『幼女戦記Ⅱ』のイルドア王国は、帝国から「同盟国であるはず」と見られながら、第8話では「厳正中立」を掲げ、南方大陸からの撤退支援まで拒んだ。
だがこれは突然の裏切りではなく、第3話の動員演習や第4~5話の和平仲介から続く、帝国とは近く付き合っても、帝国の戦争には一緒に沈まないというイルドアの姿勢として見るとつながってくる。
第1章 結論|イルドア王国は帝国を裏切ったのではなく、一緒に沈まない道を選んでいる
第8話の「厳正中立」は、突然帝国を見捨てた宣言ではない
『幼女戦記Ⅱ』第8話「雷撃」で、
帝国軍にとって思わぬ壁となったのがイルドア王国だった。
南方大陸から撤退しようとする帝国に対して、
同盟関係にあるはずのイルドアは「厳正中立」を掲げ、
撤退を助けるための支援を拒んでしまう。
帝国軍から見れば、かなり厳しい仕打ちに映る。
南方大陸で戦い続けた末に撤退を決断し、
その帰路には連合王国海軍が待ち構えている。
そこで頼りたい隣国が手を貸してくれないのだから、
「同盟国なのに、なぜ助けないのか」と感じるのは当然だ。
しかし、イルドアの動きを第8話だけで見ると、
この国の立場を少し誤解しやすい。
イルドアは帝国と近い関係にある国ではあっても、
帝国が始めた戦争を最後まで共に背負う国ではない。
むしろ以前から一貫して、自国が戦争へ直接巻き込まれない距離を保っていた。
その姿勢を象徴しているのが、
第8話で改めて強調された「厳正中立」という言葉だ。
帝国との関係を完全に断ち切るわけではない。
かといって、帝国軍のために自国の領土や軍事力を使い、
連合王国側から敵国と見なされる危険まで背負うつもりもない。
イルドアが優先しているのは、
帝国との友情や義理よりも自国そのものの生存だ。
帝国が戦争に勝つのか、負けるのか。
その結果がまだ見えない段階で、
一方の陣営へ完全に身を預けることを避けている。
だから第8話の支援拒否は、
「帝国を嫌いになったから助けなかった」という単純な話ではない。
帝国と付き合いながらも、
帝国と同じ戦争当事国にはならない。
イルドアが以前から守ってきた線を、ここでも越えなかったのである。
この違いはかなり大きい。
帝国から見れば「味方なら助けてほしい」。
だがイルドアから見れば、
「同盟関係にあること」と「帝国の戦争に参加すること」は同じではない。
第8話では、その認識のずれが最も苦しい形で表面に出た。
帝国が苦しくなるほど、イルドアとの温度差が大きく見えてくる
第8話の状況が残酷なのは、
帝国軍が余裕のある状態で支援を求めているわけではない点にある。
南方大陸で戦線を維持してきた帝国は、
もはや攻勢を続けるためではなく、
部隊を生きて帰すために撤退しようとしている。
それにもかかわらずイルドアは動かない。
帝国側の兵士からすれば、
「ここまで追い詰められているのに助けてくれないのか」
という感情が生まれても不思議ではない。
だから視聴者にも、イルドアが急に冷酷になったように見える。
だが逆に考えると、
帝国が追い詰められたからこそ、
イルドアにとって支援の危険性も大きくなっている。
勢いのある帝国へ協力するのと、
複数国家を敵に回して疲弊する帝国へ軍事的に手を貸すのでは、
自国が背負う危険の重さがまるで違う。
しかも帝国の敵は一国ではない。
共和国、連邦、連合王国など、
戦争が長引くほど敵対する勢力は増えていった。
イルドアが帝国軍の撤退を軍事的に支援すれば、
他国から「本当に中立国なのか」と見られる可能性が高まる。
イルドアにとって最も避けたいのは、
帝国を助けた結果、自国まで戦火に巻き込まれる展開だ。
帝国は広大な戦線を抱え、
前線では勝利を重ねながらも、
国全体では兵力も物資も時間も削られ続けている。
その帝国と運命を共にする決断は、簡単にはできない。
ここに『幼女戦記』らしい苦さがある。
戦場で勇敢に戦ったから助けてもらえるとは限らない。
同盟国だから最後まで一緒に戦ってくれるとも限らない。
国家が動く時には、
