アキオの無痛症は、ただ「攻撃されても痛くない」という戦闘向きの体質ではなく、幼い頃から自分と他人の痛みを共有できず、身体の違いそのものを抱えて生きてきた出発点だった。
第22話で明かされた過去を追うと、なぜアキオが同じ無痛症の人間を探し、自分の実母と出生へ執着するようになったのかまでつながってくる。
そして「なぜ痛みを感じないのか」を追うほど、アキオの無痛症、実母、西ノ村への接近、黒谷四姉弟を裏切るまでの行動が一つの線として見えてくる。
第1章 アキオが患う無痛症って?生まれつき痛覚が極端に鈍い体質
第22話で判明したのは「痛みに強い」のではなく、そもそも痛みを感じにくい身体だったこと
第22話「影森兄弟と黒谷姉弟」で、
裏切り者として拘束されたアキオの過去が初めて具体的に語られる。
そこで明かされたのが、
アキオは幼い頃から痛覚が極端に鈍く、
殴られても傷を負っても、
普通の人間と同じようには痛みを感じられなかったという身体的な特異性だった。
これまで戦闘中でも表情をほとんど崩さなかった姿は、単なる我慢強さだけでは説明できなかったことになる。
第17話「泣く子と悪い子」でも、
アキオは偽アサへバールを持って近づき、
正体を暴かれると愛ちゃんに腕を噛まれながら抵抗を続ける。
その後もヤマノカミを呼び出して影森屋敷を破壊しようとし、
ガブちゃんたちとの戦闘へ移っていくが、
負傷や攻撃に対する反応はほかの人物より明らかに薄い。
第22話を見た後で振り返ると、
以前から見えていたアキオの異様な落ち着きにも身体的な背景があったと分かる。
ただし「痛みを感じない=傷つかない」ではない。
骨が折れれば骨折しているし、
刃物で切られれば出血する。
通常なら痛みが危険信号となって身体を守らせるところを、
アキオはその警告を受け取りにくい。
本人が平然としているため頑丈に見えるが、
実際には負傷を把握しにくいという別の危険まで抱えている。
作中では病名を医学解説のように細かく説明する場面より、
アキオ本人の幼少期の記憶によって異常さが描かれる。
殴られても自分は痛くない。
だからどこまで殴られれば危険なのかが分からない。
さらに自分にその感覚がないため、
自分が相手を殴った時に相手が感じている苦痛も実感としてつかみにくかった。
この部分が、
アキオの無痛症を戦闘能力だけで見てはいけないところになる。
痛みを感じにくいことは、
攻撃へ耐えられる便利な特性ではなく、
幼少期から他人との感覚差を意識させ続けた身体の問題だった。
黒谷姉弟と暮らし、
影森家で仕事を持った後まで残った「自分はほかの人間と違う」という感覚も、
ここから始まっている。
現実の無痛症も「無敵になる病気」ではなく、怪我へ気づきにくくなる危険を持つ
アキオの状態を理解する時には、
現実に存在する先天性無痛症に近い特徴を知っておくと分かりやすい。
先天的に痛覚が正常に働かない人では、
火傷や骨折、切創などが起きても痛みという警告を十分に受け取れず、
本人が負傷へ気づかないまま身体へ損傷を重ねることがある。
痛くないことと、身体が傷つかないことはまったく別になる。
作中のアキオも、
この「身体の異常を痛みから判断できない」側に置かれている。
だから幼い頃の喧嘩でも、
普通なら殴られて痛みが増せば身を引くところを、
本人にはその停止信号が入りにくい。
最後まで立っているアキオを周囲から見れば強く見えるが、
本人からすれば自分がどこまで傷ついているのかを把握できないまま動き続けている状態になる。
さらに第22話で強調されるのは、
身体の負傷そのものより人間関係への影響だった。
アキオは自分の痛みが分からないため、
相手が殴られて感じる苦痛も同じようには理解できない。
喧嘩で相手を傷つけても、
どの段階で止めなければならないのかを
自分自身の身体感覚から学ぶことが難しかった。
だから影森家へ引き取られたことは、
