ミュイは、ベリルの恋人として描かれているわけではない。
それでも「真のヒロイン」と感じられるのは、彼が守った少女が同じ家で暮らし、やがて帰りを待つ存在になったからだ。
ベリルとミュイの関係を、第1期の出会い、学院への入学、第2期の里帰りと最終回から追う。
第1章 ミュイは「真のヒロイン」なのか?
恋愛ではなく、ベリルの日常を共にする存在
ミュイを「真のヒロイン」と呼ぶなら、
それはベリルの恋人が決まったという話ではない。
アリューシアには師匠への想いがあり、
スレナもベリルと肩を並べて戦えるまでに成長した。
一方のミュイは、剣を交える時だけでなく、
ベリルが食事をし、明日の支度をして、
仕事から帰ってくる家で時間を共にしている。
その違いがはっきり見えるのは、第1期第7話だ。
報酬として持ち家を与えられたベリルは、
ミュイとの同居を始める。魔術師学院には設備の整った
学生寮があると知ると、自分と暮らすより
寮に入った方が彼女のためではないかと迷った。
一緒に住めてうれしい、だけでは終わらない。
ミュイがどこで安心して暮らせるかを、
自分の希望より先に考えるようになっていた。
第1期第9話では、学院へ通うミュイに
かばんが必要だと気付いたベリルが店へ向かう。
ところが、きちんとした品は予想より高い。
そこでスレナから収入を得られる仕事を持ちかけられ、
ベリルは引き受ける。高い敵を倒せる剣士なのに、
その日の悩みは通学かばんをどう買うか。
ミュイと暮らし始めたことで、
彼の力が向かう先も変わっている。
第2期第4話には、さらに一歩進んだ場面がある。
父モルデアから帰省を促す手紙が届いたベリルは、
学院が夏休み中のミュイを故郷へ誘った。
二人の家の中だけで関係が完結するのではなく、
自分が育ったビデン村へ連れて行く。
ミュイは仕事先で会う弟子とも、
遠くからベリルを見守る相手とも違う。
ベリルの今の家から、昔の家へ同行する存在になった。
「我が家に帰る」が二人の関係を際立たせた
第2期最終回の題名は
「片田舎のおっさん、我が家に帰る」だ。
教都ではサラキア王女とグレン王子の婚儀が崩れ、
第11話には傭兵団と共に二人を守りながら
宮殿へ向かわなければならなかった。
第12話では、ベリルはロゼと合流し、
アリューシアやスレナと共に
モーリス教皇がいる戦場へ向かう。
剣を持つベリルの隣には、成長した弟子たちがいる。
騎士団長のアリューシアは教都まで来て、
冒険者のスレナもキマイラと戦い、
ロゼは隣国の教会騎士団で務めを果たしてきた。
それぞれが自分の立場でベリルを支えられる。
だからこそ、戦いの後に彼が帰る場所はどこか、
そこで普段誰と暮らしているのかという問いには、
別の重さが生まれる。
第1期のベリルなら、ビデン村の道場が
帰る場所として真っ先に浮かんだだろう。
アリューシアに招かれて首都へ来た当初は、
騎士団の特別指南役という大役にも戸惑っていた。
しかしミュイと同じ家で暮らし、
学院への支度を気に掛け、故郷へ一緒に帰った。
首都で手に入れた家は、仕事のために寝泊まりする
だけの場所ではなくなっている。
もちろん「我が家」という題名だけで、
ミュイが唯一の相手だと決めることはできない。
ベリルには故郷の父母がおり、騎士団には
教え子たちとの強いつながりもある。
それでも、彼が戦いに出ている間にも
同じ家で暮らすミュイの毎日は続く。
恋愛の答えとは別のところで、
ベリルの帰宅を待つ暮らしを共にする。
その近さが「真のヒロイン」と感じさせる。
第2章 ベリルとミュイはどう出会い、家族に近づいた?
