『惚れ魔女』のロゼが嘘をつけないのは、正直な性格だけでなく、魔法を使う魔女の制約に関わっている。
原作では、魔法という嘘を使う代わりに、それ以外の嘘を使えないと説明される。
それでも秘密を全て話す必要はなく、ロゼは言葉を選びながら、ハリージュへの恋心を隠している。
この先はアニメ第2話の先行あらすじと、
原作Web版第7話までのネタバレあり。
第1章 魔女はなぜ嘘をつけない? 魔法と引き換えに持つ制約
魔女の力と制約
魔法という嘘を使い、
普通の人には作れない薬を作れる。
その代わり、魔法以外の嘘を使えない。
ただし、黙ることや話を逸らすことはできる。
魔法という嘘を使う代わりに、 他の嘘を使えない
好きな人が家まで来てくれた。それなのに、
頼まれたのは惚れ薬。ロゼが返事に困るのは、
片思いが終わったように感じるからだけではない。
都合のよい言葉で依頼をかわしたくても、
魔女には嘘をつけない制約がある。
会えてうれしい気持ちと、何の用で来たのかを
知った寂しさが一緒にある場面で、
返せる言葉まで限られてしまう。
仕事の話をしているだけなのに、
少し苦しくなる出会いになっている。
魔女が嘘をつけないことは、
魔法を使う力と結び付いている。
原作Web版の第7話では、
魔法という嘘を使う魔女は、
それ以外の嘘を使えないと説明される。
ロゼが正直者だから、
嘘を口にするのが苦手という話ではない。
薬を作る力を持つ一方で、言葉によって
事実を好きに変えられない。
それが、彼女個人の性格より前にある、
魔女としての制約になる。
ここでの魔法という嘘は、ロゼが作る薬を
まがい物と呼んでいるわけではない。
普通の人には作れない効力を持つ薬を、
魔女は作れる。その特別な力を説明する
言葉として、嘘が使われている。
惚れ薬が効かない商品という話と、
魔法が普段の世界では起こらないことを
起こすという話は異なる。
薬を作れることと、魔法以外の嘘を使えない
ことが、同じ設定の中でつながっている。
惚れ薬を作れるという返事は、
ロゼの腕を認める言葉にもなるのに、
この依頼では素直に喜びにくい。
できると答えた先には、好きな人が誰かへ
使うかもしれない薬を作る仕事が待っている。
かといって、できないことにしてしまえば、
自分の力について嘘を言うことになる。
才能があるから胸を張れる、
という場面にならないところが切ない。
相手の役に立てることと、自分の望みが
叶うことが、ここでは逆を向いている。
ただし、嘘をつけないからといって、
思ったことを全て声に出す必要はない。
ロゼには、話さずにいることも、
別の話へ移ることもできる。
相手が目の前にいるだけで恋心が自動的に
告白へ変わる、という仕組みではない。
好きな相手に気づかれたくないという願いを
持ちながら、その願いを守るために
言葉を選んでいる。制約は会話をなくすのでは
なく、返事の選び方へ入り込んでくる。
正直でいたいという心がけとは異なる制約
気まずい時にも正直でいようとする人なら、
どこまで話すかを悩んだ末に、
本当のことを伝える選択ができる。
ロゼの場合には、そもそも嘘という返事を
自由に選べない。そのため、
何を答えるかより先に、答えられる内容か
どうかが関わってくる。
ハリージュに聞かれて黙る場面があっても、
言葉を探しているだけなのか、
言えば嘘になるのかは、
同じ見え方の中に混ざっている。
依頼を受ける最初のやり取りにも、
その狭さが表れている。
原作のロゼは、惚れ薬が今は手元にないことを
伝えるものの、作れるかと聞かれれば、
それを否定できない。
値段や時間を持ち出しても、
ハリージュは依頼を続ける。
彼女の返事は、仕事を引き受ける方向へ
少しずつつながっていく。
薬を作る腕があることが、その時だけは
自分の恋にとって困った条件になっている。
それでも、依頼を断れないことまで
魔法で強制されていると考えるのは違う。
嘘をつけない設定と、相手の求める仕事を
全て受けなければならない設定は同じではない。
ロゼの返事には、ハリージュの押しの強さや、
自分も彼と関わっていたい気持ちが関わっている。
魔女の制約だけを答えにすると、
会う用事を手放せない彼女自身の迷いが
見えなくなる。
この出会いで、ロゼが最初から望んでいるのは、
自分の恋心を説明することではない。
惚れ薬の依頼へ応じる魔女として話し、
できるだけ気持ちを悟られずにいたい。
