「スーパーの裏に残る匂い」は、煙草の残り香だけを指しているのではない。
『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』第6話では、佐々木と田山の一服が消えそうになったことで、二人の間にすでに積み重なっていた時間が浮かび上がる。
さらに山田と佐々木の8年前の過去までつながり、スーパーには本人たちさえ気づいていない記憶の痕跡が残り続けていたことが見えてくる。
第1章 結論|「スーパーの裏に残る匂い」は、消えそうになった時間と消えなかった記憶
煙草の煙は消えても、佐々木と山田の間に積み重なったものは消えない
第6話「スーパーの裏に残る匂い」で印象に残るのは、
やはり煙草の煙。
スーパーの裏という少し狭い場所で、
佐々木と田山はいつものように煙草を吸う。
吸い終われば煙は薄くなり、やがて夜の空気へ溶けていく。
けれど、この回で「残る」ものは煙そのものではない。
二人がそこで交わしてきた言葉や、
何度も顔を合わせた時間の方が消えずに残っている。
第1話を振り返ると、
そもそも佐々木にとってスーパーの裏は特別な場所ではなかった。
仕事に疲れ切って店へ立ち寄り、
癒しにしていた山田の姿も見つからない。
さらに煙草を吸える場所までなく、肩を落としていた佐々木へ声をかけたのが田山だった。
「ここなら吸える」と案内された先が、
スーパーの裏の喫煙所。
そこから佐々木の日常には、
山田とは別の形で田山との時間が入り込んでいった。
表のレジでは、
にこやかに接客してくれる山田。
裏へ回れば、少し意地悪で距離が近く、
煙草を片手に佐々木をからかう田山。
佐々木は二人を別人だと思ったまま、それぞれに癒されている。
一方の山田は、
佐々木が自分だと気づいていないことを承知しながら田山として接する。
この奇妙な二重関係が、
第6話では突然終わる可能性を帯びてくる。
きっかけは、
何か劇的な事件ではない。
佐々木の健康診断だった。
肺に関する項目で問題を指摘され、
再検査や治療の可能性を告げられる。
煙草をやめなければならないかもしれない。
そうなれば当然、
スーパーの裏で田山と一緒に煙草を吸う時間も終わってしまう。
ここで初めて、
それまで何気なく繰り返されてきた一服の重さが見えてくる。
佐々木にとっては、仕事帰りに少しだけ立ち寄る場所。
田山にとっても、
煙草を一本吸いながら佐々木と話す場所だったはず。
ところが「次がないかもしれない」となった途端、
いつもの景色が急に違って見える。
当たり前だった夜が、
失いたくない時間へ変わっていたことが露わになる。
第6話で浮かんだのは、佐々木だけでなく田山もこの時間を大切にしていたこと
『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』は、
派手な恋愛の言葉をほとんど使わずに二人を近づけてきた。
佐々木が田山へ積極的に会いに行くわけでもない。
田山も「好きだ」と真正面から伝えるわけではない。
煙草を吸い、少し話し、からかわれ、また次の夜に会う。
その繰り返しが、
二人の関係を形作っている。
だからこそ第6話で佐々木の喫煙生活が終わるかもしれないと分かった時、
田山の反応が重い。
煙草をやめること自体なら、
本来は佐々木の健康にとって悪い話ではない。
しかし田山にとっては、
それと同時に「佐々木がここへ来なくなる」可能性が生まれる。
スーパーでは会えるかもしれない。
それでも、
それは山田として会うだけであり、
田山として過ごしてきた夜とは違う。
レジに立つ山田には、
店員と客という線がある。
笑顔で商品を受け取り、
会計を済ませれば、その時間は終わる。
しかしスーパーの裏では、佐々木も田山も仕事上の立場から少し離れられる。
疲れた会社員とスーパー店員ではなく、
煙草を吸う二人として並べる。
その場所だからこそ交わせた言葉が、
第1話から少しずつ増えてきた。
田山は佐々木をからかう。
距離を縮め、
時には佐々木が困るほど大胆に近づく。
第5話では二人の身体的な距離まで一気に近くなり、
佐々木が強く意識してしまう場面もあった。
それでも翌日になれば、
また煙草を吸う二人へ戻れる。
急に恋人になるのではなく、
「またここへ来れば会える」という安心感が二人を支えていた。
ところが第6話では、
その前提そのものが揺らぐ。
佐々木が煙草を吸わなくなれば、
スーパー裏へ来る必然性がなくなる。
田山からすれば、今まで自分から声をかけなくても続いていた関係が突然切れてしまうかもしれない。
そこで彼女の中にある、
「このままでいい」という余裕も崩れていく。
普段なら冗談で隠せる気持ちが、
隠し切れなくなっていく。
さらに、
この回の後半では8年前へ時間が遡る。
まだ現在ほど接客に慣れていなかった山田は、
表情をうまく作れず、客とのやり取りにも苦戦していた。
