洋輔は稲子を「マイハニー」と呼び、婚約者として強く自分の側へ置こうとするが、その行動を追うほど電氣目録への執着も同じくらい強く見えてくる。
百川家への融資と結婚を結びつけ、第7話では稲子が結納から逃げれば追いかける――洋輔の中では「稲子が欲しい」と「目録が欲しい」が簡単には切り離せない。
第1章 結論|洋輔は稲子へ執着しているが、純粋な恋愛だけでは説明しにくい
「マイハニー」と呼ぶ一方で、婚約そのものが電氣目録へ近づく手段になっている
三添洋輔は、
稲子へまったく気持ちがない人物には見えない。
実際に彼は稲子を「マイハニー」と呼び、
すでに自分の婚約者であるかのように接している。
逃げようとすれば追う。
別の男と行動していれば、
その存在も無視しない。
ただし、
その態度をそのまま恋愛感情だけで説明すると、
どうしても引っ掛かる部分が残る。
洋輔と稲子の関係は、
最初から恋愛だけで始まったわけではない。
三添家と百川家の事情があり、
百川家への融資と結婚が結びついている。
稲子自身が洋輔を好きになり、
二人で将来を決めた婚約ではない。
そこへさらに、
電氣目録が絡んでくる。
洋輔は、
電氣目録を手に入れることへ強く執着している。
稲子と結婚しようとする動きも、
百川家へ近づくことも、
目録を追う行動と重なっている。
だから見ている側には、
どうしても疑問が残る。
洋輔が本当に欲しいのは、
稲子なのか。
それとも、
稲子と結婚することで近づける電氣目録なのか。
この二つが、
最初から綺麗には分かれていない。
第2話で洋輔が稲子へ向ける
「マイハニー」という呼び方だけを聞けば、
かなり親しげに見える。
むしろ自信満々に婚約者を愛している男にも聞こえる。
しかし実際の稲子は、
その呼び方を喜んで受け入れているわけではない。
洋輔との結婚を望み、
早く三添家へ嫁ぎたいと考えているわけでもない。
むしろ稲子は、
洋輔との婚約から逃れようとしている。
ここに大きな食い違いがある。
洋輔は、
稲子を自分の「ハニー」と呼ぶ。
稲子は、
洋輔の妻になる未来から逃げようとする。
同じ婚約を見ていても、
二人が立っている場所はまるで違う。
洋輔の言葉には、
稲子の気持ちを確認する姿勢があまり見えない。
好きなら、
相手がどう思っているかを気にする。
本当に自分と結婚したいのか。
何を嫌がっているのか。
どうすれば同じ方向を向けるのか。
普通なら、
そこへ意識が向く。
ところが洋輔の場合、
「稲子が自分と結婚する」という前提が先にある。
婚約が決まった。
ならば稲子は、
自分の側へ来る。
三添家の嫁になる。
そう考えているように見える。
そのため、
洋輔の稲子への感情には、
恋愛と同時に強い所有意識が混ざっている。
稲子を好きかどうか。
それだけなら、
おそらく「何も感じていない」とは言い切れない。
しかし、
稲子の自由を尊重する愛情なのかと聞かれると、
かなり怪しくなる。
自分の婚約者。
自分の未来の妻。
自分の側へいるべき存在。
そんな意識の方が、
先に見えてくる。
そして電氣目録まで重なる。
百川家。
稲子。
喜八。
電氣目録。
洋輔の中では、
これらが別々の問題ではなく、
一本の線でつながっている。
だからこそ、
稲子だけを純粋に見ているのかどうかが、
分かりにくい。
目録を手に入れたい。
稲子とも結婚したい。
百川家との関係も必要。
その全部を、
同時に手に入れようとしているように見える。
第7話で稲子が結納から逃げ出した時も、
洋輔はそのまま諦めない。
喜八と一緒に逃げたと知れば、
追いかける。
ここだけ見れば、
婚約者を奪われた男としての嫉妬にも見える。
だが喜八は、
ただの恋敵でもない。
電氣目録へ深く関わる人物でもある。
だから洋輔にとって喜八は、
二重に邪魔な存在になる。
稲子を連れていく男。
そして、
目録へ近い男。
これでは、
洋輔が喜八を追う時にも、
恋愛と目的がまた重なってしまう。
洋輔の厄介なところは、
「稲子には興味がなく、目録だけが目的」
と簡単に切れないところにある。
本当に目録だけなら、
稲子へあれほど婚約者として接する必要もない。
逆に、
稲子だけが大切なら、
目録へ向ける執着が強すぎる。
洋輔の中では、
どちらも欲しい。
だから行動が、
余計に分かりにくくなる。
稲子への気持ちはある。
しかし、
その気持ちは純粋な恋愛だけではない。
自分の妻にしたい。
手元へ置きたい。
そして、
電氣目録も手に入れたい。
洋輔の「マイハニー」という呼び方は、
甘い愛情表現に聞こえる一方で、
「稲子はすでに自分のものだ」という感覚まで含んでいるように見える。
そこに、
洋輔と稲子の関係の危うさがある。
