『氷の城壁』の熱川真夏は、小雪の中学時代の同級生で、人との距離を取るようになった過去に深く関わっている。
妹の秋音との出会いで記憶がよみがえり、離れたはずの真夏との関係が、高校生活にも影を落とす。
真夏本人が目の前にいなくても小雪が身構えてしまう姿に、嫌がらせが終わった後も残る苦しさが表れている。
原作の結末に触れるネタバレあり。
第1章 熱川真夏は最後どうなる? 謝罪や報いより、その後も残る小雪の傷
| 気になる結末 | 描かれ方 |
|---|---|
| 謝罪・和解 | 本人との具体的な決着は確認できない |
| 転落・報い | 明確な末路としては示されない |
| 小雪への影響 | 妹との出会いで過去がよみがえる |
真夏が不幸になる結末を待ちたくなる
小雪があれだけ嫌な思いをしたのに、
真夏はその後どうなったのか。
中学時代の出来事を知ると、そこが引っ掛かる。
自分の都合で態度を変え、
傷つけた相手をさらに責める。
せめて何をしたのか自覚する場面や、
周囲が小雪の苦しさを知る場面があってほしくなる。
小雪の高校生活が少しずつ明るくなるほど、
置き去りに見える真夏のその後も気になってくる。
先に答えると、真夏が最後に謝罪する、
周囲から孤立する、大きな不幸に遭うといった結末は、
確認できる範囲では示されていない。
小雪を傷つけた分だけ本人に罰が返り、
それで一件落着となる展開ではない。
小雪の前から日常的な接点がなくなっても、
真夏本人の生活がどう変わったかまでは、
具体的な後日談として語られていない。
そのため、真夏は最後にすべてを失うと期待すると、
求めていた決着は見つからない。
反対に、何も描かれないから
高校でも幸せに暮らしている、
というところまで決まるわけでもない。
小雪から離れた後の真夏の人生について、
空白が残っている。
読後にすっきりしないのは、
その空白の向こうで本人だけ平気なのかと
思えてしまうためでもある。
けれど、真夏に何が起きたかが分からないことと、
小雪がされたことの重さは別に残る。
本人が泣いて反省する場面がなくても、
嫌がらせで相手の居場所を狭めた行動は変わらない。
真夏のその後を知りたくなる出発点には、
小雪の受けた傷が、
それだけで終わらせてよいほど軽く見えないという
引っ掛かりがある。
ここで気になるのは、
真夏がもう目の前にいないのに、
小雪の側には反応が残っているところになる。
高校で会うのは妹の秋音なのに、
姉との記憶がよみがえる。
中学時代の関係が終わったことと、
その相手を思い出しても平気になることは、
同じ時期に起きていない。
小雪は別の学校へ進んでも、
昔の人間関係からすぐ自由にはなれなかった。
本人の後日談と、小雪に続いている出来事
アニメ第11話「転回」は、
真夏の妹の秋音との出会いから、
小雪の中学時代を映し出す。
今の学校で新しい後輩と会った出来事が、
過去へつながってしまう。
真夏本人が現れて新たに何かをするのではなく、
彼女につながる相手が来るだけで、
小雪は自分の過去をどこまで知られているのかと
身構えている。
真夏をめぐる話には、
本人が直接小雪へしたことと、
それが後から小雪の人付き合いへ残す影響がある。
後者は真夏が登場し続けなくても動いていく。
秋音への警戒、昔の自分への嫌悪、
相手へ気を遣う時の疲れ。
その反応の一つひとつに、
以前の学校で何を経験したのかがつながっている。
だからといって、小雪が人と距離を取ることを
すべて真夏一人のせいへまとめることもできない。
家庭の事情や五十嵐との交際など、
彼女が抱えたものは重なっている。
その中で真夏は、同じ場所にいる相手に合わせても
安心できない経験を残した人物になる。
友達らしく過ごすことと、
自分を大切に扱ってもらえることが一致しなかった。
この先で動くのは、
真夏へ仕返しをして終える話だけではなく、
小雪が今の相手とどう話せるようになるかという
部分になる。
秋音の言葉を聞き、姉との記憶だけでは
決められない相手の姿に触れていく。
真夏本人の反省が分からなくても、
小雪の高校生活には、
以前と違う関係が少しずつ増えていく。
真夏の結末が気になる気持ちは、それでも残る。