そんな山田が粘着質な客に目をつけられ、強い口調で責め立てられる。
周囲も異変には気づいている。
だが、
萎縮した山田はその場で謝ることしかできない。
そこで割って入ったのが、
若い頃の佐々木だった。
現在のように田山と煙草を吸う仲になる遥か以前。
山田が佐々木を「いつものお客さん」として見るようになるより前。
二人はすでに同じスーパーで接点を持っていた。
つまりスーパーには、
第1話から始まった関係よりさらに古い時間が残っていたことになる。
煙草の匂いは、
時間が経てば消えていく。
その場に誰もいなくなれば、煙も見えなくなる。
しかし、
人から助けられた記憶や、
ふと投げかけられた言葉は簡単には消えない。
第6話が描いた「残るもの」は、
目に見える煙よりも、そうした人の中に沈んでいる記憶に近い。
佐々木と山田は、
現在だけを見れば最近になって距離を縮めた二人に見える。
しかし第6話を通ると、
その見え方が変わる。
スーパーの表で山田と出会う前から。
裏で田山と煙草を吸うようになる前から。
二人の間には、
本人たちがはっきり意識していない時間がすでに存在していた。
「スーパーの裏に残る匂い」という題名が強く響くのはそこ。
いつもの一服が終わって煙が消えても、
そこで生まれた関係まで消えるわけではない。
八年前の出来事さえ、
現在の二人へ静かにつながっている。
第6話は、
佐々木と山田の関係が「今ここで始まったもの」ではないことを、
一気に見せた回だった。
第2章 健康診断で突然見えた「スーパーの裏がなくなるかもしれない日常」
佐々木にとって一服は、いつの間にか煙草だけでは済まない時間になっていた
佐々木の日常は、
決して華やかではない。
仕事に追われ、疲れた身体で会社を出て、
帰りにスーパーへ立ち寄る。
そこで山田の笑顔を見ることが小さな癒しになり、その後に煙草を吸えれば一日が終わる。
そんな生活の中へ田山が現れたことで、
スーパー裏の一服にも別の楽しみが加わった。
最初は偶然入れてもらっただけだった場所が、
いつしか佐々木の帰り道の一部になる。
しかも佐々木自身は、
その変化を大げさに意識していない。
今日は田山に会えるだろうかと、
恋人のように待ち焦がれているわけではない。
煙草を吸えば田山がいる。
田山がいれば少し話す。
時には振り回されながらも、
その時間を受け入れて帰っていく。
その自然さこそが、二人の距離がかなり縮まっている証でもあった。
健康診断の結果は、
そんな日常へ突然割り込んでくる。
肺について問題を指摘されれば、
真っ先に浮かぶのは喫煙。
佐々木自身も、場合によっては煙草をやめなければならないと考える。
それまでなら、
「煙草が吸えなくなる」という話だけで終わったはず。
だが今の佐々木には、
その先に田山との時間までくっついている。
煙草をやめる。
スーパー裏へ行く必要がなくなる。
田山と会う機会も減る。
こうして並べると、
健康診断の一枚の結果が二人の関係そのものまで揺らしている。
本人たちが約束して作った関係ではないからこそ、
煙草という接点を失えば簡単に消えてしまいそうにも見える。
ここが第1話との大きな違いになる。
最初の佐々木は、
煙草を吸う場所がなくて困っていた。
そこへ田山が現れ、
スーパー裏へ案内してくれた。
第6話では逆に、その場所へ来る必要そのものが消えようとしている。
始まりに煙草があった二人だからこそ、
禁煙の可能性はそのまま別れの気配へつながってしまう。
「最後になるかもしれない一服」で、田山の側にも失いたくない気持ちが見えてくる
二人の関係で興味深いのは、
佐々木だけが一方的に癒されているわけではないところ。
第1話の時点では、
疲れた佐々木がスーパーへ来て山田に癒され、
さらに田山と煙草を吸う構図に見える。
しかし回を重ねるにつれて、
田山の方も佐々木との時間を楽しんでいることが見えてくる。
わざわざからかい、
反応を眺め、距離を詰める。
佐々木が来ること自体が、田山の日常にも組み込まれていった。
だから佐々木がもう来ないかもしれないとなった時、
田山はただ「禁煙した方がいい」と送り出せない。
佐々木が健康になるなら喜ばしい。
煙草という一点だけを考えるなら、
それで終わる。
しかし田山としての自分が、
佐々木と会える場所までなくなるとなれば話が変わる。
彼女自身がスーパー裏の時間に情を持っていたことが、
ここでは隠せなくなる。
さらに田山には、
佐々木へ伝えていない大きな事実がある。
自分は山田でもある。
佐々木が日頃から癒されているレジの女性と、
スーパー裏で煙草を吸っている女性は同一人物。
佐々木だけがその事実を知らないまま、
二つの顔へ別々に接してきた。
この秘密も、
「次がある」という前提があったから先送りできていた。
今日言わなくても、
また会える。
次の一服でもいい。
もう少しこの関係を楽しんでもいい。