第2章 第1話から婚約は対等ではない|百川家への融資と引き換えに稲子を求めた
二人の結婚は恋から始まったのではなく、家と金の事情から動き始めている
洋輔と稲子の関係を見るなら、
まず第1話まで戻る必要がある。
ここを飛ばして、
「マイハニー」という言葉だけを見ると、
二人が普通の婚約者同士に見えてしまう。
しかし実際は、
かなり違う。
三添家は、
蒸気機関によって大きな力を持つ家。
一方の百川家は、
酒造を営んでいる。
そして、
この二つの家の事情の中で、
稲子の結婚話が動いていく。
洋輔は、
百川家への融資と結びつける形で、
稲子との結婚を求める。
つまり、
最初から対等な恋愛ではない。
稲子が洋輔に惹かれた。
洋輔も稲子を好きになった。
二人で家族へ頭を下げ、
結婚を認めてもらった。
そういう順番ではない。
家の事情がある。
金の事情がある。
その中で、
稲子が三添家へ嫁ぐ話が進む。
稲子本人からすれば、
人生を家同士の都合で決められる感覚になる。
しかも彼女には、
自分でやりたいことがある。
外の世界へ目を向けたい。
夢を持ちたい。
自分の意思で未来を選びたい。
ところが婚約が進めば、
その未来は三添家の嫁という形へ固定されていく。
だから稲子は、
洋輔との結婚を素直に喜ばない。
ここが大きい。
洋輔は、
婚約が成立する方向へ動いている。
稲子は、
その婚約から逃れたい。
二人の感情は、
最初から同じ場所にない。
それでも洋輔は、
稲子を婚約者として扱う。
自分の妻になる女性。
三添家へ入る女性。
そういう目で見る。
稲子がどう感じているかより、
結婚が成立すること自体を先に見ているように映る。
ここで、
洋輔の恋愛感情が分かりにくくなる。
本当に稲子が好きなら、
なぜ彼女が嫌がっていることへ鈍いのか。
稲子が逃げようとしている。
自由を求めている。
婚約に喜んでいない。
その反応を見れば、
普通なら一度立ち止まる。
しかし洋輔は、
そこで婚約そのものをやめようとはしない。
むしろ、
稲子を自分の元へ戻そうとする。
ここには、
「好きだから相手の幸せを願う」という感情より、
「好きだから自分の側へ置きたい」という感覚の方が強く見える。
そして、
電氣目録の問題がさらに重なる。
洋輔は、
目録を探し続けている。
百川家へ近づくこと。
稲子と婚約すること。
喜八を追うこと。
その全部が、
目録への道ともつながっていく。
だから婚約そのものまで、
純粋な恋愛として受け取りにくい。
稲子と結婚すれば、
百川家との関係はさらに深くなる。
百川家が持っている情報にも近づける。
清六や喜八、
電氣目録へ続く線にも入り込みやすくなる。
洋輔にとって、
婚約には感情以上の利点がある。
ここが、
稲子にとってさらに苦しい。
自分自身を好きだから求められているのか。
百川家の娘だからなのか。
電氣目録へつながる存在だからなのか。
洋輔の行動だけでは、
境目がはっきり見えない。
それでも洋輔は、
「マイハニー」と呼ぶ。
この落差が強い。
言葉は甘い。
状況はかなり重い。
恋愛の言葉を使っているのに、
二人の関係の土台には、
融資と家同士の力関係がある。
だから稲子にとって、
「マイハニー」は甘い言葉として響かない。
むしろ、
すでに妻になることが決まっているように扱われる怖さすらある。
洋輔からすれば、
婚約はもう進んでいる。
稲子は、
未来の妻。
ならば、
親しげに呼んでもおかしくない。
しかし稲子からすれば、
その未来自体を選んでいない。
ここに、
二人の最大の温度差がある。
稲子が逃げようとするほど、洋輔の「好き」が相手より自分を向いているように見える
稲子が洋輔との結婚へ積極的なら、
二人の関係はここまで歪んで見えない。
問題は、
稲子が明確に逃げようとしていることになる。
喜八と出会い、
電氣目録を巡る出来事へ巻き込まれていく中で、
稲子は自分の人生を自分で選ぼうとする。
結婚だけが未来ではない。
家に決められた道だけを歩く必要もない。
その感情が、
少しずつ強くなっていく。
一方の洋輔は、
それをそのまま受け入れない。
稲子が自分から離れようとすれば、
追う。
この行動だけを見れば、
強い愛情にも見える。
好きだから、
離したくない。
婚約者だから、
取り戻したい。
しかし、
稲子側から見ると意味が変わる。
自分は離れたい。
それでも追ってくる。
自分の気持ちより、
洋輔の「結婚する」という意思の方が強い。
そこに、
一方通行の印象が生まれる。
第7話で稲子が結納から逃げ、
喜八と共に動く場面は、
その関係がさらに分かりやすくなる。
稲子にとっては、
自分の未来を取り戻すための行動になる。
洋輔にとっては、
