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【野生のラスボス2期】ディーナは裏切り者?――隠された十三人目の参謀

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『野生のラスボス』のディーナは秘密を抱えているものの、ルファスを陥れるために付き従っているわけではない。
女神の分身として近づいた彼女は、家族をめぐる出来事から、女神とは違う自分の気持ちに気づいていく。
誰を欺き、誰のために動いてきたのかをたどると、怪しく見えた参謀の行動が違って見えてくる。

この先はWeb原作第160話までのネタバレあり。

  1. 第1章 ディーナは裏切り者? 本当に背いた相手は女神
    1. ルファスの敵として近づき、 味方へ変わっている
    2. 秘密があることと、 ルファスを裏切ることは別
  2. 第2章 頼れる参謀なのに、 ディーナを疑いたくなるのはなぜ?
    1. 参謀を名乗る彼女と、 周囲の記憶の食い違い
    2. 姿を隠し、情報を握る行動への引っ掛かり
  3. 第3章 ディーナと女神は同じ存在? 隠していた出自
    1. 女神の分身として ルファスを監視していた過去
    2. 同じ記憶を持っていても、 同じ気持ちにはならない
  4. 第4章 父を失いたくない ――ディーナの気持ちが変わった出来事
    1. 弱った父を前に、 女神と自分の違いが揺らぎ始める
    2. 救おうとしたルファスと、 切り捨てようとする女神
  5. 第5章 ルファスが認めた「ディーナ」 ――隠された十三人目の参謀
    1. 女神の代わりではなく、 一人の少女として生き始める
    2. オフューカスとして、 仲間にも姿を隠して支える
  6. 第6章 味方まで欺いたのはなぜ? ルファスと交わした約束
    1. 離れる道を示されても、 ルファスのそばに残った
    2. 裏切り者と疑われても進めた、 封印と帰還への働き
  7. 第7章 ディーナの笑顔は嘘ばかり? ルファスへの思いは残っている
    1. 隠していた出自と、自分で選んだ忠誠
    2. 女神の命令より、 ディーナ自身が守りたいもの

第1章 ディーナは裏切り者? 本当に背いた相手は女神

ディーナが選んだ立場
時期 目的 ルファスとの関係
潜入した頃 女神のために監視 敵側
心境の変化後 自分の意志で支援 味方
帰還への準備 女神の目を欺く 協力者

ルファスの敵として近づき、 味方へ変わっている

ずっとそばで助けてくれるのに、
何かを隠している。
その相手がディーナとなると、
疑うこと自体に少し気が引ける。
明るく応じる参謀の顔にほっとする一方で、
こちらの知らないところでは別の顔を
見せているのではないか。
ルファスを支える姿を見てきたぶん、
敵ならつらいという気持ちも混じってくる。

原作の先の展開まで含めると、
ディーナはルファスを陥れるために
付き従っている人物ではない。
女神アロヴィナスの分身として
近づいた過去はあるものの、
後に自分の意志でルファス側へ立っている。
本当に背いた相手を挙げるなら、
生みの親ともいえる女神のほう。
怪しい行動と、ルファスへの敵意は
そのまま重ならない。

ただ、初めから何もかも本当のことを
話していた味方、と言ってしまうこともできない。
出会いの段階では監視する側におり、
周囲の記憶や認識にも手を加えている。
疑いを招く材料が
すべて勘違いというわけではない。
隠していたことは実際にある。
その秘密を何のために抱えていたかが、
彼女への見方を変えていく。

ディーナの過去には、
女神の役目を果たすために動く時期と、
ルファスの参謀として動く時期がある。
同じ力を使っていても、
誰の望みをかなえようとしているかが変わっている。
姿が変わらないため、外からは境目が見えにくい。
女神につながる能力を見て、
今も女神に従っていると疑いたくなるところには、
この分かりにくさもある。

ルファス側へ移ったきっかけも、
単に強い相手へ乗り換えたという話ではない。
家族を失う怖さや、
助けてもらった喜びを知る中で、
自分と女神が同じではないと気づいていく。
相手の陣営を選ぶ前に、
自分の気持ちを自分のものとして
認める時間があった。
そこが、便利な寝返り役では収まらないところになる。

そのため、最後の局面で急に心変わりし、
初めてルファスを選ぶと捉えると、
過去から続く働きが抜けてしまう。
彼女の選択は、
二百年前のルファスとの関わりまでさかのぼる。
そばに戻ってくるまでの長い時間にも、
同じ目的へ向かう行動がある。
疑惑の答えは、終盤の一度きりの
助太刀だけにあるわけではない。

女神の分身なら女神と同じことしか望めない、
という予想から外れるところに、
ディーナの秘密がある。
女神とつながっていることは消えなくても、
そのまま従い続けることは選ばなかった。
出自を明かされた時の不安と、
そこから自分で選ぶ姿を知った時の安堵。
その両方を感じる余地が残る人物になっている。