そんな猶予があったからこそ、田山は正体を伏せたままでいられた。
ところが、
「今日が最後になるかもしれない」となれば、
その猶予は一気になくなる。
言わなければ、
田山としての自分は佐々木の前からそのまま消えてしまうかもしれない。
第6話の緊張は、
大事件が起きる怖さではない。
いつもと同じ場所へ、
もう二度と二人で立てないかもしれない怖さ。
煙草を一本吸うだけだったはずの時間が、失いかけたことで初めて特別だったと分かる。
田山にとっても佐々木にとっても、
スーパー裏はすでにただの喫煙所ではなくなっていた。
結果として、
佐々木の肺については診断上の行き違いが判明し、
すぐに煙草をやめる状況にはならなかった。
つまり二人には、
また次の一服が残される。
一見すれば元通り。
またスーパー裏で煙草を吸い、
いつものやり取りを続けられる。
けれど第6話以前とまったく同じではない。
一度、
「終わるかもしれない」と感じてしまったから。
田山は自分が佐々木との時間を失いたくないことに触れてしまった。
佐々木もまた、
煙草を吸えなくなることと田山に会えなくなることが重なっている生活を知る。
何気なく続いていた二人の日常に、
初めて「失う」という影が差した瞬間だった。
そして、
その直後に8年前の山田と佐々木が描かれる。
現在の一服が消えそうになった話の後から、
今度は過去に残っていた接点が浮かび上がってくる。
消えそうな現在と、
消えていなかった過去。
この二つが同じ第6話の中に並ぶことで、
「スーパーの裏に残る匂い」という言葉が、
さらに深く二人へ重なっていく。
第3章 田山が正体を話そうとした夜|山田と田山の境目が崩れかける
「もうここへ来ないかもしれない佐々木」を前に、田山は黙ったままでいられなくなる
第6話で大きく揺れるのが、
田山が長く隠してきた「自分は山田でもある」という事実。
佐々木が肺の問題で煙草をやめるかもしれないと分かった瞬間、
それまで余裕を持って続けてきた二重の関係が、
急に時間切れへ向かい始める。
佐々木から見れば、
山田はスーパーで働く感じの良い女性店員。
田山はスーパー裏で煙草を一緒に吸う、
少し距離感のおかしい女性。
二人が同じ人物だとは考えていない。
一方で山田は、
最初からその勘違いを知っている。
佐々木が自分を山田と田山に分けて見ていることも、
田山としてからかえば素直に反応することも知っている。
だからこそ、正体を明かさずに過ごす時間そのものを楽しんできた。
第1話から続いてきたこの関係には、
ある意味で「次も会える」という安心があった。
今日言わなくてもいい。
今日気づかれなくてもいい。
明日も、その先もスーパー裏へ来れば続きを話せる。
田山が秘密を抱えたままでいられたのも、
その時間が続くとどこかで思っていたから。
ところが佐々木が煙草をやめれば、
スーパー裏へ来る理由まで消える可能性がある。
そこで初めて、秘密を先延ばしにする余裕がなくなっていく。
佐々木自身は、
禁煙によって田山との関係が終わることを、
恋愛の別れとして大げさには語らない。
けれど「もうここで吸えない」となれば、
当然田山との一服もなくなる。
それは田山側から見れば、
かなり大きな出来事になる。
表のスーパーには山田として残れる。
しかし裏で佐々木と話してきた「田山」は、
佐々木の生活からそのまま消えてしまうかもしれない。
ここで山田と田山という二つの顔が、
一気に重なり始める。
普段は田山になれば強気に佐々木をからかえる。
けれど失う可能性を前にすると、
その強気だけでは済まなくなる。
田山として会えなくなるなら、
せめて自分が誰だったのかは伝えておきたい。
そう考えても不思議ではないところまで、
彼女の気持ちは追い込まれていく。
それまで遊び心を含んでいた秘密が、急に重さを持ち始める。
正体を明かしかけたところで状況が戻り、言葉だけが宙に残る
第6話では、
佐々木の健康診断をめぐる状況がそのまま確定するわけではない。
肺の問題について診断上の行き違いがあり、
すぐに禁煙しなければならない状況ではないことが分かっていく。
二人の一服は、ひとまず続けられることになる。
ここで普通なら、
「よかった」で終わってもおかしくない。
佐々木はまた煙草を吸える。
スーパー裏にも来られる。
田山とも、これまで通り会える。
けれど田山にとっては、
完全に元へ戻ったわけではない。
一度でも「もう会えなくなるかもしれない」と思ってしまった。
その瞬間、
自分がどれほどこの時間を当たり前にしていたかまで見えてしまったから。
それまでの田山は、
佐々木より一歩先を歩いているように見えることが多かった。
正体を知っているのは自分。
佐々木が困る言葉を投げるのも自分。
相手の反応を見て楽しむ側でもあった。
ところが第6話では、
その余裕が逆転しかける。
佐々木が来なくなる可能性を前にして、
慌てているのは田山の方。
