サイレン世界の正体は異世界ではなく、夜科アゲハたちが暮らす時代から約10年後、文明が崩壊した2018年の未来の日本である。
未来の日本が滅びた背景には天戯弥勒率いるW.I.S.Eの行動だけでなく、ウロボロスから現れたクァト ネヴァスと、それを弥勒へ近づけたミスラまで繋がっている。
しかもサイレン世界は固定された未来ではなく、アゲハたちが現代で行動するたび生存者や状況が変化し、「荒廃した未来を見る物語」から「その未来を発生させない物語」へ変わっていく。
第1章 サイレン世界は異世界?正体は2018年の未来の日本
第1話では異世界に見える――アゲハが飛ばされたのは「見知らぬ荒野」だった
『PSYREN』第1話で、
夜科アゲハが最初に見るサイレン世界は、
建物も学校も人通りもない、
乾いた大地だけが広がる荒野である。
公式あらすじも、この時点では正体を明かしていない。
直前までアゲハは、
現代の街で赤いテレホンカードを巡り、
雨宮桜子の失踪を追っていた。
鳴り響く電話へ出た次の瞬間、
景色そのものが完全に切り替わる。
だから初見では、
「別の惑星へ転送されたのか」
「異世界転移なのか」
「秘密結社サイレンが持つ別空間なのか」
と考えても不自然ではない。
しかも周囲には、
現代日本で見慣れた人々がいない。
代わりに現れるのは、
異形の禁人種と、
同じ赤いカードを持つ参加者たちである。
1stゲームでは、
アゲハ、雨宮、朝河飛龍、蝉谷浩二、
杉田望らが同じ未来へ送り込まれる。
アゲハはPSIの存在も、
この世界の正体も知らないまま生存競争へ入る。
杉田望は、
飛行生物型の禁人種に襲われて死亡する。
アゲハは怪物へしがみつき、
岩で腹部のイルミナを破壊し、
初参加から「ここでは本当に人が死ぬ」と知る。
サイレン世界は、
第1話だけを見ると異世界そのものに見える。
だが実際には別世界ではなく、
アゲハたちが暮らす2008年から約10年後、
文明が崩壊した2018年の未来日本である。
異世界ではないと決定的に分かるのは、3rdゲームで2018年だと判明するから
サイレン世界の正体が、
物語上で決定的に明かされるのは、
アゲハたちがゲームを重ね、
W.I.S.Eの核心へ近づいた後である。
3rdゲームでは、
アゲハたちは霧崎塔二の山荘へ辿り着く。
そこで発見したDVDには、
W.I.S.Eが決起する「宣戦の儀」と、
エルモア・ウッドの子供たちが戦う映像が残されている。
さらに調査を続ける中で、
W.I.S.E第五星将ドルキと遭遇する。
この戦闘と会話を通じて、
アゲハたちは自分たちがいる場所が、
2008年から10年後の2018年だと知る。
この瞬間、
それまでの荒野の意味が変わる。
知らない土地へ来たのではなく、
自分たちが今暮らしている世界が、
十年後に荒廃した姿を見ていたことになる。
つまり崩れた建造物も、
人気のない道路も、
壊れた都市の残骸も、
異世界に存在する謎の遺跡ではない。
すべて「未来の日本に残った現代文明の痕跡」である。
ここでアゲハにとって、
サイレン世界は帰れば忘れてよい場所ではなくなる。
未来が本当に2018年なら、
現代で生きている家族や知人も、
その崩壊へ巻き込まれる可能性がある。
「異世界から帰る物語」だったものが、
「自分たちの未来を見てしまった物語」へ変わる。
2018年という年代の判明は、
PSYREN全体の目的を変える最大級の転換点である。
未来だと分かった途端、雨宮を救うだけだった目的が世界崩壊の回避へ広がる
物語開始時のアゲハは、
雨宮桜子を助けるために、
都市伝説サイレンを追い始める。
赤いカードも未来世界も、
最初は雨宮失踪の手掛かりでしかない。
1stゲームでは、
まず自分が生きて帰ることで精一杯になる。
2ndゲームでは、
飛龍の旧友・真名辰央と再会し、
人間が禁人種へ改造される現実を見る。
3rdゲームでは、
ドルキやシャイナというW.I.S.E側の強者と遭遇し、
霧崎塔二のDVDから、
未来で何が起きるのかを、
映像として突き付けられる。
そこへ「2018年の日本」という事実が重なる。
未来で見た死者や崩壊が、
遠い異世界の出来事ではなく、
現代から続く歴史の先にあると確定する。
だからアゲハたちは、
未来で得た情報を現代へ持ち帰り始める。
ただサイレンゲームをクリアするのではなく、
現代側で何を変えれば、
2018年の惨状を消せるのかを考えるようになる。
サイレン世界の正体が未来日本だと判明したことで、
「雨宮を助けて帰る」という個人的な目的が、
「この未来そのものを発生させない」という、
世界規模の目的へ広がっていく。
第2章 なぜ未来の日本だと分かった?廃墟・地形・公衆電話に残された痕跡
荒野の中にも日本の人工物が残る――公衆電話は現代と未来を結ぶ最も分かりやすい痕跡
サイレン世界は、
全面が砂漠になった別惑星ではない。
荒廃した土地の中には、
道路、建造物、山荘、
そして公衆電話などの人工物が残っている。
特に重要なのが、
ゲームのゴールとして使われる公衆電話である。
サイレンドリフトは、
未来へ着くと地図を確認し、
指定された公衆電話まで移動する。
公衆電話のメモ機能には、
スタート地点、ゴール地点、