傷つけた側の姿が見えず、
傷ついた側がその後も悩んでいるのは、
見ていてつらい。
小雪が友人と笑えるようになったから、
もう過去はどうでもよいとは感じにくい。
その引っ掛かりを抱えたまま、
まずは真夏が何をして、
小雪がどこで追い詰められたのかを
振り返ることになる。
第2章 真夏は小雪に何をした? 同じバスケ部で変わっていった接し方
先輩と親しい小雪へ向ける、刺のある態度
中学時代の小雪は、最初から誰とも関わらず、
一人でいようとしていたわけではない。
近所の先輩に誘われてバスケ部へ入り、
周囲と普通にやり取りしている。
その場所で同じ部員として関わるのが真夏になる。
高校で人との間に壁を作っている小雪を
先に知っていると、過去の彼女が相手へ
歩み寄っている姿に、少し驚かされる。
真夏は、小雪が先輩と親しくしていることに
敵意を向ける。
小雪の側には、昔から知っている相手と
話しているという事情がある。
しかし、真夏からすると、自分より先に
先輩とのつながりを持ち、
部の中で動いている相手に見える。
小雪自身が何かを奪ったわけではないのに、
その親しさが二人の間の刺になっていく。
小雪は、真夏を置いていかないように、
先輩のところへ行く時に一緒に誘う。
相手がなぜ不機嫌になるのか考え、
関係を悪くしない方法を探した行動と考えられる。
自分だけ先輩と親しくしているように見えるなら、
真夏も加わればよい。
その時の小雪は、相手の機嫌を無視するより、
どうすれば落ち着けるかを考えている。
すると真夏の小雪への接し方は変わる。
先輩と近づける相手として、
小雪が自分にとって都合のよい存在になるため。
ここは、一度仲よくなれたなら安心できる、
と思いたくなるところでもある。
けれど、真夏が小雪自身の感じ方を受け入れたのか、
それとも一緒にいることで得られるものを
気に入ったのかには、違いが残っている。
小雪が気を遣うことで空気は変わっても、
彼女がそのままでいてよい関係にはなっていない。
真夏の望む相手と会いやすくする、
真夏を輪の外へ置かないようにする。
小雪が何かを足している間は親しくできても、
それが続かなければ態度が変わる。
友達になれたという安心より、
次も同じように動かなければという負担が残りやすい。
陰口と嫌がらせが、部活を離れた後にも続く
小雪の性格や反応が
真夏たちの求める調子と合わなくなると、
関係はまた悪くなっていく。
真夏は小雪と一緒にいる利点を受け取る一方で、
本人のノリや振る舞いを陰で悪く言う。
小雪からすれば、気を遣って
関係を保とうとしていた相手が、
自分のいないところで違う顔を見せていることになる。
ここがつらい。
最初から互いに合わないと分かって
離れられる相手なら、まだ距離を決められる。
しかし、親しく接する時があり、
一緒に過ごす時間もある相手から、
裏では嫌がられている。
小雪は、いつものやり取りのどこまでが本心なのかを
考えることになる。
表向きに仲よくできた日があっても、
その記憶だけでは安心できなくなっている。
小雪が部活を辞め、五十嵐と付き合った後も、
嫌がらせは収まらずに続く。
場所を離れれば関係も切れる、
という期待だけでは逃れられない。
部活動で同じ時間を過ごさなくなっても、
学校には接点がある。
小雪が自分で動いたことが、
真夏の敵意をさらに刺激する形になってしまう。
嫌がらせには、
相手がやったと確かめにくい怖さもある。
小雪には心当たりがあっても、
真夏は自分ではないと否定する。
された側が説明しなければならず、
相手は否定すれば話を止められる。
その状況では、困っていると伝えることに加えて、
困らせた人物が誰かを示す負担まで
小雪へ乗ってくる。
下駄箱に関わる嫌がらせを問い詰めるやり取りでは、
小雪は真夏の言葉の食い違いを捉える。
黙って受けるだけではなく、
相手が知らないはずのことを話した点へ
切り込んでいる。
ここには、ただ真夏が怖くて何もできない
小雪とは違う姿がある。
自分が受けていることを曖昧にされたくないという
反発も、彼女の中で強くなっている。
それでも、真夏の関与を問い詰められたからといって、