けれど、依頼人の顔を見ればうれしくなり、
薬の使い道を考えれば寂しくなる。
嘘が使えないから正しい返事が一つだけ
残るのではなく、言えることの中から、
まだ言いたくない気持ちを守る会話が
続いている。
第2章 魔法を使う代償とは? 薬を作れる力と不自由さ
普通の人には作れない効力を持つ薬
ロゼの仕事部屋には薬や材料があり、
暮らしの中心に調薬がある。
魔女の力というと、望んだことをその場で
何でも叶える姿を想像しやすい。
けれど、彼女の仕事には、
材料を集め、確かめ、加工する手間がある。
ハリージュが注文した惚れ薬も、
願いを口にすれば完成する品ではない。
特別な効力を持つことと、作る側に手順が
ないことは同じではなく、
そこへ二人のやり取りが入り込んでいく。
原作第4話では、ロゼが特別な秘薬だけで
暮らしているわけではないことも分かる。
普段の生活で使う薬を作り、
馴染みの商人へ売っている。
魔女にしか作れない品があるから、
仕事の全てが珍しい依頼になるわけではない。
虫を遠ざける薬など、
日々必要とされる物を用意する時間もある。
人里から離れて暮らしていても、
仕事を通じて周囲の生活とつながっている。
この仕事を支える力と、
嘘を使えない制約は切り離せない。
惚れ薬を作る時だけ正直になり、
商人と話す時には好きに嘘を使える、
という形ではない。
魔法を扱う存在として、
会話のほうにも不自由さが続く。
作業台から離れれば終わる代償ではなく、
人と接する時間にも関わっている。
仕事で得る力が、そのまま仕事以外の暮らしへも
影響しているところが、ロゼの難しさになる。
ハリージュが材料を集める側へ回ることにも、
ロゼの仕事の輪郭が出ている。
依頼人が代金だけを置いて帰るのではなく、
必要な品を持って庵へ戻る。
そのため、薬ができるまでに
顔を合わせる機会が生まれる。
魔女の力を一度見せれば終わる依頼なら、
ロゼの言葉選びが何度も問題になることもない。
準備に手間がかかる薬だから、
仕事を進めるたびに、彼を前にした会話も
また必要になる。薬の効力と同じくらい、
作るまでの手順が二人を結んでいる。
一方で、薬を作れるから何でも魔法で済む、
というわけでもない。
原作第6話では、散らかった部屋について
ハリージュに言われたロゼが、
自動的に室内を片付ける魔法はないと
返す場面がある。
困った時だけ便利な力を呼び出せる人物では
なく、生活の中には手を動かさなければ
変わらないことも残る。
薬を作る力と、片付けが進まない暮らしが
並ぶと、遠い存在に見える魔女が少し身近になる。
力を持つ一方で、 言葉によるごまかしを選べない
代償という言葉から、
魔法を使うたびに命が短くなる、
身体の一部を失う、といった仕組みを
思い浮かべることもある。
ただ、このテーマで確認できる中心は、
魔法以外の嘘を使えないという制約になる。
少なくとも、惚れ薬を一瓶作るごとに
何年分の寿命を支払う、といった計算へ
置き換える説明はできない。
特別な薬と普通の会話が結び付いているからこそ、
代償が恋愛の場面にも顔を出す。
その不自由さは、強い敵と戦う時よりも、
何気ない問いへ返事をする時に近付いてくる。
相手が欲しい答えと、
自分が本当だと思っていることが一致しない時、
ロゼには好きなほうへ言葉を曲げる余地がない。
だからこそ、返事をしないことや、
別の話へ移ることを使う。
人を避ける暮らしも含めて、
魔法を使う力は、
彼女の会話の習慣へつながっている。
ただ、言葉が真実だから、
相手がいつでも安心できるとも限らない。
ロゼが事実の一部しか話さなければ、
ハリージュが知ることもその範囲に留まる。
材料が必要という説明は本当でも、
なぜ一度に全部を伝えないのかという疑問は残る。
嘘を言わないことが、親切に全体を説明することを
保証するわけではない。
制約があっても、伝える順番には
ロゼの気持ちが入り込む。
逆に、嘘を使えないために誰よりも
相手を信じている、と考えることもできない。
言葉を慎重に選ぶのは、
むしろ自分を守るためでもある。
魔女として持つ力が頼りにされる一方、
その弱点まで誰にでも知られたいわけではない。
相手へ薬を渡すことと、
自分の内側まで渡すことには距離がある。
ハリージュの依頼は仕事として受けられても、
恋心まで同じ調子で差し出せるわけではない。
第3章 嘘をつけないなら、 恋心も隠せない?