サイレン塔、警戒区域などが表示される。
参加者はその地図を頼りに、
未来日本の中を段階的に進んでいく。
この仕組みは、
単なる「異世界の魔法陣」とは違う。
現代日本にも存在する公衆電話が、
崩壊後の未来でも残され、
帰還装置として使われている。
第1話でアゲハが、
赤いテレホンカードを拾った場所も公衆電話だった。
未来世界で現代へ帰る時にも、
同じ種類の設備が必要になる。
入口と出口の両方に日本の通信設備が存在する。
サイレン世界の公衆電話は、
ゲーム用の装置であるだけでなく、
「ここが現代日本と地続きの未来である」と示す人工物でもある。
荒野の中に残る現代文明そのものが証拠になっている。
八雲祭は九州側から東へ進んだ――ゲームの進行そのものが日本列島に沿っている
サイレンゲームでは、
一回ごとに全く無関係な場所へ飛ばされるわけではない。
前回のゴールより東側へ、
次回のスタート地点が移っていく。
参加者はゲームを重ねながら東へ進む。
その古い実例が、
八雲祭である。
祭はアゲハたちより約2年前から、
サイレンドリフトとして参加していた古参で、
九州側から未来世界を進んでいる。
祭は途中、
大阪周辺で雨宮桜子と出会う。
雨宮へPSIを教え、
後に「マツリ先生」と呼ばれる関係になる。
この出会い自体も未来日本の移動経路上で起きている。
さらに祭は、
ゲームを続けながら東進し、
最終的にカード度数を0まで使い切る。
古いゲーム記録を合わせると、
愛知周辺まで進んでいたと考えられる。
九州、大阪、愛知という地名の連続は、
サイレン世界が完全な別世界ではなく、
日本列島の地理を引き継いでいることを示す。
土地が滅びても位置関係までは消えていない。
サイレンゲームは、
謎の異世界を無作為に移動するゲームではない。
日本列島を西から東へ進む構造を持ち、
過去の参加者も同じ地理の中を移動していた。
霧崎塔二の山荘とDVDが「未来と現代は同じ歴史の上にある」と証明する
未来日本だと実感できる場面として、
霧崎塔二の山荘も重要である。
アゲハたちは3rdゲームで、
未来世界に残された山荘へ入り、
そこに保存されたDVDを発見する。
DVDに記録されていたのは、
W.I.S.Eの決起集会へ向かう者たちと、
彼らへ徹底抗戦する、
エルモア・ウッドの子供たちの姿だった。
最初の未来では、
子供たちは宣戦の儀で返り討ちに遭い、
全滅している。
これはサイレン世界の過去、
つまり2008年側から見れば、
まだ起きていない未来の事件である。
ところがアゲハたちが、
現代側で行動を変えると、
次に確認したDVDの内容にも変化が現れる。
登場するW.I.S.E側の顔ぶれなど、
未来の記録そのものが書き換わっていく。
ここが、
単なる異世界設定では成立しない部分になる。
現代で起きた変化が、
十年後に残された映像へ反映される。
両方は一本の歴史で繋がっている。
霧崎塔二のDVDは、
未来日本という正体を示すだけではなく、
「現代を変えれば未来の記録まで変わる」と証明する物証になる。
サイレン世界は固定された別世界ではない。
同じ場所でも景色が違う――文明崩壊後だから現代日本の面影が消えている
サイレン世界を見て、
すぐ未来日本だと気付けないのは当然でもある。
約10年しか離れていないのに、
街並み、人間社会、交通、
生活設備の大半が失われているからだ。
アゲハが最初に降り立った場所では、
人の生活音がない。
学校も商店も住宅街も見当たらず、
乾いた土地と異形の生物が広がる。
現代との視覚差があまりにも大きい。
さらに未来では、
禁人種が徘徊し、
W.I.S.Eが強大な勢力として存在する。
地上で普通の人間が暮らす環境ではなくなり、
生存者たちは限られた拠点へ追い込まれている。
後には、
天樹院エルモアたちが築いた地下施設
「天樹の根」が生存拠点として登場する。
人間が地上の日常を維持できず、
地下へ逃れて生きていること自体が、
文明崩壊の深刻さを示している。
つまり、
未来日本だと分からないほど景色が変わったのは、
別世界だからではない。
十年間の間に、
現代文明を破壊する規模の事件が起きたからである。
見慣れた日本の街が消えたから異世界に見える。
しかし公衆電話、地形、山荘、DVD、
現代側の行動で変わる未来記録を重ねると、
そこが2018年の日本だと繋がっていく。
「未来の日本」と分かった次に残るのが、なぜここまで滅びたのかという最大の疑問
サイレン世界の場所が分かっても、
謎はそこで終わらない。
むしろ2018年の日本だと判明した瞬間、
さらに大きな疑問が生まれる。
2008年には、
普通に学校があり、
街があり、
飛行機が飛び、
アゲハたちは高校生活を送っている。
それが約10年後には、
都市が崩壊し、
地上から人間社会が消え、
禁人種とW.I.S.Eが支配する世界へ変わっている。
自然災害だけでは説明できない変化である。
最初に見える大きな原因は、
天戯弥勒が率いるW.I.S.Eである。
宣戦の儀、
PSI能力者中心の新世界、
人類社会との対立が未来崩壊へ繋がっていく。
だが原作を最後まで追うと、
「W.I.S.Eが全部滅ぼした」で終わらない。
ウロボロス、
ミスラ、
クァト ネヴァスまで繋がり、
