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【片田舎のおっさん剣聖II】ベリルとハノイはなぜ衝突する?仲間を傷つけられた怒りと傭兵の矜持

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ベリルとハノイが衝突したのは、ヴェルデアピス傭兵団との戦いで傷ついたヴェスパーとフラーウを、ベリルが「過ぎた戦い」として切り離せなかったから。
ハノイもジュールとワンディスという仲間を失っているが、傭兵として受けた仕事の結果だと引き受け、今度は王子と王女を守る依頼へ進んでいる。
第11話のベリルとハノイの対立は、敵と味方が入れ替わった話ではなく、人の傷を背負い続ける剣士と、戦場の死を引き受けて前へ進む傭兵がぶつかった場面である。

  1. 第1章 ベリルとハノイはなぜ衝突した?仲間の傷を「仕事」で終わらせられなかった
    1. 王子と王女を守る味方になっても、第8話の襲撃は消えていない
    2. ハノイには「以前の敵」でも、ベリルには傷ついた仲間の顔が残っている
  2. 第2章 第8話で何があった?ヴェルデアピス傭兵団が残した因縁
    1. 帰還途中の一行を狙った襲撃で、ベリルたちは再び実戦へ放り込まれた
    2. 第9話でも消えなかったヴェスパーの傷が、第11話の怒りへつながる
  3. 第3章 なぜハノイは今度は味方なのか?王子と王女を守る新しい依頼
    1. 大聖堂へ現れた傭兵団は、ベリルを助ける側へ回っていた
    2. 「昨日の敵」が今日の護衛になるのが、ハノイたちの生き方だった
  4. 第4章 ベリルはなぜハノイの襟首を掴んだ?ヴェスパーとフラーウへの怒り
    1. 「誰だよそいつら」で、抑えていた怒りが一気に表へ出る
    2. 襟首を掴んでもハノイが抵抗しなかったことにも、二人の違いが出ている
  5. 第5章 ハノイにも仲間が死んでいた|ジュールとワンディスを失っても恨まない
    1. ベリルだけが被害者だったわけではない
    2. 仲間を失っても復讐へ向かわないのが、ハノイの傭兵としての矜持
  6. 第6章 ベリルとハノイは何が違う?「戦士」と「剣士」を分けた一言
    1. アリューシアが止めた後も、二人の考えは交わらなかった
    2. 「戦士には向いていない」「俺は剣士だからね」に全部が詰まっている
  7. 第7章 ベリルとハノイはなぜ共闘できた?許し合わなくても同じ相手を守れる
    1. 二人は分かり合ったのではなく、今守るべき相手を優先した
    2. 敵だった二人の共闘が、ベリルという「剣士」の性格を逆に浮かび上がらせる

第1章 ベリルとハノイはなぜ衝突した?仲間の傷を「仕事」で終わらせられなかった

王子と王女を守る味方になっても、第8話の襲撃は消えていない

第11話でベリルとハノイが衝突するのは、
二人が同じ王子と王女を守る側へ回りながら、
第8話のヴェルデアピス傭兵団による襲撃を、
まったく違う感覚で受け止めているからだ。
現在の立場が同じでも、過去の因縁までは消えていない。

大聖堂へヴェルデアピス傭兵団が現れた時、
ベリルは彼らを再び敵だと判断して動こうとする。
しかしイブロイから「彼らは味方だ」と止められ、
ここで初めて今回のハノイたちが、
王族を守る側として動いていると分かる。

それでもベリルの中では、
第8話で敵だったハノイと現在のハノイを、
すぐ同じ人物として受け入れることはできない。
フルームヴェルク辺境伯領から戻る途中、
ベリルたちはヴェルデアピス傭兵団の襲撃を受けている。

あの戦いで傷ついたのはベリルだけではない。
同行していた騎士たちも激しい戦闘へ巻き込まれ、
とりわけヴェスパーとフラーウは大きな被害を受けた。
ベリルにとって第8話の戦いは、
敵を倒した時点で終わった出来事ではなかった。