決まっていた婚約を壊される出来事になる。
同じ逃走でも、
二人にとっての見え方は正反対。
そして洋輔は、
後を追う。
ここで改めて、
彼が稲子をどう見ているのかが問われる。
本当に好きなら、
なぜ彼女がそこまで逃げたいのかを考えないのか。
なぜ結婚したくないという感情より、
連れ戻すことを優先するのか。
この部分を見ると、
洋輔の気持ちは、
相手中心の愛情ではないように見えてくる。
稲子が好き。
しかし、
その「好き」は、
稲子の望む未来を叶えたいという方向ではない。
自分の未来の中に、
稲子がいてほしい。
自分の婚約者でいてほしい。
自分の側から離れてほしくない。
そんな感情に近い。
そしてその未来には、
電氣目録もある。
だから洋輔の執着は、
どこまで行っても二重になる。
稲子を失いたくない。
目録も失いたくない。
喜八に稲子を取られたくない。
喜八に目録へ先に近づかれたくない。
全部が同時に動いている。
ここが、
洋輔という人物の分かりにくさであり、
面白さでもある。
彼は、
稲子を完全に道具としてしか見ていないわけではない。
それなら、
あそこまで婚約者として執着する必要もない。
しかし、
稲子一人だけを見ているわけでもない。
家。
融資。
目録。
三添家。
喜八。
そうしたものが、
常に恋愛の周囲へ付いてくる。
だから第1話から見直すと、
「洋輔は稲子が好きなのか」という疑問に、
単純な答えは出しにくい。
気持ちはある。
ただし、
その気持ちはかなり自分本位。
さらに、
電氣目録への欲望まで混ざっている。
稲子から見れば、
愛されているというより、
選ばれてしまった感覚の方が近い。
洋輔の「マイハニー」が妙に軽く聞こえるのも、
この土台があるからになる。
甘い呼び方をしているのに、
稲子本人の気持ちは置き去り。
そこに、
二人の婚約が最初から噛み合っていないことが表れている。
第3章 第2話の「マイハニー」が妙に軽い|甘い呼び方と稲子への接し方が噛み合っていない
「手こずらせてくれたね、マイハニー」には愛情と所有意識の両方が見える
第2話で洋輔が稲子へ向ける
「マイハニー」という呼び方は、
二人の関係を象徴する言葉の一つになる。
耳だけで聞けば、
かなり甘い。
すでに仲の良い恋人同士。
そう受け取っても、
不思議ではない呼び方になる。
ところが実際の二人は、
そんな対等な関係ではない。
稲子は洋輔との結婚を心から望んでいるわけではなく、
むしろ婚約から逃れようとしている。
その稲子へ洋輔は、
当然のように「マイハニー」と呼び掛ける。
ここにかなり大きなズレがある。
洋輔の中では、
稲子はもう自分の婚約者。
だから親しげに呼んでもおかしくない。
だが稲子側からすれば、
その前提そのものを受け入れていない。
つまり、
呼び方だけが二人の関係より先へ進んでいる。
洋輔は、
稲子との距離が縮まっているから「マイハニー」と呼ぶのではない。
婚約が決まっているから、
自分の側の女性としてそう呼んでいるように見える。
この違いは大きい。
恋人同士なら、
二人の間で親密さが育つ。
そこから呼び方が変わる。
洋輔の場合は逆になる。
婚約という立場が先に決まり、
その立場に合わせて、
稲子を親密な存在として扱う。
だから稲子本人の気持ちが追いついていなくても、
洋輔の中では問題になりにくい。
「手こずらせてくれたね」
という言葉まで合わせると、
さらに洋輔らしさが見える。
稲子が逃げる。
洋輔が追う。
そこで、
ようやく捕まえた婚約者へ、
どこか楽しげに声を掛ける。
本気で嫌われたことへ傷ついているというより、
逃げ回る稲子を、
手の掛かる婚約者として見ているようにも映る。
この感覚には、
恋愛感情だけでなく、
強い所有意識が混ざっている。
稲子は自分の婚約者。
だから逃げても戻ってくる。
逃げれば追えばいい。
そんな自信が、
洋輔の態度にはずっと残っている。
もちろん、
まったく好意がなければ、
わざわざ「マイハニー」と呼ぶ必要もない。
稲子を嫌っている人物にも見えない。
むしろ、
かなり強く意識している。
ただ、
その意識が稲子の気持ちを中心に動いていない。
ここが問題になる。
好きだから、
相手へ近づきたい。
それ自体は恋愛として自然。
しかし洋輔の場合、
稲子が近づきたくないと感じていても、
自分から距離を詰める。
そこに、
二人の感情の非対称さがある。
稲子が拒絶すればするほど、
洋輔は「それならやめよう」とはならない。
むしろ、
どうやって自分の側へ戻すかを考える。
だから「マイハニー」は、
甘い愛称であると同時に、
洋輔が稲子をどう位置づけているかが見える言葉になる。
好きな女性。
未来の妻。