秘密があることと、 ルファスを裏切ることは別

彼女は、味方にも説明しないまま動くことがある。
大事なことを知らされなかった側からすれば、
安心して任せきれない気持ちは残る。
結果として味方のためになったとしても、
途中の不安まで消えるわけではない。
ディーナの有能さは頼もしいけれど、
何も知らないまま誘導される側には、
置いていかれる怖さもある。

それでも、情報を伏せる相手と、
敵として倒したい相手は必ずしも一致しない。
女神の目を欺くには、
ルファス本人にさえすべてを思い出させないまま
進める必要があった。
その行動の土台には、
過去のルファスと共有した計画がある。
本人に黙って勝手に主を捨てる行いとは、
出発点から違っている。

一方で、主のためという言葉だけで、
ほかの人の気持ちまで片づくわけでもない。
ディーナに記憶を触られた人には、
本人の知らない選択が残る。
彼女は優しい気持ちを持つからこそ、
いつも穏当な手段を取る人物ではない。
誰かを守ろうとする忠誠と、
他者を欺ける怖さが、一人の中に並んでいる。

だから、怪しいと思った場面を知った後に、
全部疑わなくてよかったと
笑い飛ばすのも難しい。
疑われるようなことをしていた事実は変わらない。
ただ、その裏で待っていたのは、
ルファスの破滅を喜ぶ裏切り者という答えではなかった。
どこへ味方し、何を隠したかを分けると、
不安の中身が少しずつ変わってくる。

ルファスと敵対した過去があることも、
現在まで敵意を持ち続けている証明にはならない。
長い時間を生きる彼女には、
立場が変わる前の行動も、
変わった後の行動も残っている。
一枚の場面だけを切り取ると、
正反対の顔が出てくる。
途中で何が起きたかを知らないと、
彼女の笑顔はますますつかみにくくなる。

裏切り者かどうかは、
誰の側から呼ぶかでも変わる。
女神から見れば命令に背いた分身となり、
ルファスから見れば
危険な役目を引き受けた参謀になる。
ディーナは全員に誠実な説明を続けた人物ではない。
それでも、選んだ主を捨てて
女神へ戻った人物とも違う。
同じ行動へ向けられる名前が、
見る側で食い違っている。

頼れる参謀を信じたい気持ちと、
彼女が持つ力への警戒は、
どちらかを無理に捨てなくても残る。
笑顔を向けている相手の知らないところで
何をしてきたのか。
その疑問には、彼女自身が隠していた過去が
つながっている。
まず気になるのは、なぜ周囲の仲間ですら、
彼女のことを十分に知らないのかという点になる。

第2章 頼れる参謀なのに、 ディーナを疑いたくなるのはなぜ?

参謀を名乗る彼女と、 周囲の記憶の食い違い

ルファスのそばにいることが自然に見える相手なのに、
ほかの仲間から同じような思い出が出てこない。
ディーナへの違和感は、
そんな小さな食い違いから大きくなる。
昔から参謀なら、誰かが一緒に働いた日のことを
覚えていてもよいはず。
ところが、彼女の存在には、
なじんでいるようでなじみきらない空白がついている。

アニメの旅の始まりでは、
ルファスはディーナと行動を共にし、
散り散りになった配下たちを探していく。
新しい世界の状況を伝えてくれる相手がいることは
心強い。
慣れない場所へ来た時、
先に事情を知っている人が近くにいるだけで助かる。
その安心があるからこそ、後から秘密が見えてくると、
出会いの場面まで気になってしまう。

しかも彼女は、
何もできずに後をついてくる人物ではない。
段取りを整え、必要な情報を渡し、
主が動けるよう支えている。
役に立っていること自体は、その場の行動として残る。
それなのに過去のつながりだけがつかめないため、
親切も準備のよさも、何かの誘導に見えてくる。
助かることと、信用できることが一度離れてしまう。

ルファスの記憶にも空白や揺らぎがあるため、
そばにいる人の説明が判断の支えになる。
その支えまで疑わしくなると、
単に部下の正体を知りたいだけでは済まなくなる。
自分の知っている過去はどこまで確かなのか。
ディーナへの不信は、
ルファス自身の足元にある不安にもつながっている。

原作で明かされる彼女には、
人の認識へ働きかけ、
自分を目立たなくする力がある。
何かを見ても、
深く疑問を抱かずに受け流してしまう。
その作用は、単に物陰へ隠れるのとは違う。
目の前にいる相手なのに、
意識の中へ残りにくくなる。
周囲の記憶が薄いことにも、
本人の能力が関わっている。

過去の潜入では、
参謀として受け入れさせるための偽の記憶も使っている。
そう聞くと、親しみのある関係まで
作られたものに思えて怖くなる。
ただ、その仕掛けで始まった関係が、
同じ思いのまま続いていたとは限らない。
入り込んだ時の偽装と、
その後に育った気持ちが異なることが、
ディーナの場合には起きている。

周りが覚えていないから、
その人物は何もしてこなかったとも言えない。
姿を意識させないまま働けるため、
手柄を残さず動くこともできる。
その便利さと不気味さが、
同じ能力から生まれている。
助けられたことに気づけない側からすると、
味方として働いていた証拠まで見つけにくい。
彼女の役目は、疑われやすい形をしている。