ここからは第1期第5・6話の、
ミュイと姉に関わる展開に触れる。
貧民街で姉と生きていた少女がベリルに出会う
ミュイは最初から、ベリルの世話を受ける
素直な少女として現れたわけではない。
唯一の肉親である姉と身を寄せ合い、
貧民街で暮らしてきた。炎の魔術を使える素養は
あっても、日々の生活には余裕がない。
ベリルが出会った時の彼女はスリの少女で、
見知らぬ大人にすぐ心を開ける境遇ではなかった。
第1期第5話、ベリルはその少女と思いがけず再会する。
荒んだ様子を見て放っておけず、話をしようとするが、
近づけばすぐ信頼してくれるわけではない。
アリューシアとルーシーの助けを借りるうち、
ミュイを利用している悪党がいるとわかる。
ベリルが向き合うべき相手は、
少女本人の態度だけではなく、
逃げ場を狭めていた周囲の大人たちだった。
ここには、ベリルが元弟子と再会する時とは
違う難しさがある。アリューシアもスレナも、
道場で彼の剣を知り、年月を経てから再び現れた。
ミュイには、ベリルを信じていいという
昔の記憶がない。彼が誰かも、どこまで自分を
助けてくれるかもわからないまま、
突然目の前に来た大人を見ている。
剣の腕を示すだけでは、その距離は縮まらない。
第1期第5話のベリルが怒りを向けたのは、
弱い立場の少女を使っていた側だ。
ミュイの行動をただ責めれば、
彼女が何に追い詰められていたかを見落とす。
ベリルは話を聞こうとし、アリューシアや
ルーシーと力を合わせて背後を探る。
初めから保護者として立派に振る舞えたのではなく、
何が起きているのかを知るところから始まった。
二人の距離が近づくのにも時間が必要だった。
第1期第6話、姉を失った後もベリルが手を離さなかった
第1期第6話で、ミュイを利用した者の背後には
さらに別の人物がいるとわかる。
宗教や国同士の関係も絡み、騎士団の立場だけでは
踏み込みにくい相手だった。ルーシーは、
しがらみに縛られないベリルの行動が
必要だと考える。ベリルは特別討伐指定個体の
素材で造られた剣を手に取り、
ミュイのこれからを守るため戦いへ向かった。
この戦いで特につらいのは、
ミュイが姉を失うことだ。
姉は彼女にとって唯一の肉親であり、
貧民街で共に生きてきた相手だった。
ベリルが敵を倒しても、姉と過ごした日々を
取り戻すことはできない。剣で危険を退ける場面は
確かに大きいが、ミュイにとって本当に長い時間は、
その戦いが終わった後から始まる。
ベリルが第7話で考えたのは、まさにその後の生活だ。
与えられた家でミュイと暮らし始めても、
設備の整った学院の寮を知れば、
自分と同居させる判断に迷う。
守りたい気持ちがあるからといって、
手元に置くことが最善とは限らない。
食事や通学だけでなく、どこで暮らせば
ミュイが落ち着けるかまで考え始めている。
だから二人の関係は、第6話の戦闘だけでは語れない。
第5話でベリルは心を閉ざした少女に出会い、
第6話で彼女を縛る相手と戦った。
第7話では住む場所に迷い、
第9話では通学かばんの値段に頭を抱える。
大事件の後にも、学院へ通う朝はやって来る。
そこへ付き合い続けたことが、
ミュイにとってベリルを特別な大人にしていった。
第3章 二人の同居は、なぜ特別なのか?
