炎龍ヒエンの憎しみを考える手掛かりは、ゴウオンを父親のように慕う気持ちにある。
ソナにとって家族を奪った相手でも、ヒエンにとっては大切な存在として映っている。
ペルを追うヒエンの行動から、同じ出来事を別の側から見たときに生まれる怒りを追う。
第1章 ヒエンがペルを憎む背景には、ゴウオンへの強い思いがある
| つながり | 確認できること |
|---|---|
| ゴウオンとの関係 | 父親のように慕う |
| ペルへの感情 | 憎しみを抱いて追う |
| アニメでの対決 | 第3話「煙の仮面」 |
命令だけでは説明しきれない思い
ペルの前に現れたヒエンは、
仕事として追ってきた相手にしては、
あまりにも怒っている。
倒せば任務が終わるという冷たさより、
大切なものを奪われた人の必死さが伝わってくる。
ペルを見ている側としては、どうしてそこまで憎むのかと戸惑ってしまう。
その気持ちを考える手掛かりになるのが、
ヒエンとゴウオンの関係になる。
ヒエンはリスブランの統治隊に属し、
ゴウオンを父親のように強く慕っている。
従う相手を失っただけでなく、父親同然の存在を失った怒りが、
ペルへ向かっていると考えられる。
ゴウオンは、ソナの家族を奪い、
国を支配した人物として登場する。
その姿を知っていると、
彼を慕うヒエンの気持ちはすぐには飲み込めない。
あんな相手のために、なぜここまで怒るのか。
その引っ掛かりが、ヒエンという人物に近づく入口になる。
ただ、誰かがひどいことをしたと知ることと、
その人を大切に思う気持ちが消えることは、
同時に起こるとは限らない。
ヒエンにとってのゴウオンには、支配者という肩書だけでは言い表せない近さがある。
父親のように慕っているという紹介は、
その近さを端的に伝えている。
ペルがゴウオンとの出来事に関わっているとしても、
見ている側とヒエンでは、
まず目に入るものが違う。
こちらはペルやソナが傷ついた経緯を知っている。
ヒエンは、慕っていた相手を失った側からペルを見ている。
その差が、同じ戦いの後にも残っている。
だから、ヒエンの怒りは、
敵の仲間だからという説明だけでは少し足りない。
統治隊として組織のために動く一方で、
自分にとって大切な相手を取り戻せない人でもある。
その悲しさが憎しみに変わっていると考えると、
追跡の激しさにもつながってくる。
ペルを追うほどの憎しみへ
ヒエンが動いているのは、
すでにゴウオンとの戦いが終わった後になる。
ペルたちは次の街へ進んでいても、
ヒエンの中では、あの出来事が終わっていない。
去っていく相手を追う行動には、自分だけが喪失の場所に
取り残されたような怒りも重ねて考えられる。
アニメ第3話「煙の仮面」では、
コーンブルームの街でペルとヒエンが対峙する。
ペルはその戦いで疲れ切り、モクの助けを受ける。
ヒエンの憎しみは背景として語られるだけでなく、
旅を続けるペルの身体へ、
実際の危険として届いている。
ここでつらいのは、
ペルが何も失っていない側ではないことになる。
彼もまた、右腕と仮面作りを続けられる状態を失っている。
ゴウオンを倒した側が無傷で立ち去り、
残されたヒエンだけが苦しんでいるという
組み合わせにはなっていない。
それでも、ヒエンの目にペルの傷がどう映るかは別に残る。
相手が苦しんでいると分かれば怒りが収まる、
とは限らない。
自分の大切な人がもう戻らないと感じているなら、
目の前の相手の事情まで考える余裕を
持てなくなることも想像できる。
もちろん、その切実さが攻撃を正しくするわけではない。
ペルを追い詰めるヒエンには止まってほしい。
一方で、父親のように慕った相手を失ったと知れば、
ただ乱暴な敵として突き放しきれなくなる。
腹立たしさと、少し分かってしまう気持ちが
一緒に残る。
ヒエンはなぜペルを憎むのか。
その答えの中心には、ゴウオンへの強い慕情と、
失ったものへの怒りがあると考えられる。
ただの追っ手として見るより、
誰をそれほど大切に思っているのかを知ることで、
ペルへの憎しみもずっと個人的なものとして見えてくる。
