第9話で虫太郎とポオが乱歩に呼び出されたのは、三人が本編から「推理」を通してつながってきた人物だから。
ポオは乱歩に敗れて以来、最大のライバルとして推理勝負を挑み続け、虫太郎は「完全犯罪」で乱歩の超推理を封じた数少ない相手だった。
敵だった二人が今では乱歩に呼び出されて公園へ集まる――その距離の変化を見ると、第9わんの三人組がなぜ妙に馴染んでいるのかまで見えてくる。
第1章 虫太郎とポオはなぜ乱歩に呼び出された?
第9わんで二人が集められたのは、どちらも乱歩と「推理」で深く結ばれた人物だから
第9わんでは、晴れた日の公園で虫太郎が誰かを待っている。
そこへ現れるのがポオ。
しかも二人とも、乱歩から呼び出されていた。
虫太郎とポオが同じ場所にいる。
この時点で、少し不思議な組み合わせに見える。
でも本編を振り返ると、
この二人を同時に呼ぶ相手として乱歩はかなり自然。
ポオは乱歩へ推理勝負を挑んだ人物。
虫太郎は乱歩の推理そのものを封じようとした人物。
方法は違っても、
二人とも乱歩の「推理」に真正面から関わっている。
ポオと乱歩の因縁は古い。
ポオは六年前、
乱歩との推理勝負で敗北している。
その敗北を忘れられず、
雪辱の機会を狙い続けていた人物になる。
本編第22話では、
乱歩のもとへ「推理ゲームへの誘い」が届く。
送り主はポオ。
六年前の雪辱を果たすため、
組合の遠征船にまで同乗して日本へ来ていた。
乱歩を倒すために、
長い時間を掛けて再戦の機会を作っている。
ポオにとって乱歩は、
単なる敵ではない。
自分の知力を測る相手。
一度敗れたままでは終われない相手。
わざわざ推理小説を用意し、
その中へ乱歩を引き込んで勝負するほど、
強烈に意識している。
一方の虫太郎は、
ポオとはまったく違う角度から乱歩を苦しめた。
虫太郎の異能力「完全犯罪」は、
犯罪の証拠を消し去る力。
乱歩が事件現場を見ても、
推理へ必要な材料そのものが失われている。
これは名探偵にとって極めて厄介な相手になる。
第42話では、
完全犯罪に酔っていた虫太郎の前へ、
乱歩本人が現れる。
しかも乱歩は、
虫太郎が乗るはずだった送迎車へまで入り込む。
隣にいる男が探している犯人本人とは知らないまま、
乱歩は車内で推理を進めていく。
そこで乱歩は、
自分が追う「隠滅屋」と、
ポオを含むミステリー愛好家を騒がせていた「推理作家殺し」が、
同一人物ではないかと迫っていく。
つまり虫太郎の事件には、
すでに乱歩だけでなくポオの名前まで入っていた。
ここが第9わんにつながる。
ポオは、
乱歩へ難題を出す側だった。
虫太郎は、
乱歩から手掛かりそのものを奪う側だった。
二人とも、
名探偵・江戸川乱歩を簡単には進ませなかった人物になる。
しかも乱歩は、
武装探偵社の中でも難事件を解決へ導く名探偵。
鋭い観察眼を持ち、
警察から持ち込まれる事件まで解いてきた。
そんな乱歩を、
それぞれ別の方法で本気にさせた二人がポオと虫太郎だった。
だから第9わんの公園で、
乱歩が二人をまとめて呼び出していること自体に面白さがある。
無関係な二人が偶然集まったわけではない。
乱歩を中心に見ると、
しっかり一本の線でつながっている。
ポオは乱歩へ挑戦した男。
虫太郎は乱歩の推理を妨害した男。
そして乱歩は、
その二人を今では普通に呼び出せる位置にいる。
本編での緊張した関係を知っているほど、
公園で待ち合わせている光景が軽く見えてくる。
ポオと虫太郎では、乱歩とのつながり方が正反対
三人の関係を分かりやすくするなら、