真実を口にしないことはできる
嘘をつけない魔女が恋をしたら、
相手にすぐばれてしまうのでは。
ロゼを見ていると、そんな疑問が出てくる。
けれど、好きな人の前に立った瞬間、
口から告白が出る仕組みではない。
本人には、言葉にしないでいる余地がある。
気持ちを持っていることと、
それを相手へ知らせることの間には、
まだロゼが選べる部分が残っている。
その選び方が分かりやすく出るのは、
恋の話だけではない。
原作第6話では、棚を動かした際に
何かが壊れたような音がし、
ハリージュがそれについて尋ねる。
ロゼは、返事をすれば嘘になりそうなところで黙る。
ここには、質問された内容を全て詳しく
説明しなければならない、
という制約がないことが表れている。
何かが起きたと知っている相手を、
言葉で納得させられなくても、沈黙は選べる。
この沈黙を恋の会話へ重ねると、
ロゼの秘密の守り方が見えてくる。
知っていることを口にしない、
聞かれたことから少し離れた事実を話す、
相手の言葉をすぐに受け取らず間を置く。
嘘ではない返事にも、幾つもの形がある。
いつも率直な告白しかできないなら、
片思いを長く抱えること自体が難しい。
彼女は話せないのではなく、
話さずにいたいことを抱えながら、
仕事の会話を続けている。
何かが壊れたかと尋ねられて黙るやり取りは、
深刻な秘密ばかりが制約に関わるわけでは
ないことも示している。
散らかった部屋で起きた、
小さな取り繕いまで使えない。
恋心を問われる前から、
ロゼの日常には返事に困る場面がある。
ハリージュとの会話を全て切ないものとして
考えるより、この不器用さには少し可笑しさもある。
気持ちを隠すために身構えているのに、
まず部屋の様子について追及される。
その落差も、二人が同じ場所で過ごす時間に
含まれている。
もちろん、黙れば完全に秘密を守れるわけではない。
返事をためらう様子や、話題を変えるタイミングから、
相手が何かを察することはある。
ロゼの制約が直接恋心を言葉へ変えなくても、
会話の中に気まずさが残る可能性はある。
言葉で嘘を言わずに済んでも、
顔や仕草まで相手の目から消えるわけではない。
そのため、彼女は言葉だけでなく、
表情にも気を配っている。
話を逸らせても、 好きではないとは簡単に言えない
好きな相手に気づかれそうになった時、
気持ちを否定する嘘が使えないことは、
ロゼにとって一つの難しさになる。
まだ何も聞かれていなくても、
恋の話になれば逃げ道が少ない。
好きという事実があるなら、
その反対を本当のこととして口にすることはできない。
否定して逃げる道が使えないぶん、
そもそも恋の話へ進まないようにする
用心が増えていく。
それでも、気持ちを隠しているから
恋そのものを恥じている、とまでは言えない。
相手は惚れ薬を依頼してきた人で、
ロゼには、自分ではない誰かを
想っているように見えている。
好意を伝えた後に、今ある仕事の関係まで
変わるかもしれない。
言えないことの背景には、魔女の制約だけでなく、
片思いをしている一人の女性としての
ためらいがある。
嘘をつけないことと、
告白する勇気が出ないことは、
近くにあっても同じ問題ではない。
制約がなくなれば、ロゼがすぐに
自分の想いを話せるとは限らない。
好きな人が別の誰かを好きかもしれない
状況は残るため。
逆に、本当の気持ちを伝えることまで
魔法で禁じられているわけでもない。
ロゼがいつ何を話すかには、
自分で決めなければならない部分がある。
私は、この設定で少し切ないのは、
正直にしか話せない人でも、
気持ちが簡単に伝わるわけではないところと感じる。
嘘が少なければ誤解もなくなる、
という会話にはならない。
ロゼが話さないことを、
ハリージュは知らないままでいる。
聞かれなければ答えずに済むことが、
会えてうれしいという気持ちまで届かなくする。
秘密を守れる余地が、そのまま片思いを
長くしてしまうこともある。
第4章 惚れ薬の完成を遅らせるのは 嘘にならない?