第2章 ゴウオンはヒエンの父親?「父親のように慕う」二人の関係
実の父親とは紹介されていない
ヒエンがゴウオンを父親のように慕っていると聞くと、
二人は親子なのかと気になる。
ただ、紹介されているのは、
父親のように強く慕っているという関係になる。
血のつながった父子と決めるより、ヒエンにとって
それほど近い相手と受け止めるのが自然になる。
この違いは、関係の深さを小さくするものではない。
実の親子でなくても、頼りにし、
認めてほしいと願い、その人の言葉を大きく受け止める関係は考えられる。
ゴウオンを父親になぞらえる表現からは、
命令する者と従う者だけでは収まらない感情がうかがえる。
二人がいつ出会い、どんな時間を過ごしたのかまで知らなくても、
ヒエンがいま抱えている思いは伝わってくる。
父親のように慕う相手を失うことは、
次に誰のもとで働くかを決めれば済む変化とは違う。
これから頼れるはずの相手がいないという寂しさも、
そこには重なっていると考えられる。
たとえば、強い上司を尊敬しているだけなら、
別の強い人物が現れたときに気持ちが移る余地もある。
しかし、父親に近い相手として慕っているなら、
強さの比較だけで代わりを見つけられない。
ヒエンの中で、ゴウオンは誰にでも置き換えられる存在では
なさそうに感じる。
ゴウオンには、世界最強と名高い剣士という顔もある。
統治隊に属するヒエンから見れば、
その力は恐ろしさだけでなく、
頼もしさにもつながった可能性がある。
ソナたちを苦しめた強さが、別の位置にいる人には支えとして映る。
その食い違いが苦い。
父親のように慕う関係には、
強さへの憧れと、そばにいてほしい願いが重なっていそうに感じる。
頼れる相手がいる安心と、
いなくなった後の心細さはつながっている。
ヒエンの追跡には、
その心細さを怒りで押し返すような面も考えられる。
ただし、慕っているから親として優しかったはず、
と逆算するのも早い。
ヒエンが何を受け取り、何を信じていたかと、
ゴウオンが誰にどんな行動を取ったかは、
それぞれ見える場面が違う。
二人の関係を思うときも、知らない思い出を増やす必要はない。
統治隊の一員としての立場と、個人の慕情
ヒエンはリスブランの統治隊に属している。
ゴウオンのもとで動く立場と、
個人として彼を慕う気持ちが重なっているため、
反発して距離を置くより、そばにいて従う方向へ進みやすかったとも考えられる。
仕事と感情をきれいに切り離せる関係ではなさそうに見える。
父親に近い相手を信じるとき、
その人の判断まで信じたくなることはありそうに感じる。
ゴウオンが強く、周囲を従わせる人物なら、
なおさら自分の疑問を後回しにする場合も考えられる。
ただ、ヒエンがすべてを納得していたかまで、
一つの肩書から決めることはできない。
それでも、ゴウオンを失った後にペルを追う行動には、
命じられた仕事を片づけるだけではない熱がある。
もう一度本人に会って、
これからどうするか聞くこともできない。
残った相手への怒りに向かうことで、
失った人とのつながりを保とうとする面も考えられる。
私はこの部分に、少し危うい寂しさを感じる。
慕っていた人がいなくなった後、
その人のために戦い続けることが、
最後にできることのように思えてしまう。
ヒエンの行動をそう読むと、攻撃をやめることまで、
ゴウオンを忘れることのように感じている可能性も浮かぶ。
だから、もう従う相手はいないと外から言うだけでは、
気持ちは片づかないのかもしれない。
父親のように感じていた相手なら、
役職がなくなっても、関係を終えたことにはならない。
目の前にいない人の存在が、
いまの行動を縛ってしまうこともある。
ヒエンにとってゴウオンは誰なのか。
この問いには、統治隊が従う支配者という答えと、
父親のように慕う相手という答えが重なる。
後者を知ると、ペルへの憎しみも、
組織が壊れたことへの反発より、
自分の支えを奪われた痛みに近く感じられる。
第3章 ヒエンの怒りは、なぜペルへ向かうのか
憎しみが生まれた出来事
ヒエンが追っている相手はペルになる。
ここで気になるのは、ゴウオンを巡る戦いには