第9話になっても、その感情は残っている。
戦いを切り抜けて首都へ戻ったからといって、
負傷した仲間まで元通りになったわけではない。
ヴェスパーの傷は重く、フラーウにも影響が残り、
ベリルはその現実を身近で見続けることになる。

だから第11話でハノイと再会した時、
ベリルが引っ掛かったのは敵味方の区分だけではない。
自分の仲間を傷つけた張本人が目の前に立ち、
今度は当然のように「味方」として仕事をしている。
その落差を、ベリルは簡単に飲み込めなかった。

ハノイには「以前の敵」でも、ベリルには傷ついた仲間の顔が残っている

ハノイの立場から見ると、
第8話の襲撃と第11話の王族護衛は別の依頼になる。
以前はベリルたちを襲う仕事を受け、
今回はグレン王子とサラキア王女を守る側へ立つ。
傭兵である以上、契約によって立場が変わること自体は不自然ではない。

しかしベリルは、その感覚では動けない。
第8話で剣を交えた相手が第11話で味方になっても、
ヴェスパーやフラーウが受けた傷まで、
依頼の終了と一緒に消えるわけではないからだ。
ベリルは戦闘の結果を人間の傷として記憶している。

ここが二人の衝突で最も重要な部分になる。
ベリルは「なぜ今ここにいるのか」だけでなく、
「以前に何をしたのか」まで現在へ持ち込む。
一方のハノイは過去の戦闘を引きずりながらも、
傭兵として次の依頼へ進むことを選んでいる。

そのため二人は、同じ王族を守っていても噛み合わない。
ベリルから見ればハノイは、
仲間へ深傷を負わせた過去を背負う人物である。
ハノイから見ればベリルもまた、
以前の戦場で剣を交えた相手の一人にすぎない。

第11話の衝突は、
敵だった二人が再び戦うという単純な場面ではない。
現在は味方なのに、過去の傷だけが残っている。
その矛盾が表面へ出たことで、
ベリルとハノイの価値観の違いまで見える場面になっている。

第2章 第8話で何があった?ヴェルデアピス傭兵団が残した因縁

帰還途中の一行を狙った襲撃で、ベリルたちは再び実戦へ放り込まれた

第11話のベリルの怒りを理解するには、
第8話の戦闘を単なる一度の襲撃として見るだけでは足りない。
ベリルたちはフルームヴェルク辺境伯領を訪れ、
サラキア王女の輿入れを控えた状況の中で、
国境方面の事情にも触れながら行動していた。

その帰路で一行を襲ったのが、
ハノイ率いるヴェルデアピス傭兵団だった。
彼らは正面から名乗って決闘を挑んだわけではなく、
移動中の一行を戦闘へ巻き込み、
護衛側が守りながら戦わなければならない状況を作る。

ベリルにとって厄介だったのは、
自分一人が強ければ解決する戦いではなかったことだ。
周囲には騎士たちがおり、守るべき人間もいる。
誰か一人が突破されれば、
その被害はそのまま仲間へ向かう戦場だった。

そこでヴェスパーとフラーウも戦闘へ巻き込まれる。
二人はベリルにとって、
名前も知らない兵士ではなく身近な騎士たちだった。
普段から顔を合わせていた相手だからこそ、
負傷した後の姿まで強く記憶へ残ることになる。

戦いそのものは終わっても、
ベリルの中ではそこで完結していない。
敵を退け、目的地へ戻れば終了するのではなく、
誰が傷つき、誰が以前の生活へ戻れなくなったのか。
ベリルは戦闘後まで含めて結果を受け止めている。

第9話でも消えなかったヴェスパーの傷が、第11話の怒りへつながる

第8話だけを見ると、
ベリルとハノイの因縁は戦闘終了と同時に終わったようにも見える。
しかし第9話以降まで見ると、
ヴェルデアピス傭兵団との戦いが残したものは、
ベリルの周囲からすぐには消えていない。