彼女が素直に認めて謝る流れにはならない。
相手の説明が通らなくなれば終わる、
という会話ではなく、
そこから小雪自身を責める言葉が出てくる。
小雪が事実を確かめようとするほど、
真夏は彼女の態度や性格へ話を移す。
そのため、言い返せたことだけでは
苦しさが終わらない。
小雪が言い返す場面には、
少しは気持ちが晴れるところもある。
けれど、その直後にも責める言葉が返ってくるため、
勝てば安心できるやり取りにはならない。
相手の言い逃れを止めることと、
もう傷つけられずに過ごせることの間には距離がある。
小雪が後からその場面まで思い出して
苦しくなるのも、そのためと感じる。
第3章 なぜ小雪へ敵意を向けた? 先輩との関係と、自分に都合のよい親しさ
小雪の人付き合いを、自分の損得で受け取る
真夏が小雪へ向ける敵意は、
五十嵐との交際だけから始まったものではない。
同じバスケ部で、小雪が先輩と親しくしていた頃から、
二人の関係には気まずさがある。
その後の恋愛が目立つため、
好きな男子を取られたから意地悪をした、
とまとめたくなるが、それより前に、
小雪の立ち位置を気に入らないと感じる態度が
現れている。
先輩に誘われて入部した小雪には、
もともとのつながりがある。
真夏が同じ相手と親しくなりたいとしても、
小雪がそのつながりを隠したり、
譲ったりする必要はない。
ところが、真夏との関係では、
小雪が周囲と自然に話しているだけでも緊張が生まれる。
相手の楽しさより、自分がその場で
どう扱われるかが先に来ているように見える。
小雪が一緒に先輩へ会いに行こうと誘うと、
真夏の態度が和らぐ。
この反応からは、小雪と気持ちが通じたというより、
彼女のつながりを自分も使えると分かったことが
大きいと考えられる。
最初は気に入らなかった特徴が、
自分に役立つと分かれば親しさへ変わる。
小雪への評価が、
本人の人柄とは別のところで動いている。
だから、小雪が真夏の望む役割を果たさなくなった時、
関係が不安定になる。
先輩との橋渡しをしてくれるなら一緒にいるが、
小雪自身の静かな反応や会話の調子は好まない。
親しくなれたと思った相手から、
役に立つ部分だけを選ばれていたように感じるところが、
この関係の苦さになる。
真夏本人が、すべてを計算して
小雪へ近づいたとまで決めることはできない。
その場の嫉妬や機嫌で
態度が変わっている可能性もある。
ただ、内心が細かく語られなくても、
小雪が先輩と関わらせてくれる間は受け入れ、
合わない部分は悪く言うという動きは残る。
小雪は、その都度変わる態度へ
対応し続けなければならなかった。
自分を離れようとする小雪へ、責め方が変わる
小雪が部活を辞め、五十嵐と付き合うことには、
真夏との関係をそのまま受け入れない行動が含まれる。
五十嵐に関心を持っていた真夏にとって、
その変化は面白くなかったと考えられる。
自分が気にしている男子と、小雪が恋人になる。
先輩との関係に続いて、ここでも
小雪が誰とつながっているかが、
真夏の反応に関わっている。
ただ、真夏の感情を嫉妬と呼ぶだけでは、
その後の振る舞いまでは説明しきれない。
思うようにならなくて腹が立つことと、
相手へ嫌がらせをすることの間には、
真夏自身の行動がある。
彼女が不快に感じたとしても、
小雪の持ち物や学校生活へ手を出すことまで、
恋の痛みとして一緒にはできない。
真夏は、小雪が人を味方につけることも責める。
五十嵐だけでなく、
美姫が小雪を心配して動くことにも、
相手を利用しているという見方を向ける。
誰かが小雪の側へ来ると、
小雪自身の苦しさより、
彼女が他人を動かして自分を不利にしているという
話へ変わってしまう。
この責め方では、
小雪は一人で困っていても苦しく、
誰かに助けられても責められる。
真夏へ言い返すために証拠を求めれば、
今度は強気になった態度を攻撃される。
何を伝えたかより、
自分へ従わなくなったことを
問題にされているように見える。
小雪が普通に説明して関係を戻す道は、
そこでいっそう狭くなる。
五十嵐が小雪のそばへ来た時も、
真夏は小雪の泣く姿を、
男性を味方につける振る舞いとして責める。
痛かったという反応が、
