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【これ描いて死ね】手島先生はなぜ「漫画で描きたい100のコト」を消した?漫画家を諦めた過去と安海へ渡したノート

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「漫画で描きたい100のコト」を消した跡は、手島零が漫画を嫌いになった証拠ではない。23歳でへびちか先生のアシスタントまで経験し、自分の作品を商業漫画へ持ち込むほど漫画家を目指した手島が、思うように結果を残せず、その夢から距離を置いた時間が残った跡だった。だからこそ第8話で、そのノートを捨てずに安海相へ渡した場面は、昔の手島が持っていた「描きたい」を次の世代へ渡す場面として効いてくる。

  1. 第1章 手島先生が「漫画で描きたい100のコト」を消したのは、漫画への気持ちまで消えたからではない
    1. 一度消した文字なのに、ノートそのものは捨てていなかった
    2. 昔の自分から距離を取っても、漫画へ向かう生徒は放っておけなかった
  2. 第2章 23歳の手島零は本気で漫画家になろうとしていた
    1. 憧れのへびちか先生の仕事場へ入り、漫画だけを見て走っていた
    2. 一年後、手島はアシスタントとして成長しても自分の漫画では苦しんだ
  3. 第3章 へびちか先生の仕事場で手島が見たのは、憧れだけではなかった
    1. 大好きな漫画家のそばに立った瞬間、仕事の厳しさまで見えるようになった
    2. 憧れのへびちか先生を「倒したい」と思うまで、手島の見方が変わった
  4. 第4章 手島は漫画家を目指しても「描きたい」だけでは進めなかった
    1. アシスタントとして上達しても、自分の漫画は簡単に前へ進まなかった
    2. へびちか先生を越えようとした手島にも、その先には商業漫画の厳しさが待っていた
  5. 第5章 「漫画で描きたい100のコト」を消したあとも、手島は漫画から離れ切れなかった
    1. 第1話で安海の漫画を没収した手島は、漫画そのものを嫌っていたわけではない
    2. 昔の自分から距離を取っても、漫画へ向かう生徒を見ると放っておけなかった
  6. 第6章 コミティアで昔の自分を思い出した手島は、安海へ過去の続きを渡した
    1. 第6話のコミティアが、手島の漫画家時代をもう一度目の前へ連れてきた
    2. 自分では続きを書かなかったノートを、次に描こうとしている安海へ渡した
  7. 第7章 消した「100のコト」を安海へ渡したことで、手島の過去はそこで終わらなかった
    1. 手島は自分では続きを書かなかったが、ノートそのものは手放さなかった
    2. 手島が止まった場所から、安海の「描きたい」が先へ進んでいく

第1章 手島先生が「漫画で描きたい100のコト」を消したのは、漫画への気持ちまで消えたからではない

一度消した文字なのに、ノートそのものは捨てていなかった

第8話で安海相が受け取ったノートには、
一度消された「漫画で描きたい100のコト!!!」が残っていた。
今の手島先生から見ると、
かなり勢いのある言葉になる。
でも第7話を見たあとなら、
これを書いた頃の手島が見えてくる。

23歳の手島は、
金剛寺の勧めでへびちか先生のアシスタントへ入る。
大ヒット漫画『スイートへびいちご』の制作現場に入り、
憧れの漫画家本人を前にして大興奮する。
現在の落ち着いた教師姿とは違い、
自分も漫画家になることを本気で目指していた。

だから、
「漫画で描きたい100のコト」という言葉も自然になる。
描いてみたい場面。
使ってみたい題材。
いつか作品にしたい話。
若い手島には、
そうした物が次々に浮かんでいたはずだった。

ところが第8話では、
その言葉が消されている。
百個の「描きたい」を集めようとした人が、
後になって自分で文字を消した。
漫画家の道から離れた時間が、
その消し跡に重なって見える。

ただし、
ノートそのものは残していた。
昔を完全に捨てたかったなら、
処分することも出来た。
それでも手島は持ち続け、
第8話で安海へ渡している。
ここがかなり大きい。

第1話では、
授業中に漫画を読む安海から本を没収する。
第2話では、
漫研を作りたい安海に「まず一本描く」ことを求める。
漫画を簡単な遊びとして扱わせず、
最後まで作る苦労を経験させている。

第7話の過去を知ると、
この厳しさも違って見える。
手島自身が、
線を引き、
背景を描き、
何度も直され、
自分のネームでも苦しんできた。
漫画を作る大変さを知っているから、
安海にも軽い気持ちだけでは進ませない。

それでも安海が描き続けると、
手島の態度も少しずつ変わる。
第4話では漫画制作の基礎を教える。
第6話ではコミティアへ同行する。
そして第8話では、
昔の自分が使っていたノートまで渡す。

文字は消した。
でもノートは残した。
自分では続きを書かなかった。
でも、
次に描こうとしている安海へ渡した。
手島の漫画への気持ちは、
消えたのではなく形を変えて残っていた。

昔の自分から距離を取っても、漫画へ向かう生徒は放っておけなかった

第7話の手島は、
最初から漫画に冷めていた人ではない。
へびちか先生の仕事場へ入った時には、
憧れの漫画家の近くで働けることを喜んでいる。
漫画家になる未来を、
かなり強く信じていた。