三添家へ来る女性。
自分の側へいるべき相手。
その全部が混ざっている。
稲子の気持ちを確認しないまま「未来の妻」として扱うところに洋輔の歪みがある
洋輔と稲子の関係で、
何度も引っ掛かるのは、
稲子自身の意思が後回しになるところ。
洋輔は、
稲子を婚約者として意識している。
だが稲子は、
その婚約を望んでいない。
ここまで明確に温度差があるのに、
洋輔は関係そのものを見直そうとしない。
普通なら、
相手が逃げるほど嫌がっていると分かれば、
一度は考える。
自分の何が嫌なのか。
なぜ結婚したくないのか。
どうすれば気持ちを変えられるのか。
それでも無理なら、
諦めるべきなのか。
しかし洋輔は、
そこまで相手中心には動かない。
婚約は進める。
稲子は自分の側へ置く。
逃げれば追う。
この一本線が崩れない。
だから洋輔の「好き」は、
優しい恋愛感情だけでは説明しにくい。
相手の自由を認めるより、
自分の未来の中へ稲子を組み込む。
その意識がかなり強い。
そして、
この自信の背景には、
三添家の力もある。
百川家への融資。
家同士の力関係。
洋輔自身の立場。
それらを考えれば、
婚約が簡単には崩れないという感覚もあったはず。
稲子本人が嫌がっても、
家の事情はすぐには変わらない。
だから洋輔は、
稲子の拒絶を、
婚約そのものを壊すほど重大なものとして受け取っていないようにも見える。
ここが、
稲子にとって苦しい。
自分は本気で逃げたい。
でも相手は、
一時的な抵抗程度に見ている。
自分の人生を変える話なのに、
洋輔にとっては、
決まった未来を予定通り進める話になっている。
その中で「マイハニー」と呼ばれる。
稲子からすれば、
甘い言葉よりも、
逃げ道を塞がれる感覚の方が強くてもおかしくない。
洋輔の恋愛は、
相手と気持ちを揃える形ではない。
先に未来を決める。
その未来へ、
稲子を連れていこうとする。
だから、
好きかどうかだけを聞けば、
好意はあるように見える。
でも、
その好意はかなり自分本位。
第2話の「マイハニー」は、
その特徴を短い一言で見せている。
第4章 洋輔が本当に欲しいのは電氣目録?婚約と目録探しが同じ方向へ重なっている
稲子へ近づくことが、そのまま電氣目録へ近づくことにもなっている
洋輔の気持ちをさらに分かりにくくしているのが、
電氣目録の存在になる。
稲子との婚約だけなら、
まだ恋愛と家同士の事情として見ることができる。
ところが洋輔は、
同時に電氣目録を執拗に追っている。
しかも、
公式でも洋輔は、
稲子との婚約を含めて、
あらゆる手段を使いながら電氣目録を探す人物として示されている。
ここを見ると、
婚約そのものが、
目録探しと完全には切り離せない。
百川家へ入る。
稲子と結婚する。
喜八へ近づく。
清六や目録の情報へ触れる。
この一連が、
全部同じ方向へ進んでいる。
だから見ている側には、
どうしても疑いが残る。
稲子が欲しいから婚約したのか。
目録へ近づきたいから婚約したのか。
その両方なのか。
洋輔自身の行動を見る限り、
最後の可能性が一番近く見える。
どちらか一つではなく、
両方を手に入れたい。
そのために婚約を使う。
こう見ると、
洋輔の一貫性も見えてくる。
彼は、
何か一つだけを選ぶ人物ではない。
欲しいものは、
全部取りにいく。
稲子も欲しい。
電氣目録も欲しい。
三添家の利益も守りたい。
喜八に先を越されたくない。
その全部が同時に動く。
だから稲子への感情も、
純粋な恋愛だけには見えない。
恋愛と目的達成が、
最初から重なっている。
電氣目録へ執着する洋輔は、
偽物を掴まされても簡単には諦めない。
普通なら、
一度失敗すれば警戒する。
本当に存在するのか。
そこまで追う価値があるのか。
疑う場面も出てくる。
しかし洋輔は、
そこからさらに深く追う。
目録の後半。
残された部分。
まだ見つかっていないもの。
そこへ意識を向け続ける。
つまり、
電氣目録そのものへの欲望も本物になる。
稲子へ近づくための口実として、
目録を使っているわけではない。
逆に、
目録へ近づくためだけに、
稲子を完全な道具として見ているとも言い切れない。
だから厄介。
どちらも本気。
この二重性が、
洋輔の本心を読みにくくしている。
偽物でも諦めず20番目まで追う姿を見ると、稲子より目録を優先しているようにも見える
洋輔の目録への執着が強く見えるのは、
一度話が崩れても、
そこで終わらないところ。
偽物を掴まされた。
情報が不確か。
それでも追う。
本物へ近づける可能性があるなら、
次へ進む。
特に、
目録の後半や20番目へ意識を向ける姿には、
単なる好奇心以上のものがある。
ここまで強く追えば、
