イルドアへの表敬訪問は親善ではなく、「厳正中立」を掲げて帝国軍の撤退支援を拒んだ同盟国へ、帝国軍との関係を公の場で突き付ける外交的な報復です。
そこへ送られたのが各国にも知られたターニャと第二〇三航空魔導大隊で、イルドアは歓待しても中立の看板が揺らぎ、冷遇しても帝国との関係を傷付ける立場へ追い込まれます。
第3話の講和仲介、第5話の交渉先送り、第8話の撤退支援拒否まで辿ると、第9話「観光旅行」は突然の悪ふざけではなく、帝国とイルドアの駆け引きが表面化した回だと分かります。
第1章 イルドアへの表敬訪問はなぜ嫌がらせ?帝国が仕掛けた「笑顔の報復」
第8話で撤退支援を拒まれた帝国は、軍事行動ではなく外交の場でイルドアへ圧力を返した
第9話「観光旅行」で第二〇三航空魔導大隊がイルドア王国へ向かうのは、
単なる親善訪問ではない。
公式あらすじでも、
南方大陸派遣軍の撤退に協力しなかったイルドアへ対し、
帝国が「嫌がらせを兼ねた表敬訪問」を実行すると明記されている。
つまり最初から、友好だけを目的にした訪問ではない。
発端は第8話「雷撃」。
戦況悪化によって帝国は南方大陸からの撤退を決断するが、
同盟国であるイルドアは「厳正中立」を掲げ、
撤退支援そのものを拒否する。
帝国側から見れば、
同盟関係を結びながら最も苦しい場面では助けない、という対応になる。
その結果、
帝国軍は連合王国海軍が待ち構える内海を、
自力で突破しなければならなくなる。
第二〇三航空魔導大隊には「バルバロイ作戦」が与えられ、
ターニャは部下たちへ、
自分たちの仕事を「運送業者の真似事」と説明する。
ただし実際に運ぶのは貨物ではなく、
撤退する帝国軍そのものを通すための突破口だった。
さらに投入されたのが、
シューゲル開発の新兵器V-2。
魔導師用搭乗席を備えた人力誘導魚雷で、
航空魔導師が魚雷へ乗り込み、
連合王国海軍の艦艇へ直接接近して誘導するという、
ターニャたちでなければ実行困難な危険作戦になる。
つまりイルドアが撤退支援を断ったことで、
帝国は精鋭魔導師を危険な海上作戦へ投入し、
新兵器まで使って撤退経路を確保する羽目になった。
帝国からすれば、
「中立だから協力できない」で簡単に飲み込める話ではない。
しかも作戦終了直後、
潜水艦内のターニャへ本国から届いた書類が、
次の戦闘命令ではなく「イルドア入国証」だった。
命懸けの海戦直後に、
協力を拒否した国へ行けという命令。
ターニャからすれば、
戦闘以上に面倒な仕事を押し付けられた形になる。
ただし帝国側の狙いは分かりやすい。
イルドアへ直接攻撃すれば、
同盟関係そのものを壊す。
正式な抗議だけでは、
イルドア側に大きな痛手を与えにくい。
そこで「表敬訪問」という外交上は断りにくい形を使い、
軍事的存在感だけを相手国へ送り込む。
しかも訪問者は、
名も知られていない一般部隊ではない。
帝国軍の精鋭として数々の戦場を突破してきた第二〇三航空魔導大隊。
その先頭には、
白銀の異名を持つターニャ・フォン・デグレチャフがいる。
この部隊を迎えるだけで、
イルドア国内外へ「帝国軍との関係」が見える形になる。
イルドア側は難しい。
盛大に歓迎すれば、
厳正中立を掲げながら帝国軍精鋭を歓待する姿を周辺国へ見せることになる。
逆に冷遇すれば、
同盟国である帝国を公然と侮辱した形になる。
どちらを選んでも、
完全にきれいな中立姿勢は保ちにくい。
だから第9話の表敬訪問は、
帝国軍が銃を撃たないまま、
イルドアへ選択を迫る外交的な報復になる。
撤退支援を拒否した代償として、
今度は帝国側が「それでは我々をどう扱うのか」と、
イルドアの中立姿勢を公の場へ引きずり出したわけだ。
「観光旅行」という軽い題名なのに、実際にはイルドアの中立政策を試す訪問になっている
第9話タイトルが「観光旅行」なのも皮肉が効いている。
第二〇三大隊にとって、
久しぶりに砲撃も塹壕もない国外訪問なら、
表面上は旅行に見える。
しかし帝国参謀本部側から見れば、
明確な外交任務になる。
ターニャたちは、