地球規模の破局が別の形で見えてくる。
サイレン世界の正体が2018年の未来日本だと分かることは、
答えではなく次の入口でもある。
本当の核心は、
「わずか10年で日本と地球に何が起きたのか」へ移っていく。
第3章 サイレン世界はなぜ荒野になった?W.I.S.Eの「宣戦の儀」から崩壊が始まる
最初に起きたのは天戯弥勒率いるW.I.S.Eの決起――都市破壊を自ら宣言した
サイレン世界が荒廃した原因を追うと、
最初の大きな分岐点として出てくるのが、
W.I.S.Eによる「宣戦の儀」である。
これは3rdゲームで、
霧崎塔二の山荘に残されたDVDから判明する。
映像には、
仮面を着けた能力者たちが現れ、
都市破壊を開始する様子が記録されていた。
その中心にいるのが、
後にW.I.S.Eを率いる天戯弥勒である。
弥勒は、
グリゴリで実験体06号として扱われ、
幼少期からPSI研究の対象にされてきた人物である。
施設から解放された後、
自分たちのような能力者が支配されない世界を求め、
W.I.S.Eを組織していく。
宣戦の儀は、
単なる破壊衝動によるテロではない。
一般社会へ対して、
PSI能力者が旧人類の支配から離れ、
新たな時代へ移ることを見せつける儀式でもあった。
未来の天樹院エルモアは、
この宣戦の儀について、
後に起こるウロボロス接近や「転生の日」まで、
天災ではなく人為的な出来事だと印象付けるための、
大規模な宣言だったと見ている。
サイレン世界の崩壊は、
ある日突然隕石だけで始まったわけではない。
その前段階でW.I.S.Eが都市破壊を公然化し、
人間社会との対立を決定的にしていた。
宣戦の儀ではエルモア・ウッドが全滅――未来改変で殺した相手まで変わる
最初にアゲハたちが見たDVDでは、
宣戦の儀へ向かった
エルモア・ウッドの子供たちは、
W.I.S.E側に返り討ちにされて全滅している。
この時点では、
天樹院エルモア自身が、
宣戦の儀より前の航空事故で死亡していた。
子供たちを止める大人がいなかったため、
カイルたちは自分たちだけで決起集会へ向かう。
最初の歴史では、
仮面の男三人による都市破壊へ介入し、
弥勒の「生命の樹」によって全滅する。
まだ幼いエルモア・ウッドが、
未来で最初に失われる大戦力だった。
ところがアゲハたちが現代で動くと、
DVDの映像内容そのものが変化する。
犬居編などを通じて、
エルモア・ウッドと弥勒側の接触時期が変わり、
W.I.S.Eは仮面を外して現れる。
改変後の映像では、
弥勒自身が子供たちを殺すのではなく、
ジュナスとドルキが前へ出る。
ジュナスの「毘沙門・叢」などによって、
それでも子供たちは全滅する。
つまり、
「誰が殺すか」は変わっても、
宣戦の儀へ向かえば全滅する未来そのものは、
しばらく消えなかった。
現代で一つ変えても、
別の形で死へ収束してしまう。
宣戦の儀は、
未来改変の難しさを最初に見せる事件でもある。
敵の顔や戦闘相手は変わっても、
エルモア・ウッド全滅という結果が残り続けた。
エルモアを航空事故から救ったことで、宣戦の儀そのものが大きく変わる
流れを変えたのが、
アゲハたちによる
天樹院エルモアの航空事故回避である。
本来なら死亡していたエルモアが生存したことで、
未来側の人間関係と行動が大きく変化する。
エルモアが生きていれば、
子供たちを無謀な決起集会へ向かわせない。
そのため改変後の宣戦の儀では、
エルモア・ウッドは戦闘へ介入せず、
全滅する未来を回避する。
日時も、
それまでの12月2日から12月10日へ変化する。
場所は新宿・代々木公園となり、
W.I.S.Eは街としての機能を破壊した後、
大阪、仙台、名古屋など主要都市でも破壊活動を続ける。
ここで重要なのは、
子供たちの死亡は消えても、
W.I.S.Eによる都市破壊までは消えていないことだ。
未来改変によって被害の形は変わるが、
人間社会との全面対立は続いている。
さらに4thゲーム後には、
霧崎塔二のDVDから、
宣戦の儀を記録した内容自体が消える。
現代側で歴史が大幅に変化し、
塔二が同じ映像を残す未来さえ消えた可能性が出てくる。
アゲハたちは、
宣戦の儀の犠牲者を救うことには成功する。
しかしW.I.S.Eの存在そのもの、
都市破壊、
その後の世界崩壊まで一度に消せたわけではなかった。
W.I.S.Eだけが世界を滅ぼしたわけではない――ここで原因を分けて見る必要がある
宣戦の儀を知ると、
サイレン世界を滅ぼした犯人は、
天戯弥勒とW.I.S.Eだけに見える。
実際に彼らは都市を破壊し、
人類側へ大規模な損害を与えている。
転生の日の後も、
W.I.S.Eは生き残った人間を追い、
人間狩りを行う。
禁人種を戦力として使い、
未来日本で支配勢力へ成長している。
ただし、
地球そのものが異様な膜に覆われ、
日光が届かず、
文明全体が壊滅した直接の原因まで、
W.I.S.EのPSIだけで説明することはできない。
その直後に起きるのが、
超巨大隕石ウロボロスの異常接近と、
2010年1月7日の「転生の日」である。
ここで被害規模は都市破壊から、
地球規模へ一気に拡大する。
だからサイレン世界の崩壊は、
「W.I.S.Eの反乱」と