それでも、記憶へ触れられる能力には、
手放しで任せにくいところがある。
覚えている出来事まで書き換えられるなら、
何を根拠に安心すればよいのか迷ってしまう。
ディーナが好きな人物でも、この力は少し怖い。
その引っ掛かりがあるから、
彼女の忠誠は口だけでは信じきれず、
実際に何を続けてきたかへ関心が向く。

姿を隠し、情報を握る行動への引っ掛かり

情報を持っている人が、
どこまで教えるかを選んでいる。
その構図も、ディーナを怪しく見せる。
知りたい時にすべてを話してくれる相手ではないため、
ルファスの動く方向が
彼女の都合で決まっているように映ることもある。
先回りしてくれる有能さが、
そのまま裏で筋道を引いている疑いへ変わってしまう。

また、他の勢力と接している姿があれば、
それだけで、主の知らないところで
何かを渡しているのではないかと不安になる。
味方の陣営だけにいれば分かりやすいのに、
彼女はそういう動き方をしない。
複数の相手へ別の顔を見せる役目には、
外から一言で敵味方を決められない厄介さがある。

姿を消すことも、
味方を捨てた証拠とは限らない。
身を隠すことで監視を外し、
次の行動へ移れる場合もある。
けれど、その事情を知らされないまま待つ側には、
いなくなったという事実しか見えない。
ディーナの行動には、後で目的が明かされるまで、
不安だけが先に残ってしまう場面が重なっている。

書籍7巻の紹介でも、
女神とのつながりを疑われたまま姿を消した
ディーナを、ルファスたちが捜す展開に触れている。
頼れる仲間の不在と、
正体への疑いが同時に来る形になる。
いなくなったから心配なのに、
その不在自体が疑惑も強めてしまう。
会いたい気持ちと問い詰めたい気持ちが、
同じ相手へ向かう。

ここで、秘密の多い人物はすべて黒幕、
と決めてしまうには、
ルファスを支えてきた時間が長い。
反対に、いつも笑っていたから敵ではない、
と言い切るにも、隠された行動が多い。
その間で揺れること自体が、
彼女を見ている時の落ち着かなさにつながる。
安心をくれる相手が、不安の種も握っている。

ディーナが恐れているのは、
ルファスに怪しまれることだけではない。
女神側へ裏の目的を見抜かれれば、
それまでの準備が崩れてしまう。
味方の疑いを晴らすために明かした情報が、
敵へも届く危険がある。
だから説明を避けた行動が、
今度は味方の疑いを深める。
彼女は、どちらへも簡単に顔を向けられない場所にいる。

その立場を知っても、
何も教えずにいなくならないでほしいという気持ちは残る。
ただ、言えない事情と、
言うつもりのない悪意は同じではなかった。
ディーナの沈黙の先にいるのは、
いつも女神の命令だけではない。
彼女が何を守るために説明を伏せたのかは、
女神の分身として生まれた過去からつながってくる。

第3章 ディーナと女神は同じ存在? 隠していた出自

女神の分身として ルファスを監視していた過去

女神の分身と聞くと、
ディーナの口を通してアロヴィナスが
話していたように思えてしまう。
いつもの軽やかな受け答えまで、
別の存在が作った芝居に感じられるかもしれない。
けれど、彼女の出自は、
目の前にいる少女の気持ちを
すべて消してしまうものではない。
女神とのつながりと、ディーナ自身の意志には違いがある。

Web原作第157話で明かされるディーナは、
エルフの父と人間の母の間に生まれた、
女神のアバター。
地上で活動するための分身という立場を持っている。
女神とは無関係の参謀が、
たまたま似た力を使っていたわけではない。
そのつながりを疑った側の見立てには、
実際の出自に触れている部分がある。

彼女自身も、初めのうちは女神と自分を
同じ存在として受け止めていた。
与えられた記憶や人格があるため、
自分の過去と女神の過去を切り離さずにいる。
ディーナという名前さえ、
この身体に付けられた呼び名として扱っていた。
女神とは別に生きている自分を、
大切にする発想から遠いところにいた。

その状態でルファスを知り、
危険な存在として近づいている。
相手の強さへ憧れて参謀を志願したのでも、
最初の出会いから恩返しを誓っていたのでもない。
女神の望む流れを崩しかねない人物として観察し、
排除も視野に入れていた。
後に忠実な参謀となる彼女の始まりには、
はっきりした敵側の動機がある。

ただ、監視するうちに、
ルファスを相手にする怖さも知っていく。
強力な能力があるから何でもできる、
という自信が通じない相手に出会っている。
女神の力を持つ自分より上の存在など
認めがたい一方で、実際には勝てる姿が浮かばない。
彼女が覚えていた常識が、
目の前の一人を前に揺らぎ始める。