第1期第7話、学生寮と同居の間で迷ったベリル
第1期第7話の題名は
「片田舎のおっさん、親の苦労を知る」。
ベリルは報酬として与えられた家で、
ミュイとの同居を始めたばかりだった。
剣の教え方なら経験がある。しかし、少女と
一緒に暮らす時に何を優先すべきかはわからない。
食事を用意し、学校へ通わせ、帰宅を待つ。
その毎日の中で、彼は親代わりになろうとしていた。
そこへ、魔術師学院には設備の整った学生寮があると
わかる。寮なら同年代の生徒と過ごせるし、
学院で学ぶにも便利かもしれない。
一方、ベリルの家なら帰るたびに顔を合わせ、
何かあればすぐに話を聞ける。
ベリルが迷うのは、ミュイを手元に置きたいから
寮を遠ざけようとしているわけではないからだ。
自分と暮らす選択が、本当に彼女に合うかを考える。
ミュイの側にも簡単には埋まらない距離がある。
第1期第5話では、助けようとするベリルに
すぐ心を開いたわけではなかった。
姉と二人で貧民街を生きてきた少女にとって、
別の大人と住むことは、寝る場所だけを
移す話ではない。今まで自分で守ってきた生活を、
誰かと分け合ってよいのかにも関わる。
だから第7話の同居には、住み始めた後にも
少しずつ距離を測る時間が必要だった。
ベリルは騎士団でアリューシアと会えば、
かつての師匠として意見を求められる。
スレナと仕事へ出れば、剣士としての腕を示せる。
しかし家では、ミュイが寮へ移る方が幸せかもしれないと
一人で迷う。相手を守る剣の強さでは、
この答えを決められない。第7話の題名にある
「親の苦労」は、危険な敵を倒すことよりも、
ミュイの毎日を自分の判断だけで決めない
難しさとして表れている。
その後の第2期を見れば、二人は同じ家で
過ごす時間を重ねている。第2期第4話で
故郷から手紙が届いた時、ベリルは学院が
夏休み中のミュイを帰省へ誘った。
第1期第7話に寮の方がよいかと悩んでいた相手が、
今では自分の育った家を訪ねる同行者になっている。
大きな告白があったわけではない。
一緒に暮らした日々の先で生まれた変化だ。
第1期第9話、通学かばんを買うため仕事を引き受けた
同居が続いたことを、もっと小さな出来事から
確かめられるのが第1期第9話だ。
ミュイの魔術師学院入学が迫る中、ベリルは
通学用のかばんがないと気付いて店へ駆け込む。
ところが、まともな品には思った以上の値が付いている。
その場では購入を決められず、どうするか迷う。
王国騎士団の特別指南役でも、必要な物を
何でもすぐ買い与えられるわけではない。
そこへスレナから、収入を得られる仕事の話が来る。
ベリルは渡りに船とばかりに引き受けるが、
それは高いランクの冒険者でも
達成できずにいた仕事だった。
強敵と向き合う発端に、通学かばんがある。
ミュイの学校生活は、彼女だけの問題ではなく、
ベリルが働き方を考えるきっかけにもなった。
剣の腕を認められたいから危険へ向かうのではない。
家で暮らす少女に必要な物を用意したかったのだ。
第1期第6話でベリルが新しい剣を手にした時、
目の前にあったのはミュイを利用する者との戦いだった。
第9話では同じように危険を伴う仕事へ向かうが、
頭にあるのは彼女の通学準備だ。
命を脅かす大事件が去っても、ミュイには
学校へ行く朝がやって来る。
ベリルが関わったのは危機の一日だけではなく、
その後のありふれた日々までだったとわかる。
この話にはスレナも深く関わっている。
仕事を持ちかけるのは、ベリルがかつて教えた
冒険者の弟子だ。スレナが先生の腕を信じて
危険な仕事へ誘い、その仕事を引き受ける
ベリルの胸にはミュイのかばんがある。
二人ともベリルにとって大切な相手だが、
関わり方は同じではない。剣を通じて
師匠を支えるスレナと、暮らしの必要を
ベリルに考えさせるミュイが一つの話で交わる。
第4章 第2期でミュイは「守られる少女」からどう変わった?
第2期第1~3話、学院で学び影の狼に立ち向かう
第2期第1話、ルーシーとフィッセルが
ベリルの家を訪ねてくる。頼みは魔術師学院で
剣魔法科の臨時講師を務めること。
そこはミュイも学んでいる場所だ。
ベリルはフィッセルの教え方を教室で見て、
生徒の疑問から彼女と立ち合うことになる。
家ではミュイの生活を気に掛ける大人が、
今度は彼女の通う学院で剣を教える立場に立った。
学院でのミュイは、ベリルと一緒に暮らしていても
すぐ周囲になじめたわけではない。
第2期第2話では、学友たちとまだ
打ち解けきれない様子を見せる。
昼食休憩中にシンディとやり取りを重ね、
小さな変化が生まれた。ベリルはその後の
ささやかな集まりで、ミュイとフィッセル、
二人の成長を見ている。
彼女には家の外にも、自分で築く関係ができ始めた。
しかし穏やかな学院の時間は続かない。
第2話の終わりに異変が起こり、第3話では
狼の姿をした影が教師たちを襲う。