「ウロボロス内部の存在」の二段階で見る必要がある。
宣戦の儀は世界崩壊の入口であり、
最終原因そのものではない。
W.I.S.Eは人間社会を壊した。
しかし地球環境まで変えたのは別の存在である。
サイレン世界の荒廃は、
人間側の戦争と宇宙から来た災厄が重なって完成した。
第4章 空を覆う膜と暗い世界は何?ウロボロスが地球へ接近した「転生の日」
ウロボロスは直径150km級――最初から普通の隕石ではなかった
世界崩壊の第二段階で現れるのが、
超巨大隕石「ウロボロス」である。
直径は約150km。
現代側ではNASLが極秘に観測し、
夜科朱鳥や射場公一も研究へ関わっている。
ウロボロスは、
普通の隕石とは挙動が違う。
蛇のように不規則な軌道を描き、
時折自ら発光し、
点滅の間隔まで変化させている。
夜科朱鳥は、
この不自然な発光と軌道から、
ウロボロスそのものに
意思や自我がある可能性を疑っている。
ただの岩塊としては説明しにくい挙動だった。
当初の観測では、
地球へ衝突する確率は極めて低く、
約400万分の1から450万分の1程度と見積もられる。
未来世界の歴史でも、
本来なら地球から外れて通過するはずだった。
ところが2010年1月5日、
ウロボロスは突如として軌道を変更する。
蛇行していた巨大天体が、
今度は地球へ向かって一直線に接近し始める。
ウロボロスは、
予測不能な自然災害ではない。
「衝突しないはずの天体が意図的に進路を変えた」
ように見えることが、
サイレン世界崩壊最大の異常だった。
人類は迎撃に成功したのに滅びた――本当の災厄は隕石の中にあった
地球側も、
巨大隕石の接近を眺めていたわけではない。
人類はミサイルによる迎撃を行い、
ウロボロス本体を破壊することには成功する。
普通の隕石災害なら、
ここで最悪の衝突は回避できる。
巨大な隕石片こそ地上へ降るが、
直径150kmの本体がそのまま地球へ激突する事態は、
迎撃によって防がれている。
それでも世界は滅びる。
破壊されたウロボロスの内部から、
流体のような未知の物質が現れ、
地球全体へ広がり始めるからだ。
その物質は、
薄い膜のように地球を包む。
外から差し込む太陽光は大きく遮られ、
地表環境は短期間で激変する。
アゲハが未来で見る暗い空はその結果である。
地上へ落下した隕石片だけでは、
サイレン世界の景観は説明できない。
本当に危険だったのは外殻ではなく、
ウロボロス内部に潜んでいたものだった。
人類は隕石そのものの迎撃には成功している。
それでも滅びたのは、
ウロボロスが単なる岩石ではなく、
内部に地球を覆う生命体を抱えていたからである。
2010年1月7日「転生の日」――人間文明が事実上終わった日
ウロボロスが軌道を変えたのは、
2010年1月5日。
その二日後、
1月7日に世界規模の崩壊が起きる。
W.I.S.Eはこの日を「転生の日」と呼ぶ。
名称だけを見ると、
新世界誕生を祝うようにも聞こえる。
しかし人間側から見れば、
都市機能も社会秩序も失われ、
文明そのものが終わった日に近い。
ウロボロス内部の物質が地球を覆い、
地表環境が変化する一方、
W.I.S.E側はPSI能力者中心の世界へ移行し、
生存した一般人への支配を強めていく。
その後の未来では、
人類の大部分が失われ、
生存者は地下や限定された拠点へ逃げる。
後にエルモアたちが暮らす
「天樹の根」もその生存拠点の一つになる。
さらにW.I.S.Eは、
禁人種を利用しながら人間狩りを続ける。
だから未来の荒野に人がいないのは、
隕石災害だけで人口が減ったからではなく、
崩壊後も追撃が続いたためでもある。
転生の日は、
隕石衝突の日ではない。
ウロボロス内部の存在が地球を覆い、
W.I.S.E支配が本格化し、
旧文明が事実上終わった日である。
空が暗いのも禁人種が活動できるのも、地球を覆った膜と繋がっている
アゲハがサイレン世界へ着いた時、
空には現代日本の明るさがない。
地表は乾き、
植物も少なく、
禁人種が昼間から活動している。
この異様な環境にも原因がある。
ウロボロス内部から流れ出した物質は、
地球全体を膜のように覆い、
強い直射日光を遮る。
そのため未来世界では、
地表の光量そのものが大きく落ちている。
これはW.I.S.E側にも都合がいい。
イルミナへ依存する禁人種や能力者の一部は、
強い太陽光に弱い。
未来世界の暗い環境は、
彼らが地上で活動しやすい条件にもなっている。
実際に後のウラヌス戦では、
カイルたちが太陽光を利用し、
イルミナ機能を弱らせる作戦を使う。
未来の暗さは雰囲気作りだけではなく、
戦闘ルールにも直結している。
つまり第1話から見えていた、
不自然に暗い空、
荒れた地表、
異形の敵が徘徊する環境は、
後のウロボロス真相へ繋がる結果だった。
サイレン世界の景色は、
単なる終末世界の演出ではない。
暗い空も禁人種の活動環境も、
ウロボロス内部の存在が地球を覆った結果として、
後から一本に繋がっていく。
ただしウロボロスさえ最終回答ではない――内部にいた「星を喰う者」へ続く
ここまで進むと、
世界を滅ぼしたのは
「ウロボロスだった」と考えたくなる。
だが原作終盤では、
さらにその一段奥が明かされる。
ウロボロスは、