彼女の中で、佐々木との一服がすでに想像以上に大きくなっていたことが見える。
しかも佐々木は、
田山がそこまで動揺するとは思っていない。
彼からすれば、
健康上の問題で煙草をやめる可能性があるという話。
その裏で田山が何を失いそうになっているのかまでは、
まだ完全には見えていない。
このすれ違いが、
二人らしいところでもある。
佐々木は山田と田山が同一人物だと知らない。
田山はその事実を知った状態で佐々木と接している。
しかし感情の部分では、田山にも分からないことが増えてきている。
佐々木が自分にとって、
ただ煙草を吸う相手なのか。
からかうと面白い常連客なのか。
それとも、いなくなると困る相手なのか。
第6話では、その境目がかなり曖昧になる。
正体を明かそうとしたこと自体が、
田山の中で何かが変わった証拠でもある。
秘密を守る楽しさより、
何も伝えないまま会えなくなる怖さの方が強くなった。
そこまで二人の時間が積み上がっていた。
そして結局、
二人の関係はその場で大きく変わらない。
佐々木は佐々木のまま。
田山は田山としてスーパー裏に立つ。
山田と田山が同一人物である事実も、完全には明かされない。
それでも、
一度崩れかけた境目は以前ほど強くない。
田山がいつまでも秘密を抱えたままでいられるとは限らない。
佐々木との関係も、
ただの「喫煙仲間」だけでは説明しにくくなっている。
第6話で残ったのは、
告げられなかった言葉そのもの。
煙草の煙のようにその場では消えても、
田山が一度そこまで言おうとした事実は消えない。
二人の関係は、確実に次の段階へ近づいている。
第4章 8年前の山田に何があった?クレーマーから救った客が佐々木だった
まだ接客に慣れていなかった山田が、店内で逃げ場を失っていく
第6話後半では、
現在の佐々木と田山から一転して、
時間が8年前へ遡る。
そこで映し出されるのは、
今とはかなり違う雰囲気を持った若い山田だった。
現在の山田といえば、
佐々木が仕事帰りにスーパーへ立ち寄る理由の一つになるほど、
穏やかな笑顔で接客する存在。
佐々木にとっては、
疲れた一日の最後に見るだけでも癒される相手になっている。
しかし8年前の山田は、
最初からそんな接客ができたわけではない。
まだ仕事に慣れ切っておらず、
客との距離の取り方も不器用。
愛想良く振る舞うことにも苦戦している。
そこへ、
厄介な客との場面が重なる。
山田は強い口調で責められ、
簡単にその場を離れられない状況へ追い込まれていく。
仕事中である以上、客へ強く言い返すことも難しい。
現在の田山なら、
佐々木を平然とからかい、
少々のことでは動じないように見える。
それだけに、
過去の山田が萎縮している姿は印象が大きく違う。
客から何か言われても、
店員という立場では反論しづらい。
周囲に人がいても、
誰かがすぐ助けてくれるとは限らない。
山田はその場で耐えるしかなくなっていく。
こうした場面は、
現在の山田の笑顔を見る時にも響いてくる。
今では自然に見える接客も、
最初から身についていたものではない。
客と向き合いながら、失敗や怖さも経験してきた末にある。
その山田が、
一人でどうにもできなくなった場面で声を上げたのが、
若い頃の佐々木だった。
現在のスーパー裏で煙草を吸う佐々木より、
さらに8年若い頃の彼がそこにいる。
佐々木は、
山田と特別な関係にあったわけではない。
当時の二人は、
現在のように煙草を吸いながら会話する間柄でもない。
それでも目の前で困っている山田を放っておかなかった。
ここが重要になる。
現在の佐々木は、
疲れ切った中年会社員として描かれることが多い。
自分に自信があるわけでもなく、
田山には頻繁に振り回されている。
だが8年前の場面を見ると、
佐々木の根本にある人柄は変わっていない。
誰かが困っていれば、
見て見ぬふりをしきれない。
それが現在の彼にも残っている。
現在よりずっと前に、二人は同じスーパーですでに人生を交差させていた
佐々木が割って入ったことで、
山田は一人で客の圧力を受け続ける状況から救われる。
ここで重要なのは、
単に「昔会ったことがあった」という事実だけではない。
山田にとって弱っていた瞬間に現れた人物が佐々木だったこと。
現在の二人を見ると、
佐々木の方が山田に救われているように見える。
仕事で疲れ、
スーパーへ来て山田の笑顔を見る。
それだけで少し元気を取り戻す。
さらにスーパー裏では、
田山との一服が息抜きになる。
会社では見せられない疲れや、
少し情けない部分も出せる。
現在だけを見れば、佐々木が二つの顔を持つ山田に癒されている。
ところが8年前へ遡ると、
その向きが逆だったことが分かる。
先に助けられていたのは山田。
しかも佐々木本人は、
それを大きな出来事として振りかざしていない。
山田に恩を売るために動いたわけでもない。