特に大きいのがヴェスパーの状態だった。
戦いで受けた傷は軽いものではなく、
すぐ以前と同じように動ける状況ではない。
フラーウも無傷で切り抜けたわけではなく、
二人の負傷はベリルが現実として見ることになる。

この経験があるからこそ、
第11話でハノイを目の前にした時の反応が重くなる。
ベリルにとってハノイは、
以前に戦った強敵というだけの存在ではない。
今も回復途中にある仲間を生んだ戦いの中心人物だからだ。

一方でハノイは、
傭兵として戦場に入り、依頼に従って剣を振るっている。
敵として戦った相手と、
次の依頼では同じ側へ立つこともあり得る。
この切り替えこそ傭兵として生きるハノイの現実でもある。

だから第11話で二人がぶつかるのは必然に近い。
ベリルにはヴェスパーとフラーウの現在が見えており、
ハノイには傭兵として進み続ける現在がある。
同じ出来事を経験していても、
二人が見ている「戦いの後」がまるで違っている。

そしてこの差は、
後にハノイ自身も仲間を失っていた事実へつながっていく。
ベリルだけが仲間を大切にしているわけではない。
それでも死傷者への向き合い方が違うからこそ、
二人の会話は単純な善悪では終わらないのである。

第3章 なぜハノイは今度は味方なのか?王子と王女を守る新しい依頼

大聖堂へ現れた傭兵団は、ベリルを助ける側へ回っていた

第11話で最初に戸惑うのは、
第8話でベリルたちを襲ったヴェルデアピス傭兵団が、
今度はグレン王子とサラキア王女を守る側として、
大聖堂へ乗り込んでくることである。
当然、ベリルが素直に受け入れられるはずもない。

ハノイたちの姿を確認したベリルは、
第8話の襲撃者が再び現れたと判断して動く。
しかし斬りかかろうとするベリルを止めたのが、
その場に居合わせていたイブロイだった。
彼はヴェルデアピス傭兵団を「味方」だと告げる。

ここで重要なのは、
ハノイたちがベリルへ謝罪して仲間になったのでも、
王権派へ忠誠を誓ったのでもないことである。
ヴェルデアピス傭兵団はあくまで傭兵であり、
今回も新しい依頼を受けて戦場へ来ている。

第8話ではアリューシアたちを襲う側だった。
第11話では王子と王女を守る側へ立っている。
正反対に見える行動だが、
ハノイ自身の中では矛盾していない。
依頼主と仕事が変われば、剣を向ける方向も変わるからだ。

そもそも第8話の襲撃でも、
ハノイたちは個人的な恨みから動いてはいなかった。
フルームヴェルク辺境伯領から戻る一行を狙い、
霧の中から急襲して激しい戦闘へ持ち込んだが、
その背後には婚姻を妨害したい勢力の思惑があった。

ハノイはその仕事を受けた傭兵団の頭領であり、
ベリルやアリューシアを憎んで襲ったわけではない。
だから契約が終われば、
以前の敵と個人的な仇討ちを続ける必要もない。
この感覚がベリルとの大きな隔たりになる。

「昨日の敵」が今日の護衛になるのが、ハノイたちの生き方だった

大聖堂を脱出した一行は、
グレン王子とサラキア王女を守りながら、
王宮を目指して移動することになる。
そこにはベリルたちだけでなく、
ハノイ率いるヴェルデアピス傭兵団も同行している。

第8話を知っているベリルからすれば、
極めて奇妙な隊列である。
少し前までこちらを殺そうとしていた集団が、
今度は同じ王族を守りながら歩いている。
だからベリルは移動中も疑念を捨てられない。

そしてついに、
「なぜ俺たちを助けたんだ」とハノイへ尋ねる。
ところがハノイから返ってくるのは、
特別な思想や改心の告白ではない。
今回も依頼を受けたから動いている、それだけだった。

ハノイにとっては、
第8話の襲撃も第11話の王族護衛も「仕事」である。
以前の依頼ではベリルたちと戦い、
今回の依頼ではベリルたちと並んで戦う。
敵味方を決めているのは個人的な感情ではない。