星を喰って生き続ける巨大生命体、
クァト ネヴァスと深く結び付いている。
力が弱まるたび別の星を捕食し、
その星を次のウロボロスへ変えていく存在である。
そしてミスラは、
そのクァト ネヴァスの意思を伝える伝達者として、
現代の天戯弥勒へ近づいていた。
弥勒が作ろうとした新世界さえ、
別の目的に利用されていく。
宣戦の儀、
ウロボロスの異常接近、
転生の日、
地球を覆う膜。
それぞれ別々に見えた出来事が、
原作終盤で同じ原因へ収束していく。
サイレン世界が滅びた原因は、
W.I.S.Eだけでも、
巨大隕石だけでも終わらない。
その最深部には、
ミスラとクァト ネヴァスという、
地球そのものを獲物にした存在がいる。
第5章 世界を本当に滅ぼしたのは誰?ミスラとクァト ネヴァスの正体
W.I.S.Eだけが黒幕ではない――弥勒の計画そのものが利用されていた
サイレン世界の崩壊を追うと、
最初は天戯弥勒とW.I.S.Eが、
人類社会を滅ぼした中心勢力に見える。
実際に宣戦の儀では主要都市を破壊し、
転生の日以後も人間狩りを続けている。
だが原作終盤まで進むと、
弥勒自身も別の存在に利用されていたと分かる。
その中心にいるのがミスラであり、
さらに背後にいるのが、
「星を喰う者」クァト ネヴァスである。
ミスラは現代では、
未来を予測する「かがり火」を使い、
弥勒へ助言を与える協力者として近づく。
表面上は新世界を目指す弥勒の味方であり、
W.I.S.E成立を支える案内役に見える。
しかし実際には、
弥勒の理想を実現させることが目的ではない。
グリゴリで傷付いた弥勒へ接触し、
世界への反感と新世界への欲求を利用しながら、
クァト ネヴァスが地球へ到達する道筋を作っていた。
未来の弥勒は、
アストラル・ナーヴァに「生命の釜」を築き、
生命の結晶を培養する。
古い生命を新しい生命へ変換し、
自分たちなりの新世界を作るための、
W.I.S.E側の中核計画だった。
ところがミスラは、
その生命の結晶すら利用する。
クァト ネヴァスを地上へ呼び寄せると、
培養されていた新生命の胚も、
星将たちのイルミナに蓄積された力も、
まとめて吸収させてしまう。
弥勒は世界を壊した側ではある。
だが地球そのものを喰わせる計画まで望んでいたわけではない。
W.I.S.Eの新世界計画は、
ミスラによってクァト ネヴァスの餌へ変えられていた。
クァト ネヴァスは「星を喰って転生する」生命体――地球そのものが獲物だった
クァト ネヴァスは、
人類が生まれる遥か以前から、
宇宙を渡りながら星を捕食してきた生命体である。
力が弱まるたびに一つの星を喰い、
そこで新たな姿へ転生する。
喰われた星は、
次の「ウロボロス」へ変わる。
つまり地球へ接近した直径150km級の巨大天体も、
単なる宇宙岩石ではなく、
過去にクァト ネヴァスへ捕食された星の成れの果てだった。
2010年1月5日、
本来は地球から外れるはずだったウロボロスが、
突然軌道を変更して地球へ向かう。
人類はミサイル迎撃で本体破壊に成功するが、
内部から流出した存在が地球を覆う。
その後、
地球表面は膜状の物質に包まれ、
太陽光が遮断され、
地上環境そのものが大きく変化する。
アゲハたちが見る暗い空と荒廃した大地は、
この捕食過程の途中にある景色でもある。
クァト ネヴァスにとって、
人類とW.I.S.Eの争いは本質ではない。
旧人類が勝つか、
PSI能力者が新世界を築くかに関係なく、
最終的な獲物は地球という星そのものだった。
サイレン世界が滅びた最深部には、
「人類同士の戦争」よりさらに大きな捕食がある。
クァト ネヴァスは国家や文明ではなく、
地球そのものを次の転生材料として狙っていた。
ミスラは伝達者から「器」へ変わる――約束の涙でクァト ネヴァスと一体化する
ミスラは最初から、
クァト ネヴァスそのものだったわけではない。
元は一人のサイキッカーであり、
クァト ネヴァスの意志を弥勒へ伝える、
「伝達者」として動いている。
転機になるのが、
「約束の涙」と呼ばれる物質である。
ミスラがこれを体内へ取り込むと、
精神と肉体の関係が大きく変わり、
クァト ネヴァスが地上で活動するための、
人型の器へ近づいていく。
未来世界のミスラは、
自分の肉体が限界へ近づくと、
新しい器としてマリーを狙う。
ヴィーゴが阻止しようとすると、
身体に埋め込まれたイルミナを抜き取り、
その場で殺害する。
さらにシャオと兜が現れ、
マリー奪取は失敗する。
だがこの場面だけでも、
ミスラがW.I.S.Eの仲間を守る存在ではなく、
必要なら星将すら切り捨て、
器だけを求めていると分かる。
未来の最終局面では、
ミスラは計画通り本性を現し、
弥勒が用意した生命の結晶と、
星将たちの力をクァト ネヴァスへ吸収させる。
ここで弥勒は初めて、
自分の新世界計画が横取りされたと知る。
ミスラはW.I.S.Eの幹部に見えて、
最初から別の目的で動いていた。
弥勒へ予言を与え、
約束の涙を取り込み、
最後にはW.I.S.Eそのものを、
クァト ネヴァス復活の材料へ変えている。
未来では止め切れなかったが、現代ではアゲハが情報を持ち帰って先回りする
未来世界では、
ミスラの正体が明らかになる時点で、