視聴者から見ても、
「稲子より目録の方が大事なのでは」
と思いたくなる。
実際、
稲子との会話より、
目録について動いている時の洋輔の方が、
目的が明確に見える場面もある。
稲子への気持ちは、
言葉では甘い。
しかし、
行動では目録を追う。
この違いが大きい。
「マイハニー」と呼ぶ。
でも、
目録の情報があればすぐ動く。
稲子の気持ちを知ろうとするより、
目録の手掛かりを追う方が積極的に見える。
だから、
洋輔の恋愛感情へ疑問が生まれる。
もし稲子が本当に最優先なら、
彼女が嫌がっていることへもっと目を向けてもいい。
なぜ逃げたいのか。
何を求めているのか。
何を諦めたくないのか。
そこへ関心を向けるはず。
ところが洋輔は、
稲子の内面より、
婚約成立と目録の行方へ意識を向けているように見える。
だから、
愛情の形が見えにくい。
それでも、
稲子が完全にどうでもいいわけではない。
もし目録だけが目的なら、
稲子が喜八と逃げた時に、
別の方法で目録だけ追えばいい。
百川家との関係だけ利用する。
他の情報源を探す。
そういう選択肢もある。
それでも洋輔は、
稲子の方も追う。
ここでまた、
二つの欲望が重なる。
稲子を取り戻したい。
目録も追いたい。
喜八を放置したくない。
だから、
洋輔の追跡は恋愛だけでも、
目録だけでも説明しにくい。
喜八が持っているものは、
洋輔にとって全部欲しいものと重なる。
稲子。
目録への道。
自由に動く立場。
だからこそ、
洋輔から見れば、
喜八はかなり邪魔になる。
第2話から先を追うほど、
「洋輔は稲子が好きなのか」という問いは、
単純な恋愛感情の確認ではなくなる。
好きだから追う。
目録が欲しいから追う。
家の都合があるから追う。
それが全部同時に存在する。
洋輔の本心が見えにくいのは、
感情がないからではない。
むしろ、
欲しいものが多すぎる。
稲子も。
電氣目録も。
自分が思い描いた未来も。
その全部を手放したくない。
だから洋輔の「マイハニー」は、
甘い愛称だけでは終わらない。
その一言の裏には、
稲子を自分の未来へ組み込みたい気持ちと、
電氣目録まで手に入れたい欲望が、
同時に重なっている。
第5章 喜八が現れると洋輔の態度が変わる|恋敵であり目録へ近い相手でもある
喜八は稲子と一緒に逃げる男であり、電氣目録の中心にいる人物でもある
洋輔にとって坂本喜八は、
単なる恋敵ではない。
稲子と一緒に行動する。
自分の婚約者を連れて逃げる。
それだけでも十分に邪魔な存在になる。
しかし喜八には、
もう一つ大きなものがある。
二十世紀電氣目録そのものへ、
誰より深くつながっている。
公式でも、
目録を巡って喜八と稲子が洋輔へ対抗する構図が示されている。
第2話では、
本物かどうか分からない電氣目録を巡って、
喜八と稲子の前へ洋輔が迫る。
喜八は自作の発明品まで使い、
何とか洋輔を止めようとする。
ところが、
蒸気の力に押し切られる。
結果として、
稲子と電氣目録は一度、
洋輔の手へ渡ってしまう。
この時点で、
三人の関係はかなり分かりやすい。
洋輔が追う。
喜八が守る。
その間に稲子と電氣目録がある。
しかも喜八は、
ただ稲子を助けているだけではない。
電氣目録の成り立ちそのものへ、
自分の過去が結びついている。
兄・清六と一緒に、
電氣の未来を夢見ていた。
目録へ発明を書き込んでいた。
その清六が戦争へ行き、
帰らぬ人になる。
だから喜八にとって、
電氣目録は単なる価値ある本ではない。
兄との時間。
自分の夢。
失った過去。
そこまでつながっている。
一方の洋輔も、
なぜかその目録を強く追っている。
つまり喜八と洋輔は、
稲子だけではなく、
電氣目録の上でもぶつかる。
ここが重要になる。
もし喜八が、
稲子に近づいただけの男なら、
洋輔の反応は恋愛だけで見られる。
婚約者を取られそうになる。
だから腹を立てる。
だから追う。
それだけでも説明できる。
しかし実際の喜八は、
目録にも最も近い。
だから洋輔から見れば、
一人の男に二つの問題を持っていかれる形になる。
稲子。
電氣目録。
どちらも、
洋輔が欲しがっているもの。
そしてその両方の近くに、
喜八がいる。
だから喜八への対抗心を見るだけでは、
洋輔の稲子への恋愛感情を簡単には測れない。
嫉妬しているのか。
目録を奪われたくないのか。
その両方なのか。
場面ごとに、
二つが重なってしまう。
第2話で洋輔が喜八たちを追う時も、
目的は一つではない。
逃げる稲子を取り戻す。
目録も取り戻す。
その両方が同時に動く。
洋輔自身にとっては、
むしろ分ける必要すらないようにも見える。
ここが、
喜八が現れた時の洋輔を読みづらくしている。