学舎の近くでは魔術も使えなくなった。
魔術なしでも戦えるベリルとフィッセルは
原因を探るため学舎へ入る。
二人が対処に向かう一方、ミュイたち
剣魔法科の生徒は食堂で待機していた。
その食堂にも影の狼が現れる。
ベリルがすぐ目の前で剣を振り、
全部片付けてくれる状況ではない。
ミュイたちは自分たちが未熟だとわかったうえで、
目の前の敵へ立ち向かうことを選ぶ。
第1期第5話では悪党に利用されていた少女が、
第2期第3話では学院の仲間と同じ危機に向かう。
彼女の変化は、ベリルの後ろへ隠れずに
行動を選べるようになったところに現れる。
ベリルの存在が不要になったのではない。
第1期第9話に彼が通学かばんを気に掛けた
あの学院で、ミュイは学友と話し、
危機には自分の足で動こうとした。
守られた後に何をするかは、ミュイ自身が
決めなければならない。ベリルとの暮らしが
続いているからこそ、家の外にいる彼女が
どう変わったかも見えてくる。
ベリルが教都にいる間も、王都で鍛錬を続けた
第2期後半、ベリルの行き先は学院から離れる。
第7話にはアリューシアと辺境伯領の夜会へ招かれ、
その後はサラキア王女を巡る務めで隣国へ向かう。
ベリルが教都での仕事を抱える間、
ミュイの時間まで止まるわけではない。
第10話、ベリルのもとにはアリューシアと
ガトガが訪れるが、王都に残ったミュイは
クルニとフィッセルの特訓を受けていた。
クルニとフィッセルは、どちらもベリルの剣に
つながる人物だ。フィッセルは学院で教える
立場になり、第1話にはベリルと立ち合った。
クルニは第5話、故郷のビデン村で
目標としていたサーベルボアを倒している。
ミュイは師匠が不在だから一人で待つだけではない。
周囲にいる剣士や魔術師から学べる場所にいる。
第1期第7話では、寮で暮らした方が
ミュイのためになるかとベリルが迷った。
第2期第2話には学友シンディとのやり取りがあり、
第3話では食堂に現れた影の狼へ向かった。
第10話には王都で特訓を続ける。
住む場所を大人に心配されていた少女が、
学校で友人と接し、危機に立ち、
先生のいない時間にも腕を磨いている。
二期を通じた変化は、一つの勝負だけには収まらない。
それでもベリルとミュイの関係が薄れないのは、
成長して別々の場所で過ごせることと、
同じ家へ帰ることが両立しているからだ。
教都ではアリューシアやスレナ、ロゼが
ベリルと共に戦い、王都ではミュイが
次にできることを増やしている。
ベリルを待つだけだったなら、帰宅後の二人も
以前と同じままだったはずだ。
離れている間にミュイが前へ進んだことが、
次の再会をより楽しみにさせる。
第5章 ビデン村への里帰りで、二人の関係はどう見えた?
第2期第4話、ベリルが故郷へ誘った相手はミュイ
第2期第4話、父モルデアからベリルへ手紙が届く。
内容はビデン村への帰省を促すものだった。
ちょうど魔術師学院は夏休みに入っている。
ベリルはミュイを一緒に帰らないかと誘い、
彼女はその申し出に応じた。
ヘンブリッツとクルニも同行するが、
ミュイへの誘いには、同じ家で暮らす二人だからこその
自然さがある。
第1期第7話には、ミュイを学院の寮へ入れた方が
よいのではないかとベリルが悩んでいた。
第2期第4話では、自分の育った村へ
彼女を連れて行くことを考えている。
あの時、生活を共にすることさえ迷った相手が、
今は父母のいる故郷へ向かう同行者になった。
二つの話を重ねると、同居を始めてから
ベリルの中でミュイの位置が変わったことが見える。
ビデン村は、ベリルが剣を教わり、
自分も子供たちに教えてきた土地だ。
首都では特別指南役として頼られ、
ミュイの前でも世話をする大人でいられる。
しかし故郷には、息子としてのベリルを知る
父モルデアと母フレンがいる。
ミュイが足を踏み入れるのは、強い先生の
仕事場だけではない。今のベリルを作ってきた
家族と暮らしの中である。
帰省は静かな休暇だけでは終わらない。
第4話の翌日には想定外の戦いが起き、
第5話ではサーベルボア討伐が始まる。
クルニは以前から倒したいと思っていた相手に勝ち、
ランドリドは元冒険者としての経験を見せた。
その剣に刺激を受けたヘンブリッツは
ランドリドへ立ち合いを申し込む。
ミュイが訪れた村では、ベリルの昔を知る者と
首都から来た者の剣が次々に交わった。
首都の家でミュイが知るベリルは、
学院へ通う準備を気に掛けてくれる大人だ。
第1期第9話には通学かばんの値段に悩み、
その費用を得られる仕事を引き受けた。
一方、村では周囲の剣士たちが、
ベリルの父や昔からの知人に腕を見せる。
ミュイは、自分と暮らす「おっさん」が
どんな人々の中で剣を学んできたのかにも触れる。
一緒に暮らす時間だけでは見えなかった
ベリルの過去が、帰省によって近くなる。
モルデアと向き合うベリルを、ミュイはどう見た?