ポオと虫太郎を同じ「乱歩の知人」でまとめない方がいい。
二人は乱歩と深く関わっている。
でも、
関わり方はかなり違う。
ポオは、
乱歩に解かせる。
難しい推理小説を用意する。
その謎を突破できるか試す。
乱歩の推理能力を認めているからこそ、
さらに難しい問題をぶつける人物になる。
六年前に負けたことも大きい。
ポオは自分の知力に自信を持っていた。
それでも乱歩には敗れた。
だから日本まで来る。
再戦を準備する。
ポオの行動には、
乱歩への対抗心がはっきり表れている。
虫太郎は逆。
乱歩に解かせるのではない。
解くための証拠を消す。
事件現場から推理材料を奪い、
名探偵が本来使う道筋そのものを塞ぐ。
ポオとは正反対の戦い方になる。
ポオは、
「この謎を解いてみろ」と迫る。
虫太郎は、
「そもそも解ける証拠がない」と追い込む。
一人は難題を作る。
もう一人は手掛かりを消す。
乱歩の推理へ向ける圧力が違う。
だから二人を並べると面白い。
ポオは推理小説側の人物。
虫太郎は完全犯罪側の人物。
どちらも乱歩と相性がいい。
そしてどちらも、
乱歩という名探偵がいることで人物像が強く見える。
第9わんでは、
そんな二人が公園で隣り合う。
しかも目的は同じ。
乱歩から呼び出されたから待っている。
本編では乱歩へ難題を突き付けた二人が、
今では乱歩の呼び出しに応じている。
この変化が大きい。
昔なら、
ポオは乱歩へ勝負を仕掛ける側。
虫太郎は乱歩から逃れようとする側。
第9わんでは、
二人とも乱歩の到着を待つ側になる。
乱歩を困らせた二人。
乱歩を本気にさせた二人。
その二人が、
今度は乱歩にまとめて呼ばれる。
第9わんの三人組は、
本編の推理対決を知っているほど自然に見えてくる。
第2章 第9わんでは虫太郎とポオが公園で何をしていた?
虫太郎が一人で待っているところへ、いつの間にかポオが並ぶ
第9わんの始まりは、
大事件の現場ではない。
晴れた日の公園。
そこで虫太郎が、
誰かを待っている。
戦闘もない。
殺人事件も起きていない。
本編で虫太郎が登場した時とは、
空気がまるで違う。
完全犯罪を使い、
乱歩と駆け引きをしていた人物が、
普通に公園で待ち合わせをしている。
そこへポオが現れる。
気付けば虫太郎の隣にいる。
そして二人とも、
乱歩から呼び出されていたことが分かる。
公式あらすじも、
この流れをそのまま第9わんの入口として示している。
この場面で効いているのが、
虫太郎とポオの微妙な距離。
二人だけで約束して会ったわけではない。
虫太郎がポオを呼んだわけでもない。
ポオが虫太郎へ会いに来たわけでもない。
共通しているのは乱歩になる。
乱歩が虫太郎を呼ぶ。
乱歩がポオを呼ぶ。
結果として二人が同じ公園へ来る。
この形だから、
三人の関係が一目で分かりやすい。
乱歩が中心。
そこへポオがつながる。
虫太郎もつながる。
でも、
ポオと虫太郎の関係そのものは、
乱歩との関係ほど強くない。
だから二人が隣に並ぶと、
少し妙な空気になる。
本編で頻繁に一緒に行動してきた二人ではない。
武装探偵社の仲間同士でもない。
ポートマフィアの同僚でもない。
それでも乱歩に呼ばれれば、
同じ場所へ集まる。
ここに第9わんらしい可笑しさがある。
本編なら、
乱歩と虫太郎が接触するだけでも事件になる。
ポオが乱歩へ接触すれば、
推理勝負が始まったこともある。
ところが今回は、
三人の接点が公園の待ち合わせまで縮んでいる。
ポオの初期の乱歩への接し方を思い出すと、
この差はかなり大きい。
第22話では、
乱歩のもとへ挑戦状を送る。