この時点のディーナを、
後の献身だけで優しい人として
塗り替えることもできない。
人々の意識へ入り込み、
自分の身を隠して主を調べていた。
彼女には、ほかの人を遠くから動かす側の冷たさもあった。
今の笑顔がすべて嘘ではないとしても、
その笑顔に至るまでに何もなかったわけではない。

そこへ、故郷の集落に病が広がっている話が届く。
監視していたはずのルファスは、
ディーナのわずかな動揺に気づく。
女神を名乗っていても、気になってしまう場所がある。
その反応は、彼女の警戒が足りないというだけでなく、
本人が切り捨てたつもりの暮らしが、
まだ心に残っていることもにじませている。

同じ記憶を持っていても、 同じ気持ちにはならない

女神の記憶を持っていても、
両親と過ごした時間はディーナ自身のものになる。
食事を共にし、名前を呼ばれ、
成長してきた日々まで、
女神本人が同じように経験したわけではない。
知識として誰かを知ることと、
その人に育てられることには隔たりがある。
その違いが、故郷の危機を前に表へ出てくる。

ルファスは、目の前の相手が女神を名乗ったからといって、
その言葉だけを受け入れない。
両親のことで心を動かす姿から、
女神とは異なる人生を歩んだ相手として接している。
見破る対象は、隠れていた敵というだけではない。
本人すら認めようとしない、
別の一人の存在へも目を向けている。

ディーナにとっては、
自分を支えてきた前提が崩れる話になる。
女神と同じなら迷わずに済んだ判断にも、
自分だけの迷いが入ってくる。
親を気にすることを否定すればするほど、
その否定が苦しくなる。
何も感じないはず、と自分へ言い聞かせる姿には、
感じてしまっている気持ちの強さが逆に表れている。

アバターという言葉から、
いつも女神が直接身体を動かしていると捉えるのも、
この過去には当てはまらない。
ディーナには自分で判断し、行動する余地がある。
その余地がなければ、監視対象に言い返すことも、
家族の無事を気にすることも、
女神と異なる道を選ぶこともできない。
操り人形という自己認識と、
実際の心の動きがずれている。

また、女神が別の身体へ入り込むことと、
ディーナが普段から女神と同じ気持ちでいることは
別の話になる。
出自の説明だけで、彼女の行動のすべてを
女神本人へ戻すことはできない。
誰が何を望んで動いているのかを確かめるには、
目の前のディーナが何に戸惑い、
何を拒んだのかが関わってくる。

自分を女神と同じにしていれば、
家族を置いて去ったことにも
迷わずに済んだのかもしれない。
別の一人として認めれば、
会いに行かなかった年月や、
もらってきた愛情も自分へ返ってくる。
自分になることは、気楽になることばかりではない。
だから彼女は、分身という言葉へ
しがみつこうとしているようにも映る。

ルファスが彼女へ問いかける名前も、
そこで違って響く。
女神としての名を聞きたいのではなく、
その身体で生きてきた相手を
呼ぶための名前を求めている。
ディーナ本人には仮の呼び名に思えていても、
家族にとっては大切な娘の名前。
その温度の違いが、
彼女の中にまだ収まりきらないまま残っている。

正体が明かされる場面なのに、
それで人物が一枚に決まらないところが、ディーナらしい。
女神の分身だから敵、と割り切れば、
本人が抱く家族への感情が残ってしまう。
ルファスはその気持ちを無視しなかった。
彼女が自分を女神だと言い張っている間にも、
別の生き方につながる入口は、
すでにそばへ差し出されている。

第4章 父を失いたくない ――ディーナの気持ちが変わった出来事

弱った父を前に、 女神と自分の違いが揺らぎ始める

家族のことなど気にしていないつもりなのに、
足が故郷へ向かってしまう。
ディーナの変化は、
立派な決意を言葉にするより先に始まっている。
ルファスのもとから離れた後、
自分で選んだ行き先が生まれた集落になっていた。
認めたくない気持ちを、
身体のほうが先に示してしまうところが切ない。

戻った彼女が知るのは、
母がすでに亡くなり、父も弱りきっている現実。
その場で初めて失う怖さに直面する。
女神の記憶の中で幾多の死を知っていることと、
自分を育てた人が目の前で
いなくなりそうになることは同じではない。
分かっているはずの出来事なのに、
平静ではいられなくなっている。

母の死は、戻ってから知ることになる。
会いたくなったら会いに行けばよい、
という時間が、
いつまでも残るわけではなかった。
自分は女神の分身だから関係ない、
と距離を置いていた年月の間にも、
家族の暮らしは進んでいた。
その隔たりが、
父の弱った姿と一緒に押し寄せてくる。

父は、久しぶりに戻った娘をディーナとして迎える。
女神として敬い、ひれ伏す相手ではなく、
帰ってきた娘として手を伸ばす。
その近さに、
彼女がこれまで取り繕っていた立場は合わなくなる。
自分を生むためだけの人と捉えていた相手が、
ずっと自分を心配していた。
その事実が胸へ届いてしまう。