しかし現場では、
線一本から厳しく見られる。
背景を描けば、
実際の建物や雨どいをちゃんと見ろと求められる。
手島は眼鏡をかけ、
空や川や犬まで細かく見るようになる。
この経験が、
第8話で安海へ島を見るよう勧める姿につながる。

現在の手島は、
漫画家にはなっていない。
それでも第1話から、
安海が漫画へ向かうたびに反応している。
第2話では一本描かせ、
第4話では技術を教え、
第6話ではコミティアへ付き添う。

第6話の帰りの船では、
楽しそうな漫研の姿を見ながら、
23歳だった頃の自分を思い出す。
そこから第7話の長い回想へ入り、
へびちか先生の仕事場で過ごした時間が蘇る。

そして第8話。
次の漫画が思いつかず止まった安海へ、
昔のノートを渡す。
第6話で過去を思い出し、
第7話でその時代が描かれ、
第8話で過去の品が安海へ渡る。
この流れはかなり自然につながっている。

手島は漫画家の道を離れた。
でも、
漫画を嫌いになったわけではない。
昔の経験も、
描く時に覚えたことも、
今の手島の中に残っている。

だから、
「100のコト」を消したことより、
そのノートを捨てずに残したことの方が重要になる。
手島は昔の夢を続けなかった。
それでも、
その夢から得た物を安海へ渡すことは出来た。

第2章 23歳の手島零は本気で漫画家になろうとしていた

憧れのへびちか先生の仕事場へ入り、漫画だけを見て走っていた

第7話で描かれる23歳の手島は、
現在とはかなり違う。
教師ではなく、
自分自身が漫画家を目指している。
金剛寺の勧めで、
憧れのへびちか先生のアシスタントへ入る。

大ヒット漫画『スイートへびいちご』の制作現場。
目の前には原稿がある。
先輩アシスタントの寺村七がいる。
そして、
ずっと憧れていたへびちか先生本人がいる。

最初の手島は、
その場所にいるだけで興奮している。
自分もここで技術を覚えたい。
漫画家へ近づきたい。
いつか自分の作品を出したい。
「描きたい100のコト」を書くような勢いは、
この頃の手島なら十分に納得出来る。

ただ、
仕事場へ入ると現実も見える。
へびちか先生は、
必要がないと判断すれば完成間近の背景まで変える。
アシスタントが時間をかけても、
作品に合わなければ残さない。

手島自身も、
最初から戦力になれたわけではない。
大量に線を引く。
背景を描く。
直される。
また描く。
物をちゃんと見なければ、
それらしい絵にもならない。

それでも手島は逃げない。
眼鏡をかけ、
周囲をよく見る。
建物。
空。
川。
犬。
日常の物を、
漫画へ持ち込むために観察するようになる。

この経験があるから、
第8話で安海へ、
伊豆王島を見て回るよう勧められる。
手島自身も、
描けない時に頭の中だけを見るのではなく、
現実をよく見ることを覚えていた。

一年後、手島はアシスタントとして成長しても自分の漫画では苦しんだ

一年後、
手島はアシスタントとして成長している。
背景も任される。
仕事場の戦力にもなっている。
それでも、
自分の漫画は簡単には進まない。

手島は連載を目指し、
自分のネームも作っていた。
へびちか先生から意見をもらう。
金剛寺からも助言を受ける。
良くしようとして、
その言葉を次々に入れていく。

直す。
足す。
また直す。
でも全部を入れた結果、
自分が何を描きたかったのか分かりにくくなる。
商業漫画として良くしようとするほど、
自分の漫画が薄くなっていく。

さらに、
へびちか先生の最終回制作では、
手島が描いた背景まで使われなくなる。
時間をかけた仕事が消える。
腹が立つ。
それでも、
描き直された完成原稿を見ると良いことが分かる。

そこではっきりする。
へびちか先生は、
作品を良くするためなら捨てられる。
手島は、
その強さを目の前で見る。
憧れているだけでは、
同じ場所へは行けない。

そこで手島は、
周囲の意見を入れ過ぎて歪んだネームを壊す。
そして、
へびちか先生を漫画で倒すくらいの気持ちで、
もう一度自分の作品へ向かう。

第7話の「殺すつもりで描こう」は、
この手島の覚悟につながっている。
憧れの先生を見上げるだけでは終わらない。
自分の漫画で、
真正面から越えようとした。

この23歳の手島を見たあとで、
第8話の消された「100のコト」を見ると重さが変わる。
これほど漫画家になりたかった人が、
後にその言葉を自分で消している。

だから気になるのは、
手島が漫画を嫌いになったかどうかではない。
あれほど描きたかった手島が、
どこで自分の夢から距離を取ったのか。
そして、
なぜ昔のノートだけは残していたのか。
第7話と第8話は、
そこできれいにつながっている。

第3章 へびちか先生の仕事場で手島が見たのは、憧れだけではなかった

大好きな漫画家のそばに立った瞬間、仕事の厳しさまで見えるようになった

第7話の手島は、
金剛寺の勧めで、
憧れのへびちか先生の仕事場へ入る。
大ヒット漫画『スイートへびいちご』を描く本人の近くで、
アシスタントとして働けることになった。
23歳の手島は、
完全に浮き立っていた。