後で自分を覚えていてほしいから助けたわけでもない。
目の前で困っている人がいたから、
その場で動いた。
だからこそ山田の側には強く残りやすい。
人にとって長く残る記憶は、
必ずしも大事件とは限らない。
自分が苦しい時に、
誰かが当たり前のように声をかけてくれた。
自分では何も返せないのに助けてくれた。
そういう出来事ほど後から何度も思い返されることがある。
山田にとって佐々木との最初の接点は、
まさにその種類の出来事になる。
だから第6話で8年前の過去が入ることで、
現在のスーパー裏の光景にも別の層が重なる。
今の佐々木は、
田山の正体を知らない。
田山が自分の癒しである山田だとも気づいていない。
さらに8年前の出来事についても、
現在の二人の関係と強く結びつけて考えてはいない。
山田の側にも、
現在の佐々木と過去の出来事が、
すべて明確につながっているわけではない。
だから二人は、
昔から縁があったことを十分知らないまま再び近づいている。
ここに第6話の面白さがある。
第1話では、
スーパー裏で偶然出会った二人に見えた。
佐々木が煙草を吸う場所を探し、
田山が「ここなら吸える」と声をかけた。
そこから関係が始まったように見えていた。
しかし第6話を通ると、
本当の最初はもっと前へずれる。
8年前、
山田がまだ今のような接客を身につける前。
佐々木が今より若かった頃。
すでに同じスーパーの中で二人の時間は交差していた。
そして現在では、
今度は山田が佐々木を癒す側に回っている。
昔は佐々木が山田を助けた。
今は山田の笑顔や田山との一服が、
疲れた佐々木を支えている。
どちらか一方だけが救う関係ではない。
時間を隔てながら、
互いが互いのしんどい時に現れている。
この8年前の出来事が加わることで、
佐々木と山田の縁は偶然だけでは片づけにくい深さを持ち始める。
スーパーの表。
スーパーの裏。
そして8年前の店内。
同じ場所に、
二人の異なる時間が何層にも重なっている。
だから「スーパーの裏に残る匂い」は、
現在の煙草だけでは終わらない。
その場所には、
本人たちさえ忘れかけていた過去まで残っていた。
第6話で明らかになった8年前の接点は、
現在の二人を急に恋人へ変える出来事ではない。
むしろ、
なぜこの二人が何度も同じ場所で惹き寄せられるのかを、
静かに深く感じさせる出来事になっている。
第5章 「いつもあんなに一生懸命なのに」が山田の中に残したもの
佐々木が見ていたのは、愛想の悪さではなく必死に働こうとする山田だった
8年前の山田にとって、
佐々木に助けられたことだけが大切だったわけではない。
厄介な客との場面を抜けた後にも、
佐々木は山田の中へ、
もう一つ消えないものを残している。
当時の山田は、
現在のように自然な笑顔で客へ接することができない。
接客が上手いわけでもない。
思うように振る舞えず、
自分自身でも仕事への自信を失いかけていた。
周囲から見れば、
無愛想な店員と思われても仕方がない。
客から厳しい言葉を浴びせられれば、
「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と、
考えてしまってもおかしくない状態だった。
そんな山田に対して、
佐々木が見ていたものは少し違う。
目立って愛想が良いかどうかではなく、
山田が仕事へ向き合っている姿そのもの。
そこで出てくるのが「いつもあんなに一生懸命なのに」という言葉になる。
ここは、
第6話の8年前の出来事でも特に重い部分。
佐々木は山田の内面を詳しく知っているわけではない。
名前を呼び合うような仲でもなく、
まして現在のような喫煙仲間でもない。
それでも、
普段からスーパーを利用する中で、
山田が働いている姿を見ていた。
うまく笑えなくても、
要領良く振る舞えなくても、
仕事へ真剣に向き合っていることには気づいていた。
山田にとって重要なのは、
自分では欠点ばかり見ていた時期に、
見知らぬ客がまったく違う部分を見てくれていたこと。
失敗している自分ではなく、
頑張っている自分を見ている人がいた。
「接客が上手いね」と褒められるのとは違う。
今の山田なら、
人気店員として笑顔を向けることもできる。
しかし8年前は、
そこまで出来上がった自分ではなかった。
むしろ、
自分でも嫌になりかけている途中。
だからこそ、
そんな時に受け取った言葉は深く残る。
佐々木にとって何気ない一言でも、山田にはそうではなかった。
山田が仕事を続け、やがて笑顔を身につけていく出発点にも佐々木がいた
8年前の出来事を見ると、
現在の山田の笑顔まで違って見えてくる。
第1話の佐々木は、
その笑顔を見るために仕事帰りのスーパーへ向かう。
くたびれた一日の中で、
山田の接客は数少ない癒しになっている。
ところが第6話では、
その山田自身にも、
笑えなかった時期があったことが見えてくる。
現在の佐々木が癒されている笑顔は、