六年前の敗北を雪ぐため、
周到に推理ゲームを準備する。
与謝野まで巻き込んで、
乱歩を自作の小説世界へ閉じ込める。
あの頃は、
乱歩とポオが会えば勝負だった。
ポオには明確な目的がある。
乱歩へ勝つ。
六年前の敗北を取り返す。
そのために遠征船へまで乗ってきた。
虫太郎との出会いも穏やかではない。
完全犯罪によって、
乱歩から証拠を奪う。
自分なら名探偵にも見破れないと考える。
そこへ乱歩が追い付いてくる。
しかも第42話では、
虫太郎が逃げる側。
乱歩が追う側。
同じ車内に入り、
乱歩が事件の構造へ迫っていく。
虫太郎からすれば、
隣に乱歩が座っているだけでも落ち着かない状況だった。
その二人が第9わんでは、
乱歩に呼ばれて待っている。
逃げない。
挑戦状も出さない。
戦闘もない。
ただ乱歩が来るのを待つ。
本編から見れば、
かなり大きな距離の変化になる。
乱歩を倒したいポオ。
乱歩から逃れたい虫太郎。
そんな時期を経た二人が、
今では同じ待ち合わせ場所へ来ている。
「結局この三人はどういう関係?」への答えが、公園の場面に詰まっている
第9わんを見て、
一番気になりやすいのは、
なぜこの三人なのかという部分。
乱歩とポオなら分かる。
乱歩と虫太郎も本編で接点がある。
でも三人同時だと、
少し珍しく見える。
答えは、
三人とも推理事件を通じて関係が変わった人物だから。
最初から友達だったわけではない。
同じ組織でもない。
むしろ最初は、
乱歩へ敵対する位置から始まっている。
ポオは乱歩に敗れた。
その敗北を六年間引きずった。
再び挑戦するため日本へ来た。
乱歩に勝つことが、
ポオの大きな目的になっていた。
虫太郎は、
完全犯罪を武器に乱歩と対峙した。
証拠を消し、
推理を成立させない。
しかも第42話では、
乱歩が追っていた隠滅屋と推理作家殺しが、
虫太郎へ収束していく。
つまりポオも虫太郎も、
乱歩の「名探偵」という部分に深く触れた人物になる。
太宰や国木田とは違う。
敦や与謝野とも違う。
二人とも、
乱歩が推理する場面で強烈な印象を残した。
ポオは、
乱歩の能力を認めながら挑んだ。
虫太郎は、
乱歩の能力を成立させないよう動いた。
目的は違う。
立場も違う。
でも乱歩を中心に置けば、
二人は非常に近い位置へ来る。
だから第9わんの公園は、
三人の関係を短い場面で見せている。
昔のように、
毎回敵として対峙するわけではない。
わざわざ勝負を準備しなくてもいい。
追跡事件を起こさなくてもいい。
乱歩が呼ぶ。
ポオが来る。
虫太郎も来る。
それだけで成立する距離まで、
関係が変わっている。
もちろん、
単純な仲良し三人組と呼ぶと少し違う。
ポオには今でも乱歩への強烈な敬意と対抗心がある。
虫太郎には、
乱歩に犯罪を見破られた過去がある。
三人それぞれの立場は消えていない。
だからこそ面白い。
昔の関係を全部捨てて友達になったのではない。
因縁を残したまま、
普通に同じ場所へ集まれるようになった。
その距離感が、
『文ストわん!2』では公園の待ち合わせとして現れている。
第9わんで虫太郎とポオが乱歩に呼び出された場面は、
ただの珍しい三人組ではない。
乱歩へ勝とうとしたポオ。
乱歩の推理を封じた虫太郎。
その二人を、
今では乱歩自身が呼び出している。
過去の推理勝負を知れば、
三人が公園へ集まるだけでも見え方が変わる。
第9わんは、
本編では敵対から始まった三人の距離が、
どこまで近くなったのかを軽い日常の中で見せる話になっている。
第3章 ポオはなぜ乱歩にそこまで執着している?