それは冷酷にも見えるが、
ヴェルデアピス傭兵団が生き残ってきた方法でもある。
彼らは国家の正規騎士団ではなく、
契約を受けて戦場を渡り歩く集団である。
忠誠の形そのものが、ベリルたちとは違っている。

だから第11話の共闘は、
ハノイが突然善人へ変わった場面ではない。
むしろ第8話から一貫して、
彼は傭兵として受けた仕事を遂行している。
変わったのはハノイではなく、今回与えられた仕事だった。

第4章 ベリルはなぜハノイの襟首を掴んだ?ヴェスパーとフラーウへの怒り

「誰だよそいつら」で、抑えていた怒りが一気に表へ出る

王子と王女を守ることが最優先だと、
ベリル自身も頭では理解している。
今ここでハノイと争えば、
護衛を危険へ晒すだけだという判断も出来ている。
それでも感情だけは、理屈通りには動かなかった。

移動中にハノイと話したベリルは、
第8話で傷ついたヴェスパーとフラーウを思い出す。
ハノイの側では以前の依頼が終わっていても、
ベリルの身近には今なお、
あの襲撃が残した負傷者が存在している。

フラーウはすでに職務へ復帰している。
しかし完全に元通りというわけではなく、
まだ本調子とは言えない状態だった。
それでも騎士として戻ろうとする覚悟を、
ベリルは本人の姿から感じ取っている。

さらに深刻なのがヴェスパーだった。
第7話ではフラーウと幼馴染であることが描かれ、
故郷の店でベリルと食事をしながら、
守る相手がいる時の戦い方を学びたいと、
個人的な剣術指南まで願い出ていた青年である。

ヴェスパーはフラーウへの想いも抱えていた。
帰路では彼女へ想いを伝えるつもりだと話し、
指輪まで用意していることをベリルへ見せている。
ところがその直後、
ヴェルデアピス傭兵団の襲撃が起きた。

霧の中で始まった戦闘の末、
ヴェスパーは深い傷を負って倒れる。
第11話の時点になっても職務復帰どころか、
まともに身体を動かせる段階に戻っておらず、
以前の生活へ戻れるかさえ分からない。

そんなヴェスパーとフラーウの名を、
ベリルはハノイへぶつける。
ところがハノイは二人が誰なのか分からず、
死んだのかと問い返す。
その瞬間、ベリルの手に力が入ることになる。

襟首を掴んでもハノイが抵抗しなかったことにも、二人の違いが出ている

ベリルは反射的に、
ハノイの襟首を掴んでしまう。
普段のベリルは激情のまま他人へ掴みかかる人物ではない。
今やるべきことが王族の安全確保だという事実も、
本人は十分承知している。

それでも止まれなかったのは、
ハノイの「仕事だった」という感覚と、
ベリルが見てきた負傷者の現実が、
あまりにも大きく食い違っていたからだ。
依頼が終わっても、人間の傷は終わらない。

さらに興味深いのは、
ハノイならベリルの手を簡単に振り払えたことだ。
身体能力では極めて高い水準にあり、
突然襟首を掴まれた程度なら、
避けることも反撃することも十分出来る。

ところがハノイは、
ベリルが襟首を掴むことをそのまま受け入れる。
周囲にいる傭兵団の仲間たちも、
ベリルを取り押さえようとはしない。
クリウやプリムたちも、その場で剣を抜かない。

つまりハノイも、
ベリルが怒ること自体を否定してはいない。
ただし自分の考えを変えるわけでもない。
第8話で何人が傷ついたとしても、
彼にとっては戦場で起きた仕事の結果なのである。

ベリルが怒っているのは、
単に自分の弟子や知人を傷つけられたからではない。
第7話で将来を語っていたヴェスパーが、
第8話の一戦によって日常へ戻れなくなった。
その現実を知る人間として、簡単に水へ流せないのだ。