材料を一度に伝えず、会う用事を残す
材料を届け終えたと思ったら、
次の材料を頼まれる。
原作序盤のハリージュが腹を立てるのは、
薬を作れないからではなく、
注文が小出しに続くため。
ロゼには、薬が完成するまで
彼と関われるという事情がある。
彼の用事を終わらせる仕事と、
その用事を終わらせたくない気持ちが、
同じ作業の中でぶつかっている。
この時間稼ぎは、必要な材料について
架空の話を次々に作る、という説明とは異なる。
ロゼは、情報をどの順番で渡すかによって、
完成までの時間を延ばしている。
自分の願いをそのまま口にしなくても、
次の注文があれば、
また訪ねて来てもらう用事が残る。
嘘を使えない設定の中でも、
相手へ全てを一度に伝えない工夫はできる。
原作第2話には、満月の夜に採る材料を、
満月が過ぎた後で頼む場面がある。
採取の条件を満たすため待つことになれば、
次の訪問までの時間も延びる。
薬作りの材料という仕事の言葉の中へ、
また会う機会を残したい願いが入っている。
嘘を言わずに時間を稼ぐ余地があるからこそ、
ロゼの片思いは、
注文の出し方という小さな行動へ変わっている。
満月という条件には、
ロゼの都合だけでは動かせない暦が関わっている。
採取の機会を逃せば、急いで探しに行っても、
その日のうちに注文を済ませることはできない。
ハリージュが強引に依頼を進めようとしても、
材料の条件まで押し切れるわけではない。
そこでようやく、彼女の側に
時間を残す余地ができる。
ただ、その余地を使っても、
彼が抱くのは恋の予感より仕事の不満かもしれない。
会いたい気持ちから出た注文が、
相手には面倒な注文として届くところが、
少しやるせない。
ただ、ハリージュの側に立てば、
手間をかけて品を持って来た後で、
まだ次があると知らされることになる。
ロゼの気持ちが分かっても、
その不満までなくなるわけではない。
彼女にとってのもう一度会える機会が、
彼にとってはもう一度必要になる素材集め。
その違いがあるため、時間稼ぎは
甘い恋の工夫だけで終わらず、
二人の言い合いにもつながっていく。
調合に必要な期間まで作り話ではない
完成までの時間は二種類
材料を小出しに頼む時間稼ぎ:
次に会う用事を残すロゼの工夫。
材料の加工に必要なひと月:
薬を作る工程として本当に必要な期間。
一方で、待ち時間の全てを
時間稼ぎの作り話と考えると、
ロゼの説明を取り違える。
原作第7話では、先に告げたひと月が、
素材を加工するため本当に必要な期間と分かる。
長く待たせたい気持ちがあることと、
その時に告げた日数が嘘であることは一致しない。
彼女の内心を知っているからこそ、
どの説明まで本当かを
まとめて疑いたくなる場面でもある。
材料を手配する段階と、
集めた材料を加工する段階では、
延びている時間の中身が異なる。
前者には、ロゼの伝え方で増える往復がある。
後者には、薬を作る工程として
必要な待ち時間がある。
同じひと月という長さが出てきても、
何を待っているのかは同じではない。
魔女の仕事が恋心に揺れていても、
薬作りそのものの条件まで
消えてしまうわけではない。
この違いがあると、ハリージュに会えない期間の
ロゼの気持ちも少し複雑になる。
依頼を受けていれば関係は続くものの、
その間ずっと一緒にいられるわけではない。
時間を延ばせば、会う機会が毎日増えるという
都合のよい関係にもならない。
仕事が終わっていない安心と、
しばらく訪問がない寂しさが並ぶ。
時間稼ぎをしている本人も、
その長さを気楽に楽しめているわけではない。
だから、ロゼが完成を遅らせる行動は、
恋を確実に叶える計画というより、
接点がなくなるのを惜しむ行動に近い。
ハリージュが自分を好きになる保証はなく、
訪問の目的も薬のままで続く。
それでも、完成して渡してしまえば
終わるかもしれない関係を、今は手放しにくい。
作れないと嘘を言う代わりに、
作るまでの会話を残す。
その選び方に、ロゼの小さなずるさと
寂しさが一緒に表れている。