第2期開始以来ほとんど休む間もなく戦線を移動してきた。
第1話では新編サラマンダー戦闘団の指揮を任され、
東部戦線へ投入。
第4話では鉄槌作戦、
第5話以降はアンドロメダ計画、
第6話・第7話では補給破綻によって攻勢そのものが限界へ達している。
第7話「煉獄」では、
ゼートゥーアがアンドロメダ計画失敗の主因として、
ヨセフグラード以東での補給破綻と攻勢限界を挙げる。
帝国は勝利を重ねても、
兵站と人的損耗によって戦争継続能力を削られ続けている。
そんな帝国が、
第8話でようやく南方大陸撤退を決断する。
そこで同盟国イルドアに助力を求めたのに、
返ってきたのが「厳正中立」。
帝国軍首脳から見れば、
最も必要な時に助けを断られた印象が強くなる。
だから第9話の「観光旅行」は、
兵士たちには休暇に近く見えても、
政治的にはまったく軽くない。
第二〇三大隊が街を歩く。
イルドア側が接待する。
その光景自体が、
帝国とイルドアの関係を外部へ見せる材料になる。
ターニャが送られたのは、
この曖昧な状況に非常に向いた人物だからでもある。
軍人としては命令へ従う。
外交官ではないため、
表向きは単なる軍人の訪問として処理できる。
それでいて帝国軍の象徴としては、
十分すぎるほど目立つ。
だから「表敬訪問」という言葉だけを見ると穏やかでも、
中身はかなり意地が悪い。
イルドアへ攻撃はしない。
同盟破棄もしない。
ただし帝国を無視して中立だけを名乗ることも許さない。
この絶妙な圧力が、
第9話でいう「嫌がらせ」の正体になる。
第2章 第8話「雷撃」で何があった?イルドアの撤退支援拒否が第9話へ直結した
南方大陸撤退を決めた帝国に対し、イルドアは「厳正中立」を盾に協力しなかった
第9話の表敬訪問を理解するには、
第8話「雷撃」の前半を外せない。
この時の帝国は、
勝っているのに余裕がない。
第7話でアンドロメダ計画が補給破綻によって頓挫し、
東部戦線でも南方大陸でも、
戦線維持そのものが重荷になっていた。
第2期第3話では、
ウーガやヴァイスが講和条件へ不満を抱き、
ターニャが「成果を失いたくない心理」を危険視している。
第4話では、
より有利な講和条件を得ようとして鉄槌作戦を発動。
第5話ではイルドア経由の和平交渉が先送りされ、
さらに勝利を積み上げるためアンドロメダ計画へ進む。
つまり帝国は、
戦争を終わらせたいのに、
「もう少し勝てば有利に終われる」を何度も繰り返している。
ところが第7話では補給が限界を迎え、
ルーデルドルフ自身も、
莫大な犠牲だけが積み上がる現状を「煉獄」と捉えるほど追い込まれる。
そこで第8話、
帝国は南方大陸から撤退する。
攻勢ではなく後退。
戦争終結へ向けた現実的な判断でもある。
その撤退経路として期待されたのが、
同盟国イルドアの協力だった。
しかしイルドアは支援を拒否する。
掲げる言葉は「厳正中立」。
連合王国と帝国の戦いへ直接手を貸せば、
中立国としての立場が崩れるという判断になる。
イルドア側には理屈がある。
ただし帝国側にも感情がある。
同盟関係を利用して講和仲介には関わる。
戦後秩序で発言力も持ちたい。
しかし帝国軍が危険な撤退をする時には、
中立だから支援できない。
この態度は、
第3話からすでに火種になっていた。
イルドアが抜き打ちで動員演習を実施した際、
ルーデルドルフは同盟国として身勝手な行動だと激怒している。
つまり帝国軍首脳には、
イルドアが自国都合で動く国だという不信が早い段階から存在していた。
そのイルドアが第8話で、
今度は撤退支援まで拒否する。
帝国側から見れば、
第3話から積み上がってきた不満が、
ここで一気に具体的損害へ変わったことになる。
支援を断られた結果、第二〇三大隊がV-2へ乗り込み連合王国海軍を突破することになった
イルドアが支援しなかったため、
帝国軍は内海を単独突破する必要に迫られる。
そこで実行されたのが、
第二〇三航空魔導大隊によるバルバロイ作戦。
ターニャたちは航空戦ではなく、
潜水艦と魚雷を使った海上作戦へ投入される。
新兵器V-2は、
魔導師が直接搭乗する人力誘導魚雷。