だから第11話の襟首を掴む場面は、
ベリルが感情的になっただけの場面ではない。
「仕事だから次へ進む」ハノイと、
傷ついた人間を振り返らずにはいられないベリル。
二人の決定的な違いが、最も露骨に表れた瞬間なのである。

第5章 ハノイにも仲間が死んでいた|ジュールとワンディスを失っても恨まない

ベリルだけが被害者だったわけではない

ベリルがヴェスパーとフラーウの名を出した時、
ハノイは二人が誰なのかさえ思い出せなかった。
その反応だけを見ると、
仲間を傷つけたことを何とも思っていないように見える。
しかし直後、ハノイ側にも死者がいた事実が出てくる。

ハノイが口にするのは、
ジュールとワンディスという二人の名前である。
どちらもヴェルデアピス傭兵団の一員で、
ハノイにとっては可愛がっていた弟分だった。
第8話の戦闘で、その二人はベリルたちに倒されている。

つまり第8話の襲撃では、
レベリオ騎士団側だけが傷を負ったわけではない。
ヴェスパーは今もまともに動けず、
フラーウも完全には回復していない。
一方の傭兵団では、二人が帰ってこなかった。

ここでハノイが見せる反応は、
ベリルの予想とは大きく異なる。
弟分を殺した相手が目の前にいるのに、
ベリルやアリューシアを責めようとはしない。
復讐を口にすることも、恨みをぶつけることもない。

ハノイは二人が死んだことを、
戦場へ出た結果として受け止めている。
腕が足りなかったことも、
運がなかったことも含めて、
戦いに参加した以上は避けられない結末だったと考える。

さらに自分たちがベリル側を襲った事実も否定しない。
襲撃した結果、仲間二人が死んだ。
その責任を相手だけへ押し付けるのではなく、
ベリルたちの実力を低く見積もった自分にも向けている。

とりわけ重いのは、
ジュールとワンディスを戦場へ出した判断そのものを、
ハノイが自分の誤りとして受け止めている点である。
弟分を大切にしていなかったのではない。
大切だったからこそ、判断を自分へ返している。

仲間を失っても復讐へ向かわないのが、ハノイの傭兵としての矜持

ベリルなら、
身近な誰かが殺された時に、
その相手を完全に切り離すことは難しい。
実際ヴェスパーとフラーウが死んでいなくても、
第11話では襟首を掴むほど感情が揺れている。

一方のハノイは、
実際にジュールとワンディスを失っている。
それでもベリルたちを見た時、
敵意を剥き出しにして襲いかかることはない。
現在の依頼を優先し、王子と王女を守っている。

ここに二人の大きな違いがある。
ベリルは傷ついた人間を現在へ持ち続けるが、
ハノイは死者を忘れているわけではないまま、
次の仕事へ進むことを選んでいる。

それは感情が薄いということではない。
ジュールとワンディスを弟分として認識し、
その死まで明確に記憶している。
ただし仲間への情と、
戦場で起きた結果を別々に扱っているのである。

だからハノイは、
ベリルたちに二人を殺されたことと、
今回一緒に王族を守ることを両立出来る。
以前は敵だった。
今回は味方である。
その二つを同時に成立させるのが傭兵の生き方だった。

ベリルには、その感覚が簡単には理解出来ない。
人の死や傷を仕事の区切りで切り替えれば、
自分の中にある大切な何かまで失う気がするからだ。
だから理屈では分かっても、
ハノイの考え方を受け入れるところまでは行かない。

この場面で初めて、
第11話の「ベリルの怒り」と、
「ハノイの傭兵としての矜持」が真正面からぶつかる。
どちらか一方だけが仲間を大切にしているのではなく、
大切な人を失った後の向き合い方が正反対なのである。

第6章 ベリルとハノイは何が違う?「戦士」と「剣士」を分けた一言

アリューシアが止めた後も、二人の考えは交わらなかった

ベリルがハノイの襟首を掴んだままでは、
グレン王子とサラキア王女の護衛を続けられない。
そこでベリルの腕へ静かに手を添えたのが、
弟子でありレベリオ騎士団長でもあるアリューシアだった。