ソナや武神の仮面も関わっているのに、
なぜ彼への憎しみが強く表に出るのかという点になる。
出来事を見てきた側には、
ペル一人へ怒りを集めることへの引っ掛かりが残る。
ペルはガストンの仮面を探して旅をしており、
ゴウオンもガストンの仮面を所有している。
そもそも二人の衝突には、仮面を巡る目的が関わっている。
ヒエンから見れば、ペルは突然現れ、
自分たちの側の状況を変えた相手として
強く印象に残ったとも考えられる。
ただ、追っている相手がペルだからといって、
ゴウオンに起きたことをすべて
彼一人の行動にしてよいわけではない。
ソナの復讐心も、武神の仮面の危険も、その戦いには入り込んでいる。
ヒエンが誰を憎むかと、実際に何が起きたかは、
重なりきらない部分がある。
大切な人を失ったとき、
いくつもの事情を同じ重さで考える余裕は持ちにくい。
何が始まりで、誰がどこまで選んだのかを順に追うより、
目の前にいる相手へ怒りが向くことも考えられる。
ペルはヒエンにとって、
その怒りをぶつけられる生きた相手になっている。
その見え方が正確かどうかとは別に、
追う側の気持ちとしては切実になる。
行方を追い、見つけ、相手を止める。
その一つずつに集中している間は、
戻ってこないゴウオンのことを、
何もしないまま考え続けずに済むのかもしれない。
だから、ペルへの攻撃には、
怒りの対象を倒したい気持ちだけでなく、
何かせずにはいられない焦りも重ねて考えられる。
じっとしていても失ったものは返らない。
それでも、動けば何かを返せるように感じてしまう。
その行き先が追跡になっているようにも見える。
出来事の経緯と、ヒエンの受け止め方
ペルやソナの側から見れば、
ゴウオンとの戦いは降りかかってきた危険への対処でもある。
相手を傷つけたいだけで始まった旅ではなく、
ソナには家族を奪われた過去もある。
その時間を知っていると、追ってくるヒエンへ、
こちらの事情も知ってほしいと思ってしまう。
けれども、事情を説明すれば
相手の怒りがすぐに消えるとも限らない。
ヒエンにとっては、どんな経緯があっても
大切な存在を失った結果が残る。
ペルに言い分があることと、自分が納得できることの間には、
どうしても距離があると考えられる。
ここで、ヒエンは何も知らないから怒っているだけ、
と片づけると、父親のように慕う気持ちが置き去りになる。
知識の不足があれば、
それを埋めることは必要になる。
ただ、大切にしていた気持ちそのものまで、
説明一つで消せるとは思いにくい。
一方で、悲しいからといって、
ペルへ何をしてもよくなるわけではない。
彼を追い詰めれば、その場にいるソナやモクにも危険が及ぶ。
ゴウオンとの関係を持たない人の時間まで、
ヒエンの怒りに巻き込まれていく。
その怖さは、慕情とは別に残っている。
このすれ違いは、どちらかの話を聞けば全部解ける誤解より
厄介に感じる。
ペルが被害を受けたことも、
ヒエンが大切な相手を失ったことも、
一方を消せば済む話にはならない。
同じ出来事の後を、二人が別の痛みを抱えて歩いている。
仮面が関わる事件でも、怒りは道具より人へ向かいやすい。
話しかけ、責め、反応を返してくれる相手が
そこにいるためになる。
ペルが矛先になることを思うと、
危険な仮面を壊す旅には、壊した後も人の中に残るものへ
向き合う難しさがある。
ヒエンがペルを憎む姿には、
あの戦いをまだ終わらせられない人の苦しさがあると考えられる。
けれども、ペルを倒すことが
ゴウオンを取り戻すことにはつながらない。
その隔たりを思うと、追い詰められるペルへの心配と、
止まれないヒエンへのやるせなさが重なる。
第4章 ソナとヒエンでは、ゴウオンの姿が違って見える
| 人物 | ゴウオンとの関わり |
|---|---|
| ソナ | 両親を奪った相手 |
| ヒエン | 父親のように慕う相手 |
ソナから家族と居場所を奪ったゴウオン
ソナにとってゴウオンは、慕う相手ではない。
王位にあった両親を殺し、
国のトップに立った人物になる。
自分の暮らしが変わる前に、家族の命を奪われている。