それまで手島にとって、
へびちか先生は遠くにいる憧れの漫画家だった。
作品を読む。
すごいと思う。
自分もこんな漫画を描きたいと思う。
その相手が、
目の前で原稿を描いている。

仕事場には、
先輩アシスタントの寺村七もいる。
手島はそこで、
ただ漫画を読むだけでは分からなかった世界へ入る。
原稿を仕上げる。
背景を描く。
指示を受ける。
限られた時間の中で、
作品の一部を任される。

最初の手島は、
やる気に満ちている。
憧れの漫画へ直接関われる。
自分も漫画家へ近づいている。
そんな気持ちで、
目の前の仕事へ食らいついていく。

ところが、
へびちか先生は手島が想像していたような、
ただ優しく導いてくれる存在ではない。
完成に近づいた原稿でも、
必要がないと判断すれば変える。
アシスタントが時間をかけた背景でも、
作品に合わなければ使わない。

頑張った。
時間も使った。
丁寧に描いた。
だから残してもらえる。
漫画の現場では、
そんな保証はない。

手島自身も、
すぐに上手く描けるわけではなかった。
線を引く。
何度も引く。
またやり直す。
大量の練習を重ねながら、
少しずつ仕事を覚えていく。

特に手島へ残ったのが、
「物を見る」という経験だった。
建物を描くなら、
建物をちゃんと見る。
雨どいなら、
どんな形で付いているのかを見る。
頭の中だけで、
それらしい物を作らない。

手島は眼鏡をかけ、
周囲を以前より細かく見るようになる。
空。
川。
犬。
食べ物。
街の中にある物。
今まで普通に通り過ぎていた景色が、
漫画を描くための材料へ変わっていく。

この経験は、
第8話の手島先生にも残っている。
次の漫画が思いつかず困る安海へ、
机の前で考え続けろとは言わない。
まず伊豆王島を見て回るよう勧める。
自分が若い頃に覚えたことを、
今度は生徒へ渡している。

だから手島が安海へ渡した物は、
昔のノートだけではない。
漫画を描く時に、
何を見ればいいのか。
身近な物をどう拾えばいいのか。
第7話でへびちか先生から叩き込まれた感覚まで、
第8話へつながっている。

ただ、
その頃の手島にとっては苦しい。
憧れの人のそばへ来たのに、
自分との差まで見える。
同じ原稿へ向かっていても、
へびちか先生の判断は速い。
作品を良くするためなら、
昨日までの苦労まで簡単に切り捨てる。

手島は、
漫画家の世界へ近づいたことで、
漫画家になる大変さまで知ってしまった。
遠くから見ていた時なら、
「いつか自分も」と思えた。
でも近くへ行けば、
技術も判断も覚悟も全部見える。

それでも、
手島は逃げなかった。
アシスタントを続ける。
線を練習する。
背景を描く。
自分の漫画も作ろうとする。
憧れが壊れ始めても、
漫画家になる気持ちまでは消えていなかった。

憧れのへびちか先生を「倒したい」と思うまで、手島の見方が変わった

アシスタントを始めた頃、
手島にとってへびちか先生は、
ほとんど神様のような存在だった。
大好きな漫画を描いた人。
自分が追いかけてきた人。
同じ部屋にいられるだけでも、
嬉しくなる相手だった。

でも一緒に働けば、
へびちか先生も普通に食事をする。
眠る。
思いつきで指示を変える。
周囲を振り回す。
作品の外では、
完璧な人物ではない部分まで見えてくる。

手島はそこで、
少しずつ「憧れの先生」だけでは見なくなる。
漫画は圧倒的にすごい。
でも本人は、
自分と同じように生きている人間でもある。
この距離の近さが、
手島の気持ちを変えていく。

一年後。
手島は、
アシスタントとしてかなり仕事を任されるようになる。
背景も描ける。
原稿の一部を支えられる。
最初に何も分からず入った頃と比べれば、
明らかに成長している。

ところが、
自分の漫画となると上手くいかない。
手島は連載を目指して、
ネームを作っている。
へびちか先生から意見をもらう。
金剛寺からも意見をもらう。
良くしようとして、
言われた物を次々に入れていく。

直す。
足す。
また直す。
もっと良くしようとする。
でも、
全部を入れていくうちに、
ネームは少しずつ歪んでいく。

自分は何を描きたかったのか。
誰のために描いているのか。
どこが自分の漫画なのか。
周囲の言葉へ応えようとするほど、
最初に持っていた物が見えなくなる。

そんな中で、
へびちか先生の連載が最終回へ向かう。
手島も背景を担当する。
時間をかける。
技術も使う。
一年間で覚えた物を、
原稿へ入れていく。

ところが、
へびちか先生はその背景を使わず、
最後の数ページを描き直す。
手島にとっては、
かなり悔しい。
自分が積み上げた仕事が消える。
しかも一年働いたのに、
まだ新人のように扱われる。

腹が立つ。
納得したくない。
それでも、
描き直された最終回を見ると、
作品として強い。
自分の背景を捨てた判断が、
結果として漫画を良くしている。
そこが、
手島にはさらに悔しい。