アリューシアは感情的に割って入るのではなく、
今はこれ以上続けるべきではないと促す。
第8話では彼女自身もハノイたちと戦っており、
仲間が傷ついた事実を知らないわけではない。
それでも現在の護衛任務を優先している。

ベリルも自分が何をしているかは理解していた。
王族を安全な場所へ連れて行くことが最優先で、
ここでハノイと争う時間など本来はない。
だから手を離し、グレン王子とサラキア王女へ謝罪する。

しかし謝ったからといって、
ハノイの考えを受け入れたわけではない。
自分の行動が護衛中には不適切だったと認めただけで、
ヴェスパーたちの傷を忘れることも、
ジュールたちの死を同じ感覚で扱うことも出来ない。

一方のハノイも、
襟首を掴まれたことを根に持たない。
服を軽く払った程度で話を終わらせ、
そのまま王宮への移動を再開しようとする。
ここでも彼は感情より現在の仕事を優先している。

さらに周囲の傭兵団も動かなかった。
クリウやプリムを含め、
頭領であるハノイが胸倉を掴まれているのに、
ベリルへ飛びかかる者は一人もいない。
この反応もベリルには理解しにくいものだった。

ベリルなら、
アリューシアが突然誰かに掴みかかられれば、
黙って見てはいられない。
だからこそヴェルデアピス傭兵団の仲間たちが、
ハノイへ助太刀しなかったことにも、
自分とは違う精神性を感じることになる。

「戦士には向いていない」「俺は剣士だからね」に全部が詰まっている

移動を再開する直前、
ハノイはベリルへ短い言葉を投げる。
ベリルは確かに強い。
しかし戦士には向いていない。
ハノイから見れば、そういう評価だった。

この「戦士」は、
単純に戦闘能力が高い人物という意味ではない。
ハノイ自身のように、
仲間が死んでも戦場へ留まり、
次の依頼へ進める人間を指している。

ジュールとワンディスを失っても、
ハノイは後ろだけを見続けない。
誰が悪かったのかを延々と問い続けるのではなく、
自分の判断も含めて結果を引き受け、
次に必要な行動へ切り替えている。

それに対してベリルは、
後ろを振り返ることをやめられない。
ヴェスパーが今も動けないことも、
フラーウが本調子ではないことも、
戦いが終わったからといって過去には出来ない。

第1期からベリルは、
剣そのものより人間を見てきた。
アリューシアやスレナが大成しても、
自分の弟子として接する姿勢は変わらず、
剣を教えた後の人生まで気に掛けている。

第3話でスレナと立ち合った時も、
単純に相手を倒して優劣を示すのではなく、
弟子がどれほど成長したかを受け止める側にいた。
第10話でロゼと再会した時にも、
教会騎士団副団長という肩書きより、
昔の弟子としての姿を先に見ている。

だからハノイから、
戦士には向いていないと言われた時、
ベリルが返した「俺は剣士だからね」という言葉は重い。
戦うことを専門にしていても、
戦場の論理だけに自分を合わせるつもりはない。

ベリルにとって剣は、
人を切り捨てて前へ進むためだけの道具ではない。
弟子を育て、守るべき人を守り、
傷ついた者を見過ごさないためにも使われてきた。
その延長線上に今回の怒りも存在している。

第11話でベリルとハノイが衝突したのは、
単なる性格の不一致ではない。
戦場の結果を飲み込んで進む「戦士」と、
過去の人間まで振り返りながら剣を握る「剣士」。
その生き方の差が、短い会話の中で露わになったのである。

第7章 ベリルとハノイはなぜ共闘できた?許し合わなくても同じ相手を守れる

二人は分かり合ったのではなく、今守るべき相手を優先した

ベリルとハノイの衝突は、
どちらかが相手の考えへ納得して終わる場面ではない。
ヴェスパーとフラーウの傷を忘れられないベリルと、
ジュールとワンディスの死を抱えながら進むハノイでは、
戦いの後に何を背負うのかという感覚が最後まで違っている。