兵士同士の友情とは別の計算が働いている。
ターニャたちがどれほど戦場で成果を挙げても、
外交の場では別の判断が下される。
第8話のイルドアは、
その現実を帝国へ突き付ける存在になった。
帝国は戦場だけでなく、外交の面でも孤立へ近づき始めている。
そして重要なのは、
このイルドアの態度が第8話で突然始まったものではないことだ。
すでに第3話の時点で、
イルドアは帝国との間に微妙な距離を置いている。
第8話を理解するには、そこまで戻る必要がある。
第2章 「厳正中立」は第8話で突然出てきた言葉ではない
第3話の動員演習ですでに帝国との温度差は見えていた
イルドア王国の立場を知るうえで見逃せないのが、
第3話「善意の仲介人」で描かれた動きだ。
この段階からイルドアは、
帝国の隣に立って全面協力する国ではなく、
独自の判断で動く国家として登場している。
特に印象的なのが、
イルドアが行った抜き打ちの動員演習だ。
帝国側に十分な説明がないまま軍を動かすため、
帝国軍上層部もその意図を警戒する。
同盟国でありながら、相手の行動を信用し切れない空気が生まれていた。
帝国側からすれば、
同盟国が突然軍を動かすだけでも神経を使う。
それが大戦の真っただ中ならなおさらだ。
イルドア軍が何を目的としているのか、
帝国を支えるためなのか、それとも別の狙いがあるのか、
簡単には判断できない。
この場面で見えてくるのは、
帝国とイルドアが同じ方向を向いているわけではないことだ。
帝国は戦争を続けている当事国。
一方のイルドアは、
戦争へ深入りせずに自国の選択肢を残そうとしている。
両国の立場は、最初から完全には重なっていなかった。
だから第8話で再び「厳正中立」が出てきた時、
本当は大きな方向転換が起きたわけではない。
第3話の時点で見えていた距離が、
帝国の撤退という極限状態になって、
よりはっきり見えるようになっただけとも言える。
この流れを知らずに第8話だけを見ると、
イルドアが急に帝国を切り捨てたように感じる。
しかし第3話まで戻ると、
「この国は最初から帝国と同じ戦争をするつもりではなかった」
という姿が浮かび上がってくる。
イルドアにとって帝国は重要な隣国だ。
敵に回したい相手でもない。
だからこそ完全に距離を切るのではなく、
関係を維持しながら、
自国が戦争当事国になる線だけは越えないようにしている。
和平を仲介したことと、帝国軍を助けないことは矛盾していない
第3話から第5話にかけて、
イルドアはもう一つ重要な役割を担っている。
それが帝国と敵対勢力の間に入り、
和平へ向かう道を作ろうとする仲介役だ。
ここだけを見ると、
イルドアは帝国を助けているようにも見える。
戦争を終わらせるための窓口を用意し、
帝国が外交によって抜け出せる可能性を作る。
実際、長期戦に苦しむ帝国にとって、
和平は極めて大きな意味を持っていた。
ただし、ここでもイルドアは
「帝国の味方として戦う」という形では動いていない。
自ら武器を持って帝国軍と並ぶのではなく、
交渉の席を作り、
戦争そのものを終わらせる方向へ動いている。
この違いが第8話へつながっていく。
イルドアから見れば、
帝国を救う最も安全な方法は、
帝国の戦争を肩代わりすることではない。
戦争を終わらせ、
自国も巻き込まれない状態へ戻すことだ。
だから和平仲介には動けても、
帝国軍の軍事行動そのものへの協力には慎重になる。
ところが帝国は、
せっかく見え始めた和平の出口へ一直線には進まなかった。
少しでも有利な条件を得るため、
まだ勝てるうちに戦果を重ねようとする。
前線では敵を撃破できる。
それだけに「もう少し勝てば、もっと有利に終われる」という誘惑が残る。
この帝国の姿勢は、
以前のシリーズから何度も描かれてきたものでもある。
ターニャは戦争を合理的に終わらせたいと考えていても、
国家全体は勝利を求めて前へ進み続ける。
戦場では勝っているのに、
戦争そのものを終わらせる機会を逃していく。
第3話から第5話のイルドアは、