アキオにとって単なる就職先ができた話ではない。
普通の社会では扱いに困るほど異質だった少年が、
ツガイ使いや特殊な事情を持つ人間が集まる影森家へ入り、
ナツキ、フユキ、ハルオとともに暮らし、
ヤマノカミの主として役割まで与えられた。
少なくとも「ここにいていい」という場所は手に入れている。
それでも身体の感覚だけは、
家族になった三人とも共有できなかった。
この小さく見える差が、
後にアキオが自分と同じ無痛症の人間を探し始め、
実親と出生へ向かう最初の入口になっていく。
第2章 アキオは本当に痛みを感じない?幼少期の喧嘩で見えた危うさ
「自分の痛みが分からないから、相手の痛みも分からない」がアキオを孤立させた
第22話でアキオが語る幼少期は、
無痛症が本人へ何を起こしていたのかを最も分かりやすく示している。
幼いアキオは喧嘩になっても痛みで怯まず、
殴られても平然としていた。
しかし本人が問題として語るのは、
勝てたことでも身体が丈夫だったことでもない。
自分には痛みが分からず、そのため相手の痛みも分からなかったという部分になる。
通常なら、
自分が殴られて痛かった経験から、
人を殴れば相手も同じように痛いと身体で覚えていく。
アキオにはその基準が乏しかった。
相手が苦痛で顔を歪めても、
自分の経験へ置き換えて理解することができず、
喧嘩では必要以上に相手を傷つけてしまう。
止まらないのではなく、
どこで止まるべきなのかを感覚としてつかめなかった。
ここはアキオの無表情な外見ともつながって見える。
第17話で裏切りを暴かれた時も、
第22話でナツキから問い詰められた時も、
アキオは感情を大きく表へ出さない。
しかし第22話で過去を知ると、
最初から感情そのものが欠けていた人物ではなく、
他人と同じ身体感覚を持てない状態で長く生きてきた人物だったことが見えてくる。
実際、
アキオは黒谷姉弟との生活まで否定していない。
影森家へ拾われたことには感謝し、
ナツキ、フユキ、ハルオと家族になった時間も楽しかったと認める。
つまり「他人の痛みが分からない」という言葉も、
他者を大切に思えないという話ではない。
痛みを出発点とした共感だけが、
幼い頃から自分には欠けていると感じていたことになる。
だから第22話でナツキから裏切りを追及された場面も重くなる。
ナツキたちはアキオと同じように親がなく、
影森家へ引き取られ、
血縁のない四人で家族になった。
境遇だけを見ればアキオは一人ではない。
それでも本人には、
三人にも共有できない身体の差が残り続けていた。
黒谷姉弟という家族を得ても埋まらず、「同じ身体の人間」を探し始めた
アキオの無痛症が後の物語へ直接つながるのは、
本人が同じ体質を持つ人間を探し始めたところからになる。
影森家には居場所がある。
黒谷姉弟もいる。
ヤマノカミという契約ツガイもいる。
それでも「なぜ自分だけ痛みを感じないのか」という問いだけは、
長年誰も答えを持っていなかった。
そこでアキオは、
ネットを使って自分と同じような人間を探すようになる。
探していたのは強いツガイ使いでも、
影森家を倒してくれる組織でもない。
自分と同じ感覚を持つ人間だった。
その行動を続けた先で、
母親と思われる人物との接点が生まれていく。
この順序が重要になる。
最初から西ノ村へ寝返りたかったわけではない。
影森家が嫌で外へ逃げたわけでもない。
無痛症という身体の違いを知りたかった。
自分と同じ人間を探した。
その先に血縁へつながる相手がいた。
第17話で見せた裏切りだけを見ると、
アキオは突然仲間を売ったように見える。
しかし第22話で幼少期まで戻ると、
最初の一歩はもっと個人的で、
自分の身体がどこから来たのかを知ろうとする行動だったことが分かる。
そして皮肉なのは、
アキオが痛みを感じにくい人物でありながら、
その身体の違いを確かめようとした結果、