彼女にはそのままの痛みとして扱われない。
助けてもらえた場面にまで嫌な言葉が入り込むため、
小雪には安全な場所へ戻れたという感覚が残りにくい。
これが、真夏に一言謝ってほしくなるだけでは
済まない怖さにつながっている。
第4章 小雪はなぜ距離を取れなかった? 気を遣うほど苦しくなる関係
同じ学校と部活では、避けるだけでも難しい
真夏が嫌なら、最初から離れればよかった。
そう簡単には進まないのが、
小雪の中学時代になる。
同じ部活で顔を合わせ、
先輩や同級生とのつながりも重なる。
真夏だけを避けようとしても、
自分がいたい場所まで遠くなってしまう。
小雪が関係を落ち着かせようとした行動には、
その場で毎日過ごす事情がある。
先輩の教室へ真夏も誘う小雪は、
相手と張り合いたかったわけではないように見える。
自分だけ親しくしていることが気に入らないなら、
一緒に行けばよい。
そうやって相手の不満を減らそうとしている。
高校の小雪が周囲へ距離を取る姿と比べると、
昔は自分から関係を動かそうとしていたことが分かる。
けれど、相手の不機嫌を減らすための気遣いが続くと、
自分がどう過ごしたいかは後ろへ回る。
先輩と話す時にも、真夏がどう受け取るかが気になる。
一緒にいて機嫌を損ねないようにする時間が増えれば、
部活そのものを楽しむ余裕も小さくなる。
小雪が静かになるのは、
何も感じていないためとは限らない。
表向きは親しくできる日があることも、
距離を取りにくくする。
真夏がいつでも同じように冷たいなら、
避ける判断をしやすいかもしれない。
しかし、役に立つ時には好意的な態度が戻る。
今度はうまくいくのかと思えば、また陰で悪く言われる。
小雪は、相手を信じられるのかを、
そのたびに考え直すことになる。
その中で部活を辞めることは、
小雪にとって実際に距離を取ろうとする行動になる。
何もせず同じ場所にとどまったわけではない。
それでも学校まで別になるわけではなく、
真夏の言葉や嫌がらせは続く。
離れる努力をした後も終わらないため、
どう動けばよかったのかという問いまで、
小雪自身へ戻ってしまいやすい。
五十嵐を頼った自分にも、後から苦しさが残る
小雪が五十嵐と付き合った経緯には、
真夏への当てつけや、
彼を頼って関係から抜けようとする気持ちが混じる。
五十嵐を好きでたまらなくなり、
交際へ進んだだけの始まりではない。
小雪自身も、誰かの好意を
自分のために使った部分を、後から気にしている。
真夏にされたことを思い出す時、
自分の取った行動も一緒によみがえる。
ここには、小雪がただ無抵抗で
傷つき続けるだけではいられなかった姿がある。
嫌な相手と縁を切れば気が済む、
という状態を越え、反発や意地も生まれている。
見ていて戸惑う部分ではあるが、
それまでの嫌がらせがなかったことになるわけではない。
追い詰められた小雪にも、
相手へやり返したい感情が起きている。
五十嵐は、その選択に巻き込まれる側でもある。
小雪を好きで交際した彼と、
小雪が交際へ求めていたものには差がある。
この気持ちの差については五十嵐との関係に残るが、
真夏の嫌がらせと小雪の交際を
同じ行動として扱うことはできない。
誰から何を受け、別の相手へ何をしたかが、
重なりながらも異なっている。
小雪が自分の過去を嫌に感じるのは、
真夏が怖かったという記憶だけでは終わらないためになる。
気を遣い続けた自分、嫌な相手に腹を立てた自分、
五十嵐の好意を受け入れた自分も思い出す。
相手から受けた言葉が、
当時の自分を見つめる時にも
入り込んでいるように感じる。
また、美姫が心配して動けば、
友人まで巻き込んでしまったという重さが加わる。
一人で耐えればよかったとも、
誰にも相談しなければよかったとも言い切れない。
それでも、誰かが自分のために動いた結果を知ると、
小雪には助けられたうれしさだけではない感情が残る。
真夏との関係は、
ほかの大切な人との記憶まで苦しくしている。
真夏が小雪を、
人を味方につける人物として責めた言葉は、
この後ろめたさへ重なる。
小雪には実際に人を頼った自覚があるため、
相手の言葉を全部自分と無関係には感じにくい。