へびちか先生は、
人の苦労を平気で消す。
周囲を振り回す。
漫画以外では、
理解しにくい部分も多い。
それなのに、
完成した作品は美しい。

手島は、
そこで憧れているだけでは駄目だと思い始める。
へびちか先生の言うことを聞くだけでは、
同じ場所へ行けない。
金剛寺の言葉を全部入れても、
自分の漫画にはならない。

だから、
それまで作っていたネームを壊す。
そして、
へびちか先生を漫画で倒すくらいの気持ちで、
もう一度描こうとする。
「出来るかどうか」ではない。
まず、
そこまで強く描こうと決める。

第7話の「殺すつもりで描こう」は、
ここにつながっている。
本当に誰かを傷つける話ではない。
憧れの相手を、
いつまでも見上げるだけでは終わらない。
自分の漫画で、
真正面から越えようとする。

手島は、
その気持ちを込めたネームを、
へびちか先生へ渡す。
最初に仕事場へ来た時の、
ただ興奮していた新人とは違う。
悔しさ。
技術。
一年間の経験。
自分で描く意志。
全部を持って、
一人の漫画家志望として向き合う。

第4章 手島は漫画家を目指しても「描きたい」だけでは進めなかった

アシスタントとして上達しても、自分の漫画は簡単に前へ進まなかった

第7話で苦しいのは、
手島が全く成長していないわけではないことになる。
むしろ、
アシスタントとしてはかなり伸びている。
最初は線一本から苦労していた。
一年後には、
背景を任されるところまで来ている。

仕事として漫画へ関われる。
プロの現場で動ける。
へびちか先生の作品を支えられる。
外から見れば、
漫画家への道を順調に進んでいるようにも見える。
でも手島が本当に欲しいのは、
アシスタントとして上手くなることだけではない。

自分の漫画を描きたい。
自分の名前で作品を出したい。
連載を持ちたい。
だから、
仕事の合間にもネームを作る。
ここで手島は、
別の壁へぶつかる。

一人で描いていた時なら、
自分が面白いと思う物を描けた。
でも商業漫画へ近づけば、
編集者の意見が入る。
へびちか先生の意見も入る。
読んでもらう作品として、
直す場所が増えていく。

手島は、
その意見を無視しない。
良くしようとする。
言われた物を入れる。
直す。
さらに別の指摘があれば、
また直す。

真面目に応えれば応えるほど、
自分の漫画が膨らんでいく。
良いと言われた物を足す。
駄目と言われた所を変える。
でも、
最後に残ったネームを見ると、
最初の自分が薄くなっている。

ここが、
「漫画で描きたい100のコト」ともつながってくる。
若い手島には、
描きたい物がたくさんあった。
でも仕事として漫画へ進むほど、
「描きたい」だけでは済まなくなる。
読者に届くか。
連載になるか。
編集者が通すか。
別の条件が増えていく。

好きな物を描く。
それだけなら楽しい。
でも漫画家として続けるなら、
結果も必要になる。
原稿を完成させる。
読まれる。
次の仕事へつながる。
その全部が、
自分の「描きたい」と同じ方向へ向くとは限らない。

手島は、
へびちか先生のそばで、
その現実を毎日見ている。
作品のためなら、
完成した背景まで捨てる。
昨日まで良かった物でも、
今日さらに良い案が出れば変える。
漫画を守るために、
人の苦労まで切る。

若い手島には、
そこまで簡単には出来ない。
自分の漫画も大事。
周囲からもらった意見も大事。
せっかく作った物も捨てたくない。
その全部を抱えるから、
ネームが歪んでいく。

でもへびちか先生は違う。
必要な物だけを残す。
不要なら消す。
最終的に、
漫画が一番良くなる方を選ぶ。
手島はその差を、
一番近い場所で見せられている。

だから第7話は、
単に「漫画の仕事は大変だった」という話では終わらない。
手島は、
漫画を描く技術だけではなく、
何を捨てるかまで迫られている。
描きたい物を全部持つだけでは、
一本の漫画にならないことも知る。

へびちか先生を越えようとした手島にも、その先には商業漫画の厳しさが待っていた

手島は、
へびちか先生を越えたいと思うところまで進む。
これは大きな変化になる。
最初は憧れていた。
仕事場へ入れただけで喜んでいた。
でも一年後には、
自分の漫画で倒したいと思っている。

その瞬間だけ見れば、
手島の漫画家への気持ちは以前より強い。
自分のネームを壊す。
もう一度描く。
へびちか先生へ差し出す。
他人の意見を全部足した漫画ではなく、
自分の意志を前へ出そうとする。

へびちか先生も、
その手島をただの新人としては見なくなる。
「頑張って殺してね」と返す。
手島が、
同じ漫画を描く側へ一歩踏み出したことを受け止める。
第7話の終盤では、
二人の距離が最初とはかなり変わっている。

ただ、
ここで漫画家として成功したわけではない。
第1話の現在を見ると、
手島は伊豆王島で教師をしている。
自分の連載を持つ漫画家として、
安海たちの前へ現れたわけではない。
どこかで、
漫画家を目指す道から離れている。

ここが、
第8話の「100のコト」へつながる。
へびちか先生を倒すつもりで描いた。
自分の漫画を取り戻そうとした。
それほど強く漫画へ向かった人でも、
最後までその道を歩けるとは限らない。