その相手を父親のように思うヒエンが現れると、
二人の見ている景色の違いがはっきりする。
しかもソナは、
母親を目の前で殺された過去を持つ。
家族を失ったと後から聞いたのではなく、
その場面が自分の記憶に残っている。
ゴウオンを大切な存在として語られても、
同じ顔を思い浮かべることは難しいと考えられる。
ソナが感じる怒りには、奪われたものが具体的にある。
両親がいて、自分の居場所があった時間を、
ゴウオンの支配が断ち切っている。
国の政治が変わったという遠い話ではなく、
その前と後で、
自分がどこにいられるかまで変わってしまった。
そんなソナのそばで、ペルは彼女と関わり、
武神の仮面を巡る戦いへ進む。
見ている側も、その出会いからペルたちの事情を知っていく。
そのためヒエンの怒りに触れたとき、
先に思い浮かぶのは、ゴウオンがしたことを
忘れないでほしいという気持ちかもしれない。
父親のように慕っていたと聞いても、
ソナの傷は小さくならない。
誰かに好かれていた人物が、
別の誰かを苦しめることは両立してしまう。
ヒエンにとって大切な人として慕われているという説明は、
ソナが受けた被害を打ち消すものにはならない。
ここには、すぐに片側へ気持ちを寄せきれないつらさがある。
ヒエンの喪失を思えば胸が痛む。
それでもソナから見れば、
その喪失の中心にいる相手こそ、
自分の家族を奪った人物になる。
二人の悲しみを並べても、きれいに収まってくれない。
だから、ソナとヒエンを、
どちらも親を失ってかわいそうという一言で
一緒にするのも難しい。
失った相手と、相手を失うまでの経緯が違う。
互いの悲しみを知る余地はあっても、
そのまま同じ気持ちになれる位置にはいない。
ヒエンには大切な人として残っている
ヒエンから見えるゴウオンには、
ソナが見た姿とは別の近さがある。
統治隊で従う相手であり、父親のように慕う存在でもある。
自分が頼っていた人物を、
別の人から恐ろしい支配者として見られる。
その違いを、簡単には受け入れられなかった可能性も考えられる。
大切にしてきた人のひどい行動を知ることは、
他人の悪事を聞くのとは違うつらさを伴う。
自分が信じてきたものまで揺れるからになる。
ヒエンがどこまで事情を理解していたかは決められないものの、
慕情があるぶん、
すぐに距離を取れないことは想像できる。
たとえば、ゴウオンを否定する言葉が、
ヒエンには自分の思い出まで否定する声に聞こえるかもしれない。
慕う相手との時間は、
その人を信じていた自分の時間でもある。
誰かをかばう気持ちに、
自分の過去を守りたい思いが混ざる場合もある。
一方、ソナには、そんな思い出を守るために
自分の痛みを引っ込める余裕などなくても不思議ではない。
母親を殺された記憶の前で、
別の人からは大切な相手と告げられても、
すぐには飲み込めない。
ヒエンに近づこうとするほど、ソナの苦しさも離れなくなる。
同じ人物を巡っているのに、
一方には家族を奪った顔が残り、
もう一方には父親に近い顔が残る。
ゴウオンをどう呼ぶかだけで、二人の間にある距離が伝わってくる。
どちらの顔を知っているかによって、
ペルの行動まで違って見えてしまう。
ヒエンの憎しみが苦く感じられるのは、
この距離があるためと考えられる。
ペルたちには終わらせなければならない危険があり、
ヒエンには失いたくない人がいた。
その二つが同じゴウオンへつながったことで、
戦いの後にも対立が残っている。
私は、ここでヒエンの気持ちが分かると言い切るのも
少しためらう。
慕っていた相手を失う悲しさは想像できても、
ソナがされたことを知れば、
追跡にはやはり止まってほしいと思う。
その揺れがあるから、ヒエンは敵という言葉だけでは片づかない。
第5章 ペルには、ヒエンの怒りを受け止めきれるのか
ペルにも、大切な人を失った過去がある
ヒエンの前に立つペルも、
慕う人を失った少年になる。
師匠ガストンと仲間を奪った出来事は、
武神の仮面に操られた自分の身体を通して起きている。
誰かの死を外側から悲しむだけではなく、
自分の行動の記憶と一緒に抱えている。