ナツキ、フユキ、ハルオという家族を最も深く傷つける側へ進んだことになる。
無痛症を知ることで見えてくるのは、
アキオが攻撃へ強いという表面的な特徴ではない。
「自分だけ違う」という感覚が出生探しへ変わり、
やがて黒谷四姉弟と西ノ村を巻き込む選択へつながっていった、その最初の地点になる。
第3章 無痛症は強さではない?アキオが抱えていた危険と孤独
攻撃を受けても動けるのは有利に見えるが、身体の限界を自分で察知しにくい
アキオの無痛症は、
戦闘だけを見れば大きな利点に見える。
痛みで怯まず、
多少の負傷では表情を変えず、
相手から攻撃を受けても行動を続けられるため、
第17話で愛ちゃんに腕へ噛みつかれた場面でも異様な平静さが目立った。
しかし第22話で幼少期が語られると、この強さに見える部分そのものが危険だったことが分かる。
痛みは本来、
身体へ異常が起きた時に動きを止めさせる警報になる。
ところがアキオはその信号が極端に弱いため、
殴られても自分がどこまで傷ついたのかを実感しにくく、
限界を超えるまで動いてしまう。
傷そのものが消えるわけではないため、
痛くないことと負傷しないことはまったく別だった。
第17話では、
偽アサへバールを持って近づいたアキオが、
正体を現した愛ちゃんから腕へ攻撃を受ける。
さらにジンから内通を見抜かれ、
ガブちゃんとの戦闘へ移り、
ヤマノカミまで出して影森屋敷を更地にしようとする。
追い詰められても行動を止めない姿は、
単なる胆力だけでなく「身体から止まれという警告が来ない」性質とも重なって見える。
ただしアキオ本人が長く苦しんだのは、
怪我への恐怖より人との距離だった。
幼少期の喧嘩では、
殴られても痛みを感じにくい自分と、
殴れば顔を歪め、動けなくなる相手との差があった。
自分に存在しない感覚を、
相手がどれほど強く感じているのかを実感できない。
そのため喧嘩の止め時を身体で覚えられず、
必要以上に相手を傷つける危険が常にあった。
ここでアキオの性格を、
「痛みが分からないから冷酷だった」とだけ見るのは違う。
第22話で本人は、
影森家へ拾われたことへ感謝し、
ナツキ、フユキ、ハルオとの生活も否定していない。
人への情はある。
しかし痛覚という最も原始的な身体感覚だけは、
家族と同じように共有できなかった。
だからアキオにとって無痛症は、
強者としての特徴ではなく、
自分だけが人と違うことを毎日のように確認させる身体だった。
影森家へ入って居場所を得ても、「自分だけ違う」という感覚までは消えなかった
影森家は、
一般社会では扱いにくい事情を持つ人物やツガイ使いを抱え込み、
仕事と居場所を与える側面を持っている。
アキオもそこで黒谷姉弟と暮らし、
巨大なツガイ「ヤマノカミ」の主として働き、
少なくとも孤立した少年時代とは違う環境を手に入れた。
第22話で明かされる黒谷姉弟も、
実の血縁ではなく、
親を持たない者同士が影森家の中で家族になった関係だった。
だからアキオだけが特別に孤児だったわけではない。
境遇の近いナツキ、フユキ、ハルオと暮らし、
仕事でも同じ側に立って動いてきたため、
生活そのものには確かな共同体があった。
それでもアキオの中には、
説明できない差が残った。
ナツキは痛みを感じる。
フユキも感じる。
ハルオも感じる。
自分だけが感じない。
親がいないという境遇は共有できても、
この身体感覚だけは誰とも共有できなかった。
アキオが後に探し始めたのは、
影森家より良い職場でも、
もっと強いツガイでもない。
自分と同じ身体を持つ人間だった。
この行動を見ると、
無痛症がアキオへ残した孤独はかなり具体的になる。
影森家で家族を得ても、
自分の出生と身体だけは説明できない。
なぜ自分はこう生まれたのか。
同じ体質の人間はいるのか。
親も同じなのか。
その疑問が長年残り続けたことで、