漫画家を目指すなら、
一本良いネームを描けば終わりではない。
次も描く。
さらに次も描く。
読者に読まれる。
仕事として続ける。
何度も同じ壁へ向かわなければならない。

手島は、
漫画を嫌いになったから離れたのではない。
少なくとも、
現在の行動を見る限り、
漫画への知識も熱も残っている。
安海の原稿を見る。
漫研を指導する。
コミティアにも同行する。

だからこそ、
「漫画で描きたい100のコト」を消した跡が苦い。
描きたい物がなくなったというより、
それを全部自分で描いていく未来から、
一度離れたことが見えてくる。

第7話の手島には、
まだ勢いがある。
へびちか先生を越える。
自分の漫画を描く。
漫画家になる。
その気持ちが、
前へ向かっている。

第8話のノートには、
その頃の熱が文字として残っている。
でも、
その上から消した跡がある。
昔の自分を否定したかったのか。
夢を見続けるのが苦しくなったのか。
少なくとも、
同じ場所へ戻らないと決めた時間があったことは感じられる。

それでも、
ノートは残した。
そして今度は、
安海へ渡した。
ここから手島の物語は、
「漫画家になれなかった人」だけでは終わらなくなる。
自分が描き続けなかった物を、
描き始めた生徒へ渡す側へ変わっていく。

第5章 「漫画で描きたい100のコト」を消したあとも、手島は漫画から離れ切れなかった

第1話で安海の漫画を没収した手島は、漫画そのものを嫌っていたわけではない

第1話の手島先生は、
安海相に対してかなり厳しい。
登校途中から『ロボ太とポコ太』を読み、
授業中にも漫画を開いていた安海から、
その漫画を取り上げる。
安海はそこで、
大好きな漫画そのものまで否定されたように感じて落ち込む。

この時の手島だけを見ると、
漫画に冷たい教師にも見える。
漫画ばかり読んでいる安海を止める。
授業中なら没収する。
漫画研究会を作りたいと言われても、
すぐに「いいよ」とは言わない。
安海の熱に、
最初から乗ってくれる人物ではない。

でも第2話になると、
手島の態度が少し見えてくる。
安海と赤福幸が漫画研究会を作りたいと申し出ると、
手島は設立条件を出す。
その条件が、
安海自身で漫画を一本描くことだった。
読むだけではなく、
最後まで作ってみろと求める。

これは、
漫画をどうでもいいと思っている人の条件ではない。
一本の漫画を作る大変さを知っているからこそ、
安海にも実際に描かせる。
思いつくだけでは終わらない。
絵を描く。
話を進める。
最後まで完成させる。
その苦労を経験させている。

第3話では、
安海が完成させた『ネコ太とニャン太』を持ち、
部員を探して各部室を回る。
その一方で手島は、
自分が漫画家を目指していた頃を思い出している。
安海が漫画の世界へ入っていくほど、
手島自身の過去も少しずつ近づいてくる。

第4話になると、
手島は漫研へ漫画制作の基礎まで教える。
藤森心は元々絵が上手い。
一方の安海は、
思うように描けず苦しむ。
その二人を前にして、
手島はただ好きに描かせるのではなく、
漫画を作る時に必要なことを具体的に教えていく。

昔の手島も、
第7話で同じような苦労をしている。
へびちか先生の仕事場へ入ったばかりの頃、
線を引くことから始めた。
背景を描けば、
見方が甘いと指摘される。
建物も雨どいも、
実物を見なければ描けないことを覚えた。

だから今の手島は、
安海が漫画制作で詰まる場所を知っている。
好きなだけでは進めない。
上手く描けなくて嫌になる時もある。
誰かと比べて落ち込む時もある。
一本完成させても、
次に何を描けばいいか分からなくなる時まである。

手島自身が、
全部一度通ってきた道になる。
その経験があるから、
安海に簡単な励ましだけを渡さない。
第2話では一本描かせる。
第4話では基礎を教える。
第8話では、
伊豆王島を見て回るよう勧める。

手島が漫画家を目指した過去を知ると、
第1話の厳しさも違って見える。
漫画を嫌っているから止めたのではない。
漫画が簡単な物ではないと知っている。
安海の「好き」が、
憧れだけで終わるのか。
本当に描くところまで行くのか。
そこを見ていたようにも感じられる。

そして安海は、
実際に描き始めた。
一本完成させた。
部員を集めた。
藤森や石龍と漫画を作った。
第6話では、
自分たちの作品を持ってコミティアまで行った。
手島の前で、
漫画への熱を行動へ変え続けている。

ここまで来ると、
手島も昔の自分を無視出来なくなる。
自分も漫画が好きだった。
自分も描いた。
自分もコミティアへ行った。
自分も誰かに読んでもらいたかった。
安海たちを見ているだけで、
昔の記憶が何度も重なってくる。

「漫画で描きたい100のコト」を消したあとも、
その部分までは消えなかった。
教室で漫画を没収する今の手島と、
へびちか先生の仕事場で必死に描いていた23歳の手島。
二人は別人ではない。
第1話から第8話まで、
漫画への感情はずっと残り続けている。