ここで父が娘を愛していることは、
ディーナの能力や立場に左右されていない。
強い力を持つから戻ってきてほしかった、
という話にはなっていない。
女神に似た何者かではなく、
家族としての彼女が気にかけられている。
自分を役目でしか説明できなかった人へ、
役目とは関係のないつながりが戻ってくる。

父から名前を呼ばれるだけのことが、
ここでは重く響く。
女神の名を掲げてきた彼女へ、
父は最初から別の呼び名を向けていた。
誰かに新しい人格を作ってもらわなければ
存在できない、という話ではない。
長い間、自分で見ないようにしていた暮らしを、
家族のほうは忘れずにいてくれた。

女神が同じ父を同じように心配しているとは思えない。
そのずれが、ディーナにとって
逃げられないものになる。
今ここで感じている痛みは、
女神の記憶をなぞったものではない。
父の手に触れ、弱さを知り、
助かってほしいと願っている自分の反応。
身体に与えられただけの名前と思っていた少女が、
その名前の人生を抱え始める。

だから彼女の変化は、
ルファスの強さに圧倒されて従った、
という筋道だけでは足りない。
もっと身近に、失いたくない相手がいた。
その相手への気持ちを、
女神という立場が押し潰しきれなくなっている。
大きな陣営の争いより先に、
父が生きていてほしいという願いが、
彼女を別の場所へ動かしている。

救おうとしたルファスと、 切り捨てようとする女神

集落の危機を前に、
ディーナは傍観することができなくなる。
襲ってきた魔物を止め、
父や里の人々を守ろうと動く。
女神の側にいれば従うはずの流れへ、
自分の身体で抵抗している。
自分と女神が違うと認める前から、
行動のほうにはすでに違いが出ていた。

強力な力を持っていても、
焦りの中では解決しきれない危機がある。
相手の動きを遅らせても、
迫る被害を完全には止められない。
何もできない人ではないからこそ、
自分の手で届かないことがつらく映る。
女神の分身という誇りよりも、
父を助けられない怖さが前へ出てしまう。

そこへ手を貸すのが、
排除する対象として見ていたルファスになる。
正体を知った後にも薬を持たせ、
さらに危険から救っている。
監視していた側の少女が、
調べていた相手に救われる。
その入れ替わりは、強さの違いだけではない。
ディーナの家族を、
助けるに値しない命として扱わなかったことが大きい。

薬も、彼女の変化に寄り添うように残っている。
女神の秩序から見れば受け入れがたいものでも、
弱った父を前にすると、
壊して捨てる気にはなれない。
正しいと教え込まれた側より、
父が生きる可能性のほうへ手が止まる。
どちらを守りたいのかが、
言葉になる前から見えてしまう場面になる。

やがて父や集落が救われると、
その喜びをディーナは自分の気持ちとして受け止める。
女神が喜んでいるからうれしいのではない。
自分の大切な人が助かったからうれしい。
この小さく見える違いが、
女神と自分を同じにしていた認識を崩していく。
救われたのは里の人々だけでなく、
彼女自身の居場所でもあったように感じる。

それでも、この出来事で
過去の冷淡さまで消えるわけではない。
母と過ごせなかった時間も、
父を置いて去った年月も残る。
家族を愛していると気づけば何もかも戻る、
という場面ではないからこそ、
遅れて届いた気持ちが痛い。
救えた父の命には、
もう会えない母への思いも
重なっているのかもしれない。

ルファスを選ぶことは、
この時のディーナにとって、
自分の感じた痛みや喜びを
捨てないことにもつながる。
女神へ戻るだけなら、それらを
分身の余計な揺らぎとして押し込めることになる。
けれど、家族を助けたいと願った自分は、
もう何も感じないふりをしきれない。
その先に、女神ではなく
ディーナとして働く道が生まれている。

第5章 ルファスが認めた「ディーナ」 ――隠された十三人目の参謀

隠された役目と実際の働き
周囲に見える姿 抱えていた役目
記憶に残りにくい参謀 姿を隠して支える
封印へ関わった人物 合意した退場を進める
主にも秘密を持つ部下 女神を欺く準備を続ける

女神の代わりではなく、 一人の少女として生き始める

女神とは違う存在と気づいた後、
ディーナの名前は単なる偽名ではなくなる。
親に呼ばれ、育ち、家を離れ、
帰ってきた一人の名前へ戻っていく。
初めから持っていたのに、
自分では大切にしていなかった名前。
その呼び名でルファスのそばにいることにも、
以前とは違う重さが生まれている。

ルファスが彼女に見いだしたのは、
女神の力を便利に使える身体だけではない。
分身として自分を扱う相手へ、
別の人生があると伝えている。
持っている能力が変わらなくても、
何のために使うかは本人が選べる。
その扱い方は、
役目をこなす道具として世界へ出されてきた彼女には、
大きな違いになったように映る。

ただし、ルファスが一方的に
自分の側へ引き入れた、という形でもない。
女神と違う感情を知り、家族を救われ、
そのうえでディーナ自身が道を選んでいる。
助けてもらった恩だけなら、
返し終われば去る道もある。
彼女がその後も長く働くことには、
ここへいたいという本人の意志が重なっている。