やがてネット上で同じ無痛症の人間を探すようになる。
つまりアキオの無痛症は、
第17話の裏切りへ直接つながる病気というより、
そこへ向かう最初の穴だった。
身体の違いを知りたいという欲求が、
同類探しへ変わり、
さらに自分の出生を追う行動へ変わっていく。
第4章 アキオはなぜ同じ無痛症の人間を探した?出生への疑問が消えなかった
黒谷姉弟と暮らしても、「なぜ自分だけ痛くないのか」だけは誰も答えられなかった
アキオが同じ無痛症の人間を探し始めた背景には、
黒谷姉弟との関係が悪かったからという事情はない。
第22話で本人が語るように、
影森家へ拾われたことには感謝しており、
ナツキたちと家族として暮らした時間も本物だった。
それでも自分の身体についてだけは、
誰からも答えをもらえなかった。
幼少期から続いた疑問は単純になる。
なぜ殴られても痛くないのか。
なぜ自分だけ違うのか。
同じ体質の人間は他にもいるのか。
そして、
この身体は親から受け継いだものなのか。
だからアキオは、
自分と同じ無痛症の人間が集まる場へ接触するようになる。
今まで身近にいなかった「痛みを感じない側」の人間とつながれば、
自分の状態を初めて同じ感覚で語れる相手が見つかる。
影森家で家族を得ても埋まらなかった身体の空白へ、
ようやく手が届く可能性が出てきた。
ここで重要なのは、
アキオが最初から西ノ村へ接近しようとしていたわけではないことになる。
影森家へ不満を持ち、
敵組織を探した結果でもない。
出発点は、
自分の無痛症を知りたいという個人的な行動だった。
その探索の先で、
アキオは自分の母親を名乗る人物と接触する。
ここから状況が変わる。
同じ無痛症を追っていただけだったアキオの前へ、
自分の出生そのものへ答えを持つ可能性がある人物が現れる。
しかもそれが実母なら、
幼い頃から残っていた「なぜ自分はこう生まれたのか」という疑問と、
「なぜ親に捨てられたのか」という疑問を同時に聞ける相手になる。
家族を持っていても、
アキオが強く引き寄せられたのはそこだった。
同類探しから実母へたどり着いたことが、西ノ村との接点を生んでしまう
ここから先は、
アキオの裏切りへつながる重要な部分になる。
自分と同じ無痛症の人間を探した先で、
アキオが接触したのが小野ミナセだった。
ミナセはアキオの実母に当たる人物として現れ、
本人が長年知ることのできなかった出生へつながる情報を持っていた。
アキオにとっては、
初めて自分の身体と血縁を同時に説明できる相手が現れたことになる。
一方で、
そのミナセは西ノ村側へつながる人物でもあった。
だからアキオの西ノ村との接点は、
政治的な思想や勢力争いから始まったのではない。
無痛症という身体を知りたい。
同じ人間を探したい。
実親を知りたい。
その順番で進んだ先に、
西ノ村が存在していた。
ここまでを見ると、
第17話で偽アサへバールを持って近づいたアキオと、
第22話で自分の過去を語るアキオが別人のように見えなくなる。
裏切りだけを見れば冷酷な内通者だが、
そこへ到達する入口には、
自分の身体がどこから来たのかを確かめたいという長年の疑問があった。
しかも皮肉なのは、
アキオが「自分と同じ人間」を求めたことで、
すでに自分を家族として受け入れていた黒谷姉弟から離れていったことになる。
影森家では、
無痛症であっても居場所を与えられた。
黒谷姉弟は、
血がつながっていなくても家族になった。
それでもアキオは、
血のつながる側へ進んだ。
この選択が後に西ノ村への内通へ変わり、
第17話ではアサを狙い、
ヤマノカミまで出して影森屋敷へ牙を向けるところまで進んでいく。
アキオが無痛症の人間を探した行動は、
単なる病気仲間探しではない。
第22話で初めて見える、
裏切りのさらに手前にあった出発点になる。
そして次に残るのが、
その実母とアキオの無痛症がどこまでつながっているのかという疑問になる。