それでも二人が再び剣を向け合わなかったのは、
第11話で守るべき相手が明確になっていたからだ。
グレン王子とサラキア王女を無事に連れ出し、
スフェン教側の追撃から守りながら王宮へ送り届ける。
個人的な因縁より優先すべき目的が目の前に存在している。

ベリル自身も、そのことは理解していた。
ハノイの襟首を掴んだ瞬間は感情が勝っているが、
アリューシアから静かに制止されると手を離し、
グレン王子とサラキア王女へ非礼を詫びている。
怒りが消えたのではなく、護衛中だという現実へ戻ったのである。

ここは第8話との違いが大きい。
あの時のハノイは明確にベリルたちを狙う側であり、
ヴェルデアピス傭兵団は霧を利用して一行へ襲撃を仕掛け、
ヴェスパーやフラーウを含む騎士たちを戦闘へ巻き込んだ。
ベリルにとって警戒すべき敵だったことに疑いはない。

ところが第11話のハノイは、
グレン王子とサラキア王女へ剣を向けていない。
むしろ王族を教都から脱出させ、
安全な場所へ届けるために自分たちと同じ方向へ動いている。
過去の行動と現在の行動を、ベリルは別々に見なければならなくなる。

これはベリルにとって簡単なことではない。
ヴェスパーは第7話でフラーウへの想いを抱え、
ベリルへ剣の相談までしていた青年である。
その彼が第8話の襲撃で深傷を負い、
第11話になっても以前と同じ生活へ戻れていない。

フラーウもまた、
戦いが終わった瞬間にすべてが元通りになったわけではない。
ベリルは負傷した二人の「その後」を知っているからこそ、
ハノイが今回味方だと説明されても、
過去を切り捨てて歓迎するような真似は出来なかった。

それでも現在のハノイまで否定しない。
ここにベリルらしさがある。
過去に何をしたかは忘れないが、
今その人物が何をしているかまで無視して判断しない。
怒りを抱えたまま共闘するという、複雑な選択をしている。

一方のハノイも、
胸倉を掴まれたことを新たな抗争へ変えない。
ベリルを殴り返すこともなければ、
クリウやプリムたちへ攻撃を命じることもない。
服を直し、必要な仕事へ意識を戻している。

ハノイからすれば、
第8話でジュールとワンディスが死んだことも事実である。
それでもベリルたちへ復讐しようとはしない。
死んだ二人を忘れたのではなく、
戦場へ送り出した自分の判断まで含めて結果を背負っている。

だからベリルとハノイは、
互いの考えを理解出来なくても同じ場所に立てる。
ベリルは過去の傷を忘れず、
ハノイは過去の死を抱えたまま前へ進む。
歩き方は違っても、今守る相手だけは同じなのである。

敵だった二人の共闘が、ベリルという「剣士」の性格を逆に浮かび上がらせる

第11話で描かれる二人の関係は、
「以前の敵が味方になった」という単純な転換ではない。
ハノイが善人へ変わったわけでもなければ、
ベリルが第8話の襲撃を許したわけでもない。
両者とも根本的な考え方はほとんど変わっていない。

ハノイは最初から傭兵である。
依頼を受ければ戦い、
仕事が終われば次の戦場へ移る。
以前の相手と再会しても、
現在の契約が違えば同じ側へ立つことさえ出来る。

そこには騎士団とは違う価値観がある。
アリューシアたちは国や主君を守る立場にあり、
守る対象と敵対する対象には一定の連続性がある。
しかしハノイたちの立場では、
その境界そのものが依頼によって変わっていく。

ベリルが違和感を抱くのは当然だった。
彼は騎士団所属ではないものの、
長年道場で弟子へ剣を教え、
その後の人生まで気に掛けてきた人物である。
剣を交えた結果を、その場だけの勝敗では終わらせない。