最初から当然のように存在していたものではない。
接客がうまくいかない。
客との関係にも傷つく。
自分はこの仕事を続けていいのか迷う。
そんな過去を通り抜けた先に、
現在の山田がいる。
そして、
その迷っていた時期に現れた人物の一人が佐々木だった。
現在では山田の笑顔に助けられている佐々木が、
8年前には逆に山田を支える側にいた。
ここには、
二人の関係の面白い反転がある。
昔は山田が苦しい時に佐々木が現れた。
今は佐々木が疲れている時に、
山田の笑顔が待っている。
さらにスーパー裏へ行けば、
田山として佐々木と煙草を吸う。
仕事の愚痴を大げさに語るわけでもなく、
深刻な相談を毎回するわけでもない。
それでも一本吸う間に交わす会話が、佐々木の疲れを少し軽くしていく。
つまり二人は、
8年前と現在で立場を入れ替えながら、
互いのしんどい時期へ入り込んでいる。
本人たちがそれを強く意識していないところも、
この関係らしい。
しかも山田が煙草へ近づくことにも、
8年前の記憶が無関係ではない。
当時、自分を助けた男性が煙草を吸う姿は、
山田の記憶に長く残っていく。
現在の田山がスーパー裏で煙草を吸う姿にも、遠い過去がつながっている。
煙草は、
佐々木と田山を現在で結びつけたもの。
しかし時間を遡ると、
山田の側にも煙草へ結びつく古い記憶が存在する。
ここでも第6話の「残る」という感触が強くなる。
本人は、
その時その時で人生を大きく変える言葉を言ったつもりではない。
佐々木自身も、
自分が誰かへそこまで影響を与えられる人物だとは、
なかなか考えない。
第2話でも、
新卒社員を泣かせてしまったのではないかと気に病むように、
佐々木は自分の言動に自信を持てないところがある。
田山から良い部分を指摘されても、
本人だけがなかなか納得できない。
だから8年前の姿は、
現在の佐々木を見るうえでも大きい。
本人が自覚していなくても、
誰かの困っている姿を見れば動く。
そして相手の良い部分を、立場や外見とは別のところから見つける。
山田も、
そんな佐々木の言葉を受け取っている。
仕事を辞めるかどうかまで迷っていた頃の自分を、
一生懸命だと見てくれた人がいた。
その記憶は簡単には消えない。
現在では、
その山田が佐々木から「癒しの店員」として見られている。
8年前には想像できなかったほど、
二人の立場は入れ替わった。
それでも根元ではつながっている。
一人が弱っている時、
もう一人の何気ない言葉や存在が少しだけ支えになる。
第6話で見えてきたのは、
そんな関係が8年前からすでに始まっていたことだった。
第6章 第1話から続いていた「知らないのに惹かれる」二人の関係
佐々木は山田と田山が同じ人物だと知らず、山田も8年前の佐々木を完全には結びつけていない
『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』の二人には、
最初から大きなすれ違いがある。
佐々木が憧れているスーパー店員の山田と、
裏の喫煙所で会う田山。
本当は同じ女性なのに、佐々木は別人として接している。
第1話では、
その勘違い自体が二人の関係を始める。
山田の姿が見えず、
煙草を吸える場所もなく困っていた佐々木。
そこへ普段とは雰囲気を変えた田山が現れ、スーパー裏へ誘う。
佐々木は、
目の前にいる女性が、
さっきまで会いたいと思っていた山田だとは気づかない。
田山はその状況を知りながら、
あえてすぐ正体を明かさない。
そこから二人の関係には、
奇妙な二本の線ができていく。
スーパーの表では、
佐々木と山田。
スーパーの裏では、佐々木と田山。
佐々木にとって、
山田は簡単には近づけない存在でもある。
店員と客という距離があり、
自分の疲れを癒してくれる憧れの女性。
必要以上に踏み込もうとはしない。
対して田山とは、
最初から距離が近い。
煙草を吸いながら気軽に言葉を交わし、
からかわれ、
時には佐々木の方が調子を狂わされる。
同じ一人の女性なのに、
佐々木はまったく異なる二つの関係を作っている。
山田には憧れを抱き、
田山には気を許していく。
その二本が少しずつ近づいていくのが、第1話以降の流れになっている。
ところが第6話では、
もう一つのすれ違いが加わる。
佐々木だけが何も知らないわけではなかった。
山田の側にも、
佐々木について知らない過去が残っている。
8年前、
自分が苦しかった時に助けてくれた男性。
仕事を続けるか迷っていた自分を見て、
一生懸命働いていることに気づいてくれた人物。
その記憶は山田の中に残っている。
しかし現在の佐々木と、
8年前のその人物が、
最初から明確な一本の線として結びついているわけではない。
時間が経ち、
姿も変わっている。
当時の二人は親しい知人だったわけでもない。
つまり現在の二人は、
互いに相手の大切な一部分を知らない。