第5章 ロゼはなぜ人を避ける? ローブと無愛想な受け答え
嘘をつけない弱点を知られないための距離
ロゼが暮らすのは、湖の小島にある庵。
客はそこまで来なければ、
魔女へ依頼できない。
人と離れて暮らす姿は、
他人に興味を持たない人物にも見える。
けれど、魔女の制約を知ると、
距離を取る生活に別の事情が見えてくる。
接する相手が増えるほど、
答えたくない問いへ向き合う機会も増える。
近づきにくい暮らしは、
弱点を知られずにいる方法にもなっている。
原作では、ロゼは嘘をつけないことを
悟られないよう、普段から人との接触や
言動に気を配っている。
不気味さや愛想のなさも、
単に相手を嫌っていることだけを示すわけではない。
何を聞いても真実しか返ってこないと知られれば、
相手にとっては便利な情報源に
なってしまうかもしれない。
ロゼが自分について話す範囲を狭くすることには、
そうした不利を避ける働きがある。
だからといって、会う人を全員疑い、
何のつながりも持たずに暮らしているわけでもない。
馴染みの商人ティエンとは、
薬の買い取りを通じた関係がある。
祖母の代から続く付き合いの中で、
ロゼの暮らしを知る相手もいる。
人を避けることと、
人の支えが一つもないことは同じではない。
誰とどのくらい近くで話すかには、
彼女が過ごしてきた時間も関わっている。
原作第5話では、ティエンが示す布の中に、
ハリージュの外套を思わせる紺色がある。
ロゼが恋心を説明しなくても、
目に入った色から彼を思い出してしまう。
普段なら仕事の品を受け渡す相手との買い物が、
好きな人を意識する時間へ変わっている。
新しい服の話は、見た目を華やかにするだけの
寄り道ではない。
誰にも言っていない恋が、
色を選ぶ時の戸惑いへ入り込む。
黙って守ってきた想いを、
服の好みまで変わるほど抱えていることが、
ここでは行動から伝わってくる。
街で魔女へ向けられる視線にも、
ロゼが距離を取る背景がある。
原作第3話では、祖母の死を喜ぶ人々の言葉が、
彼女を傷つける。
特別な薬を作る人として頼られても、
身近な人として受け入れられるとは限らない。
その出来事を知ると、
引きこもりという紹介だけでは説明できない
用心が感じられる。
人のいる場所へ行けば、
必ず楽しい経験が増えるという暮らしではない。
表情や言葉から秘密を見抜かれないための装い
大きなローブは、魔女らしい見た目を作るだけの
衣装ではない。
顔や身体の動きを隠し、
相手へ見せる情報を減らす働きもある。
言葉の上では秘密を守れても、
表情から気持ちを察される可能性は残る。
フードの中へ顔を引っ込める姿には、
恥ずかしがりな一面と、
見られたくないものを隠す用心が
同じように入り込んでいる。
そのローブが、ハリージュとの関係では、
別の悩みを作っていく。
原作第4話では、いつ訪ねて来るか分からない
彼の前で気持ちを隠したいため、
服を洗う時まで迷いが生まれる。
汚れたままでいたいわけではなく、
隠せる物を手放したくもない。
会いに来てほしい相手の存在が、
身なりを整えたい気持ちと、
いつもの姿でいたい気持ちの
両方へつながっている。
新しいローブを探すことは、
アニメ第2話の先行あらすじにも
取り上げられている。
普段は装いに関心を示さないロゼの注文に、
ティエンは誰かを意識している様子を察する。
ここでは、ロゼが恋心を口にしなくても、
いつもと違う買い物が手掛かりになる。
嘘をつかず黙っていられることと、
長く付き合う相手に変化を見抜かれないことは、
別の難しさになる。
さらに原作では、新調した服を手に入れても、
ハリージュの前で着ることをためらう姿がある。
気づいてほしいから整えたのに、
気づかれたら恥ずかしい。
ローブは顔を隠すための物なのに、
その新しさが気持ちを伝えてしまいそうになる。
言葉の秘密を守るための装いが、
今度は自分の変化を知らせるものにもなる。
この悩みには、魔女の設定を知らなくても
近く感じられるものがある。
第6章 ハリージュの前では、 秘密を守るのが難しい?