第2期第6話、サーベルボアの脅威が去った村で
恒例の祭りが開かれる。
ヘンブリッツとランドリドは宴の席で親交を深め、
村のアデルとエデルはミュイの世話を焼く。
ミュイはベリルに付き添って来ただけの客として
ぽつんと置かれていない。
首都では学院に学友ができ、故郷では
ベリルを知る村の子供たちと同じ場にいる。
彼の周囲にある人間関係へ、少しずつ入っていく。
その祭りで、ベリルは皆が食べる肉を焼きながら
若者たちの様子を眺めている。
第5話ではクルニがサーベルボアを倒し、
ヘンブリッツもランドリドの剣に触発された。
昔から剣を振ってきたベリルには、
若い者たちの勢いを見る時間が生まれる。
首都で弟子に頼られる時とは違い、
故郷では自分が歳を重ねたことや、
まだ剣に望むものを考えることになる。
そこへ父モルデアが現れ、
ベリルを道場へ連れて行く。
普段はミュイを守る側のベリルが、
父の前では息子であり、剣を教わった者に戻る。
ミュイの目に、ベリルと父の対決が
どう映ったかを勝手に決めることはできない。
ただ、いつも自分を気に掛ける大人にも
越えたい相手がいるという事実は、
ビデン村へ来たからこそ目に入る。
ミュイ自身も、第1期第5・6話で
誰かに助けを求める難しさと、大切な人を失う
痛みを経験している。ベリルの家で暮らし始め、
学院へ通い、今度は彼の父母がいる村へ来た。
一緒に帰省したから家族の形が決まるわけではない。
それでも、本人の知らなかったベリルの子供時代を
感じられる場所で、村の子供たちと祭りに加わる。
二人の関係は首都の家の中だけに
閉じなくなっている。
第6章 アリューシアたちとは、ベリルとの距離がどう違う?
アリューシアは想いを抱き、剣士としてベリルの隣に立つ
ミュイを「真のヒロイン」と感じても、
アリューシアの想いが消えるわけではない。
第1期第1話、彼女は騎士団長となって
ビデン村のベリルを訪ね、特別指南役に招いた。
先生を首都へ呼びたいという行動がなければ、
ベリルとミュイが同じ家で暮らす時間も
生まれていなかった。ベリルの生活が大きく変わる
最初の一歩を作ったのはアリューシアだ。
第1期第8話には、隣国の使節団を警護するため、
アリューシアがベリルに任務への協力を頼む。
その仕事に合う服が必要だと伝え、
二人でベリルの着衣を選びに出掛けた。
仕事の準備を口実に、先生と並んで歩く。
翌日には改めて彼に申し入れもする。
騎士団長として頼る気持ちだけではないことが、
剣を抜かない時間にも表れていた。
第2期第7話では、二人は辺境伯領の夜会へ
共に招かれる。ベリルは慣れない貴族の場に立ち、
アリューシアは彼の隣にいる。
第8話には、ウォーレンの妹シュステが
ベリルへ積極的に近づいた。
アリューシアがその様子を気にしていると、
ウォーレンは妹の思惑と自分の意図を話し、
彼女の背中を押す。アリューシアの関心は、
先生の剣や仕事だけには収まらない。
教都へ舞台が移った後も、
アリューシアは思いを抱くだけの人物ではない。
第2期第12話では、スレナとそれぞれ
キマイラを倒し、ベリルとロゼに合流する。
危険な場所でベリルの隣まで来られるのは、
彼女自身が騎士団長として戦い続けたからだ。
ミュイが同じ家で暮らしていることを挙げて
アリューシアの積み重ねを小さく扱うと、
二人の違いも見えなくなる。
アリューシアには、師匠への想いを
どこまで伝えられるかという問いがある。
シュステが現れた第8話では、
その気持ちを隠したままでよいのかも揺れた。
ベリルとミュイの近さとは、進む先が異なる。
騎士団で出会い、要人警護へ出掛け、
夜会や教都の戦場で隣に立つ。
アリューシアの場面には、同じ大人の剣士として
ベリルに向き合おうとする姿がある。