普通の魚雷のように発射して終わりではなく、
魔導師自身が乗り込み、
敵艦隊へ向けて進路を修正する。
失敗すればそのまま海中で死亡しかねない危険任務になる。
それでもターニャたちは実行する。
連合王国海軍が待ち構える内海へ潜入し、
撤退する帝国軍の経路を切り開く。
イルドアが支援していれば、
ここまで危険な手段を採らずに済んだ可能性もある。
だから作戦終了後に、
ターニャへイルドア入国証が届く流れが効いてくる。
帝国軍最精鋭を命懸けの突破作戦へ追い込んだ国へ、
その精鋭本人たちを直後に送り込む。
かなり露骨な返礼になる。
しかも帝国は、
「撤退を助けなかった報復だ」と正面から宣言しない。
名称は表敬訪問。
形式上は友好。
だからイルドアも、
軍事的挑発だとして簡単に追い返せない。
第8話から第9話への流れは、
戦闘と外交が直結している。
支援拒否。
危険な単独突破。
撤退成功。
そして表敬訪問。
この順番を追うと、
なぜ帝国がわざわざターニャをイルドアへ送ったのかが見えてくる。
帝国が伝えたいのは、
「我々はお前たちの協力なしでも撤退した」だけではない。
「その代わり、お前たちが中立を名乗り続けられるかはこちらからも試す」
という圧力まで含まれている。
第9話の嫌がらせは、
第8話の怒りを感情的にぶつけた行動ではない。
軍事報復なら戦争になる。
だから外交儀礼を使う。
イルドアが拒絶しにくい表敬訪問へ、
最も目立つ第二〇三大隊を送り込む。
この遠回しなやり方こそ、
『幼女戦記』らしい帝国の返し方になる。
第3章 なぜターニャを送り込んだ?第二〇三航空魔導大隊そのものが外交圧力になる
帝国が選んだのは外交官ではなく、各戦線で戦果を積み上げてきた「白銀」と精鋭大隊
イルドアへの表敬訪問で重要なのは、
帝国が普通の外交使節ではなく、
ターニャ・フォン・デグレチャフ率いる第二〇三航空魔導大隊を送り込んだこと。
第8話「雷撃」まで彼女たちは南方大陸撤退のため、
連合王国海軍を相手にバルバロイ作戦を実行した直後だった。
しかも第二〇三大隊は、
第2期で急に有名になった部隊ではない。
第1期からライン戦線、北方、共和国戦など数々の危険任務へ投入され、
劇場版では連邦軍とも交戦。
ターニャ自身は「白銀」の異名と戦功によって、
敵味方双方から名前を知られる存在になっている。
第2期第1話では、
そのターニャを中心に新編サラマンダー戦闘団が編成される。
航空魔導師だけでなく、
歩兵、砲兵、機甲部隊を含む戦闘団を動かし、
東部戦線の複雑な戦況へ投入される役目を任される。
つまり帝国軍内でも、
単なる一大隊長以上の扱いを受け始めている。
第3話では、
講和条件を巡ってウーガやヴァイスが
「これまでの犠牲を成果なしで終わらせられない」と思い詰める中、
ターニャだけはコンコルド効果を警戒する。
戦場で勝つだけでなく、
戦争全体が政治と心理で動いていることを理解する人物として描かれている。
第4話「鉄槌作戦」でも、
講和を有利にするための大規模反攻へ投入される。
敵探知を避けるため地上部隊へ同乗し、
橋を守る降下猟兵とも物資交換を行いながら前進。
単純な航空戦だけではなく、
補給、移動、現地部隊との調整までこなしている。
第5話以降のアンドロメダ計画では、
さらに厳しい役回りを押し付けられる。
第6話「囮」ではソルディム528陣地で包囲され、
救援到着まで持久戦を継続。
第7話「煉獄」で計画そのものが補給破綻によって頓挫した後も、
ターニャは帝都へ戻されて戦争継続の現実を目撃する。
つまり第9話でイルドアへ入るターニャは、
単なる少女軍人ではない。
帝国軍の攻勢。
補給破綻。
撤退。
海上突破。
その全部を現場で経験した軍人になる。
イルドア側から見れば、
この人物が大隊ごと入国するだけで十分に重い。
歓迎式典を開けば、
帝国軍精鋭を公然と歓待する映像が残る。
市街地を歩かせても、
「白銀」と第二〇三大隊がイルドア国内へ入った事実は消えない。
しかも帝国側は、
戦闘命令を出していない。
武装侵攻でもない。