昔の自分から距離を取っても、漫画へ向かう生徒を見ると放っておけなかった

手島先生は、
安海たちへ何でも優しくしてくれる先生ではない。
漫画研究会を作りたいと言われても条件を出す。
制作を始めれば、
漫画は簡単ではないことを教える。
安海が好きだからというだけで、
全部を肯定するわけではない。

ただ、
本当に困った時には手を出している。
第4話では、
手島の旧友である寺村七が営む貸本店の一室を、
漫研の部室として使えるようになる。
安海たちはそこで、
漫画を描く場所を手に入れる。
手島の過去の人間関係まで、
現在の漫研へつながっていく。

寺村七は、
第7話の手島の過去にも登場する人物になる。
へびちか先生の仕事場で、
手島と一緒に漫画制作へ関わっていた。
つまり手島は、
漫画家を目指していた頃の縁を、
完全に切っていたわけでもない。

昔の仲間がいる。
漫画の知識も残っている。
コミティアへ行けば、
自分が頒布した時のことを思い出す。
漫画をやめたあとも、
周囲には漫画家時代につながる物が残っている。

第6話では、
その記憶がかなり強く戻ってくる。
王島南高校漫研のメンバーは、
おそろいのTシャツを着て、
初めてコミティアへ参加する。
安海と藤森がブースへ残り、
手島先生と赤福は会場を回る。

その途中で手島は、
かつて自分が同じ場所で、
初めて作品を頒布した日のことを思い出す。
今目の前にいる安海たちと、
若い頃の自分が重なる。
コミティアという場所が、
昔閉じたはずの記憶を直接引き出している。

安海と藤森は、
ブースに漫画を並べてもなかなか売れない。
目の前を人が通る。
足を止めてもらえない。
二人は焦る。
第6話のコミティアは、
ただ楽しい遠足では終わらない。

手島自身も、
同じ場所で作品を頒布した経験がある。
作れば読まれるわけではない。
持っていけば売れるわけでもない。
知らない人に自分の漫画を見てもらう怖さもある。
安海たちの苦戦を見れば、
昔の自分を思い出さずにはいられない。

そしてコミティアからの帰りの船。
第7話は、
手島が漫研のメンバーを眺めるところから始まる。
安海たちの姿が、
かつて漫画家を目指していた自分と重なる。
そこから23歳の秋へ、
記憶が大きく戻っていく。

へびちか先生の仕事場。
寺村七。
大量の練習線。
背景制作。
自分のネーム。
金剛寺からの助言。
そして、
「殺すつもりで描こう」と思うところまで進んだ自分。

それだけ強い記憶が、
安海たちを見ただけで戻ってくる。
つまり手島は、
昔の漫画家志望時代を忘れていたわけではない。
普段は出さないようにしていただけで、
かなり深い場所に残っていた。

第8話で、
その手島が昔のノートを安海へ渡す。
ここまでの流れを見ると、
突然の行動ではない。
第6話でコミティアへ戻る。
第7話で昔の自分を思い出す。
その直後、
第8話で過去のノートを取り出す。

手島の中でも、
閉じていた漫画との距離が少しずつ変わっている。
自分がもう一度漫画家になる話ではない。
でも、
安海が漫画を描こうとしているなら、
昔の自分が持っていた物を渡せる。
そこまで近づいている。

第6章 コミティアで昔の自分を思い出した手島は、安海へ過去の続きを渡した

第6話のコミティアが、手島の漫画家時代をもう一度目の前へ連れてきた

第6話は、
安海たちにとって初めてのコミティアになる。
でも手島先生にとっては、
「初めて」ではない。
会場を歩けば、
昔ここで漫画を頒布した自分がいる。
現在と過去が、
同じ場所で重なる回になっている。

安海と藤森は、
自分たちのブースへ残る。
緊張しながら、
作った漫画を机に並べる。
手島と赤福は、
会場の中を回っていく。
そこで手島の記憶が動き始める。

昔の手島も、
漫画を描いていた。
完成させた作品を持って、
コミティアへ行った。
読者が目の前にいる場所へ立った。
今の安海たちと、
同じ種類の緊張を経験している。

第1話では、
安海が☆野0の新作を求めて、
コミティアへ行きたいと願っていた。
第6話では、
その安海自身が漫画を持って会場へ立つ。
手島は、
その変化を一番近くで見てきた人物でもある。

第2話で初めて一本描かせた。
第3話では、
『ネコ太とニャン太』を持って部員集めをする姿を見た。
第4話では、
藤森と一緒に漫画制作へ苦しむ姿も見た。
第5話では、
漫研全員でコミティアを目指す流れに関わった。

そして第6話。
本当に会場まで来た。
安海は、
口だけで「漫画家になりたい」と言っているわけではない。
描く。
失敗する。
また描く。
作品を持って外へ出る。
手島が昔歩いた道へ、
安海も足を踏み入れている。

だから帰りの船で、
手島は自分の過去を思い出す。
第7話では、
そこから23歳の秋へ戻る。
憧れのへびちか先生の仕事場。
最初は大興奮していた手島。
そこから、
厳しい漫画制作の日々が始まる。