ミュイは同じ家で、戦わない時間も共にしてきた
ミュイにはアリューシアのような
騎士団長の立場も、ベリルとの恋愛の競争もない。
二人の間にあるのは、帰宅したら同じ家で
顔を合わせるという日々の続きだ。
第1期第7話に寮と同居の間で迷い、
第9話にはかばんを買うための費用を考える。
任務が終わった後に何を食べ、翌朝どう学院へ
送り出すか。剣を振らない時間が、
ベリルとミュイの関係を作ってきた。
ここにフィッセルとスレナを並べると、
違いはさらに鮮明になる。
フィッセルは第2期第1話、学院で生徒に
剣魔法を教える立場になり、ベリルと立ち合った。
スレナは第1期第9話、ベリルへ冒険者の仕事を
持ちかけ、第2期第12話にはキマイラと戦う。
かつての弟子たちは、それぞれの仕事を持ち、
その場で必要な力を師匠と分け合っている。
ミュイは第2期第3話の学院で、
影の狼を前に仲間と立ち向かう決断をした。
第10話にも、ベリルが教都にいる間、
クルニとフィッセルの特訓を受けている。
彼女もずっと守られるだけではない。
ただ、力を付けることと、ベリルの家で
暮らしてきたことは別々の話ではない。
安心して帰れる場所ができた少女が、
家の外でも少しずつ行動できるようになった。
だから「ヒロイン勢より深い」という見方は、
誰の想いが一番強いかを測る話にはならない。
アリューシアは剣を教わった年月と、
先生を首都へ呼んだ行動を持っている。
スレナは冒険者として、フィッセルは学院の教師として、
ベリルと肩を並べる場面がある。
ミュイの近さは、姉を失った後の暮らしを
ベリルと共に始め、その暮らしを続けてきたこと。
比べると見えてくるのは、深さの順位ではなく、
彼に触れている場所の違いだ。
第7章 最終回の後、ミュイはベリルにとって何になる?
教都で戦う師匠を待つ間にも、ミュイ自身の時間は進んだ
第2期第12話「片田舎のおっさん、我が家に帰る」。
ベリルが教都で向き合ったのは、
王女と王子を巻き込む大きな争いだった。
仮面を着けたホワイト・メイデンが
元弟子ロゼだとわかり、キマイラと戦った
アリューシア、スレナにも合流する。
最後には、追い詰められたハノイと
モーリス教皇がいる場所へ向かった。
その戦場にミュイはいない。
だからといって、最終回の題名から
彼女の姿が消えるわけではない。
第2期第10話、ベリルが教都に滞在する頃、
ミュイは王都でクルニとフィッセルの特訓を
受けていた。ベリルの隣で剣を振るう
弟子たちがいる一方、帰る先の街には
腕を磨きながら暮らすミュイがいる。
第1期第6話を思い出すと、
この距離の変化がよくわかる。
当時のミュイは悪党に利用され、
ベリルが新しい剣を手にして
その背後にいる相手へ踏み込んだ。
第2期第3話には、学院の食堂へ
影の狼が現れた時、自分たちの未熟さを
わかったうえで仲間と立ち向かっている。
守られた少女は、その後もただ
守られる場所に留まっていない。
しかも第2期第2話では、学友たちと
なかなか打ち解けられないミュイに、
シンディとのやり取りを通じて
変化が生まれていた。
第1期に姉を失い、ベリルと同じ家で
暮らし始めた時には、学院で誰かと
昼食を共にする自分を想像しにくかった
かもしれない。家の外にも話せる相手ができ、
危険が迫れば自分で判断して動こうとする。
ベリルが教都にいる間のミュイを、
帰宅を待つ姿だけで捉えると
この成長を見落としてしまう。
同じ家に帰る関係が続くとしても、
二人が常に一緒にいなければならない
わけではない。ミュイには学院の授業があり、
シンディとの時間があり、クルニや
フィッセルから学ぶ鍛錬がある。
ベリルから離れた時間を持てることも、
彼と暮らしてきた先に生まれた変化だ。