そんな帝国に対して
「戦争から降りるための扉」を開こうとしていた国でもある。
しかし帝国がその扉をすぐには通らなかったことで、
両国の立場は少しずつ遠ざかっていく。
そして第8話。
帝国はついに南方大陸から撤退するところまで追い込まれる。
かつて和平への道を仲介していたイルドアは、
今度は軍事的な撤退支援を拒否する。
この二つの行動は、一見すると正反対に見える。
だがイルドア側から見れば、
どちらも同じ姿勢から出ている。
戦争を終わらせるための交渉には関わる。
しかし戦争を続けるための軍事協力や、
自国まで交戦国と見なされる行動には踏み込まない。
その境界線を守り続けているのである。
だから「厳正中立」という言葉は、
第8話だけの冷たい台詞ではない。
第3話の動員演習、
第3話から第5話の和平仲介、
そして第8話の撤退支援拒否までをつなぐ、
イルドアという国の立場そのものになっている。
帝国はイルドアを、
いざという時には助けてくれる同盟国として見ていた。
しかしイルドアは、
帝国と付き合うことと、
帝国と運命を共にすることを分けていた。
この認識のずれこそが、第8話で最も痛い形となって現れたのである。
第3章 イルドアはなぜ帝国と連邦の和平を仲介したのか
第3話「善意の仲介人」でイルドアが求めていたのは参戦ではなく戦争の出口
第3話「善意の仲介人」でイルドア王国が動き出した時、
帝国にとってその存在は単なる隣国ではなかった。
東部戦線では連邦との戦いが続き、
北方では連邦と連合王国が共同作戦を進める。
帝国は勝っていても、敵そのものを減らせない状態に陥っていた。
そんな時に姿を見せたのが、
「厳正中立」を掲げるイルドア王国だった。
自ら帝国軍と肩を並べて戦場へ出るのではなく、
帝国と敵対勢力の間に立ち、
戦争そのものを終わらせる方向へ働きかけていく。
この立ち位置を見ると、
イルドアが帝国へ好意を持っているから仲介した、
というだけでは足りない。
戦争が長引けば、帝国だけでなく、
周辺に位置するイルドアにも危険が広がってくる。
大国同士が延々と戦い続ければ、
国境付近には兵力が集まり、
物資の移動も増え、
難民や治安悪化といった問題まで起こり得る。
中立を守りたい国ほど、隣で続く大戦を放置しにくい。
だからイルドアにとって、
帝国と連邦が講和へ向かうことは、
帝国を救うだけの話ではない。
自国の周辺から戦火を遠ざけ、
中立という立場を守り続けるためにも、
戦争を終わらせることには大きな価値があった。
ここが第8話の撤退支援拒否ともつながってくる。
イルドアは帝国を完全に見捨てたいわけではない。
むしろ第3話では、
帝国が戦争から抜け出すための道を作ろうとしている。
ただし、その助け方は軍事的なものではない。
帝国軍へ兵士を貸すのでもなく、
敵国へ攻撃を仕掛けるのでもない。
あくまで中立国として、
両陣営が話し合える場所を作ろうとしている。
イルドアにとって最も都合が良いのは、
帝国が勝ち続けることでも、
敵国側が帝国を滅ぼすことでもない。
大戦が終わり、
自国が交戦国にならないまま、
周辺の秩序が戻ることだったと見た方が自然だ。
だから第3話の「善意の仲介人」という題も興味深い。
善意だけで戦争へ口を挟んでいるように見えて、
国家としては当然、
自国の安全や将来も計算している。
善意と国益が同じ方向を向いているのである。
第4話では講和が見えていたのに、帝国はもう一度「勝ってから終わる」を選んだ
第4話「鉄槌作戦」では、
イルドアを介した講和の機運がさらに高まっていく。
ここだけを見れば、
長く続いた戦争にようやく出口が見え始めたようにも感じられる。
帝国にとっても、本来なら逃したくない機会だった。
ところが帝国は、
そのまま講和へ向かう道を選ばない。
少しでも有利な条件で戦争を終えるため、
大規模反攻作戦である鉄槌作戦を発動する。
「もう一度勝ってから交渉する」という判断だった。
この発想自体は、
軍事国家として理解できないものではない。