ペルはそれを望んでいたわけではない。
仮面の力で操られ、意図せず惨劇を起こしている。
ただ、自分が望まなかったと分かっていても、
起きたことを簡単に切り離せず、
ガストンの仮面を壊す旅へ出る。
その後の行動にも、失った人との関係が残っている。
ヒエンがゴウオンを慕うように、
ペルにも師匠とのつながりがある。
だから、誰かを大切に思う気持ちそのものには、
遠い話ではない部分がありそうに感じる。
憎しみを向けられていても、その裏にある喪失まで、
まったく知らない種類の痛みとは言いにくい。
けれども、似た経験があるから
相手のすべてを分かれるとも限らない。
ペルは自分が操られた過去を持ち、
ヒエンは慕う側の人を失って追っている。
同じように大切な相手を亡くしていても、
自分を責める方向と、他人へ怒りを向ける方向は異なっている。
ペルの立場を思うと、
また誰かの大切な人に関わる怒りを背負わされるのかと、
少し苦しくなる。
彼はすでに自分の過去を抱えて旅をしている。
そこへヒエンの憎しみまで向かってくるため、
事情を知るだけで落ち着いて対処できるとは思いにくい。
まして、右腕を失った後の身体で戦っている。
心の痛みに近いものを感じられたとしても、
目の前の攻撃から身を守る必要は消えない。
話せば何とかなるかもしれないと思う気持ちと、
まず危険を止めなければならない現実がぶつかっている。
ヒエンの悲しさに気づくことは、
ペルが全部引き受けることと同じではない。
誰かの苦しみを分かろうとしても、
自分まで傷つき続ければよいという話にはならない。
ペルの側にも守られてほしいものがあると感じるため、
この対決は気楽には見られない。
似た痛みがあっても、矛先はすれ違う
ペルとヒエンを並べると、
二人とも、いなくなった人との関係を抱えて動いているように見える。
ペルは師匠の仮面を壊す旅を選び、
ヒエンはペルを追う。
過去を終えられないという近さがあっても、
向かう先は大きく違っている。
ペルの旅には、
同じ悲劇を繰り返したくないという願いがある。
すでに起きた惨劇を元に戻せなくても、
危険な仮面をそのままにはできない。
その行動は、亡くした相手へ何かを返したい気持ちと、
これから傷つく人を減らす方向が重なっている。
対して、ヒエンの追跡は、
いま生きているペルへ向いている。
彼を追い詰めるほど、
自分とゴウオンの関係に集中していくようにも見える。
そこにソナや街の人々の事情が入り込む余地があるかどうかで、
怒りの行き先も変わりそうに感じる。
ただ、ここからペルのほうが立派でヒエンは未熟、
と比べるのも居心地が悪い。
ペルも最初から穏やかに過去を受け止められた少年ではなく、
いまも抱えて歩いている。
悲しんだ後にどんな行動を取れるかは、
周囲の人や状況にも左右されると考えられる。
ペルにはソナがいて、
第3話ではモクとの出会いもある。
自分の目的だけで閉じた旅へ、
別の人の願いや事情が入ってくる。
一人で過去へ向かい続ける時間の中に、人と関わるきっかけが増えることは、
彼の行動に影響していきそうに感じる。
ヒエンにも、ゴウオンを失った後に
怒り以外の話をできる相手がいたら、
少し違ったのかもしれない。
そう考えてしまうのは、彼の追跡があまりに一つの感情へ向いて見えるためになる。
ただ、誰かが話を聞けば解決すると簡単に約束できるほど、
軽い喪失でもない。
似た痛みがあるのに、いまは戦うしかない。
このすれ違いが、
ペルとヒエンの対決を苦くしている。
相手の悲しみへ近づける可能性はあっても、
それだけで攻撃は止まらない。
分かり合えそうに見える部分と、実際に届く距離が、ここでは離れている。
第6章 炎龍ヒエンとの戦いで、ペルはモクに助けられる
街に現れた炎龍ヒエン
ヒエンとの対決が起きるのは、
ペルとソナが次の街へ進んだ後になる。
コーンブルームでは、レストランでモクと出会い、
旅へついていきたいと持ちかけられる。
その日から新しい関係が始まりそうな場所へ、
前の戦いから続く憎しみが追いついてくる。
ペルにとって、旅に出たからといって