依頼人として接したい気持ちと、 会えてうれしい気持ち
ロゼにとってハリージュは、
惚れ薬を頼みに来たその日から
好きになった相手ではない。
原作では、四年前の街での出来事から、
彼のことを覚え続けている。
祖母の死を喜ぶ会話に異を唱え、
魔女も人として扱う彼の姿が、
ロゼの記憶に残っている。
彼にとっては知らない魔女の家への訪問でも、
彼女にとっては長く想っていた人が来た日になる。
この時間の差が、最初の会話へつながる。
ロゼは顔を見て驚き、
名前も立場も知っている。
一方、ハリージュは薬を依頼するため、
その家の魔女へ話しかけている。
どちらも同じ部屋に立ちながら、
そこまでに積み重なった記憶が揃っていない。
彼女が平静を装う必要を感じるのは、
今の依頼とは別に、
自分だけが持っている四年間があるため。
しかも、好きになったきっかけは、
彼がロゼへ恋愛の言葉をかけたことではない。
魔女の死を喜ぶ相手へ返した言葉が、
近くにいた彼女へ届いている。
彼自身がその出来事と目の前のロゼを
結び付けているとは限らないため、
同じ思い出を懐かしむ会話にもならない。
自分にとって忘れにくい日が、
相手には同じ重さで残っていないかもしれない。
その隔たりが、好意を話す前からある。
庵へ来る舟を知らせる鈴も、
ロゼにはただの来客の合図ではなくなる。
原作第4話では、訪問を期待する一方、
鹿による空振りもある。
音がしたから好きな人が来るとは限らないのに、
その可能性を考えずにはいられない。
彼が訪ねる前には、
平静な顔を作る相手もまだいない。
それでも気持ちは先に動いている。
本人の前でうまく隠せたとしても、
一人で待つ時間まで平気になるわけではない。
嘘を使えない設定とは別に、
来てほしい人を待つ落ち着かなさが、
その小さな音へ集まっている。
私は、好きな人が訪ねてきた喜びより先に、
普通の客として応じなければならないところが
少しもどかしく感じる。
ロゼには準備していた親しい関係がなく、
目の前には仕事の依頼がある。
うれしそうな顔を見せることも、
相手の目的を考えればためらわれる。
恋心を否定する嘘が使えない以前に、
喜びをどこまで見せてよいか分からない
場面になっている。
薬の話なら続けられるのに、 恋の話になると言葉を選ぶ
薬の話には、ロゼが答えられる具体的なことがある。
作れるのか、何が必要なのか、
どのくらい待つのか。
自分の仕事として返せる問いがあるから、
二人の会話は続く。
その一方で、なぜ彼の訪問を待っているのか
という話になれば、答えは自分の感情へ近付く。
仕事の言葉を間に置くことで、
好きな相手と話しながら、
好きとは言わずに済む関係が保たれている。
ただ、ロゼがハリージュの求める薬から
想像することまで、
確定した真相として扱うことはできない。
惚れ薬が欲しいなら、
彼には振り向かせたい相手がいるのだろう。
ロゼはそう受け止め、失恋したように感じている。
けれど、彼の依頼の詳しい事情と、
その時点の彼女の想像は同じものではない。
嘘をつけない魔女でも、
相手の心を間違いなく読めるわけではない。
このずれがあるため、ロゼの言葉が真実でも、
二人の会話全体が正しい理解だけで
できているとは限らない。
自分が思い込んでいることに沿って、
相手へ距離を取ることはありうる。
ハリージュの話していない部分を、
彼女が寂しいほうへ補ってしまえば、
その想像が次の返事にも影響する。
嘘が入り込まなくても、知らないことは残り、
その空白には片思いの不安が入り込む。
ロゼが薬を渡すまでの時間を惜しむのは、
彼と話せる用事を失いたくないから。
相手の気持ちを自由に変えられる力を
求めているようでいて、
序盤の彼女自身の願いは、
少しでも覚えてもらうことへ向いている。
会うたびに恋の話が進むわけではなくても、
依頼人としてまた来てくれる。
その小さな接点がうれしいぶん、
仕事が終わる日も近づいてしまう。
第7章 嘘をつけなくても、 ロゼの気持ちはすぐには伝わらない
真実を話すことと、 相手に伝わることの隔たり