敵をさらに押し込んでから和平交渉へ入れば、
領土や賠償、停戦条件などで、
帝国が優位に立てる可能性は高くなる。
しかし『幼女戦記』では、
この「あと一度だけ勝てば」という判断が、
戦争を長引かせる危険として何度も描かれてきた。
一度勝てば次の有利な条件が見え、
さらに勝てばもっと有利になる。
その繰り返しで、終戦の時機が遠ざかっていく。
前シーズンでも、
帝国軍は戦場で圧倒的な成果を挙げながら、
共和国を完全に戦争から退場させることには失敗した。
敵軍を破り、
首都を脅かすほど追い詰めても、
戦争そのものは終わらなかった。
ターニャはその危うさを何度も感じている。
戦術的な勝利を重ねても、
政治が戦争を終わらせなければ、
兵士は次の戦場へ送られる。
勝利が終戦ではなく、次の作戦の入口になってしまう。
第4話の帝国も、
その罠から抜け出せていない。
イルドアが講和の窓口を作ってくれたのに、
帝国は一度立ち止まるより、
さらに有利な状況を作ろうとして前へ出る。
しかも帝国軍は、
すでに複数の戦線を抱えている。
東部では連邦、
別方面では連合王国の動きもあり、
補給線にも大きな負担が掛かっている。
勝つたびに楽になる戦争ではなくなっていた。
イルドアから見れば、
ここは重要な分岐点だったはずだ。
自国が仲介役となり、
講和へ向かう道を作った。
それでも帝国自身が、
すぐに戦争から降りる選択をしなかった。
つまりイルドアが帝国を助けなかったという話だけではなく、
帝国の側もまた、
イルドアが用意した出口へすぐには入らなかったのである。
このすれ違いが第5話以降、
さらに大きなものになっていく。
第4章 帝国自身がイルドアの望んだ戦争の出口から離れていった
第5話で和平交渉が先送りされ、帝国はアンドロメダ計画へ踏み込む
第5話「貧乏籤」では、
イルドア王国を経由して進んでいた和平交渉が先送りされる。
第3話から続いていた講和への動きは、
ここで一度大きく後退することになる。
そして帝国が選んだのは、さらなる大規模攻勢だった。
帝国軍が発動したのが、
連邦の資源地帯制圧を狙うアンドロメダ計画だ。
目的は単に敵軍へ打撃を与えることではない。
資源という戦争継続能力そのものを奪い、
帝国に有利な状況を作り出そうとする作戦だった。
これも帝国側から見れば筋は通っている。
講和するなら、
少しでも強い立場で席に着きたい。
敵の重要資源を押さえてしまえば、
交渉で帝国が要求を通しやすくなると期待できる。
だが第4話の鉄槌作戦から第5話のアンドロメダ計画を見ると、
帝国が同じ方向へ進み続けていることが分かる。
戦争を終わらせるために勝つ。
勝ったのでもう少し有利にするために戦う。
その結果、また次の大規模作戦が必要になる。
ここには前線の兵士と後方の期待のずれもある。
戦場にいるターニャたちは、
敵を倒すだけで終わらないことを身をもって知っている。
一つの作戦が終われば、
休息ではなく次の命令が待っている。
補給が苦しくなっても、
兵が疲弊しても、
帝国軍が勝てる限り、
後方からはさらに成果を求められる。
「勝てているのだから続けられる」
という見方が、帝国自身を縛っていく。
前シーズンから続くターニャの苦悩も、
まさにそこにある。
戦場で合理的に動き、
危険な任務を成功させるほど、
その能力を理由にさらに難しい任務を任されてしまう。
帝国という国家も同じだった。
勝利できる軍隊であることが、
戦争を続ける根拠へ変わってしまう。
敗北していないから撤退できない。
勝っているから和平条件をもっと良くしたくなる。
しかし戦争は、
一度の会戦だけで決まるものではない。
兵力、弾薬、燃料、輸送力、
国民生活まで含めて長期間耐えられるかどうかが問われる。
帝国はその総力戦に深く入り込んでいった。
イルドアが仲介しようとしたのは、
まさにそこから抜ける機会だったとも見られる。
それを逃した帝国は、
自分の手でさらに深い戦争へ入っていく。
第8話の孤立は、その積み重ねの先にある。