第1期でも、
アリューシアが騎士団長へ出世しているにもかかわらず、
ベリルは肩書きより昔の弟子として彼女を見る。
スレナが冒険者として名を上げていても、
立ち合えば現在の強さだけではなく、
かつて教えた少女がどこまで成長したかを見ている。

ロゼとの関係も同じである。
かつての弟子がスフェン教側へ立ち、
自分とは異なる場所で生きていても、
現在の肩書きだけで敵と決め付けることはしない。
以前に知った人間の姿と、今目の前にいる姿の両方を見る。

だからハノイについても、
「第8話で襲ってきた敵」という情報だけでは終わらない。
同時に第11話では、
王子と王女を守るために身体を張っている傭兵でもある。
ベリルは二つの事実を抱えたまま相手を見ることになる。

ここで効いてくるのが、
ハノイからベリルへ向けられた、
強いが「戦士」には向いていないという評価である。
ハノイの基準では、
戦士は戦場の死を飲み込みながら先へ進めなければならない。

ジュールとワンディスが死んでも、
ハノイは戦うことをやめない。
仲間を失った原因を相手だけへ押し付けず、
自分の判断も含めて結果を引き受ける。
それがハノイの考える戦士の生き方だった。

対するベリルは、
ヴェスパーとフラーウの傷を現在まで持ち続けている。
過去の戦いを忘れられず、
傷ついた人間の顔まで思い出してしまう。
ハノイから見れば、戦場を生きる人間としては甘さになる。

しかしベリルは、
そこで自分を変えようとはしない。
「俺は剣士だからね」と返すことで、
ハノイの戦士観に自分を合わせる必要はないと示している。
この一言が、二人の違いを最も端的に表している。

ベリルにとって剣は、
敵を効率よく倒して生き残るためだけの技術ではない。
弟子へ教え、誰かを守り、
自分より若い人間が生きて帰るためにも使われる。
だから戦闘が終わっても、傷ついた相手を簡単には忘れられない。

その性格は弱点にもなる。
ハノイのような傭兵から見れば、
すべての死傷者へ感情を残していては戦場で持たない。
実際ベリルは第11話で、
護衛中にもかかわらずハノイの襟首を掴んでしまった。

それでも物語の中では、
その甘さこそがベリルという人物を形作っている。
人間を駒として扱えないから弟子たちに慕われ、
アリューシアやスレナ、ロゼたちも、
長い時間が経ってなお師としてベリルを見ている。

だからベリルとハノイの衝突には、
どちらが正しいという一つの答えは置かれていない。
戦場を渡り歩くにはハノイの考え方が必要であり、
人を守る剣を振るうにはベリルの感覚も必要になる。
二人は違うからこそ、互いに持っていない部分が見えてくる。

そして第11話では、
その二人が同じグレン王子とサラキア王女を守っている。
過去の因縁は消えていない。
傷ついた者も死んだ者も戻ってこない。
それでも現在の脅威を前にすれば、同じ方向へ剣を向けられる。

ベリルとハノイが共闘出来たのは、
二人が和解したからではない。
相手を理解し切れなくても、
今守らなければならない人間を優先出来たからである。
第8話から続いた因縁が、第11話で初めてそこへ到達する。

敵か味方かという二択だけでは、
二人の関係は説明出来ない。
怒りは残る。
考え方も違う。
それでも必要なら背中を並べられる。

その不完全な距離こそが、
ベリルとハノイの関係を面白くしている。
そしてハノイとの衝突を通して見えてくるのは、
ベリルが強いから人を守れるのではなく、
傷ついた人を忘れられないからこそ、
最後まで「剣士」であり続ける人物だということなのである。

片田舎のおっさん、剣聖になるIIまとめ

『片田舎のおっさん、剣聖になるII』の記事を、大聖堂襲撃・モーリス教皇とスフェン教・ロゼとホワイト・メイデン・ハノイとヴェルデアピス傭兵団・アリューシア・スレナ・ミュイなどに分けてまとめています。
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