自分を認めてくれた人へ応えたい気持ちは、
命令された役目より身近に感じられる。
女神だから従うという立場から、
ルファスだから支えたいという関係へ変わる。
従う相手の名前を入れ替えただけではなく、
自分に選択があると知った後の忠誠になる。
彼女の強さは同じでも、
差し出す気持ちの持ち主が変わっている。

原作で与えられるオフューカスという役職名は、
蛇遣いを示す。
十二星の外側にいる十三人目として、
目立たない場所で働く立場になる。
最初の潜入では、
気づかれない力で敵を調べていたのに、
後には同じ力が主を支える手段へ移っている。
影の薄さが、能力不足ではなく役目と結びついていく。

ここで、ディーナが普通の配下と同じように認められ、
皆の前で紹介されるわけではないところが少し寂しい。
自分の名前を大切にできるようになったのに、
仕事のうえではまた存在を隠す。
けれど、以前のように自分など女神の身体にすぎないと
思い込んで消えるのとは違う。
今は、自分の意志で影に回っている。

表に出ない役目を選べることと、
自分に価値がないと思うことは同じではない。
ルファスは彼女の存在を知り、任せている。
ほかの仲間へ広く知られなくても、
主との間には共有する仕事がある。
誰の記憶にも残らず紛れ込んでいた少女が、
今度は一人の相手に確かに知られたうえで、
姿を隠して働き始めている。

オフューカスとして、 仲間にも姿を隠して支える

十三人目の存在は、
十二星の全員へ伝えられているわけではない。
限られた者が、
その名と役目をわずかに知っているにとどまる。
ディーナという名前や顔まで共有されていないため、
再会の場面でも話がかみ合わなくなる余地がある。
仲間の一員でありながら、
仲間からも十分に知られていない立場が続いている。

自分の力で周囲の認識を薄めるなら、
働きを認められる機会も少なくなる。
成功した後に、
実は自分がやりましたと名乗れる任務ばかりではない。
姿を消す力は便利でも、
存在を覚えてもらえないことには別の寂しさがある。
彼女が笑って仕事を進めるほど、
その裏の孤立まで軽いものには感じられなくなる。

それでも、ディーナがその立場を
ただ耐えるだけの少女として
描かれているわけではない。
自分の能力を理解し、相手の反応を読み、
必要なら主の動きまで誘導している。
守られて終わる関係ではなく、
ルファスにも任せるしかない仕事を引き受ける。
助けられた側から、
助ける側へ返っていく力がある。

そのため、ルファスを選んだ後に
彼女の怖さが消えるわけではない。
認識を変え、相手に気づかせず動く手段は、
そのまま残っている。
優しい少女になったから誰も騙さなくなる、
という変化ではなかった。
大切な相手を得たことで、
欺く力の使い先が変わる。
明るい参謀の顔と手強い工作役の顔が、
ここで両立し始める。

仲間に本当のことを言わない行動にも、
その役目がついて回る。
知らされない側からすれば腹立たしさが残るし、
後で事情を聞いても
すぐに納得できるとは限らない。
ディーナは、理解されることを
先に確保してから動いてはいない。
誰かに疑われるかもしれない役を引き受けるところまで、
主との仕事に含めている。

それは、女神に従っていた頃とは違う負担になる。
女神と同じ自分なら命令の延長として済んだ行動にも、
今は自分で選んだ責任が残る。
ほかの人を欺けば、本人の決めたこととして返ってくる。
その危うさを抱えても、
もう自分の意志がない状態へは戻りたくない。
彼女の忠誠には、
自由になった人の意地も感じられる。

オフューカスという隠された役目は、
ルファスに信頼されていない証拠とは逆の位置にある。
多くの仲間へ明かせない働きを、
本人へ託している関係になる。
だから、他の配下が知らないことは、
そのまま主の知らないことにはならない。
ディーナとルファスだけが先に共有していた時間が、
後の疑惑をいっそう複雑にしている。

第6章 味方まで欺いたのはなぜ? ルファスと交わした約束

離れる道を示されても、 ルファスのそばに残った

本当のことを話してくれない参謀を見ると、
主の意思まで無視しているのではないかと気になる。
けれど、ディーナの長い働きには、
ルファスと相談し、任せられた出発点がある。
知らないうちに自分の人生を決められた主、
という形だけではない。
過去の二人は、
先へ進むための危うい手順を一緒に選んでいる。

原作の過去で、ルファスは圧倒的な力がありながら、
仲間を倒し尽くして勝つ道を取らない。
勝っても守りたいものが残らないなら、
別の手を選ぶ。
その判断から、敗北を装って退く計画へ進んでいく。
ディーナが支えたのは、
力で全員を黙らせる王だけではなく、
力だけでは取り戻せないものを抱えた主の選択になる。

その時、ルファスはディーナへ、
離れるなら今でもよいと伝えている。
残らなければ罰を受ける、という関係ではない。
これからの道の厳しさを前に、
従う以外の選択も示されている。
そこで残ることを選んだ彼女の姿は、
女神の分身として与えられた役を果たす姿とは
違って見える。