正式な「表敬訪問」だから、
イルドアは露骨に拒否しにくい。
軍事圧力なのに、
外交儀礼の形をしているところが厄介になる。
ターニャなら「軍人として命令に従っただけ」で通せるため、帝国側にも都合がいい
ターニャを送る利点は、
本人が外交官ではないことにもある。
イルドア政府へ強硬な要求書を突き付ければ、
外交問題として正面衝突する。
しかし軍人の表敬訪問なら、
帝国は「友好のために訪問させただけ」と説明できる。
一方でイルドア側には、
第二〇三大隊の戦歴が見えている。
第8話で自国が撤退支援を拒否した直後、
その穴を埋めるため危険な海上突破を実行した部隊が来る。
これだけで、
帝国が何を言いたいのかは十分伝わる。
ターニャ本人も、
命令された以上は軍人として振る舞う。
外交的な報復を自分から宣言する必要はない。
むしろ表面上は礼儀正しく行動した方が、
イルドア側は扱いに困る。
怒鳴り込んでくるなら、
抗議として処理できる。
武力を見せるなら、
脅迫だと批判できる。
しかし笑顔で表敬訪問され、
正式な歓迎を要求されたら、
中立国イルドアは自分の立場を自分で説明しなければならない。
帝国がターニャを送り込んだ狙いは、
イルドアを直接屈服させることではない。
「帝国との関係を本当に中立として扱えるのか」
という面倒な問題を、
第二〇三大隊の存在そのもので突き付けることにある。
第4章 第3話「善意の仲介人」からイルドアは帝国との距離を慎重に測っていた
抜き打ち動員演習と講和仲介で、帝国はすでにイルドアの独自行動へ苛立っていた
第8話の撤退支援拒否だけを見ると、
イルドアが突然帝国へ冷たくなったように見える。
しかし第2期第3話「善意の仲介人」まで戻ると、
帝国とイルドアの温度差はもっと早くから表面化している。
イルドアは「厳正中立」を掲げながら、
突然大規模な動員演習を実施する。
戦時中に同盟国が予告なく軍を動かせば、
帝国参謀本部としては当然警戒する。
ルーデルドルフは、
同盟国として身勝手な行動だと激怒している。
ただしイルドアが狙っていたのは、
帝国との全面対立ではない。
同時に講和仲介へ動き、
カランドロ大佐を中心に、
帝国と敵国双方へ接触する余地を作ろうとする。
ここでイルドアは、
戦争へ直接参加する国より「終戦を仲介できる国」の立場を選ぼうとしている。
帝国側も、
この仲介自体は利用する。
戦争を終わらせる必要は理解している。
しかし第3話で提示された講和条件は、
帝国側から見れば事実上の成果放棄に近い内容。
ウーガやヴァイスは、
これまで積み上げた犠牲を無駄にできないと強く反発する。
そこでターニャが危険視したのが、
損失を重ねたからこそ撤退できなくなる心理。
戦場では多くを勝ち取ってきた。
だから成果なしの和平を受け入れられない。
帝国全体が、
この心理へ引っ張られ始めている。
結局、
イルドアを通じた講和はまとまらない。
その直後に帝国が選ぶのが、
第4話「鉄槌作戦」。
和平が近付いているから戦闘を止めるのではなく、
より有利な条件を押し付けるため、
さらに大規模な攻勢を仕掛ける。
この流れだけでも、
イルドアと帝国の立場の違いが見える。
イルドアは、
戦争を終わらせる仲介者として価値を上げたい。
帝国は、
戦場で追加勝利を得てから交渉したい。
同じ講和を口にしていても、
欲しい結果が一致していない。
第4話では、
ルーデルドルフ自身も墓地を訪れ、
増え続ける戦死者を目にしている。
それでも最高統帥府では、
次の会戦で決定的勝利を得ると約束してしまう。
政治と軍事の間で、
「もう一勝」が戦争を長引かせていく。
第5話で和平交渉が先送りされ、イルドアは帝国の勝利へ深入りしない姿勢をさらに強める
第5話「貧乏籤」では、
イルドア王国経由の和平交渉が正式に先送りされる。
ここで帝国は、
交渉再開を待つのではなく、
連邦の資源地帯を制圧する大規模攻勢
「アンドロメダ計画」へ進む。
狙いは明確。
資源地帯を奪い、
敵の継戦能力を削り、
次の和平交渉でさらに有利な条件を得る。
第4話の鉄槌作戦から、