喜八への対抗心が強いほど、稲子への感情だけを取り出せなくなる
洋輔と喜八の関係には、
立場の違いも大きい。
洋輔は、
三添商店の御曹司。
蒸気機関で財を成した家に生まれ、
技術者としても優秀。
力もある。
金もある。
家の後ろ盾もある。
それに対して喜八は、
自分の発明と夢を頼りに動く青年になる。
蒸気の大きな力へ、
自作の道具で対抗する。
勝てる保証などない。
それでも、
稲子を助けるために動く。
この違いは、
稲子から見た二人にも大きく出る。
洋輔との結婚は、
家から決められた未来。
喜八と一緒にいる時間は、
自分で選んで動ける未来。
第2話では、
百川家へ忍び込んだ喜八が、
稲子が家のために望まない結婚を強いられていることを知る。
そして、
蔵へ閉じ込められた稲子を救う。
ここで喜八は、
稲子本人の意思を見る。
結婚したいのか。
逃げたいのか。
何を望んでいるのか。
それに対して動く。
洋輔との大きな違いになる。
洋輔は、
婚約という立場から稲子を見る。
喜八は、
目の前の稲子が何を望んでいるかを見る。
だから稲子も、
喜八と一緒に逃げる。
洋輔からすれば、
面白いはずがない。
自分には家もある。
財力もある。
婚約も正式に進んでいる。
それなのに稲子は、
喜八の方へ行く。
ここだけなら、
恋敵への嫉妬がかなり強く見える。
しかしまた、
電氣目録が間へ入る。
喜八は目録を知っている。
その来歴にもつながっている。
洋輔が知りたいものを、
喜八の方が先に持っている。
だから洋輔が喜八へ強く反応しても、
「稲子を取られたから」だけでは終われない。
むしろ喜八は、
洋輔が手に入れたいものを、
ことごとく先に掴んでいるように見える。
稲子の信頼。
電氣目録へのつながり。
清六との過去。
自由に夢を追う立場。
洋輔にとって、
喜八はかなり気に障る存在になる。
だから二人が対峙する場面では、
恋愛と目録の争いが同時に進む。
洋輔が稲子へ本気なのか。
ここを見る時、
喜八への態度だけで答えを出すのは難しい。
嫉妬している。
それはあるように見える。
だが同時に、
目録へ近い相手への警戒もある。
喜八が現れたことで、
洋輔の感情はさらに分かりにくくなった。
そして第7話では、
その二重の対立が一気に前へ出てくる。
第6章 第7話では結納から逃げた稲子を追う|ここで洋輔の執着が一気に表へ出る
稲子は喜八と結納から逃げ出し、洋輔は知らせを聞くとすぐ後を追った
第7話「駆け落ち」は、
洋輔と稲子の関係を見るうえで、
かなり大きな回になる。
この日は、
洋輔と稲子の結納の日。
つまり、
家同士で進められてきた婚約が、
さらに具体的な形へ進む日になる。
洋輔からすれば、
稲子が三添家へ入る未来へ、
また一歩近づく日だった。
ところが稲子は、
その未来を選ばない。
喜八と一緒に、
結納から逃げ出す。
しかも目的地は滋賀。
ケイトから、
滋賀にも電氣目録があると知らされる。
夢を諦めたくない稲子は、
喜八と共にそこへ向かう。
公式あらすじでも、
稲子は「夢を諦めたくない」とされている。
ここが大きい。
ただ洋輔が嫌だから逃げる。
それだけではない。
三添家へ嫁ぐ未来を選べば、
自分の夢を諦めることになる。
だから逃げる。
稲子にとって第7話は、
自分の人生を自分で選ぶ行動になる。
一方、
その知らせを聞いた洋輔は、
後を追う。
ここで洋輔が諦めていないことが、
はっきり見える。
結納の日に逃げられた。
しかも、
別の男と一緒。
普通なら、
かなり大きな拒絶になる。
稲子は、
言葉だけではなく行動で、
この結婚を望んでいないことを示した。
それでも洋輔は、
そこで婚約を白紙にしようとはしない。
追う。
ここに、
彼の執着が出る。
稲子を取り戻したい。
喜八を止めたい。
滋賀へ向かう二人を放置できない。
この時の洋輔には、
かなり強い感情が見える。
ただし、
ここでも一つだけではない。
滋賀には、
電氣目録がある可能性がある。
つまり、
稲子と喜八が向かっている先に、
洋輔自身が追っている目録もある。
また二つが重なる。
婚約者が逃げた。
目録の情報も動いた。
喜八も一緒にいる。
洋輔からすれば、
追わない理由がない。
だから第7話の追跡は、
洋輔が稲子を好きだと証明する場面にも見える一方で、
目録への執着まで含んだ追跡になる。
そこが、
この人物らしい。
洋輔は、
稲子だけなら諦められるのか。
電氣目録だけなら別ルートを探すのか。
そのどちらにもならない。
全部追う。
この姿勢が変わらない。
追いかける姿には「婚約者を失いたくない」と「目録を逃したくない」が重なっている
第7話で洋輔の執着が強く見えるのは、