第5章 アキオの無痛症と実母は関係する?出生を追うと小野ミナセへ行き着く
自分と同じ身体を探した先で現れたのが、実母を名乗る小野ミナセだった
ここからは、
アニメ第23話より先の原作内容を含む。
アキオが無痛症の人間を探し続けた先で接触するのが、
西ノ村側にいる小野ミナセだ。
第22話までのアキオは、自分と同じように痛みを感じにくい人間を探し、
その過程から自分の出生そのものへ近づいていく。
そこでミナセは、単なる同じ体質の知人ではなく「母親」としてアキオの前へ現れる。
アキオにとってこれは大きい。
影森家へ拾われ、
ナツキ、フユキ、ハルオと家族になっても、
自分を産んだ親が誰なのかは分からなかった。
しかも幼少期から痛覚だけが周囲と違い、
殴られても自分の限界が分からず、
相手へ与える痛みまで感覚的に理解しにくい。
その身体の出発点と血縁が、同時に見えてくる相手がミナセだった。
ミナセはアキオへ、
自分の意思で息子を捨てたのではなく、
父親によって引き離されたかのように語って近づく。
もし長年「親に捨てられた」と考えていた側からすれば、
自分は不要だったのではなく、
本当は母親も会いたがっていたのかもしれないという話になる。
アキオが血縁側へ傾くには十分強い材料だった。
しかし原作で後から見えてくる過去は、
アキオが最初に聞いた話とは大きく異なる。
ミナセは偶然息子を失った母親ではなく、
赤ん坊だったアキオを影森家へ拾わせ、
将来的に内部へ入り込ませることを見越していた人物として描かれる。
アキオがようやく見つけた「自分を待っていた母親」という像そのものが、
最初から西ノ村側の計画に利用されていたことになる。
ここで無痛症が残酷に効いてくる。
アキオは影森家への憎しみから母親を探したのではない。
なぜ自分だけ痛みを感じないのか、
同じ身体を持つ者はいないのかという、
本人にとって切実な疑問から出発した。
その最も触れられたくない空白へ、
実母を名乗る人物が入ってきたからこそ、
アキオは西ノ村側の言葉を受け入れてしまった。
ただし「ミナセの能力がアキオを無痛症にした」とまでは現時点で断定できない
小野ミナセ自身にも、
通常の人間とは明らかに異なる身体的な秘密がある。
彼女は東村の長であるヤマハの双子の姉で、
四百年以上前から生きている「神懸かり」の巫女。
「封」の力の一部を扱うことができ、
自分の寿命を封じることで若い姿のまま現代まで生き延びている。
しかもミナセの「封」は、
自分だけに作用するものではない。
原作では他者の寿命まで封じることができ、
西ノ村側には彼女の力によって長期間生き続けている者まで存在する。
アキオが普通ではない身体を持ち、
その実母にも身体機能へ干渉する特殊な「封」があるため、
無痛症と母親の力を結び付けたくなる材料は確かにある。
ただし現時点で、
「ミナセがアキオの痛覚を封じた」
「封の力を遺伝して無痛症になった」
と作中で明確に確定したわけではない。
ここは分けて見る必要がある。
アキオが生まれつき痛みを感じにくいこと、
ミナセが実母であること、
ミナセが「封」を扱えることはそれぞれ描かれているが、
三つを直接結ぶ答えはまだ残されている。
むしろ現段階で重要なのは、
アキオ自身がその答えを知らなかったことになる。
自分がなぜ無痛症なのか分からない。
親が誰なのかも分からない。
だから同じ体質の人間を探した。
その行動によってミナセへ接触し、
結果として西ノ村へ引き込まれていった。
第22話の無痛症は、
後付けで追加された身体設定ではない。
アキオが実母へ近づくための入口であり、
同時に西ノ村がアキオへ入り込める隙でもあった。
「なぜ痛みを感じないのか」という疑問は、
アキオ本人にとってもまだ完全には解けておらず、
実母ミナセの「封」と出生まで追うほど大きな謎へ広がっていく。