「戦場で勝って交渉条件を上げる」という考え方が続いている。
しかし結果は、
第6話のソルディム528陣地での包囲戦、
第7話の補給破綻へつながる。
ゼートゥーアは、
ヨセフグラード以東で兵站が崩れ、
帝国軍が攻勢限界へ達したことを認める。
勝つために伸ばした戦線が、
今度は帝国自身を締め付ける形になる。
イルドアから見れば、
この帝国へ深く乗ることには危険がある。
表面上は強大な軍事国家でも、
補給は悪化。
人的損耗も増大。
講和を求めながら、
さらに大規模攻勢を繰り返している。
だからイルドアは、
帝国へ全面協力するより、
講和仲介と中立維持を優先する。
帝国側から見ると身勝手。
イルドア側から見ると、
戦争末期へ引きずり込まれないための防衛策になる。
この温度差が、
第8話で撤退支援を拒否するところまで進む。
第3話の抜き打ち動員演習。
講和仲介。
第5話の交渉先送り。
そして帝国の補給破綻。
一つずつ積み重ねた先に、
イルドアの「厳正中立」がある。
だから第9話の表敬訪問も、
一回の支援拒否だけに腹を立てた報復ではない。
帝国側には、
第3話から続く「イルドアは都合のいい時だけ距離を取る」という不満がある。
その不満へ、
ついに第二〇三大隊を送り込む形で返答した。
イルドアは戦争へ巻き込まれたくない。
帝国は同盟国として責任を果たしてほしい。
どちらにも自国を守る論理がある。
その食い違いが軍事衝突ではなく、
第9話「観光旅行」という妙に穏やかな形で爆発している。
第5章 講和仲介から撤退支援拒否へ|帝国とイルドアの関係はどこで崩れ始めた?
第4話ではイルドアを通じた講和を見据え、帝国は「もう一勝」で条件を引き上げようとした
帝国とイルドアの関係が悪化した背景には、
第8話の撤退支援拒否だけではなく、
第3話から続く講和交渉のすれ違いがある。
イルドアは仲介国として戦争終結へ関わろうとする一方、
帝国は戦場で追加勝利を得てから和平へ入りたいと考えていた。
第4話「鉄槌作戦」では、
帝国軍が講和そのものを拒否しているわけではない。
むしろ戦争終結を意識しているからこそ、
少しでも有利な条件を作るため、
大規模反攻を実行するという矛盾した判断へ進む。
ルーデルドルフたち参謀本部は、
現時点で和平へ入れば、
帝国が積み上げた戦果に比べて得るものが少ないと見る。
そこで敵軍へ大打撃を与え、
交渉卓へ着く前に軍事的優位を明確化しようとする。
そのための一手が鉄槌作戦だった。
ターニャたちも、
この政治目的を背負って前線へ送られる。
敵探知を避けるため地上移動を選択し、
途中では橋梁を守る降下猟兵と接触。
食料や物資を交換しながら、
戦場の奥へ進んでいく。
ここで見えるのは、
帝国軍がすでに補給へ苦労しながら、
なお次の勝利を求めていること。
兵士は食料を融通し、
前線部隊は物資不足へ対応しながら戦う。
それでも上層部は、
「この一勝で和平条件が良くなる」と攻勢を続ける。
第3話でターニャが警戒していたのも、
まさにこの状態だった。
これまで払った犠牲が大きいから、
成果なしでは終われない。
だから追加損失を承知で、
さらに戦果を取りに行く。
一方のイルドアは、
そこへ同じ熱量で付き合わない。
講和仲介へ動く。
しかし帝国軍の追加攻勢そのものへは深入りしない。
帝国から見れば、
和平では口を出すのに戦場では距離を置く国に映る。
この違和感が、
第5話「貧乏籤」でさらに広がる。
イルドア経由の和平交渉は先送りとなり、
帝国は待つ代わりに、
連邦資源地帯を狙うアンドロメダ計画へ踏み出す。
また戦う。
また勝てば、
次の交渉では条件を上げられる。
その発想で戦線を東へ伸ばすが、
実際には補給距離も同時に伸びていく。
前線だけ勝っても、
後方が支え切れなくなる危険が増していく。
第6話「囮」では、
ターニャたちがソルディム528陣地へ置かれ、
連邦軍の包囲を受けながら救援を待つ。
現場では生存そのものが難しくなっているのに、
帝国全体はまだ攻勢計画を維持しようとしている。
そして第7話「煉獄」。
ゼートゥーアが、
