を持っているのか」という後悔が残る。
ここで老デウスの未来は、
最初の地下室とは別の形で完全に重くなる。
地下室では力が足りなかったのではない。
今回は十分な力を持っていた。
それでも守りたい人間の側にいなかった。
さらに老デウスは、
ザノバやアイシャを失った後、
「結局みんな死んだ」
「自分は誰も守れなかった」と書く。
そして最後には、
また「ヒトガミのせいだ」
「せめてヒトガミを殺さなければ」と復讐へ戻っていく。
ここが悲惨な未来の最後の悪循環になる。
家族を失う。
復讐するため強くなる。
強くなるため家族から離れる。
離れている間にまた家族を失う。
そして新しい喪失を理由に、さらに復讐へ進む。
老デウスは弱かったから破滅したのではない。
最終的には若い頃より遥かに強くなった。
それでも「家族のそばにいる」という選択から離れ続けたため、
守る力だけが増え、守れる相手は減っていった。
だから老デウスの未来がここまで悲惨になった分岐を見るなら、
地下室だけでは足りない。
シルフィ死亡後に家庭へ戻らず、
ヒトガミへの復讐を人生の中心へ置いたことも、
未来を決定的に深くした大きな分岐だったのである。
第7章 老デウスの日記が過去へ届いたことで、最初の分岐そのものを変えられる未来になった
現在のルーデウスは、日記を「悲惨な未来の記録」ではなく「同じ選択をしないための警告」として受け取った
老デウスの日記が重いのは、
ロキシー、シルフィ、ザノバ、アイシャたちが死亡する未来を並べているからだけではない。
そこには「どこで違う選択ができたのか」が何度も残っており、
現在のルーデウス自身も、
未来の自分と同じ道を進まないために行動を変えようとする。
最大の違いは、
最初の分岐だった地下室そのものを回避できたことになる。
第11話「ターニングポイント4」で老デウスが現れなければ、
現在のルーデウスはヒトガミの助言に従い、
いつもの延長で地下室へ向かっていた可能性が高い。
しかし未来の自分が、
片腕を失った老いた姿で過去まで来て、
「地下室へ行くな」と止めた。
この一言によって、
未来では一度しかなかった選択を、
現在のルーデウスはもう一度やり直せるようになった。
さらに日記を読んだ後は、
地下室だけでなく、
未来の自分が通過した分岐も知ることになる。
エリスを拒絶したこと。
シルフィの支えを振り払ったこと。
家族から離れたこと。
ヒトガミへの復讐だけへ人生を使ったこと。
現在のルーデウスは、
日記の中でそれらを先に体験する。
自分が実際に失ってから気づくのではなく、
未来の自分が失った記録を読むことで、
「この選択をするとどこまで壊れるのか」を事前に知ることができた。
だから老デウスの日記は、
単なる未来予知とは少し違う。
ロキシー死亡という結果だけでなく、
悲しみにどう反応したか、
誰の手を振り払ったか、
何を優先して家族から離れたかまで残っている。
現在のルーデウスにとって、
そこが一番大きな情報だった。
地下室へ行かなければロキシーを守れる。
それだけでなく、
家族を失いそうになった時に誰を頼るべきか、
復讐へ傾いた時に何を失うのかまで未来の自分が教えている。
老デウスの未来は確定していたのではなく、「一つずつ選択を変えれば避けられる未来」へ変わった
日記を読み終えた現在のルーデウスが見るのは、
未来では失った人間たちが、
まだ普通に暮らしている現在だった。
ロキシーは生きている。
シルフィもいる。
アイシャも食事を作り、
ノルンも学校生活を送り、
ザノバも研究を続けている。
未来の日記では、
その名前が一人ずつ消えていった。
現在では、
同じ人物が目の前で話し、
笑い、
いつもの生活を送っている。
この差を知ったルーデウスは、
今まで当たり前だった日常を以前とは同じ目で見られなくなる。
ここが老デウスとの最大の違いになる。
未来のルーデウスは、
失ってから大切さに気づいた。
現在のルーデウスは、
失う未来を先に知ったことで、
まだ生きている人間を守る側へ回れる。
エリスにも手紙を送る。
シルフィとロキシーには隠さず相談する。
ヒトガミの言葉も以前のようには受け取らない。
老デウスが後悔した分岐を、
現在では一つずつ別方向へ選び直せる状態になっている。
だから「老デウスの未来はなぜここまで悲惨になった?」への答えは、
地下室だけでは終わらない。
最初の分岐は地下室だったが、
その後もエリスを拒絶し、
シルフィの支えを失い、
家族より復讐を優先した選択が積み重なって、
あの老人まで続いていった。
逆に言えば、
一つずつ選択を変えれば未来も変わる。
その証拠が、
現在のルーデウス自身だった。
老デウスは、
自分の人生を元へ戻すことはできなかった。
ロキシーもシルフィも、
ザノバもアイシャも、
失った後の世界から取り返すことはできない。
それでも過去へ来て、
若い自分へ地下室を止め、
日記を残したことで、
同じ五十年を繰り返させないことはできた。
だから老デウスの日記は、
ただ「辛すぎる未来」を見せる話ではない。
どこで道を外れたのかを未来の自分自身が残し、
現在のルーデウスがその分岐を一つずつ選び直していくための記録でもある。
最初の分岐は地下室。
その後の分岐は、
エリス、シルフィ、家族、そして復讐だった。
老デウスの未来が悲惨だったからこそ、
現在のルーデウスには、
まだ選び直せる場所がはっきり見える。
第13話「日記」が残した最大のものは、
破滅した未来そのものではなく、
その未来をもう一度選ばなくて済む道だったのである。
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