第6章 無痛症がアキオの裏切りにつながった?西ノ村へ向かった経路を追う
無痛症そのものがアキオを裏切らせたのではなく、同類探しが西ノ村への入口になった
アキオが影森家を裏切った流れを、
「無痛症だったから他人の痛みが分からず裏切った」と考えるのは違う。
第22話で本人が話している通り、
アキオは影森家に拾われたことへ感謝しており、
ナツキ、フユキ、ハルオと姉弟になれた時間も否定していない。
第17話で敵へ回った後でさえ、
それまでの家族関係そのものを偽物だったとは言っていない。
始まりはもっと個人的だった。
自分だけ痛みを感じない。
同じ身体を持つ人間が周囲にいない。
そこでネット上から同じ無痛症の人間を探し、
身体の共通点を手掛かりに自分の出生へ近づいていく。
その先でミナセと接触したため、
本人にとって「自分を知るための行動」が、
結果的に西ノ村との連絡路へ変わってしまった。
だから第17話「泣く子と悪い子」で見えるアキオは、
突然寝返ったわけではない。
目の前のアサへバールを持って接近し、
止められても距離を詰め、
愛ちゃんが擬態を解いたところで初めて罠だったと気づく。
影森側はすでにアキオを疑っており、
本物のアサを別行動させ、
偽者を残して本人が敵対行動を起こすか確認していた。
裏切りを見抜かれたアキオは、
そこで影森側へ戻らない。
ヤマノカミを呼び出し、
自分が長年暮らしてきた影森屋敷そのものを更地にしようとする。
無痛症の同類探しから始まった行動が、
この時点では影森家を直接攻撃するところまで進んでいる。
母親を知りたいという個人的な願いだけでは済まない地点へ、
本人自身が踏み込んだことになる。
しかも伏線は第17話だけではない。
以前ユルは、
表向きまだ影森側にいたアキオから異様な殺気を感じ取り、
ほとんど動いていない彼へ強い攻撃を返している。
さらに影森屋敷襲撃時には、
情報を得るため生かしておきたい敵側人物をアキオが殺し、
後から見れば口封じを疑える行動まで残っていた。
アキオの内通は、第17話より前から進んでいたと見る方が自然になる。
血縁を求めて選んだ西ノ村から、今度はアキオ自身が処分対象にされる
アキオが西ノ村へ向かった経路を追うと、
第23話「情と理」がさらに皮肉に見えてくる。
ナツキは、
親のいない者同士で姉弟になり、
家族までできたはずなのに、
なぜ自分たちを裏切ったのかとアキオへ迫る。
ところがアキオは自分の弁明を重ねるより、
契約してきたヤマノカミの山風と谷風を案じている。
同じ頃、
影森屋敷の庭では山風の本尊へ黄色い粘菌が付着し、
うさちゃんが異変へ気づいた直後に爆発する。
さらに谷風の本尊も消え、
アキオやナツキたちのいる場所へ現れる。
主を助けに来たようにも見えるが、
谷風にも同じ仕掛けが残っていれば、
アキオへ接近すること自体が危険になる。
この粘菌は、
西ノ村の椥辻が操るツガイ「裁きの日」へつながる。
分体を他のツガイへ寄生させ、
必要なら本尊ごと爆発させられる能力を持つ。
つまり西ノ村は、
内通者としてアキオを利用しながら、
失敗して捕まった時にはヤマノカミごと処分できる保険まで掛けていたことになる。
ここでアキオの選択が反転する。
痛みを感じない自分を知りたかった。
同じ身体の人間を探した。
実母へたどり着いた。
血縁側を選んだ。
影森家を裏切った。
ところが最後には、
その血縁へつながる陣営からも完全には信用されていなかった。
黒谷姉弟は血がつながっていない。
それでも第23話になってもアキオを単なる処分対象として扱わず、
なぜ裏切ったのかを本人へ問い続ける。
対して西ノ村は、
アキオが捕まれば情報漏洩を警戒し、
ヤマノカミへ寄生させた仕掛けを使って口封じまで狙える状態を作っていた。
だから無痛症から始まるアキオの記事で、
裏切りは単独の悪事として置くより、
「自分が何者なのか知りたかった男が、血縁を求めた結果どこへ行ったのか」と見る方が深くつながる。