ヨセフグラード以東では兵站が破綻し、
攻勢限界へ達している現実を突き付ける。
アンドロメダ計画は、
戦術的敗北より補給能力の限界で止まった。
ここまでを見ると、
イルドアが帝国へ深入りしなかった背景も見えやすい。
帝国軍は強い。
戦場でも勝つ。
しかし勝つたびに、
次の勝利を求めて戦線を伸ばしている。
中立維持を優先するイルドアからすれば、
この戦争へ全面的に巻き込まれる危険は大きい。
イルドアは「帝国を助けない国」ではなく、帝国の戦争そのものへ飲み込まれることを避けていた
イルドアの行動だけを並べると、
帝国へ協力したくない国にも見える。
しかし第3話では講和仲介へ動き、
帝国と敵対国の間へ入ろうとしている。
つまり帝国を完全に切る方向ではない。
ここが重要になる。
イルドアが守りたいのは、
帝国との友好だけでも、
連合王国との友好だけでもない。
戦争終了後まで自国を残し、
仲介国として発言できる立場そのものになる。
帝国軍が優勢な間に全面協力すれば、
敵国から帝国陣営と見なされる。
逆に帝国を完全拒絶すれば、
隣接する強大な同盟国を敵へ回す。
その中間へ立つために使われている言葉が「厳正中立」になる。
ただし帝国側から見れば、
その中間姿勢が都合良く映る。
和平では仲介役を取る。
自国の軍事態勢は独自に動かす。
そして第8話で帝国軍が撤退支援を求めると、
中立を掲げて断る。
イルドアには生存戦略。
帝国には責任逃れ。
同じ行動が、
立場によって正反対に見えている。
だから第9話の表敬訪問は、
第8話だけの仕返しではない。
第3話から積み重なった
「イルドアはどこまで同盟国なのか」という帝国側の不満を、
第二〇三大隊という目立つ部隊を使って表へ出した行動になる。
第6章 第9話「観光旅行」は本当に観光?戦場帰りのターニャが豊かなイルドアで見るもの
帝国では補給破綻が戦争計画を止めた直後、イルドアには食事・交通・都市生活の余裕が残っている
第9話が「観光旅行」と題されているのは、
表敬訪問が外交的な嫌がらせだから面白いだけではない。
もう一つ大きいのが、
戦場と帝国国内を見続けてきた第二〇三大隊が、
まだ豊かさを残すイルドアへ入ることになる。
第7話「煉獄」では、
帝国軍の補給能力が限界へ達している。
前線へ必要な物資を送り続けられない。
人的損耗も止まらない。
ゼートゥーアは、
戦場で敗北していなくても、
兵站破綻によって攻勢継続が不可能だと判断する。
この状況は、
第1期の帝国とはかなり違う。
第1期では共和国を打倒し、
ド・ルーゴ率いる自由共和国軍まで追撃。
軍事的には、
帝国が各戦線で主導権を握る姿が目立っていた。
劇場版以降、
連邦参戦によって東部戦線が拡大する。
第2期では南方大陸、東部、海上撤退まで戦場が広がり、
第二〇三大隊も休む間なく転戦。
勝利しても、
次の戦線へ送られる状態が続く。
第4話の地上移動では、
前線の降下猟兵と物資交換をする。
第6話では包囲陣地で救援待ち。
第7話では補給破綻。
第8話では撤退軍を通すため、
新兵器V-2へ魔導師自身が搭乗して内海突破を強行する。
その直後に入るのがイルドア。
戦場へ向かう列車でも、
泥だらけの陣地でもない。
都市機能が保たれ、
交通網が動き、
食事や物資にも余裕がある国になる。
ターニャにとって、
この差はかなり大きい。
帝国国内では、
勝利を叫び続ける後方と、
限界へ近付く前線との温度差をすでに見ている。
そこへ今度は、
戦争の中心から距離を取った国の豊かな日常が入ってくる。
イルドア国民からすれば、
それが普通の生活。
しかし第二〇三大隊は、
数日前まで魚雷へ乗って敵艦隊へ突入していた。
同じ大陸で、
一方は命懸けの撤退戦。
一方は平穏な都市生活。
この落差そのものが第9話の見どころになる。
だから「観光旅行」という言葉にも、
かなり強い皮肉がある。
ターニャたちは確かに街を見る。
食事もする。
表敬訪問なので、
戦闘任務のように砲撃されるわけでもない。
しかし彼女たちが見ているのは、
単なる観光名所だけではない。
帝国が戦争で失いつつある