第6話から第8話を見ると「勝てる帝国」が「帰らなければならない帝国」へ変わっている
アンドロメダ計画へ踏み込んだ後も、
帝国がすぐに崩れるわけではない。
第6話ではソルディム528陣地をめぐる戦いが続き、
前線の帝国軍は依然として、
簡単には押し潰されない力を見せている。
だからこそ視聴者からすると、
第8話の南方大陸撤退には違和感が残る。
帝国軍は戦闘で負け続けているようには見えない。
ターニャたちも各地で戦果を挙げている。
それなのに、戦線そのものは縮小していく。
その答えが見えてくるのが第7話だ。
アンドロメダ計画は、
帝国が期待したような形では進まず、
ついには計画そのものが頓挫する。
一つ一つの戦闘で勝てることと、戦争全体で優位に立てることが分かれていく。
敵を倒しても、
別の敵が現れる。
一つの戦線を支えても、
別方面で兵力が必要になる。
帝国の国力には限界があるのに、
戦争の範囲だけが広がっていく。
この状況になれば、
「勝っているのになぜ撤退するのか」という疑問も見え方が変わる。
帝国は戦場で完全敗北したから南方大陸を捨てたのではない。
全ての戦線を同時に維持できなくなり、
残すべき兵力を選ばなければならなくなったのである。
第8話「雷撃」で描かれる撤退は、
その現実がはっきり姿を現した場面だった。
帝国軍は南方大陸でさらに戦果を求めるのではなく、
部隊を本国方面へ戻さなければならない。
攻撃から生還へ、目的そのものが変わっている。
そこで頼りになるはずだったのがイルドアだった。
しかしイルドアは、
以前から掲げていた厳正中立を崩さない。
帝国が苦しくなったからといって、
今になって軍事支援へ踏み込むことはしなかった。
帝国側からすれば、
最も助けが欲しい瞬間に拒まれたことになる。
だが第3話から追ってきたイルドア側からすれば、
戦争を終わらせる仲介には動いたものの、
帝国は再び大規模攻勢を選び続けたとも見える。
第4話では鉄槌作戦。
第5話ではアンドロメダ計画。
第7話ではその計画が行き詰まり、
第8話では南方大陸から撤退する。
この流れを一本につなげると、イルドアの態度だけが急変したわけではない。
変わっていったのは、
むしろ帝国を取り巻く戦況の方だった。
和平を有利にするためにもう一勝を求め、
その勝利を得るためにさらに国力を使い、
気付けば同盟国の支援なしでは帰路まで危うい状態になっている。
だから第8話の「厳正中立」は、
イルドアだけを見るための言葉ではない。
帝国がどれだけ外交上の余裕を失い、
戦争から抜け出しにくくなったのかを映す言葉でもある。
敵軍だけでなく、味方との距離まで帝国を苦しめ始めているのである。
第5章 第8話で撤退支援まで拒んだイルドア|帝国には「見捨てられた」と映る
南方大陸から帰るだけなのに、帝国軍は内海を単独突破しなければならない
第8話「雷撃」で帝国が置かれた状況は、
これまでの攻勢とはかなり違っている。
南方大陸でさらに領土を広げるのではなく、
情勢悪化を受けて部隊を撤退させることが目的になった。
勝ちに行く作戦ではなく、まず兵を生きて帰すための行動である。
ところが、その帰路にも安全は用意されていなかった。
帝国軍が通らなければならない内海には、
連合王国海軍が待ち構えている。
南方大陸から離脱できたとしても、
本国方面へ戻る途中で再び戦闘を強いられる状態だった。
そこで帝国側が期待したくなるのがイルドア王国である。
イルドアは遠い第三国ではない。
これまで帝国との外交関係を保ち、
第3話以降は和平交渉の仲介役まで務めてきた国だった。
しかも帝国から見れば「同盟国であるはず」の存在でもある。
だからこそ第8話の支援拒否は重く響く。
敵国に断られるのとは意味が違う。
敵なら攻撃してくることも最初から想定できるが、
関係を保ってきた国に帰路の助力まで断られると、
帝国の孤立が一気に現実味を帯びてくる。
イルドアが掲げたのは、またしても「厳正中立」だった。
第3話から使われていたこの立場を、