稲子がもう十分に拒絶を示しているから。
第1話の段階なら、
まだ家同士で婚約を進められている途中。
稲子が嫌がっていても、
洋輔側には
「そのうち受け入れる」
という感覚があったかもしれない。
しかし第7話は違う。
結納の日に逃げる。
喜八と一緒に。
滋賀まで向かう。
これ以上ないほど、
明確な行動になる。
それでも洋輔は、
稲子の意思をそのまま受け入れない。
ここを見ると、
「稲子が好きだから追う」
だけでは少し足りなくなる。
本当に相手中心の恋愛なら、
ここまで拒まれた時、
一度は相手の望みを考える。
なぜそこまで逃げたいのか。
自分との結婚が、
稲子から何を奪うのか。
それでも結婚させることが、
本当に稲子のためなのか。
しかし洋輔の行動は、
そこより先に追跡へ向かう。
だから、
愛情より所有意識が強く見える。
自分の婚約者が逃げた。
なら戻す。
決まった未来から外れた。
なら元へ戻す。
そんな感覚が残る。
ただし、
それでも稲子を完全な道具と見るだけでは説明し切れない。
結納を壊される。
別の男と逃げられる。
それでも自分から後を追う。
そこには、
洋輔自身の感情も確実に動いているように見える。
もし目録だけが欲しいなら、
稲子本人をそこまで強く追わなくてもいい。
滋賀の情報だけ追う。
喜八だけを監視する。
別の手段で目録を探す。
三添家なら、
そういう動きもできそうになる。
それでも洋輔は、
稲子たちを追う。
ここに、
「稲子を失いたくない」という気持ちが混ざっている。
ただ、
その気持ちの形が問題になる。
稲子が幸せなら、
自分以外の道でも受け入れる。
そこまでは行かない。
むしろ、
稲子は自分の婚約者であるという前提を、
最後まで手放していないように見える。
だから洋輔の愛情は、
かなり独占欲に近い。
稲子を好き。
でも、
稲子が何を選ぶかより、
自分が稲子をどうしたいかの方が強い。
そして同時に、
電氣目録も欲しい。
第7話では、
この二つが最もはっきり重なる。
稲子が逃げる。
喜八と一緒に目録のある滋賀へ向かう。
洋輔が追う。
恋愛だけでも説明できる。
目録争いだけでも説明できる。
でも実際は、
どちらか一つではない。
だから洋輔という人物は、
見れば見るほど本心が分かりにくい。
稲子への感情がないからではない。
逆に、
感情も欲望も目的も、
全部同じ方向へ向いているからになる。
第7話「駆け落ち」で、
洋輔はその全部を抱えたまま二人を追う。
婚約者を失いたくない。
喜八に負けたくない。
電氣目録も逃したくない。
その三つが重なった時、
洋輔の執着はそれまで以上に強く見えてくる。
そしてここまで来ると、
「洋輔は本当に稲子が好きなのか」という問いにも、
少し答えが近づく。
好意はある。
執着もある。
しかし、
稲子本人の自由を尊重する形ではない。
だから稲子から見れば、
愛されているというより、
追われている感覚の方が強くなる。
第7話の駆け落ちは、
その違いを最も露骨に見せた場面だった。
第7章 洋輔の厄介さは「稲子か目録か」ではなく、本人の中で二つが重なっていること
稲子を好きだから結婚したい、だけでは洋輔の行動を説明し切れない
洋輔を見ていると、
稲子への気持ちがまったくないとは思えない。
「マイハニー」と呼ぶ。
婚約者として扱う。
逃げれば追う。
喜八と一緒にいれば、
そのまま放っておけない。
ここだけ見れば、
かなり強い好意を持っているように見える。
ただし、
その感情だけで動いているわけではない。
洋輔は同時に、
電氣目録も強く求めている。
しかも公式でも、
稲子との婚約を含めて、
あらゆる手段を使いながら目録を探している人物として示されている。
つまり婚約と目録探しは、
最初から完全には分かれていない。
稲子と結婚する。
百川家との関係が深くなる。
電氣目録へ近づける可能性も高まる。
洋輔からすれば、
一つの行動で複数の欲しいものへ近づける。
だからこそ、
婚約そのものにも、
恋愛だけではない目的が混ざって見える。
第1話の時点で、
二人の関係は対等ではなかった。
百川家への融資。
三添家の力。
家同士の事情。
その中で稲子との結婚が進められる。
稲子自身が、
洋輔を選んだわけではない。
それでも洋輔は、
婚約者として当然のように接する。
第2話では、
「マイハニー」と呼ぶ。
言葉だけなら甘い。
しかし、
稲子は逃げようとしている。
ここに、
二人の関係のズレがある。
洋輔の中では、
稲子はすでに未来の妻。
だから、
自分の側へ戻そうとする。
一方の稲子は、
その未来そのものから離れようとしている。
この違いを見ると、
洋輔の「好き」は、
相手の気持ちを中心にしたものではないと分かる。