線を引く。
背景を描く。
物を見る。
直される。
また描く。
一年後には、
自分の連載用ネームでも苦しんでいる。

手島は、
漫画を描く楽しさだけではなく、
その先にある痛みまで経験している。
だから現在では、
安海たちへ簡単に夢だけを語らない。
でも同時に、
本気で描き続ける人間を放ってもおけない。

コミティアから帰ったあと、
その気持ちはさらに強くなる。
安海たちを見て、
昔の自分を思い出してしまった。
一度閉じた過去が、
もう完全には閉じなくなっている。

そこで第8話へ進む。
安海が、
次の漫画を思いつけなくなる。
コミティアまで走り切ったあと、
何を描けばいいのか分からない。
手島には、
その状態も分かる。

自分も、
描きたい物がたくさんあった。
でも自分の漫画で悩んだ。
他人の意見を入れ過ぎて、
何を描きたいのか分からなくなった時もある。
第7話で描かれた苦しさが、
第8話の安海と重なる。

だから手島は、
完成した話を安海へ教えない。
代わりに、
伊豆王島を見て回るよう勧める。
さらに、
昔使っていたノートを渡す。
そこに残っていたのが、
消された「漫画で描きたい100のコト!!!」だった。

自分では続きを書かなかったノートを、次に描こうとしている安海へ渡した

手島が安海へ渡したノートは、
新品ではない。
昔使っていた物になる。
しかも、
中には自分で消した文字が残っている。
「漫画で描きたい100のコト!!!」
若い手島の勢いが、
そのまま残ったような言葉になる。

第7話の23歳の手島なら、
この言葉はよく似合う。
へびちか先生の仕事場へ入り、
漫画家になるために必死で働く。
自分のネームも作る。
憧れの先生を、
漫画で越えたいとまで思う。

その手島が、
いつか文字を消した。
漫画家になる道からも離れた。
現在は、
伊豆王島で国語教師をしている。
自分が百個の「描きたい」を、
漫画にし続ける人生は選ばなかった。

でも、
ノートは捨てなかった。
第8話まで残っていた。
そして、
そのまま自分で持ち続けるのではなく、
安海へ渡した。

ここが大きい。
手島は、
昔の自分の続きを自分でやり直すわけではない。
「やっぱり漫画家になる」と言い出すわけでもない。
安海が困っている時に、
昔の自分が使った物を手渡す。

第2話では、
安海に「一本描け」と課題を出した。
第4話では、
漫画制作の基礎を教えた。
第6話では、
コミティアへ同行した。
そして第8話では、
自分の過去そのものに近いノートまで渡す。

手島と安海の関係も、
少しずつ変わっている。
最初は、
漫画を没収する教師と漫画好きの生徒だった。
次に、
漫画を描く厳しさを教える教師になる。
さらに、
同じように描いて苦しんだ経験を持つ人として、
安海を支えるようになる。

安海は、
ノートに残った消し跡を見つける。
そこには、
手島が昔「描きたい」と思っていた時間がある。
一方で、
その文字を消した時間もある。
一冊の中に、
手島の熱と挫折の両方が残っている。

それを安海へ渡すのは、
かなり象徴的な行動になる。
手島自身は、
そのページの続きを書かなかった。
でも安海なら、
新しい「描きたい」を増やせる。
昔の手島が止まった場所から、
別の人が先へ進める。

第7話で、
手島はへびちか先生から多くを受け取った。
線の引き方。
物を見ること。
漫画へ向かう厳しさ。
憧れるだけではなく、
自分で描かなければならないこと。
その経験は、
漫画家をやめたあとも残った。

第8話では、
今度は手島が渡す側になる。
へびちか先生から受け取った物。
自分で失敗して覚えた物。
漫画を諦めた時の痛み。
それらを長い説明ではなく、
安海への行動として返している。

だから、
「100のコト」のノートは、
ただのネタ帳では終わらない。
23歳の手島が持っていた熱。
漫画家の現場で受けた衝撃。
一度その夢から離れた現在。
全部を通って、
安海の手元へ来た物になる。

手島が文字を消したことで、
昔の夢はいったん止まった。
でもノートを安海へ渡したことで、
そこに書かれていた「描きたい」は、
別の形で先へ進み始める。
第6話から第8話までを見ると、
手島の過去が安海の未来へ渡っていく流れがはっきり見えてくる。

第7章 消した「100のコト」を安海へ渡したことで、手島の過去はそこで終わらなかった

手島は自分では続きを書かなかったが、ノートそのものは手放さなかった

第8話で安海が受け取ったノートには、
一度消された「漫画で描きたい100のコト!!!」が残っている。
若い手島が、
漫画家を本気で目指していた頃の熱が、
消し跡の向こう側に見える。

第7話の23歳の手島は、
へびちか先生の仕事場で必死に描いていた。
線を引く。
背景を描く。
物をよく見る。
自分のネームも作る。
漫画家として前へ進むことしか見ていなかった。

しかも、
ただ憧れていただけではない。
一年後には、
へびちか先生を漫画で越えたいと思うところまで進む。
「殺すつもりで描こう」と考え、
自分のネームをもう一度作り直す。
漫画への気持ちは、
かなり強かった。