帝国が窮地に陥った第8話でも変えない。
助けを必要としている時だけ例外を設けることはせず、
帝国軍の撤退にも直接加担しなかった。
帝国側からすれば、
「攻めるのを手伝ってほしい」と頼んでいるわけではない。
すでに南方大陸を離れると決め、
部隊を帰還させようとしているだけである。
それすら拒否されたことが、
イルドアへの不信を強める部分になっている。
ただ、イルドア側から見れば、
撤退だから安全な協力とは限らない。
帝国軍を通す、守る、補給するとなれば、
結果的には帝国の軍事行動を支援したと受け取られかねない。
連合王国海軍が待っている状況なら、なおさら危険だった。
帝国兵を守るために動いた瞬間、
イルドア自身が戦争の外側にいることは難しくなる。
帝国との関係を守る代わりに、
連合王国をはじめとする敵対陣営から
「帝国側へ加わった国」と判断される可能性が生まれてしまう。
だからイルドアにとっては、
撤退支援であっても一線を越える行為になり得る。
帝国の兵士から見れば冷たい判断でも、
国家として見ると、
自国を戦争当事国へ変えないための選択だったと考えられる。
帝国が最も苦しい時でも例外を作らないから「厳正中立」が本物になる
第8話のイルドアが印象に残るのは、
帝国が余裕を失ってから態度を変えたように見えるからだ。
だが第3話まで戻ると、
むしろ変えていないことの方が重要になってくる。
イルドアは以前から中立を掲げ続けていた。
第3話では突然の動員演習によって、
帝国側から警戒されるほど独自に動いている。
第4話では帝国と敵側をつなぐ講和の仲介へ回り、
第5話でもその外交の窓口自体は残っていた。
最初から帝国軍の一部として動く国ではなかった。
帝国が優勢な時に中立を語るだけなら、
まだ余裕のある外交姿勢にも見える。
だが本当に問われるのは、
どちらか一方が苦しくなった時に
その立場を変えるかどうかである。
第8話で帝国は苦しくなった。
南方大陸から撤退し、
帰路には敵海軍まで待ち受けている。
ここでイルドアが帝国だけを特別扱いすれば、
それまでの「厳正中立」は一気に曖昧になってしまう。
だからイルドアは、
帝国が窮地だからこそ例外を作らなかったとも見られる。
長年の関係や同盟という言葉より、
自国が戦争へ巻き込まれない線を優先した。
この冷徹さが、第8話では帝国軍の苦境と正面からぶつかった。
しかも帝国にとって痛いのは、
イルドアを軍事的に責めることも簡単ではない点だ。
無理に協力を迫れば、
これまで残っていた外交関係まで壊しかねない。
敵を増やしたくない帝国ほど、
イルドアを敵扱いすることもできない。
つまり帝国は、
「味方なら助けろ」と強く求めながら、
本当に敵へ回すこともできない立場にいる。
戦場なら敵味方をはっきり分けられるが、
外交ではその二択が通用しない。
そこが第8話の苦しさでもある。
ターニャたちはこれまで、
敵の陣地、包囲、砲撃、補給難といった
目に見える危機を何度も突破してきた。
しかしイルドアが突き付ける危機は、
魔導師の火力だけでは解決できない。
相手は帝国を攻撃しているわけではない。
ただ「助けない」と言っているだけである。
それだけで帝国軍は危険な内海を
自分たちの力で突破しなければならなくなる。
戦争末期へ近づくほど恐ろしいのは、
敵が強くなることだけではない。
以前なら協力を期待できた国が距離を取り、
自国だけで処理しなければならない問題が増えていくことでもある。
第8話では、その孤立が帝国軍の帰路にまで及んだ。
イルドアの支援拒否は、
一つの外交判断に見えて、
帝国が置かれた戦争全体の苦しさを映している。
「同盟国なのに助けてくれない」という違和感こそ、
帝国の立場が以前とは変わってきた証拠なのである。
第6章 イルドアは帝国の敵なのか|「裏切り」だけでは見えない両国の関係
帝国を助けないからといって、連合王国側へ付いたわけではない
第8話だけを見ると、
イルドア王国を「帝国を裏切った国」と呼びたくなる。