すでに計画が大きく進んでいる。
弥勒もアゲハも深手を負い、
クァト ネヴァスは地球捕食へ入り、
取り返しのつかない段階まで来ている。
ミスラへ奇襲を仕掛けたグラナは、
その肉体を粉砕する。
それでもクァト ネヴァス本体は残り、
最後は上半身だけになった弥勒とグラナが、
星の中心へ向かうことになる。
二人は、
自分たちの生命と引き換えに、
クァト ネヴァスを道連れにする。
未来世界では地球崩壊を止めることには成功するが、
すでに文明が壊れた世界そのものは元へ戻らない。
しかし5thゲーム後、
アゲハたちは変則的な時間移動によって、
未来で知った情報を現代の弥勒へ届ける。
07号の想い、
ミスラの本性、
クァト ネヴァスの計画まで先に伝わる。
そのため現代では、
ミスラが約束の涙を取り込んで戻った時点で、
弥勒がすでに裏切りを知っている。
普段通り振る舞うミスラへ、
弥勒はためらわず攻撃を仕掛ける。
最後は、
ノヴァ化したアゲハと弥勒が共闘し、
ミスラを約束の涙ごと消滅させる。
未来で地球を覆った災厄は、
現代側では完成する前に潰される。
未来では地球を喰うところまで進んだ計画が、
現代では約束の涙を取り込んだ直後に断たれる。
サイレン世界の正体を知ることが、
その未来自体を消す武器へ変わった。
第6章 サイレン世界は一つではない?現代を変えるたび未来も書き換わる
霧崎塔二のDVDが最初の証拠――未来の映像そのものが変化していく
PSYRENの未来は、
一度決まった結末へ進む固定世界ではない。
それを早い段階で見せるのが、
3rdゲームで霧崎塔二の山荘から持ち帰った、
宣戦の儀を記録したDVDである。
最初の映像では、
仮面を着けたW.I.S.E三人が都市を破壊し、
エルモア・ウッドの子供たちが立ち向かう。
しかし戦力差は大きく、
子供たちは弥勒の生命の樹で全滅する。
現代へ戻ったアゲハたちが、
犬居たちを巡る事件などへ介入すると、
未来側の人間関係も変化する。
その結果、
同じDVDを見直した時、
宣戦の儀に現れるW.I.S.Eの顔ぶれまで変わっている。
二度目の映像では、
弥勒、ジュナス、ドルキが姿を現し、
エルモア・ウッドはジュナスたちと交戦する。
死ぬ結果は同じでも、
「誰と戦って死亡したか」まで書き換わっている。
さらに4thゲーム後には、
DVDに記録されていた内容そのものが消える。
霧崎塔二が同じ映像を撮らなかったのか、
宣戦の儀そのものが別の形へ変わったのか、
歴史の土台まで動いたことが分かる。
霧崎塔二のDVDは、
現代の行動が未来へ影響することを、
映像そのものの変化で示す証拠である。
サイレン世界は固定された別世界ではない。
エルモアの飛行機事故を変えたことで、子供たちの死亡未来まで消えた
未来改変を最も分かりやすく示すのが、
天樹院エルモアの生死である。
最初の未来では、
エルモアは宣戦の儀より前に、
旅客機事故で死亡していた。
アゲハたちは未来でこの事実を知り、
現代へ戻ると、
エルモアが飛行機へ乗るのを止めようとする。
しかしちょうどネメシスQの召集が重なり、
事情を最後まで説明する前に未来へ飛ばされる。
一見すると、
事故回避には失敗したように見える。
ところがアゲハが直前に動いたことで、
エルモアは空港内で大きな負荷を受け、
飛行機の中で発作を起こす。
機体は引き返し、
結果として本来起きるはずだった事故を回避する。
アゲハが狙った方法そのものではなく、
その行動が生んだ小さなズレによって、
エルモアの死亡未来が消える。
エルモアが生存すると、
次に大きく変わるのが子供たちである。
以前は大人の抑止役を失い、
宣戦の儀へ直接向かって全滅していたが、
改変後は無謀な介入を止められる。
そして4thゲームで、
アゲハたちが未来へ行くと、
そこには成長したカイル、フレデリカ、
マリー、シャオ、ヴァンが生きている。
死んでいたはずの子供たちが、
未来側の主力戦力へ変わっている。
一人の生死を変えただけで、
十年後の複数人の死亡まで消える。
PSYRENの未来改変は、
小さな現代側の変化が、
未来で連鎖的に拡大する仕組みになっている。
天樹の根が存在する未来へ――エルモア生存で「人類の避難先」まで生まれる
エルモアが生存した影響は、
子供たちだけでは終わらない。
改変後の未来では、
エルモア総合病院の地下に、
生存者拠点「天樹の根」が築かれている。
ここには居住区だけでなく、
食料を育てる設備、
医療物資、
訓練場所、
発電設備などが置かれ、
地上を追われた人間たちが生活している。
4thゲームでアゲハたちが訪れた時、
根にはエルモア・ウッドの面々に加え、
少数の生存者が暮らしている。
地上を知らず、
地下だけで生まれ育った子供までいる。
さらに現代側で、
イアンがヴァンへCUREを教えるなど、
未来を見た後の行動が積み重なる。
その結果、
次に訪れる未来では、
根の生存者数そのものが大きく増える。
旧未来では、
イアンは約40時間にわたって負傷者を治療し続け、
脳への負担で死亡していた。
改変後では、
ヴァンと治療負担を分担できるようになり、
イアン自身も生存する未来へ変わっている。
未来改変は、
一人の死亡を消すだけではない。