第1期第7話、ベリルは学院の寮と
自分の家のどちらがミュイに合うか悩んだ。
あの時の心配には、同居させることで
彼女の世界を狭めてしまわないかという
迷いも重なる。第2期を見る限り、
ミュイは家を持ちながら学院へ通い、
学友や教える人たちとも関わっている。
ベリルの家があるために外へ出られない
少女にはなっていない。
その変化を知ったうえで最終回の
「我が家に帰る」を受け止めると、
家はベリル一人が休むための場所ではない。
仕事で遠くへ行く大人にも、
学院で学び続ける少女にも帰る場所がある。
教都の戦いを終えて戻るベリルと、
王都で時間を積み重ねたミュイ。
再び同じ家で顔を合わせる時、
二人とも出発前とまったく同じではない。
「帰る場所」から、共に前へ進む家族へ
ミュイとベリルの関係は、恋人という言葉で
答えを急ぐと肝心な部分が抜け落ちる。
ベリルは第1期第5話、心を閉ざしたスリの少女を
放っておけず、アリューシアとルーシーの力も
借りて、彼女を利用する者の存在を知った。
第6話には剣を取って危険へ向かい、
第7話にはどこで暮らすのがよいかと悩んだ。
戦いが済んでから始まった時間の方が長い。
第1期第9話では、ミュイの学院入学を前に
通学かばんがないことに気付き、
店で値段を見て立ち止まった。
少女のために強敵と戦えることと、
毎日必要な物を揃えることは別の難しさだ。
スレナから持ちかけられた仕事を
引き受けたベリルの頭には、
学院へ通うミュイの姿がある。
この場面は、剣の強さだけでは表せない
二人の生活を残している。
第2期第4話、今度は父モルデアから
帰省を促す手紙が届く。
夏休み中のミュイを誘い、
ベリルは彼女とビデン村へ向かった。
第6話の祭りでは、村のアデルとエデルが
ミュイの世話を焼き、ベリルは
皆の肉を焼きながら若者たちを眺める。
首都で二人だけだった暮らしが、
ベリルの父母や村の子供たちのいる
土地にもつながっていった。
一方で、その村にはモルデアの道場がある。
父に連れられて剣を交えるベリルは、
ミュイの前でいつも頼られている大人でも、
父から見れば息子だ。
ミュイもまた、誰かに守られるだけの
少女ではなくなっている。
学院の危機で仲間と動き、
ベリルが教都にいる間も特訓を続けた。
お互いを一つの役割に閉じ込めないからこそ、
二人の暮らしには先がある。
アリューシアは師匠への想いを抱き、
第2期第8話にはシュステの接近を見て揺れた。
最終回ではスレナと共にキマイラを倒し、
ベリルのいる戦場へ駆けつける。
彼女がベリルにとって大切な存在であることと、
ミュイが家族に近い場所にいることは
両立する。剣を持って隣に立つ人と、
戦いが終わった後の暮らしを共にする人を、
同じ物差しで競わせる必要はない。
ミュイが「真のヒロイン」に見えるのは、
誰よりも先にベリルの心を射止めたからではない。
姉を失った後に受け入れられ、
かばんを持って学院へ通い、
ベリルの故郷にも一緒に帰った。
さらに今は、彼が遠くで戦っている間も
自分の力を伸ばしている。
ベリルが守った少女が、帰る場所を共にしながら
自分の道も歩いている。そこまで描かれたから、
最終回の「我が家」が心に残るのだ。
片田舎のおっさん、剣聖になるIIまとめ
『片田舎のおっさん、剣聖になるII』の記事を、大聖堂襲撃・モーリス教皇とスフェン教・ロゼとホワイト・メイデン・ハノイとヴェルデアピス傭兵団・アリューシア・スレナ・ミュイなどに分けてまとめています。
ベリル、アリューシア、ロゼ、ハノイ、モーリス、ガトガ、ヴェスパー、スレナなど、気になる人物や物語の謎はこちらから探せます。


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