しかし、助けを求めたことがあるから、
嫌がらせをされても仕方がなかったとはならない。
彼女が自分の行動を悔やむ部分と、
真夏に傷つけられた事実は、両方残っている。
第5章 妹の秋音まで怖く見えた? 高校でよみがえる真夏との記憶
目の前には姉がいなくても、過去が近づいてくる
高校で小雪の前に現れる秋音は、
真夏の妹になる。
本人は別の人間でも、その関係を知るだけで、
小雪には昔の出来事が近づいてくる。
今の学校で会う後輩というだけでは受け取れず、
姉から自分のことを聞いているのか、
どこまで知っているのかが気になってしまう。
相手が何かを言う前に、
過去への警戒が先に動いている。
アニメ第11話で小雪が思い返すのは、
真夏にされたことだけではない。
自分がどんな思いで五十嵐と付き合ったか、
どうやって真夏へ反発したかも重なる。
秋音がそれを姉の側から聞いていたら、
自分をどう見ているのか。
小雪が落ち着かないのは、
新しくいじめられるかもしれないという
不安だけでは説明しきれない。
真夏は、中学時代に小雪の行動を、
自分に都合のよい形で責めていた。
泣けば男性を味方につけたとされ、
友人に守られれば人を利用したとされる。
その姉の言葉で過去が伝わっているかもしれないと思うと、
小雪には、秋音が何を知っているのかを
聞くこと自体も気まずい。
自分から話せば、
また昔の自分をさらすことにもなる。
しかも秋音は、感情が表情へ
分かりやすく出る相手ではない。
何も言われなくても、
相手の沈黙に小雪の想像が入り込む。
自分を嫌っているのか、
姉の話を聞いて観察しているのか。
秋音が実際にそう思っているとは決まらなくても、
小雪にはそう考えてしまうだけの過去がある。
ここで真夏が姿を見せていないことは、
かえって引っ掛かる。
小雪が新しい後輩との会話に悩んでいる間、
姉のほうが今どう過ごしているかは見えない。
された側だけが思い出し、
相手の表情を気にしてしまう。
その偏りがあるから、
真夏本人は何も反省していないのか、
その後どうなったのかという疑問が消えにくい。
通学の気まずさへ、今の友人が入ってくる
小雪は秋音と関わらずに済めばよいと思っていても、
登校する時間には接点が生まれる。
学校で一度会って終わる相手ではなく、
同じ電車や通学路で一緒になる可能性がある。
中学時代と違う場所へ来たはずなのに、
毎日顔を合わせるかもしれない。
その近さが、秋音を遠ざけたい気持ちを
強めていると考えられる。
ただ、そこで起きることは、
真夏との関係の繰り返しだけではない。
小雪が秋音といて気まずく感じるところへ、
湊が加わる。
今の学校で関わってきた相手がその場にいることで、
過去を知る姉妹のことだけで
頭がいっぱいになる時間が変わる。
真夏への記憶があっても、
目の前には別の会話が生まれている。
湊がいるから真夏への傷が治る、
とまで単純には言えない。
彼はその場で真夏の加害を裁いたり、
姉妹へ仕返しをしたりするわけではない。
小雪が話せる相手として今の時間にいる。
そのことが、中学時代の関係を
一人で思い返していた小雪へ、
違う場所に立っている感覚を
少し返しているように感じる。
秋音にも、姉とは別に学校での関係がある。
桃香と行動し、優希とも接点を持っている。
その姿は、小雪の記憶にいる
真夏の代理としてだけでは収まらない。
小雪が自分への敵意を心配している間にも、
秋音本人はほかの人への思いや判断を持って動いている。
姉から続く過去の話とは違う、
本人の現在がある。
小雪の警戒がすぐほどけないのも、
無理のないことに思える。
相手がまだ何もしていないと分かっていても、
以前に似た近さで傷ついた経験があれば、
会うたびに身構えてしまう。
けれど、その反応と、
秋音が実際に何をするかは一致するとは限らない。
高校での接点が増えるほど、
その差を確かめる言葉も少しずつ生まれていく。
第6章 秋音は真夏と同じなのか? 姉妹でも異なる小雪との関わり
| 人物 | 小雪との関わり |
|---|---|
| 真夏 | 中学時代の同級生。嫌がらせをする |
| 秋音 | 高校の後輩。姉とは別の気持ちを話す |