実際、同盟国であるはずなのに撤退支援を拒否し、
帝国軍は敵海軍の待つ内海へ
単独で向かわなければならなくなった。
しかし、ここで一つ注意したいのは、
イルドアが帝国を助けなかったことと、
帝国の敵になったことは同じではない点だ。
イルドアは連合王国軍と共に
帝国軍を攻撃したわけではない。
共和国や連邦のように、
帝国を打倒するため軍を投入しているわけでもない。
帝国領へ攻め込み、
帝国軍と正面から交戦している国でもない。
あくまで自国が戦争へ参加しない立場を選んでいる。
この違いは、
第3話からの行動を振り返るとより分かりやすい。
イルドアは帝国を孤立させるためではなく、
帝国と敵対陣営の間へ入り、
講和へ向かう可能性を作ろうとしていた。
もし最初から帝国の崩壊だけを望んでいるなら、
和平仲介へ動く必要は薄い。
帝国が敵との戦争を続けて疲弊する方が、
敵対国にとっては都合が良いからだ。
だがイルドアは戦争を終わらせる方へ動いている。
つまりイルドアの立場は、
「帝国を勝たせたい」でも、
「帝国を滅ぼしたい」でもない。
帝国という隣国との関係を残しながら、
大戦そのものから距離を取りたいという位置に近い。
この中間的な立場があるから、
帝国側から見ると余計に扱いにくい。
明確な敵なら戦えばいい。
明確な味方なら支援を求められる。
イルドアはそのどちらにも完全には入らない。
第8話で支援を拒否されたからといって、
帝国がすぐイルドアへ攻撃を向ければ、
自ら新しい敵を作ることになる。
しかもこれまで和平の窓口だった国を失えば、
戦争を終わらせる外交経路まで狭くなってしまう。
帝国にとっては腹立たしくても、
関係を切れない相手なのである。
この状態は、
戦場で敵を撃破して進むよりも
はるかに複雑で扱いにくい。
この先もイルドアが重要なのは、帝国に残された「戦争を終わらせる窓口」だから
イルドア王国が一時的な脇役国家ではないことは、
物語の先を見ても分かる。
原作では戦争がさらに長期化した後も、
イルドアとの外交関係が
帝国にとって重要な問題として残り続ける。
特にレルゲンは、
講和を求める側としてイルドアへ向かい、
外交折衝に奔走することになる。
帝国が軍事的に苦しくなるほど、
戦場以外で戦争を終わらせる道が
より大きな価値を持つようになっていく。
ここから見ても、
イルドアを単純な裏切り者としてしまうと、
この国が持つ役割を捉えにくくなる。
帝国を直接助けない一方で、
帝国が戦争から抜け出すためには
無視できない相手として残るからだ。
第3話で「善意の仲介人」として現れたことも、
第8話まで見れば重みが変わってくる。
仲介とは、
帝国の味方として敵を説得することではない。
双方と話せる距離に立ち続けることでもある。
もしイルドアが帝国軍へ全面協力すれば、
敵対陣営から見れば
もう公平な仲介国ではなくなってしまう。
帝国を助ける行為そのものが、
和平の窓口としての価値を失わせる可能性もある。
だからイルドアの中立は、
帝国にとって迷惑なだけではない。
短期的には撤退を苦しくする一方で、
長期的には帝国が外交によって
戦争を終わらせるための余地を残している。
この関係はかなり皮肉である。
帝国兵から見れば、
今すぐ船や航路を助けてくれる国の方がありがたい。
だが国家全体で見れば、
最後まで敵陣営へ組み込まれず、
話し合える国が残っていることにも価値がある。
第8話の時点では、
その価値よりも支援拒否の痛みの方が大きく見える。
連合王国海軍が目の前にいる以上、
「将来の外交」より
「今ここをどう生き延びるか」が切実だからだ。
それでも物語全体を追うと、
イルドアは消えていく国ではない。
帝国が追い詰められるほど、
軍事力だけでは作れない出口をめぐって
再び重要性を増していく。
だから「イルドアは敵なのか」という問いへの答えは、
少なくとも第8話の段階では「敵になった」とは言い切れない。
帝国と一定の関係を保ちながら、
帝国の戦争には参加しない。