誰が治療を覚えたか、
誰が拠点を作れたかまで積み重なり、
天樹の根の人口と生存率そのものを変えていく。
4thゲームと5thゲームでも同じ2018年なのに、住民の生死と勢力図が違う
アゲハたちは、
何度も2018年のサイレン世界へ向かう。
しかし毎回、
まったく同じ未来へ戻っているわけではない。
現代側で起こした変化が、
次の未来へ反映されている。
4thゲームでは、
エルモアが生存し、
エルモア・ウッドも成長している。
一方で祭と影虎は、
生存者を根へ逃がす戦闘の中で死亡し、
イアンも治療の酷使で命を落としている。
さらに飛龍と朧は、
アゲハたちと別行動になり、
生死不明に近い状態へ入る。
未来世界には、
助かった人物と助からなかった人物が混在し、
まだ改変が足りないことが分かる。
その後、
アゲハたちは現代で新たな行動を取る。
W.I.S.E側の計画へ介入し、
人間関係を変え、
治療や避難の準備まで前倒ししていく。
5thゲーム後の未来では、
根の住民が増え、
イアンも生存し、
アゲハの父・朱鳥や姉・フブキまで、
生存者として未来側へ残る。
サイレン世界は、
「一つの未来へ何度も旅行する場所」ではない。
同じ2018年でも、
現代で何を変えたかによって、
生存者、拠点、敵味方の状況まで更新される。
だからサイレン世界はパラレルワールドではなく「書き換わり続ける未来」と見る方が近い
サイレン世界が変化するため、
別の平行世界を毎回訪れているようにも見える。
だが物語上では、
アゲハたちの現代での行動を受けて、
未来側の記録と状況が連続的に変わっていく。
霧崎塔二のDVDも、
新しい未来が生まれるたび、
元の映像を残したまま別DVDが増えるわけではない。
同じディスクの内容や文字が変わり、
最後には記録自体が消えていく。
エルモアも、
「死亡した世界」と「生きている世界」が
同時に並んで登場するのではない。
アゲハたちが次に未来へ行くと、
生存した歴史の側へ更新されている。
だから読者が見るサイレン世界は、
過去の失敗を保存した博物館ではない。
現代で一手打つたび、
十年後の結果が上書きされ、
次のゲームで新しい答えが返ってくる場所である。
そして最終局面では、
未来で知ったミスラとクァト ネヴァスの情報まで、
現代の弥勒へ届けられる。
結果として、
地球が捕食される未来そのものが、
成立する前に潰される。
サイレン世界の最大の特徴は、
未来であることだけではない。
現代で行動すれば未来が変わり、
変わった未来から新しい情報を持ち帰り、
さらに現代を変えられる点にある。
第7章 サイレン世界を救うとは何だった?未来で知った破滅を現代から消していく
最初の目的は雨宮救出――アゲハは世界を救うためにサイレンへ入ったわけではない
物語開始時のアゲハにとって、
サイレン世界は世界崩壊の謎を追う場所ではない。
「助けてよ…」と言い残して消えた雨宮桜子を追い、
赤いテレホンカードを公衆電話へ入れ、
自分から都市伝説サイレンの入口へ踏み込んだ。
1stゲームで最初に突き付けられたのも、
地球規模の危機ではなく目の前の死だった。
飛行生物型の禁人種に杉田望が襲われ、
アゲハは岩を握って怪物へしがみつき、
腹部のイルミナを破壊して生還への道を開く。
この時点では、
荒野が2018年の日本だとも知らない。
雨宮が半年近くサイレンドリフトとして戦っていたことも、
W.I.S.Eも、宣戦の儀も、ウロボロスも知らず、
まずゴールの公衆電話へ辿り着くことだけが目的だった。
2ndゲームでは、
飛龍が探していた真名辰央と再会する。
だが辰央は禁人種へ改造され、
アゲハたちへ敵として襲いかかる。
ここで「人間が未来で別の姿へ変えられている」現実まで見えてくる。
アゲハが最初から背負っていた使命は、
未来日本を救うことではない。
雨宮を助けたいという個人的な行動が、
一つずつ未来の事実へ触れることで、
世界全体を変える戦いへ膨らんでいった。
未来日本だと分かった瞬間から、「帰る」だけでは足りなくなった
3rdゲームで、
霧崎塔二の山荘から宣戦の儀のDVDを発見し、
ドルキたちW.I.S.Eの星将と接触すると、
アゲハたちはサイレン世界が2018年だと知る。
ここで見ている荒野は、
知らない異世界の廃墟ではない。
2008年に自分たちが暮らしている日本が、
わずか十年後に壊れた姿であり、
現代の家族や仲間も同じ歴史の中にいる。
だから未来で得た情報は、
現代へ戻った後の行動へ直結する。
宣戦の儀でエルモア・ウッドが全滅すると知れば、
その前段階にある出来事へ介入し、
死亡する人物を一人ずつ減らそうとする。
天樹院エルモアが、
本来なら航空事故で死亡する未来もその一つである。
アゲハの介入によってエルモアが生存すると、
宣戦の儀へ無謀に向かっていた子供たちも生き残り、
4thゲームでは成長した姿でアゲハたちを救う。
つまり未来で知った事実は、
「悲惨な結末を確認する情報」ではなくなる。
誰が死ぬのか、
どこで何が起きるのか、
現代のどこを変えれば未来がずれるのかを探す材料になる。
サイレン世界を救うとは、
荒廃した2018年をその場で修復することではない。
未来で見た死と崩壊を手掛かりに、