「普通の国の豊かさ」そのものでもある。
ターニャがイルドアの豊かさを見るほど、帝国が戦争を続ける代償もはっきりする
ターニャは、
第2期第3話の時点から戦争終結を強く意識している。
ウーガやヴァイスが、
積み上げた犠牲を無駄にできないと考える中で、
損失を回収するために追加投資を続ける危険を指摘している。
それでも帝国は、
第4話で鉄槌作戦。
第5話でアンドロメダ計画。
第6話で包囲戦。
第7話で補給破綻。
そして第8話で南方撤退。
ターニャが恐れていた方向へ、
戦争はさらに進んでいる。
そのターニャが、
第9話で戦争被害の比較的少ないイルドアへ入る。
道路。
鉄道。
食事。
市民生活。
目の前にある物すべてが、
帝国では維持すること自体が難しくなっている日常と重なる。
イルドアが撤退支援を拒んだことに、
帝国軍人として腹立たしさはある。
しかし国家として見れば、
戦争へ深く入らなかったからこそ、
この豊かさを維持できているという事実も見えてしまう。
ここがターニャには皮肉になる。
彼女自身の願いは、
安全な後方勤務と安定した生活。
ところが有能だから前線へ送られ、
功績を挙げるほど重要任務が増える。
帝国もまた、
勝つほど次の勝利を求め、
戦争から抜け出せなくなっている。
一方イルドアは、
帝国から「身勝手」と思われても、
戦争への深入りを避ける。
結果として、
国内の余力を残している。
ターニャが嫌う合理性だけを見れば、
むしろイルドアの選択には理解できる部分まである。
だから第9話の面白さは、
「嫌がらせに来たターニャが観光する」という軽い笑いだけではない。
表敬訪問を受けるイルドア。
戦争で疲弊する帝国。
その両国の差を、
前線帰りのターニャ自身が目撃する回にもなっている。
そして帝国がイルドアへ圧力を掛けるほど、
逆に見えてくるものがある。
イルドアはなぜ中立へ固執するのか。
なぜ撤退支援まで断ったのか。
その答えの一部は、
帝国が失いつつある平穏を、
イルドアがまだ守っている光景そのものに表れている。
第7章 イルドアは帝国を裏切った?「厳正中立」を守る小国の生存戦略
第3話の講和仲介から第8話の撤退支援拒否まで、イルドアは一貫して戦争への全面参加を避けている
イルドアの行動だけを見ると、
帝国に都合の悪い時だけ「厳正中立」を持ち出す国にも見える。
第3話では講和仲介へ入り、
第5話では和平交渉の窓口となり、
第8話では帝国軍の南方撤退支援を拒否する。
帝国軍人から見れば、
かなり腹立たしい動きになる。
ただしイルドア側から見ると、
行動には一本の筋が通っている。
帝国の戦争へ全面参加しない。
連合王国や連邦にも深入りしない。
それでも帝国との同盟関係そのものは切らず、
講和仲介を通じて戦後にも発言できる位置を残す。
自国を戦場へしないことが最優先になる。
第3話「善意の仲介人」で、
イルドアが突然の動員演習を実施した時、
ルーデルドルフは強い不快感を示した。
同盟国でありながら帝国へ十分な説明もなく軍を動かす。
帝国参謀本部からすれば、
「本当にこちら側なのか」と疑いたくなる行動だった。
しかし同じ頃、
イルドアはカランドロ大佐を通じて講和仲介へ動く。
帝国を攻撃するための軍事準備だけを進めていたわけではない。
戦争が長期化する中で、
帝国にも敵国にも完全には組み込まれない位置を作ろうとしていた。
第4話では、
帝国がその講和を少しでも有利にするため鉄槌作戦を実施する。
第5話では交渉そのものが先送りされ、
帝国は連邦資源地帯を狙うアンドロメダ計画へ踏み込む。
イルドアが和平の入口を探る間に、
帝国は追加勝利によって条件を引き上げようとする。
その結果が第7話「煉獄」。
ヨセフグラード以東で補給が破綻し、
帝国軍は攻勢限界へ到達する。
前線で戦術的勝利を積み重ねても、
兵士。
弾薬。
食料。
輸送能力。
国家全体の余力が追い付かなくなる。
イルドアから見れば、
ここまで消耗した帝国へさらに深く付き合うことは危険になる。
第8話で南方撤退支援を求められても、
協力すれば連合王国との敵対が一段深まる。