佐々木は、
目の前の田山が憧れの山田だと知らない。
山田もまた、
現在の佐々木と8年前の自分の記憶を十分には重ね切れていない。
ここで、
作品序盤からの関係が一段深くなる。
最初は佐々木だけが鈍感で、
山田の正体に気づかない話に見える。
しかし過去が加わると、山田側にも似た構図が存在していたことが分かる。
二人が惹かれているのは、正体を知る前から変わらない相手の部分
この二重のすれ違いが面白いのは、
相手の正体を知らなくても、
二人がすでに相手の本質へ触れているところ。
佐々木は田山が山田だと知らない。
それでも田山との時間を居心地良く感じている。
反対に、
山田にとっても佐々木は、
単なるスーパーの常連だけではなくなっていく。
喫煙所へ来ればからかいたくなる。
反応を見たくなる。
来なくなるかもしれないとなれば、平静ではいられなくなる。
肩書きや正体を先に知って、
そこから好きになったわけではない。
むしろ知らない部分を大量に残したまま、
先に相手との時間が大切になっている。
佐々木が山田を好きなのは、
若くて綺麗な店員だからだけではない。
毎日仕事へ向かい、
客に丁寧に接し、
笑顔を見せている姿に癒されている。
そして田山には、
また違う魅力を感じていく。
遠慮なく話せること。
自分をからかいながらも、
落ち込んでいる時には意外なところから言葉をくれること。
煙草一本分の時間を一緒に過ごせること。
佐々木は知らないまま、
山田の異なる面へ二度惹かれているとも見える。
表の顔を知っても惹かれる。
裏の顔を知っても離れない。
それどころか田山との時間まで、日常の一部になっていく。
一方の山田も、
佐々木の肩書きや仕事上の実績に惹かれたわけではない。
8年前に印象へ残ったのは、
困っていた自分に声をかけた姿。
現在スーパー裏で見ているのも、
疲れながら煙草を吸う一人の人間としての佐々木になる。
佐々木は、
自分を特別な人間だとは思っていない。
中年の会社員で、
仕事に疲れ、
煙草を吸って帰る。
田山からからかわれれば慌てることも多い。
それでも、
8年前と現在で変わらないものがある。
他人を気遣うところ。
自分より相手を悪く言われることを嫌うところ。
誰かの良い部分を自然に見つけるところ。
山田が8年前に触れた佐々木と、
現在の田山が接している佐々木は、
年齢も状況も違う。
それでも根本にあるものはつながっている。
だから第6話の過去は、
単に「実は昔にも会っていました」という驚きだけでは終わらない。
二人が現在惹かれている部分が、
昔からその人物の中に存在していたことまで見えてくる。
第1話では、
スーパー裏で偶然始まった関係に見えた。
第6話まで来ると、
その偶然の下に8年前の記憶が眠っていたことが分かる。
しかも本人たちは、その全体像をまだ知らない。
表では山田と佐々木。
裏では田山と佐々木。
過去では、
まだ互いを深く知らなかった若い二人。
三つの関係が、
同じスーパーという場所で少しずつ重なっていく。
現在だけを見れば数か月の付き合いでも、
二人の間には本人たちが知らない年月まで含まれている。
そして何より、
すべてを知ってから惹かれたのではない。
名前も正体も過去も、
まだ足りないものだらけ。
それでも一緒にいる時間だけは、すでに大切になっている。
第6話を通して見えてくるのは、
佐々木と山田が「知らないから近づけない二人」ではないこと。
むしろ知らないままでも、
同じ人物の変わらない部分へ何度も惹かれている。
第1話から続いていた勘違いは、
ただ笑える秘密ではなくなっている。
山田と田山。
現在と8年前。
それぞれ別々に見えていたものが重なった時、
二人がどう相手を見るのか。
その時が来るまでは、
今日もスーパーの表と裏で、
互いにまだ知らないものを残した二人の時間が続いていく。
第7章 「スーパーの裏に残る匂い」という題名が、最後に二人へ重なる
消えていく煙と、消えずに残る記憶が同じ場所にある
煙草の煙は、
その場にずっと残るものではない。
吐き出した瞬間には白く見えていても、
少し時間が経てば薄くなり、
やがて夜の空気へ溶けていく。
スーパーの裏で佐々木と田山が吸う煙草も同じ。
一本吸い終われば、
その時間はいったん終わる。
二人はそれぞれの日常へ戻り、
翌日になればまた別の一日が始まる。
けれど第6話では、
消えているはずのものが、
実は二人の中へずっと残っていたことが分かる。
その最も大きなものが、
8年前の山田と佐々木の接点だった。
山田がまだ接客に慣れていなかった頃。
客とのやり取りで追い詰められ、
一人ではどうにもできなくなった時、
佐々木がそこへ入ってきた。
さらに彼は、山田が一生懸命働いていることまで見ていた。
その場面自体は、
何時間も続く出来事ではない。
佐々木からすれば、
目の前で困っている人を助けただけだったかもしれない。
けれど山田にとっては、