姉の名字だけでは、妹の考えは分からない
秋音の行動にも、小雪を戸惑わせるところはある。
桃香と湊の関係へ協力する方向に動けば、
小雪からは、何を考えて自分に近づいているのかが
分かりにくくなる。
真夏の妹だから怖いという第一印象だけでなく、
現在の人間関係でも意図をつかめない。
それが、彼女の分からなさをさらに大きくしていく。
しかし、秋音には、相手の私的なことを
代わりに聞くよう求められても、
自分で聞いてほしいと返す姿がある。
友人と一緒にいるからといって、
頼まれたことを全部引き受けるわけではない。
周囲とのつながりを自分の思うとおりに
使おうとする真夏の態度とは、
異なる距離の取り方が見えてくる。
秋音は何を考えているか分かりにくくても、
何でも誰かへ合わせるだけの人物ではない。
本人の好きなもの、嫌なこと、
守りたい関係がある。
小雪が姉の記憶から想像した敵意が、
そのまま秋音の本心としてあるとは限らない。
姉妹というつながりの強さに隠れていた、
妹自身の言葉が出てくる。
また、秋音が姉と同じ立場で真夏を肯定し、
小雪へ敵意を引き継いでいるという関係でもない。
姉妹であっても、
姉との関係を心地よく感じているとは限らず、
外から見える親しさだけでは分からない部分がある。
小雪が姉から受けた印象だけで
警戒していた相手にも、
真夏との別の距離がある。
ここには、姉のしたことを妹へ説明して
責任を取ってもらう話とは異なる難しさがある。
秋音が姉をどう思っていても、
小雪を傷つけた行動の本人は真夏になる。
秋音が小雪へ話をしてくれたから、
姉の代わりに謝ったことにはならない。
小雪が妹と話せるようになることも、
真夏のしたことへの返事とは別に進んでいく。
原作第83話で見えてくる、秋音自身の本心
原作10巻の第83話「信奉者」では、
優希が間に入り、
小雪と秋音が話す機会ができる。
そこで焦点になるのは、
秋音自身が優希をどう思い、
小雪をどんな相手として見ていたのかという
部分になる。
姉の話を聞いて小雪を嫌っていたという説明だけでは、
これまでの行動はつながらない。
小雪と優希は、昔からつながりのある相手になる。
一方、秋音には優希を特別に思う気持ちがあり、
その関係から小雪を見ていたところがある。
小雪が姉との過去を中心に考えていた相手は、
実際には別の人物への思いを抱えて動いていた。
小雪に向けられているように見えた行動にも、
別の出発点があったと分かる。
このすれ違いには、小雪の警戒が
ばかばかしかったと片づけられないところがある。
真夏との過去がなければ、
同じ沈黙や視線を別の形で受け取れたかもしれない。
けれど、小雪にはその経験がある。
本人と話すまで分からなかったことが、
話した後に変わる。
その順番を経て、
秋音の姿が姉の面影だけではなくなっていく。
秋音の言葉を聞くことは、
小雪が中学時代の嫌がらせを忘れることではない。
姉との記憶を持ったままでも、
妹が実際に何を言い、何を考えているかには
触れられるようになる。
真夏を思い出す相手と会うことが、
すべて以前と同じ苦しい結末へ続くわけではないと、
現在の会話の中で確かめる時間になる。
また、この対面で小雪が理解する相手は秋音であって、
真夏の知られざる事情ではない。
妹の気持ちが分かっても、
姉も本当は小雪を大切にしていた、
といった話には変わらない。
五十嵐との再会で昔の恋心が明かされる場面とも異なる。
関わった相手が違えば、
後から分かることも違っている。
秋音との会話に少し安心できるのは、
小雪が新しい相手の言葉を受け取るために、
真夏を許す返事まで用意しなくてよいところになる。
姉への嫌な記憶は残っていても、
妹については本人の話を聞ける。
真夏との過去が、
人と話す時の答えを全部決めてしまう状態から、
少しずつ離れている。
その後の秋音には、
優希や桃香と関わる本人の時間が続いていく。
小雪の過去を思い出させるためだけに現れた妹ではなく、
自分の人間関係を持つ後輩として残る。
小雪から見ても、
真夏とつながる名前だけが相手のすべてではなくなる。
妹との距離が変わることは、
姉との関係を終え直すこととは違う変化になる。