だからこそ、
後に「漫画で描きたい100のコト」を消したことが重い。
百個も描きたい物を書こうとしていた人が、
その文字を自分で消した。
漫画家として続ける道からも離れた。
伊豆王島へ戻り、
現在は教師として暮らしている。

でも、
ノートごとは捨てなかった。
第8話まで持っていた。
何年経っても、
昔の自分が使った物を残していた。
そこには、
手島の中で漫画が完全には終わっていなかったことが見える。

第1話では、
安海の漫画を没収する。
第2話では、
漫研を作りたい安海に一本描かせる。
第4話では、
漫画制作の基礎を教える。
第6話では、
コミティアへ同行する。

こうして見ると、
手島はずっと漫画の近くにいる。
自分では漫画家を続けなかった。
でも、
安海たちが漫画へ向かえば、
そのたびに何かを返している。

第6話のコミティアでは、
安海たちを見ながら、
自分が作品を頒布した頃を思い出す。
帰りの船から始まる第7話では、
その記憶が23歳の秋まで戻る。
へびちか先生の仕事場。
寺村七。
金剛寺。
自分のネーム。
全部が一気に蘇る。

そしてその直後、
第8話で安海が次の漫画を思いつけなくなる。
手島は、
その悩みを軽く扱わない。
「そのうち思いつく」と流さない。
伊豆王島を見て回るよう勧め、
昔のノートまで渡す。

この行動には、
手島自身の経験がそのまま入っている。
若い頃、
へびちか先生から物を見ることを教わった。
頭の中だけで描かない。
建物を見る。
空を見る。
犬を見る。
身近な物までちゃんと見る。

今度は、
その経験を安海へ返している。
手島が昔学んだことを、
安海が新しい漫画へ使う。
手島自身は漫画家の道を離れた。
でも、
そこで覚えた物までは消えていない。

「100のコト」の文字を消した時、
手島は昔の自分と距離を取ったのかもしれない。
でも、
そのノートを安海へ渡した時、
今度は昔の自分を完全には否定しなくなっている。
過去を隠すのではなく、
別の人が使える物として差し出している。

手島が止まった場所から、安海の「描きたい」が先へ進んでいく

第8話で大事なのは、
手島が昔の夢を取り戻すことではない。
もう一度漫画家になる。
昔の続きを自分で描く。
そういう話には進まない。

代わりに、
安海がいる。
第1話では、
『ロボ太とポコ太』を読むだけだった少女。
第2話では、
初めて一本の漫画を完成させた。
第3話では、
『ネコ太とニャン太』を持って部員を探した。

第4話では、
藤森や石龍との実力差も見えた。
第5話では、
漫研のみんなでコミティアを目指した。
第6話では、
自分たちの漫画を机に並べ、
知らない読者へ届けようとした。

その安海が、
第8話で初めて大きく止まる。
次に何を描けばいいか分からない。
描きたい気持ちはある。
でも、
具体的な物が出てこない。

そこで手島のノートが渡る。
昔の手島も、
描きたい物をたくさん持っていた。
その気持ちを、
「100のコト」という形で書こうとしていた。
でも途中で、
その文字を消した。

今度は安海が、
その続きを受け取る。
手島と同じ物を書く必要はない。
手島が昔描きたかった話を、
安海が代わりに描くわけでもない。
ノートに残った考え方だけを、
自分の漫画へ使っていく。

ここが継承としてかなり強い。
漫画そのものを渡すのではない。
完成したネームでもない。
「描きたい物を見つけて残す」という、
漫画へ向かう最初の気持ちを渡している。

第7話では、
へびちか先生が手島へ厳しく教えた。
物を見ろ。
線を引け。
描き直せ。
自分で考えろ。
手島は、
その経験を何年も抱えてきた。

第8話では、
手島が安海へ同じ種類の物を返す。
ただし、
へびちか先生のように強く押しつけない。
島を見て回るよう勧める。
ノートを渡す。
あとは安海自身に任せる。

手島は、
自分が描けなかった続きを、
安海に完成させろとは言わない。
自分の夢を背負わせることもしない。
ただ、
次へ進むための道具だけ渡す。
その距離感も、
今の手島らしい。

だから第8話のノートは、
「昔の夢の残骸」だけではない。
第7話までを見ると、
手島が漫画家を目指した時間そのものが詰まっている。
そして第8話では、
それが安海の次の一歩へ使われる。

手島は、
「100のコト」を消した。
でも、
描きたい物を探す感覚までは捨てなかった。
だから安海が止まった時、
自分の過去を使って助けられた。

第1話では、
安海の漫画を取り上げる側だった。
第8話では、
自分のノートを渡す側になる。
この変化を見ると、
手島と安海の関係もかなり遠くまで進んでいる。

漫画家を諦めた手島。
これから漫画を描こうとする安海。
二人は、
同じ場所には立っていない。
でも第8話で、
一冊のノートによって線がつながる。

手島が止まった場所から、
安海は先へ進む。
昔の手島が書いた「描きたい」は、
そのまま消えて終わらなかった。
別の人の「描きたい」を増やす物として、
もう一度使われ始める。

だから「漫画で描きたい100のコト」を消した場面は、
手島の挫折だけを示すものではない。
消したあとも残した。
残したあとに安海へ渡した。
そこまで見て初めて、
手島の過去が現在へつながってくる。

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