その曖昧に見える位置こそ、イルドアが守っている場所である。
第3話では動員演習で帝国を警戒させ、
第4話からは講和を仲介し、
第8話では撤退支援を拒否する。
ばらばらに見えるこれらの行動も、
自国を戦争当事国にしないという線で見るとつながってくる。
帝国にとってイルドアは、
頼りたいのに頼り切れない同盟国であり、
腹立たしくても切り捨てられない外交相手でもある。
そして戦争が苦しくなればなるほど、
その微妙な距離が帝国の運命へ大きく関わってくるのである。
第7章 イルドアはこの先参戦する?帝国との関係はさらに大きく動いていく
第8話の支援拒否で終わらず、イルドアは帝国に残された外交の出口になる
第8話までの流れだけを見ると、
イルドア王国は帝国から距離を取る国として強く印象に残る。
南方大陸から撤退する帝国軍を助けず、
「厳正中立」を貫いたことで、
帝国側から見ればかなり冷たい存在になった。
しかし、イルドアの役割はここで終わらない。
むしろ帝国が軍事的に追い詰められるほど、
戦場以外の出口を持つ国として、
この先さらに重要になっていく。
帝国はこれまで、
戦場で勝つことで状況を変えようとしてきた。
共和国を破り、
連邦にも打撃を与え、
各方面で戦果を積み重ねてきた。
それでも戦争そのものは終わっていない。
ここまで来ると、
必要になるのは新しい勝利だけではない。
どこで戦争を止めるのか、
誰を通して交渉するのか、
どうやって帝国そのものを生き残らせるのかが重要になる。
その時に価値を持つのが、
交戦国へ完全には属していないイルドアである。
帝国と関係を保ち、
敵対陣営とも話せる立場にいるからこそ、
和平への窓口として機能できる。
原作ではレルゲンがイルドアへ赴き、
帝国の将来を左右する外交折衝へ向かう流れも描かれる。
前線で魔導師が敵を倒す戦いとは違い、
ここでは国家そのものを残すための交渉が重要になる。
第8話で帝国軍を助けなかった国が、
後には帝国が戦争から抜け出すための
重要な相手になっていく。
このねじれた関係こそ、
イルドアの面白いところでもある。
「敵になるのか」よりも、最後まで中立を保てるのかが大きな焦点になる
イルドアについて気になるのは、
この先帝国と敵対するのか、
あるいはどこかの陣営へ正式に加わるのかという点だ。
第8話の態度だけを見ると、
帝国から離れていくようにも見える。
ただ、イルドアがこれまで守ってきたのは、
帝国との関係を切ることではなく、
一つの陣営へ完全に組み込まれないことだった。
だから今後を見るうえでは、
「帝国の敵になるか」だけでは少し狭い。
もっと重要なのは、
戦争が拡大しても厳正中立を維持できるのかということだ。
周囲の国家が次々と戦争へ入り、
帝国が追い詰められていけば、
イルドアにも選択を迫る圧力は強くなる。
中立とは、
何もしなければ自動的に守れる立場ではない。
どちらか一方から協力を求められ、
もう一方から疑われ、
その度に距離を保たなければならない。
第3話の動員演習。
第4話から続く和平仲介。
第8話の撤退支援拒否。
これらは全て、
イルドアが自国の立場を守るために選んできた行動だった。
帝国から見れば、
その慎重さは裏切りにも見える。
だがイルドアから見れば、
一度でも帝国の戦争へ深く入り込めば、
中立国として戻れなくなる危険がある。
だから第8話の「厳正中立」は、
その場だけの便利な言葉ではない。
この先イルドアがどこまで自国の立場を守れるのかを見るための、
重要な出発点になっている。
そして帝国にとっても、
イルドアとの関係は簡単には切れない。
戦場で苦しくなるほど、
最後に必要になるのは敵を倒す火力だけではなく、
戦争を終わらせるための相手だからだ。
イルドアは帝国を助けない。
それでも帝国にとって必要な国であり続ける。
この矛盾した関係が、
第8話以降の帝国の苦境をさらに深くしていくのである。


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