ディーナは、自分の意志を持たない存在へ
戻ることを望まない。
家族を大切に思い、
ルファスのもとで自分として生きられるようになった
時間がある。
その時間を捨てて女神の側へ戻るより、
危険を引き受けても今の自分でいたい。
主への忠誠と、自分を取り戻した気持ちが、
ここでは離れずにいる。

しかも、相手は自分へ記憶や人格を与えた女神になる。
遠くの敵と戦うより、
自分の中にあるものを知られている相手を欺くほうが
厄介になる場面もある。
どこで見抜かれるか分からないまま動くには、
単なる口先の強がりでは足りない。
ディーナは、出自そのものを敵に回すような
仕事を選んでいる。

それでも彼女は、
誰からも善い仲間と思われる形で
仕事が終わるとは期待していない。
計画のためなら、
敵にも味方にも別の顔を向ける必要がある。
説明できないうちに裏切り者の名前を
付けられる可能性まで引き受けている。
その覚悟を知ると、後に怪しく見える動きにも、
彼女自身が承知していた痛みが重なる。

ただ、疑われても平気ということと、
疑われるのが好きということは違う。
理解されない役を選べても、
人の不信が一切傷つけないとは限らない。
いつも軽く話す彼女が、
どこまで気にしていたかは決めつけられない。
それでも、好きで主の敵に見られたいわけではないと
思うと、隠れて働く時間の長さが気に掛かる。

裏切り者と疑われても進めた、 封印と帰還への働き

封印に関わっていた、と聞くと、
疑惑は一気に黒へ寄って見える。
主を追い落とす行動そのものではないかと
感じるところになる。
けれど、その退場はルファス本人も同意した
計画につながっている。
相手の同意のもとで姿を隠すことと、
嫌がる主を閉じ込めて奪うことでは、
同じ封印という言葉でも中身が変わる。

ディーナの仕事は、
そこで主を消して終わりにはならない。
二百年後に戻すための準備を重ねることまで
続いている。
封印へ手を貸した人物が、
帰還への道も作っていた。
その両方があるため、
ひとつの行動だけなら敵に見える場面も、
長い仕事の途中としてつながっていく。

さらに、戻ってきたルファスが最初から
すべてを思い出し、完全な力を表に出せば、
それまでの準備を待たず女神が動く恐れがあった。
少しずつ仲間を集める時間を得るため、
記憶へ働きかける手順も組み込まれている。
主を弱いまま支配したいのではなく、
動ける時まで気づかせすぎないという、
分かりにくい守り方をしている。

この事情を知らないルファスが不安を覚えるのは、
計画に失敗したからとは限らない。
過去の自分が了承していても、
今それを覚えていない自分には、
知らないことが残る。
その食い違いまで計画に含まれているため、
ディーナは目の前の主へ何もかも説明できない。
主のために、主自身を欺くという厄介さを抱えている。

長い計画には、
ディーナが離れたままになる時間も含まれている。
目の前の主に感謝されながら働ける日々ばかりではない。
それでも帰還につながる準備を放り出さなかった。
そばにいる時の親切だけでは測れない忠誠が、
会えない時間の仕事にも残っている。

また、姿を隠せるからといって、
一つの場所で待つだけの仕事ではない。
別の勢力へ接触し、情報を渡す量を調節し、
女神から疑われないよう振る舞う必要がある。
誰にでも同じ説明をすればよい立場とは違う。
相手ごとの顔が増えるほど、
外から見た行動はつかみにくくなり、
参謀自身への不信も積もってしまう。

それでも、帰還して仲間を集め、
覚醒へ至る流れは、二人の目的へつながっている。
Web原作第160話で記憶への術が解かれると、
ルファスはディーナの働きを認めている。
主が敵の工作を見破って断罪する場面ではなく、
長く任せた役目を果たした相手へ応じる場面になる。
その反応が、
彼女の立っていた側をはっきりさせる。

裏切り者らしく見える働きを続けながら、
最後には主のもとへつなぎ直す。
ディーナは、疑われないよう何もしない道ではなく、
疑われても動く道を選んでいる。
事情を知らなかった側の不安まで
嘘にはならないけれど、
その裏にある忠誠もまた本物になる。
複雑な手順の中心には、
選んだ相手を見捨てないという気持ちが残っている。

第7章 ディーナの笑顔は嘘ばかり? ルファスへの思いは残っている

隠していた出自と、自分で選んだ忠誠

ディーナの秘密を知った後、
最初の明るい笑顔まで疑わしくなる。
あの時の声も、驚いた顔も、
全部相手を動かすために作った表情なのか。
記憶や認識へ触れられる人物だからこそ、
何も仕掛けていない表情を見つけたくなる。
正体を知ればすぐ安心できる相手ではないところが、
彼女への気持ちを少し複雑にしている。