2008年側から原因を潰し、
その2018年自体を成立させないことである。
未来を一度変えても終わらない――新しい2018年には別の死と別の問題が残った
PSYRENの未来改変は、
一度成功すれば全員が助かるほど単純ではない。
エルモアを救ったことで、
カイル、フレデリカ、マリー、
シャオ、ヴァンの全滅未来は消える。
だが次の2018年では、
祭と影虎が死亡し、
イアンも負傷者を治療し続けた結果、
CUREによる脳負荷で死亡している。
飛龍と朧も一時的に生死不明へ入る。
そのためアゲハたちは、
改変後の未来で新しい結果を確認し、
また現代へ戻って別の一手を打つ。
イアンが一人で治療を背負う未来を知れば、
ヴァンへCUREを継承させる流れも生まれる。
次の未来では、
イアンが生存し、
天樹の根の住民も増えている。
一人の治療能力、
一つの避難準備、
一人の生存が十年後の人数差として積み重なる。
霧崎塔二のDVDも同じで、
現代側を変えるたび、
宣戦の儀に映る人物や結果が変わる。
最後には記録そのものが消え、
未来が固定された映像ではないことが示される。
未来改変は一発逆転ではない。
変えた未来へ行き、
新しい犠牲を確認し、
また現代へ戻って原因を潰す。
アゲハたちはこの往復を重ねて、
破滅の形そのものを削っていった。
最後に変えるべきだったのはW.I.S.Eだけではなく、ミスラとクァト ネヴァスだった
物語中盤までは、
未来を壊した最大勢力として、
天戯弥勒率いるW.I.S.Eが前面に出る。
宣戦の儀、都市破壊、人間狩り、
禁人種の運用まで彼らが担っている。
だが未来の最終局面で、
弥勒自身もミスラに利用されていたと分かる。
生命の釜で育てた生命の結晶、
星将たちのイルミナ、
新世界のために集めた力まで、
クァト ネヴァスの餌へ変えられる。
未来側では、
弥勒の身体がミスラに分解され、
グラナも最後の力を使い、
二人は自分たちの生命と引き換えに、
クァト ネヴァスを地球から排除する。
それでも、
その未来ではすでに文明が壊れている。
地球崩壊を最後の瞬間で止めても、
荒野となった2018年、
死亡した人々、崩壊した社会は元へ戻らない。
だから決定的なのは、
未来で勝つことではなく、
ミスラの正体と計画を現代へ持ち帰ることだった。
5thゲーム後の変則的な時間移動で、
アゲハは07号の想いと未来情報を、
現代の弥勒へ直接届ける。
未来でクァト ネヴァスを倒すだけでは遅い。
世界を本当に救うには、
ミスラが計画を完成させる前の現代へ情報を戻し、
破滅の出発点そのものを折る必要があった。
未来では敵だったアゲハと弥勒が、現代ではミスラを倒すため共闘する
未来情報を受け取った弥勒は、
ミスラが自分を利用していることも、
クァト ネヴァスが何を狙っているかも知る。
未来世界で最後まで敵対したアゲハとの関係も、
ここで大きく変化する。
約束の涙を取り込み、
クァト ネヴァスと同化したミスラが戻ると、
弥勒は何食わぬ顔で近づく彼女へ、
事情を知った状態で先制攻撃を仕掛ける。
ミスラは本性を現し、
弥勒を攻撃する。
そこへノヴァ化したアゲハが入り、
暴王の月で攻撃を無効化しながら、
未来では成立しなかった共闘を作り上げる。
最後は、
アゲハと弥勒の連携によって、
ミスラは約束の涙ごと消滅する。
未来で地球を覆うところまで進んだ災厄が、
現代では完成する前に断ち切られる。
ここで重要なのは、
未来の敵を一人倒したことではない。
「弥勒がミスラを信じ続ける歴史」
「クァト ネヴァスが地球へ根付く歴史」
その二つが同時に消えたことである。
サイレン世界を救った決定打は、
未来で敵を全滅させたことではない。
未来で知った真実を現代へ持ち帰り、
本来は敵だった弥勒まで動かして、
破滅へ向かう歴史そのものを分岐させたことだった。
だからサイレン世界の正体を知ることが、物語全体のゴールへ繋がっていた
第1話のアゲハが見たのは、
正体不明の荒野だった。
そこが未来日本だと知らなければ、
生きて公衆電話へ辿り着き、
現代へ帰ることだけで物語は終わり得る。
だが荒野が2018年の日本だと判明すると、
廃墟一つ、
死者一人、
W.I.S.Eの行動一つまで、
現代側で変えられる結果として見えてくる。
さらに未来が書き換わるたび、
エルモア・ウッドが生存し、
天樹の根が残り、
イアンも生き延び、
最後にはミスラの計画そのものが、
現代側で阻止されるところまで進む。
最初の未来は、
アゲハたちにとって絶望の完成形だった。
しかしゲームを重ねるほど、
「未来は決まっている」のではなく、
「現代から変えられる結果」だと証明されていく。
そしてアゲハが最後まで守ったのは、
荒野として存在するサイレン世界そのものではない。
そこへ至るはずだった人々の死、
文明崩壊、地球捕食を発生させず、
別の2018年へ繋げることだった。
サイレン世界の正体は、
異世界ではなく滅びた未来の日本。
だから救い方も「荒野を元へ戻す」ではなく、
未来で知った破滅を現代から一つずつ消し、
滅びた2018年そのものを存在させないことだった。


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