だから「厳正中立」を掲げ、
帝国軍の撤退そのものへ直接手を貸さない。
もちろん帝国側には受け入れ難い。
同盟国なのに、
最も危険な撤退戦では助けない。
結果としてターニャたち第二〇三大隊が、
V-2へ搭乗して連合王国海軍突破を強行する。
人的危険まで帝国側が背負わされた形になる。
だから第9話の表敬訪問が発生する。
帝国はイルドアを裏切り者として攻撃するのではなく、
「中立を名乗るなら、我々との同盟関係を公の場でどう扱うのか」と突き付ける。
軍事報復ではなく、
外交儀礼を使った圧力になる。
イルドアからすれば、
帝国を敵にしたくない。
だから第二〇三大隊を完全拒絶することも難しい。
一方で盛大に歓待すれば、
連合王国や連邦から
「本当に中立なのか」と疑われる。
この板挟みこそ、
帝国が狙った嫌がらせになる。
第9話の表敬訪問は「便利な中立をいつまでも続けられると思うな」という帝国からの警告でもある
帝国がイルドアへ伝えたいことは、
撤退支援拒否への怒りだけではない。
もっと根深いのは、
同盟国として帝国との関係を維持しながら、
危険な局面だけ中立へ逃げる姿勢への不満になる。
第3話では動員演習。
講和仲介。
第5話では交渉先送り。
第8話では撤退支援拒否。
イルドアは一貫して、
帝国の勝利へ全面的に賭けることを避けている。
帝国側から見れば、
自分たちは共和国。
連邦。
連合王国。
南方大陸。
複数戦線で兵士を失い、
国家総力で戦争を継続している。
その横でイルドアだけが、
講和仲介国として安全圏に残ろうとしているように見える。
しかも第9話でターニャが見るイルドアには、
帝国とは違う余裕が残っている。
都市機能。
交通。
食事。
市民生活。
第7話で兵站破綻を経験し、
第8話で命懸けの撤退戦を終えた第二〇三大隊には、
その平穏が強烈な対比になる。
帝国軍人からすれば、
「こちらが血を流している間に」という感情も出る。
だから表敬訪問には、
軍事的圧力だけでなく、
帝国側の苛立ちまで乗っている。
ただし、
イルドアを単純な卑怯者として見ると、
この話の面白さは減る。
結果だけ見れば、
戦争へ深入りしなかったイルドアは、
国内の余力をかなり残している。
一方の帝国は、
勝利を重ねながら疲弊し、
ついに戦線縮小と撤退へ入っている。
ターニャが第3話で警戒した、
「ここまで犠牲を払ったのだから成果を得るまで止められない」
という心理。
帝国はまさにそこへ入り込み、
追加勝利を求めるたびに損耗を増やしてきた。
イルドアは、
その輪へ完全には入らなかった。
つまり第9話では、
帝国の怒りにも筋がある。
イルドアの慎重さにも筋がある。
どちらか一方だけが間違っているわけではない。
帝国には、
同盟国なら負担を分けてほしいという論理がある。
イルドアには、
他国の戦争で自国まで消耗させたくないという論理がある。
この二つが両立しなくなった結果、
銃撃戦ではなく表敬訪問という奇妙な対決が生まれた。
そしてターニャを送り込んだ帝国の狙いも、
ここまで見るとはっきりする。
イルドアを占領することではない。
中立そのものを破壊することでもない。
ただ、
「帝国との関係だけ利用しながら、危険な時は無関係ではいられない」と見せ付ける。
第二〇三航空魔導大隊が街へ入る。
イルドア政府が迎える。
その光景だけで、
帝国とイルドアの結び付きは外から見える。
戦闘を一発も行わず、
中立国の立場へ傷を付けられる。
だから第9話「観光旅行」の表敬訪問は、
ただの仕返しではない。
第3話から続いてきた帝国とイルドアの距離感が、
ついに外交上の攻防として表面化した場面になる。
イルドアは帝国を完全に裏切ったわけではない。
しかし帝国へ全面協力する気もない。
その中間を取り続けようとする国へ、
帝国が「その立場にも代償はある」と返した。
それがターニャと第二〇三航空魔導大隊を送り込んだ、
表敬訪問という名の嫌がらせだった。


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