過去の出来事と距離を取れるわけではない。
自分が別の場所へ移動しても、
その行動で影響を受けた人は残っている。
ヒエンの登場は、その人たちの時間も
止まっていなかったことを感じさせる。
一方、ヒエンからすれば、
追っていた相手が別の街にいる。
ペルたちがそこで食事をし、新しい人に会っていても、
自分の怒りは残ったままになる。
その姿を目にしたとき、相手だけが先へ進んでいるように感じれば、
憎しみが強まることも考えられる。
ペルにとっての次の街は、
ヒエンには追跡の先に見つけた場所になる。
新しい出会いが生まれそうな場所へ、
まだ終わっていない怒りが入り込む。
旅が前へ進む気配と、過去へ引き戻す力が重なるため、
街に着いた安心も長くは続いてくれない。
炎龍ヒエンという呼び名には、
登場した時点で強い圧がある。
しかも、彼が抱えているのはペルへの憎しみになる。
こちらが相手の事情を気にかけていても、
その怒りが攻撃として向いてくれば、
まずはペルたちが無事に切り抜けられるかが心配になる。
第3話でペルは、
ヒエンとの戦いによって疲れ切ってしまう。
相手の感情を遠くから考えている余裕はなく、
実際に消耗させられる対決になっている。
ヒエンがどれだけ悲しんでいても、
攻撃を受ける側には、その一撃ごとの危険がある。
前の戦いで右腕を失ったペルに、
さらに追っ手が来る。
気持ちを立て直す時間くらいあってほしいと思うところへ、
休ませてくれない相手が現れる。
その厳しさを感じるため、ヒエンに事情があると知っていても、
いまは止まってほしいという思いが先に出てくる。
追い詰められたペルへ、モクが手を貸す
そこでペルを助けるのが、
煙の仮面を持つモクになる。
出会ったばかりで、旅に同行したいと頼んできた相手が、
実際の危険の中で手を貸す。
言葉で仲間にしてほしいと伝える段階から、
同じ場面を切り抜ける関係へ進んでいく。
ヒエンとモクは、
ペルへ近づく向きがまるで違う。
ヒエンは憎しみを抱いて追い、
モクは仮面屋に用があって同行を望む。
ペルが同じ場所に立っていても、近づいてくる人の願いによって、
攻撃の相手にも、助けを求める相手にもなる。
その違いは、
ペルを取り巻く世界の広さにもつながっている。
彼には償いたい過去があるけれど、
出会う人が全員その過去を知っているわけではない。
モクから見れば、まず仮面に関わる困りごとへ手を貸してほしい相手になる。
別の関係から、ペルのいまが動き始める。
モク自身も、気楽に何でもできる青年ではない。
煙の力を使える一方で仮面を剥がせず、
定期的に喫煙しなければならない体質になっている。
強い能力を持つことと、
自分の身体を自由に扱えることが、
彼の場合も一緒にはなっていない。
そんなモクが助けに入るため、
この場面には、困っている者同士で手が届く感じがある。
すべて解決済みの強い人が、
弱いペルを救って終わる形ではない。
モクにも願いがあり、ペルの知識や経験に期待している。
片方だけが与える関係になりきらないところに温かさがある。
第3話の紹介では、この助けをきっかけに
ペルが次第に心を開いていくと示されている。
ヒエンとの戦いは、
憎しみが追いついてくる一方で、
別の相手へ信頼が生まれるきっかけにもなっている。
危険の中で、旅の人間関係も変わっていく。
モクが助けることで、
ペルは怒りを向けられるだけの相手ではなくなる。
自分にも手を貸してくれる人がいる。
その経験が、憎まれるばかりの旅ではないと感じられる
支えになったのかもしれない。
ペルが一人でヒエンの怒りまで
抱え込まなくてよかったと感じる。
相手の事情を理解できるかどうかとは別に、
攻撃されて疲れた人には助けが必要になる。
モクが入ることで、二人の憎しみの行き来だけで終わらず、
ペルが支えを受けられる余地ができている。
第7章 ゴウオンを慕う気持ちだけでは、ヒエンを悪役と割り切れない
慕う気持ちには近づけても、攻撃には戸惑う
ヒエンを見ていると、
ペルを襲うのはやめてほしいと思う。
その気持ちは、ゴウオンとの関係を知った後も残る。
ただ、父親のように慕っていた相手を失ったと考えると、