魔女が嘘をつけないと知ると、
彼女の言葉を聞けば気持ちまで全て
分かるように感じる。
けれど、ロゼが相手へ伝えるのは、
今口にした部分だけになる。
話さずにいる想いも、
顔を隠した時の気持ちも、
そのままハリージュへ届くわけではない。
真実の言葉を話す人と、
秘密を持たない人は重ならない。
ロゼは魔女としての制約を抱えながら、
片思いの秘密も抱えている。
ハリージュの側から見れば、
材料を何度も頼む魔女や、
身なりや暮らしに頓着しないように見える魔女がいる。
その行動の後ろに、また来てほしいという願いや、
恋心を隠したい用心があるとは、
最初から分からない。
ロゼにとって大きな気持ちが動いた場面でも、
彼にとっては次の仕事の話として
終わることがある。
相手の目に見えることと、
自分が伝えずにいることの間へ、距離が残っている。
その距離は、どちらかが悪意を持って
嘘をついているから生まれるものではない。
会話を始めた目的が異なり、
相手について知っていることにも差がある。
ロゼはハリージュの過去の言葉を覚え、
彼はロゼへ薬を依頼している。
自分にとって大切なことを、
相手も同じように知っているとは限らない。
この関係の中では、
本当のことだけを話していても、
気持ちが同じ場所へ着くとは限らない。
ロゼには、魔女として頼られる言葉と、
自分自身に向けられる言葉を
区別したくなる事情もある。
薬が欲しいから訪ねる相手へ、
来てくれてうれしいと伝えれば、
その訪問を違う期待で受け止めていることが
表に出る。
仕事の関係があるおかげで会えるのに、
その関係だけでは足りない。
この曖昧さを、嘘をつけない力が
代わりに解決してくれることはない。
彼女が材料を選ぶ時より言葉を選ぶ時に
戸惑うのは、失敗しない配合のような答えが、
恋には用意されていないためと感じる。
だから、魔女の制約は、
二人の恋を簡単にする仕掛けにはなっていない。
正直にしか話せないなら、
すぐに好意が伝わって終わるという筋道はない。
ロゼが自分で話すことを決め、
ハリージュが彼女の言葉や行動に触れていく
時間が必要になる。
薬を作れる力を持ちながら、
自分の想いをどのように渡すかは、
材料の手順のように決まっていない。
薬作りのやり取りから、 二人自身の会話へ
惚れ薬の依頼は、二人に会う用事を作る。
その用事には完成という終わりもあるため、
ロゼは時間を残したくなる。
ただ、会う用事が長く続くことと、
互いをよく知ることも同じではない。
材料の話だけを重ねれば、
仕事の情報は増えていく。
そこから、ロゼがどう暮らし、
何を喜び、何を言わずにいるのかへ触れるには、
依頼とは少し違う会話が入り込んでくる。
服を新しくしようとすること、
訪問を待つこと、返事をしないこと。
ロゼの変化は、大きな告白だけで
示されているわけではない。
自分の気持ちを隠すために取る行動が、
近くにいる人には変化として見えることもある。
本人には黙って守ったつもりの秘密でも、
いつもと違う選択へにじんでしまう。
嘘をつかずに隠していられるからこそ、
言葉以外の小さな動きが二人の間へ残っていく。
魔法を使う代償は、
魔法以外の嘘を使えないという制約になる。
それでも、ロゼは何を話すかを選べるし、
話さずにいることもできる。
惚れ薬の時間稼ぎには、
材料を小出しに頼む工夫があり、
実際に必要な加工期間もある。
彼女の恋心は、この設定と矛盾しているのではなく、
その中で言葉や行動の形を選んでいる。
好きな人に会いたい。けれど、
自分が待っていたことまでは気づかれたくない。
ロゼの返事には、
そんな片思いの揺れが入り込んでいる。
ハリージュが求める薬については話せても、
彼に来てほしい気持ちまで
同じ調子で話すことは難しい。
彼女が次の材料を頼み、彼がまた庵を訪ねる。
その繰り返しの中で、
仕事の相手として始まった二人の時間に、
薬の説明だけでは収まらない言葉が
少しずつ増えていく。


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