身体の痛みは感じにくかったアキオが、
自分の出生を追ったことで家族を傷つけ、
最後には選んだ側からも切り捨てられかける。
第22話から第23話にかけて描かれるのは、
無痛症という身体の問題が、人間関係の最も痛い場所へまで広がってしまった過程になる。
第7章 アキオの無痛症を知ると「情と理」の見え方が変わる
痛みを感じにくくても、アキオから感情まで失われているわけではない
アキオの無痛症を追っていくと、
最後に重要になるのは、
痛覚が乏しいことと感情が乏しいことは同じではないという点になる。
第22話でナツキから裏切りを責められた時も、
アキオは影森家への感謝や、
黒谷姉弟と家族として過ごした時間そのものを否定していない。
無表情だから冷たいのではなく、
感情の表し方と身体感覚が周囲と違っている人物として見る方が近い。
第23話「情と理」でも、
その部分はかなりはっきり出る。
裏切り者として拘束され、
自分の立場が危うい状況にありながら、
アキオが強く気に掛けているのは、
契約ツガイであるヤマノカミの山風と谷風だった。
自分の弁明を優先するより、
長年一緒にいたツガイの状態へ意識を向けている。
ここには、
幼少期から続いた無痛症との対比がある。
アキオは自分の身体の痛みを感じにくい。
相手の痛みも身体感覚では共有しにくい。
それでも、
家族を失う不安や、
ヤマノカミを失う恐怖まで消えているわけではない。
むしろ第22話以降を見ると、
アキオは感情がないから裏切ったのではなく、
複数の情を同時に抱えたまま選択を誤った人物として描かれている。
黒谷姉弟への情がある。
影森家への感謝もある。
ヤマノカミへの愛着もある。
それでも実母と出生を求め、
西ノ村側へ進んだ。
この矛盾こそが、
第23話「情と理」でアキオを見る時の中心になる。
無痛症は戦闘設定ではなく、アキオが自分の居場所を探し続ける出発点だった
アキオの無痛症は、
最初だけ見れば特殊能力のように映る。
攻撃を受けても怯まず、
負傷しても動き続け、
戦闘では異常な耐久力を持つ人物に見える。
しかし第22話まで戻ると、
実際には逆だったことが分かる。
痛くないから強い。
ではない。
痛くないから、
自分の身体の限界が分からない。
痛くないから、
他人の痛みを身体感覚から学びにくい。
痛くないから、
自分だけ周囲と違うという疑問が消えない。
その違いが、
同じ無痛症の人間を探す行動へ変わった。
そして同類探しから実母へつながり、
実母から西ノ村へつながり、
最後には第17話の裏切りへまで進んでいく。
だからアキオの無痛症は、
人物設定の一項目ではない。
幼少期の喧嘩。
影森家へ拾われた過去。
黒谷四姉弟との生活。
同じ身体の人間探し。
実母ミナセとの接触。
西ノ村への接近。
第17話の内通発覚。
第23話でヤマノカミが狙われる展開。
これらすべての一番手前にあるのが、
「なぜ自分だけ痛みを感じないのか」という疑問になる。
しかも現時点では、
アキオの無痛症が実母ミナセの「封」とどこまで直接関係しているのかは、
完全には断定できない。
だからこの設定は、
第22話で説明されて終わるものではなく、
出生や血筋へ続く余白を残している。
アキオが患う無痛症を知ることで見えてくるのは、
攻撃に強い男の秘密ではない。
自分の身体を理解したくて同類を探し、
家族を得ても埋まらなかった出生の空白を追い、
その結果として別の家族を傷つけてしまった一人の人物像になる。
痛みを感じない男が、
最終的には家族との関係で最も大きな痛みを抱える。
そこまで見えてくると、
アキオの無痛症は第22話だけの説明ではなく、
黒谷アキオという人物全体を読むための中心に置かれていることが分かる。
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