自分の妻になってほしい。
自分の側にいてほしい。
自分の予定した未来から、
外れてほしくない。
そんな方向へ強く向いている。
だから、
稲子が拒絶しても簡単には引かない。
結納から逃げても追う。
喜八と一緒に滋賀へ向かっても追う。
普通なら、
ここまで嫌がられていると分かれば、
婚約そのものを考え直す余地も出てくる。
洋輔はそうならない。
追う。
ここに、
愛情と独占欲の近さが見えてくる。
洋輔にとって稲子は、
好きな女性であると同時に、
自分の婚約者でもある。
その二つが、
本人の中でほぼ重なっている。
だから、
「好きなら相手の自由を認める」
という方向には進みにくい。
好きだからこそ、
手放したくない。
この感覚の方が強い。
それでも稲子を完全に道具としてしか見ていないとも言い切れない
ただし、
洋輔を
「目録のために稲子を利用しているだけ」
と決めてしまうと、
それも少し違う。
稲子へ向ける態度には、
目録だけでは説明しにくい執着がある。
婚約者として強く意識する。
「マイハニー」と呼ぶ。
逃げられれば追う。
喜八と一緒にいれば、
明らかに気にする。
もし稲子本人がどうでもよく、
電氣目録だけが目的なら、
もっと冷たい方法でも動ける。
百川家だけ利用する。
喜八から情報だけ取る。
滋賀の目録だけ追う。
三添家の財力を使えば、
別の経路から探すこともできそうになる。
それでも洋輔は、
稲子そのものを手放さない。
ここを見ると、
彼女への感情も本物だと考えた方が自然になる。
ただ、
その感情が健全な恋愛として見えにくい。
相手を好き。
だから相手が幸せなら、
自分以外を選んでも受け入れる。
そこまでは行かない。
むしろ、
稲子は自分の妻になるべきだという意識が残っている。
つまり洋輔は、
稲子へ好意を持ちながら、
その好意を相手の自由より上へ置いてしまっている。
ここが厄介。
そして、
電氣目録への欲望まで同じ方向へ重なる。
稲子と結婚したい。
目録も欲しい。
喜八に負けたくない。
自分が描いた未来も崩したくない。
全部が同時に存在する。
だから洋輔本人の中では、
「稲子か目録か」
という二択になっていない可能性が高い。
どちらも欲しい。
それだけになる。
第7話で、
稲子と喜八が滋賀へ向かう状況は、
洋輔にとって最悪でもある。
婚約者が逃げる。
しかも喜八と一緒。
さらに向かった先には、
電氣目録がある可能性まである。
洋輔が欲しいものが、
一度に全部自分から離れていく。
だから追う。
この行動は、
稲子への執着だけでも説明できる。
目録への執着だけでも説明できる。
しかし二つを重ねると、
洋輔がなぜあそこまで止まらないのかが見えやすくなる。
失いたくないものが、
一つではない。
だから、
一つ諦めて終わるという選択もしない。
洋輔の「マイハニー」という呼び方も、
ここまで見ると印象が変わる。
最初は、
軽い愛称に聞こえる。
しかし実際には、
「稲子は自分の婚約者だ」
という強い前提まで入っているように見える。
甘い言葉なのに、
稲子からすると重い。
その理由も、
ここにある。
洋輔は、
稲子へ何も感じていないわけではない。
むしろ強く執着している。
ただし、
その気持ちの中には、
愛情だけではなく、
所有意識や家の事情、
さらに電氣目録への欲望まで混ざっている。
だから気持ちが見えにくい。
優しく愛しているようにも見えない。
完全に利用しているようにも見えない。
どちらか一方ではない。
それが洋輔になる。
そして稲子との関係で一番大きいのは、
洋輔が何を感じているかだけではない。
稲子自身が、
その感情を望んでいないこと。
洋輔にどれだけ好意があっても、
稲子が自由を求めて逃げるなら、
二人の気持ちは重ならない。
第7話の駆け落ちは、
その距離を決定的に見せた。
洋輔は追う。
稲子は逃げる。
そこには、
恋愛の形そのものの違いがある。
洋輔にとっては、
好きだから手放せない。
稲子にとっては、
好きでもない相手に未来を決められたくない。
だから二人は、
婚約者でありながら、
同じ方向を向けない。
洋輔が本当に稲子を好きなのか。
答えは、
「好意はあるように見える」で終わらない。
もっと正確に見るなら、
稲子を自分の側へ置きたいほど強く執着している。
ただし、
その執着には電氣目録への欲望も重なっている。
だから彼の「好き」は、
稲子本人の気持ちより、
自分が欲しい未来の方へ向いている。
そこが、
洋輔と稲子の婚約が最後まで危うく見える一番大きなところになる。



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