けれど、出自を偽っていたことと、
笑って過ごした時間に気持ちがなかったことは
同じではない。
家族の危機に動揺し、
救われたことを喜んだ彼女には、
女神と共有しない感情がある。
何でも装えるように見えても、
その場で生まれる気持ちまで全部借り物にはならない。
取り繕う顔の下に、
取り繕いきれないディーナもいる。

ルファスとの関係にも、
任務だけでは収まらないやり取りがある。
原作では、主の振る舞いへ思わず笑ったり、
そのせいで自分が困ったと文句を言ったりする。
すべての瞬間を完璧な顔で切り抜ける工作役ではない。
強い相手にただひれ伏すだけでもなく、
そばにいるからこそ出る遠慮のなさがのぞいている。

こうした場面があると、
二人の間にいつも女神への対策だけが
挟まっているわけではないと感じられる。
大きな計画を進める途中にも、
予想外の言動へ驚く時間がある。
ディーナが主を導くだけの一方通行ではなく、
ルファスに振り回されることもある。
その余裕の崩れ方が、
参謀という役目だけではない親しさを伝えてくる。

もちろん、親しげに話すこと自体が
忠誠の証明になるわけではない。
彼女には、相手を信じさせる力も話術もある。
それでも、離れてもよいと言われた後の選択や、
長い時間をかけて続けた働きは残る。
笑顔が本物かどうかを表情だけで決められなくても、
その先で何を引き受けたかには、
彼女の選んだ方向が表れている。

また、ルファスを選ぶ気持ちを、
恋愛という一つの名前へ急いで閉じ込めなくても、
強さは伝わってくる。
救われた恩、自分を認められた喜び、
一緒に進むと決めた信頼。
そのいくつもが重なっている。
親しいから何も隠さない関係ではなく、
親しい相手のために秘密まで抱えて動く、
扱いの難しい近さがある。

ルファスにとっても、ディーナは
女神の力だけを借りる窓口ではない。
出自の奥にいる本人を知り、
その人へ仕事を任せている。
女神と同じ姿や記憶を持つことを知っても、
それだけで敵へ押し戻さなかった。
その関係があるから、ディーナの忠誠は、
女神に似ていない自分でいても
失われない居場所と結びついている。

女神の命令より、 ディーナ自身が守りたいもの

彼女が選んだものをたどると、
最初に浮かぶのは世界を動かす大きな野望より、
家族を失いたくない気持ちになる。
父が助かってうれしかった。
その感情を否定しないでいられる側に、ルファスがいた。
女神の分身という立場より先に、
大切な人がいる一人として扱われたことが、
その後の行動へつながっている。

ディーナが女神へ背くことは、
自分の出自を消し去ることにはならない。
与えられた力も記憶も、彼女の中には残っている。
何も知らない普通の少女になって
始め直すわけではない。
その力を持ったまま、
女神の望みとは違う相手を助ける。
生まれを変えられなくても、動く先は変えられることを、
彼女自身が示している。

一方、その選択で誰にも疑われなくなるわけでもない。
女神に似た姿を知る者や、
封印に関わる場面を見た者には、不信が残る。
ディーナにとっての約束が、
ほかの人には裏切りとして映ってしまう。
説明すればすべて丸く収まる立場ではないからこそ、
主との間で共有した信頼が、
彼女を支えるものにもなっていそうに感じる。

主のために働いたと分かっても、
人を操る手段への引っ掛かりは残ってよい。
彼女は、誰にも迷惑をかけずに
善いことだけをする仲間ではない。
そんな危うさを持つ人が、
自分で選んだ相手には長く手を伸ばし続けている。
疑いの根拠が消えるより先に、
疑いだけでは説明できない働きが
積み上がっていく人物になる。

だから、ディーナの秘密が明かされる面白さには、
敵か味方かの札が一枚ひっくり返る以上のものがある。
怪しい能力は怪しいままで、隠していた過去も残る。
それなのに、どこか遠く見えていた参謀が、
父を案じる少女として身近になる。
何を守りたいのかを知ったことで、
同じ行動にも違う温度が戻ってくる。

ルファスへ向ける笑顔に安心したくなるのは、
彼女が何も知らない無邪気な相手だからではない。
いろいろな顔を使える人が、
それでも帰る先を選んでいるからかもしれない。
女神の命令へ戻れば楽になる場面があったとしても、
自分の意志を捨てる道には戻らない。
その頑固さが、軽やかな声の奥に残っている。

長い工作の後、ルファスから届くのは、
隠し事への叱責ではなく働きへのねぎらいになる。
誰にも知られず進めた時間を、
任せた本人が知っている。
その応答があることで、
周囲の疑いとは別に、
二人の間へ帰ってこられる場所も残る。
ディーナの軽口が戻る先には、
そんな主との関係がある。

ディーナは裏切り者なのか。
ルファスの敵という問いへの答えは、否定になる。
女神の分身として近づいた過去はある。
それでも、自分を自分として扱ってくれた主を選び、
疑いを招く役目まで担ってきた。
すべてを正直に話す参謀ではなくても、
ルファスを支えたい気持ちまで偽物にはならない。
彼女の笑顔の先には、その選択が続いている。

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