第7章 真夏との過去はどう残る? 本人の結末と、小雪のその後
反省を待つ間にも、小雪の高校生活は続いていく
真夏は最後どうなるのかという疑問には、
本人の謝罪や転落を示す具体的な後日談は挙げられない、
という答えが残る。
小雪を傷つけた行動が周囲へすべて知れ渡り、
本人が一人になって終わるような決着を
想像したくなるが、
それを真夏の結末として足すことはできない。
真夏が何を思っているかの分からなさも、
物語の外へ残っている。
小雪が真夏を思い出して苦しくなっていると、
その分だけ相手にも分かってほしいと思う。
自分の言葉がどれほど相手へ残ったのか、
本人が知る場面を待ちたくなる。
けれど、小雪の高校生活は、
その返答が来るまで止まってはいない。
美姫、湊、陽太と過ごし、
秋音とも言葉を交わす時間が進んでいる。
中学時代の小雪は、
真夏の機嫌や周囲の反応を考えて動くことが多かった。
先輩と会う時にも、部活を離れる時にも、
自分がどう見られるかが関わってくる。
高校では、相手からどう思われるかを気にしながらも、
自分の感じたことを話せる場面が増える。
以前の自分の行動まで嫌になる記憶だけが、
今の彼女の全部ではなくなっている。
真夏から謝罪があれば、
小雪にとって何かが変わる可能性はある。
けれど、それが起きた場面を想像して、
二人は和解できたとすることはできない。
小雪が現在の人と関係を作り直すことは、
真夏が変わったことの証明にはならない。
相手の反省とは別のところで、
小雪が得ているものがある。
それでも、今は友人がいるから十分という言葉だけでは、
真夏への引っ掛かりは収まらない。
小雪のそばに人が増えても、
昔の嫌がらせが軽くなるわけではないため。
真夏がしたことを、
小雪が後で幸せになったことで相殺することはできない。
安心できる今と、嫌なまま残る過去は、
同時にあってもおかしくない。
真夏を許す結末ではなく、今の相手と話せる変化
真夏の過去を通して見えてくるのは、
小雪が何も考えず、
人を避けてきたわけではないということになる。
最初は相手を誘い、気を遣い、
関係がよくなる方法を探していた。
それでも陰で悪く言われ、
離れようとすると責められた。
高校で慎重になる彼女には、
近づこうとして傷ついた時間がある。
小雪が自分の過去を嫌う部分も、
真夏のしたことを正しかったと認める言葉にはならない。
五十嵐の好意を利用したことへの
後ろめたさがあるとしても、
嫌がらせを受けたこととは同じではない。
自分の取った行動を振り返る時、
相手からされたことまで
自分の責任へ変わるわけではない。
秋音との関係には、
その記憶を持ったまま話せる変化がある。
真夏の妹と聞けば身構える小雪が、
本人の考えへ触れて、
姉と同じではない相手を知っていく。
そこに真夏本人の謝罪は含まれない。
それでも、新しく会う人が、
昔の相手と同じことをするとは限らないという経験が、
小雪の今へ加わっている。
真夏のその後が描かれないことを、
作品が加害を許したとまで受け取ると、
小雪が過ごしている時間とは少しずれる。
真夏の行動によって彼女が傷ついたことは、
秋音への警戒や自分への嫌悪として残っている。
本人へ罰が返る場面がなくても、
小雪の反応から、
何もなかったことにはなっていないと分かる。
ただ、それをすっきりした結末と呼ぶのもためらわれる。
真夏の言葉に引っ掛かり、
本人はその後どうなったのかと気になる感覚は残る。
小雪が友人と笑う姿にほっとすることと、
真夏にしたことを自覚してほしいと感じることは、
一緒に残る。
その両方が出てくるほど、
中学時代の出来事は苦いものとして描かれている。
真夏が反省したから小雪が前へ進めた、
という結末にはならない。
彼女のその後が分からなくても、
小雪は今の相手と話し、
言葉を返してもらう経験を重ねている。
姉の記憶を呼び戻した秋音とも、
本人の気持ちを聞く時間ができる。
真夏を許したことにせず、
昔と違う会話をできる相手が、
小雪の現在には増えている。
氷の城壁まとめ
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