長い時間を経ても消え切らない出来事になった。
ここで「匂い」という言葉が重くなる。
匂いは、
目には見えない。
煙そのものが消えた後でも、
しばらくその場所や服に残ることがある。
人の記憶もそれに近い。
出来事そのものは終わっている。
相手の顔を細部まで覚えていなくても、
その時に感じた安心や、
救われた感覚だけが長く残ることがある。
第6話の8年前の出来事は、
まさにそんな記憶だった。
佐々木と山田は、
現在の関係が始まる遥か以前から、
互いの人生へ一度触れていた。
しかも現在では、
同じスーパーの裏で煙草を吸っている。
過去と現在を結ぶものが、
同じ場所の周辺へ重なっているところも大きい。
スーパーの表では、
佐々木が山田の笑顔に癒される。
スーパーの裏では、
田山と煙草を吸いながら時間を過ごす。
さらに8年前には、
若い山田が佐々木の言葉に救われていた。
一つのスーパーに、
いくつもの時間が積み重なっている。
現在だけを見れば、
何気ない喫煙所。
けれど二人の過去まで知った後では、
まったく同じ場所には見えなくなる。
第6話で見えたのは、「最近知り合った二人」ではなかったということ
第1話を見た時、
佐々木と田山の関係は偶然から始まったように見える。
煙草を吸う場所に困っていた佐々木へ、
田山が声をかける。
そこからスーパー裏で一緒に吸う時間が始まった。
その偶然が、
回を重ねるたびに習慣へ変わっていく。
一度会う。
また会う。
少し話す。
からかわれる。
そんな小さな出来事だけで、二人の距離は徐々に縮まってきた。
佐々木は、
山田と田山が同一人物だと知らない。
だから表では山田に癒され、
裏では田山と気安く話す。
本人は気づかないまま、
同じ女性へ二つの方向から近づいている。
そして第6話では、
その関係へさらに8年前が加わった。
ここで初めて、
二人の時間は第1話から始まっただけではなかったと分かる。
もちろん、
8年前からずっと親しくしていたわけではない。
頻繁に会っていたわけでもない。
恋愛関係だったわけでもない。
だからこそ、この過去はむしろ印象的になる。
一度だけのように見えた出来事が、
何年も後になって現在へつながっている。
誰かへ何気なくかけた言葉が、
本人の知らないところで残り続けている。
第6話は、そうした時間の重なりを見せている。
さらに健康診断によって、
現在の一服まで失われかけた。
煙草をやめれば、
スーパー裏へ来なくなるかもしれない。
田山として佐々木と過ごす時間も、
そこで終わる可能性があった。
そこで田山は、
今まで続くのが当然だった関係を初めて失いかける。
正体を明かそうとするところまで気持ちが動くのも、
この時間がすでに軽いものではなくなっていたから。
つまり第6話には、
二つの「残るもの」がある。
一つは、
8年前から残っていた山田の記憶。
もう一つは、
第1話から現在まで積み重なってきたスーパー裏の時間。
どちらも、
目で掴めるものではない。
煙草のように形があるようで、
気づけば消えてしまう。
それでも人の中には残る。
だから、
「スーパーの裏に残る匂い」という言葉は、
ただ喫煙所らしい題名というだけでは終わらない。
煙草を吸った後に残る匂い。
その場所で交わした会話。
毎日のように繰り返した一服。
8年前にかけられた言葉。
忘れたつもりでも残っていた人の記憶。
それらが、
すべて同じ二人の間へ重なっている。
佐々木はまだ、
山田と田山のすべてを知らない。
山田もまた、
現在と8年前の佐々木を完全には結び切れていない。
だから二人の関係には、まだ知らない部分が残っている。
けれど、
相手について全部知らなければ、
何も始まらないわけではない。
知らないままでも、
一緒に過ごした時間は積み重なる。
一本の煙草を吸う時間。
レジで交わす短い会話。
疲れている時に向けられた笑顔。
困っている時にかけられた一言。
そうした小さなものが、少しずつ二人の中へ残っていく。
第6話が見せたのは、
佐々木と山田の関係が、
偶然会った二人だけでは説明できなくなった瞬間だった。
今いる場所に、
過去の記憶が重なる。
今交わしている言葉に、
以前かけられた言葉が重なる。
今吸っている煙草に、
昔から残っていた気配まで重なっていく。
煙は消える。
夜も終わる。
一服の時間も終わる。
それでも、
そこで誰かと過ごしたことまで消えるわけではない。
「スーパーの裏に残る匂い」という題名は、
佐々木と山田の間に残ってきた、
目には見えない時間そのものを表しているように見える。
だから第6話を見終えた後では、
いつものスーパー裏の景色が少し違って見える。
ただ煙草を吸うだけだった場所に、
8年前から現在まで続く二人の時間が、
静かに残っている。


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