最初から最後まで憎たらしい敵として
見続けることも難しくなる。
大切な人を奪われた怒りには、
近づける部分がある。
それでも、その人が別の誰かへ何をしたかを知れば、
話は単純に収まらない。
ヒエンを思って胸が痛んだ直後に、ソナの母親のことが浮かぶ。
そのたび、どちらかだけの気持ちにはなれなくなる。
ソナがヒエンに気を遣って、
自分の被害を小さく語る必要はないと感じる。
ヒエンにとってゴウオンが大切でも、
ソナの家族が奪われた事実は残る。
誰かに慕われていたことを知ったために、
被害を受けた側が黙るような話にはなってほしくない。
同じように、ペルもヒエンの苦しみを受け止めるために、
攻撃を受け続けなくてよい。
相手が悲しんでいると知っても、
自分や仲間を守ろうとできる。
その行動と、相手の痛みを想像する気持ちは、
どちらか一つに決めなくてもよいように思う。
ヒエンをどう感じるかも、
一度で決め切らなくてよいほど複雑になる。
登場した瞬間には恐ろしい追っ手に見え、
ゴウオンへの慕情を知ると少し寂しく見え、
ペルを追い詰める場面ではまた腹が立つ。
人物への気持ちが動くのは、見えるものが増えるためと考えられる。
だから、事情があるから許せるとも、
襲ってきたからすべて分からないとも言い切りにくい。
ヒエンが抱えた喪失には近づける。
それでも、その憎しみをペルへ向ける行動には戸惑う。
この二つが並んで残ることが、
彼の登場を後味のあるものにしている。
私は、ヒエンの怒りが消えるとしても、
ゴウオンを慕っていた時間まで
全部なかったことにする必要はないと思う。
ただ、その思いを保つ方法が、ペルを傷つけることだけになってほしくない。
大切な人を覚えていることと、
別の誰かを追い続けることが、離れる余地はあってほしい。
ヒエンの怒りから見える、ゴウオンが残したもの
ゴウオンとの戦いが終わっても、
その人を中心に生きていた人々の時間は続く。
ソナには奪われた家族の記憶が残り、
ヒエンには父親のような相手への思いが残る。
ペルたちが街を離れた後も、その違いは消えていない。
ヒエンは、それを追跡という行動で持ち込んでくる。
一人の強い支配者がいなくなれば、
すべての人が同じように安堵するとは限らない。
支配されて苦しんだ人と、
その人を支えにしていた人がいる。
ゴウオンのもとで起きたことは、彼自身との対決だけで終わらず、
残された人同士の衝突にもつながっている。
その中でペルは、
目の前の仮面をどうにかするだけでは済まない場面に立つ。
仮面を持つ人物にも、慕う相手や失いたくないものがある。
危険を止める必要があっても、
戦った後に誰の気持ちも傷つかない形を選べるとは限らない。
その難しさが、ヒエンとの対決にも表れている。
ただ、ここからペルの旅に救いがないとは感じない。
ヒエンに追われる一方で、
モクという新しい相手が助けてくれる。
過去の出来事が新しい怒りを連れてくることもあれば、
いま出会った人が別のつながりを作ってくれることもある。
その両方が同じ回に置かれている。
ヒエンの今後についても、
現時点の憎しみだけで最後まで決めてしまうのは早い。
ペルを追う人物として現れたことと、
これからも同じ感情だけで生きることは別に残る。
どんな出来事なら彼の気持ちが動くのかは、
その後の描写へ続いていく問いになる。
炎龍ヒエンはなぜペルを憎むのか。
中心にあるのは、父親のように慕うゴウオンへの思いと、
その人を失った怒りがペルへ向かうことと考えられる。
統治隊の追っ手という立場だけでなく、
個人として失いたくなかった相手がいることが、
あの激しさにつながっている。
ペルにとっては、また傷つけられる戦いになる。
ソナにとっては、家族を奪った相手を慕う人との衝突になる。
そしてヒエンにとっては、
大切な人を失った後から続く戦いになる。
同じ場所に立っても、三人が抱えている痛みは違う。
その違いが残るから、ヒエンの怒りは簡単に割り切れない。


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