六年前の敗北が、ポオを日本まで追わせた
ポオと乱歩の関係は、第9わんで急に始まったものではない。
二人の因縁は六年前まで遡る。
当時、ポオは乱歩へ推理勝負を挑んだ。
しかし結果は敗北。
この一敗が、ポオの中へ強烈に残り続けた。
ポオは単に負けず嫌いだったわけではない。
推理小説家として、自分の知力へ強い自信を持っていた。
難解な事件を組み立てる。
読者を迷わせる。
誰にも解けない謎を作る。
その自負を、乱歩は真正面から打ち砕いた。
だから六年経っても忘れない。
乱歩に勝つ。
あの敗北を取り返す。
そのためにポオは、日本まで乱歩を追ってくる。
組合の一員として来日していても、
本人にとって乱歩との再戦は極めて大きな目的だった。
本編第22話では、その執念がはっきり出る。
乱歩のもとへ推理ゲームへの誘いを送り、
自分が書いた小説を勝負の舞台にする。
ただ謎を口頭で出すのではない。
異能力「モルグ街の黒猫」を使い、
乱歩と与謝野を小説世界へ引き込んでしまう。
小説の中では殺人事件が起きている。
外へ戻るには、
事件の謎を解かなければならない。
ポオは自分の得意分野そのものを使って、
乱歩へ再戦を挑んだ。
六年間準備してきた勝負だから、
ポオ側の本気度も高い。
それでも乱歩は乱歩だった。
事件を見る。
情報を拾う。
犯人へ辿り着く。
ポオが用意した難題へ入りながら、
名探偵として答えを出してしまう。
この敗北によって、
ポオの乱歩への感情は単純な敵意ではなくなっていく。
勝ちたい。
悔しい。
でも乱歩の能力は認めている。
自分の小説を解いてほしい。
乱歩から評価されたい。
対抗心と敬意が、かなり近い場所に同居している。
ここが普通の敵とは違う。
フョードルのように乱歩を排除したいわけではない。
殺したいわけでもない。
ポオが望んでいるのは、
あくまで知力で乱歩を上回ること。
だから敗北しても、
関係そのものは切れない。
むしろ勝てないほど追い掛ける。
新しい謎を作る。
乱歩へ見せる。
また反応を気にする。
いつの間にかポオにとって乱歩は、
最大の競争相手であり、
自分の作品を最も読んでほしい相手にもなっていく。
第9わんで見ると、
この長い因縁がかなり軽くなっている。
以前ならポオの方から、
大掛かりな推理勝負を準備していた。
ところが今回は、
乱歩から呼び出される側になっている。
挑戦状を送る必要もない。
小説世界へ閉じ込める必要もない。
六年前の敗北を持ち出さなくてもいい。
乱歩に呼ばれたから、
普通に公園へ来て待っている。
昔のポオを知っているほど、
この距離の変化は大きい。
乱歩を倒すため日本まで追ってきた人物が、
今では乱歩からの呼び出しに応じる。
敵対から始まった関係が、
かなり奇妙な親しさへ変わっている。
乱歩に勝ちたいのに、乱歩から離れられないのがポオらしい
ポオの面白さは、
乱歩へ勝ちたいのに、
乱歩との関係を終わらせようとはしないところ。
本当に嫌いなら、
敗北した後は距離を取ればいい。
でもポオは逆。
負けるほど乱歩を意識する。
乱歩の推理力を知っている。
どれほど速く謎を解くかも知っている。
自分が六年前に負けたことも覚えている。
その全部を抱えたまま、
それでも新しい勝負を持ち込む。
しかも乱歩の側も、
ポオを完全な敵として遠ざけてはいない。
ポオの異能力や推理小説は、
事件を解く場面でも役立つ。
本編が進むにつれて、
二人は単なる敵対関係では説明できなくなる。
ポオには相棒のカールもいる。
大きな帽子。
長い前髪。
少し陰気な話し方。
初登場時は不気味さもあった。
しかし乱歩と関わる場面が増えるほど、
勝負に必死になる姿や、
評価を気にする姿が前へ出てくる。
乱歩が平然としているほど、
ポオだけが振り回される。
一生懸命に難題を用意する。
乱歩はあっさり解いてしまう。
ポオは衝撃を受ける。
この繰り返しが、
二人独特の関係になっている。
第9わんで虫太郎まで加わると、
さらに面白くなる。
ポオ一人なら、
いつもの乱歩との組み合わせに見える。
でも隣には虫太郎がいる。
乱歩へ別方向から挑んだ人物まで、
同じ待ち合わせ場所へ呼ばれている。
ポオから見れば、
虫太郎も推理に関係する人物。
乱歩から見れば、
二人とも自分を本気にさせた相手。
その二人が並んで乱歩を待つことで、
本編で積み重なった因縁が一気に日常へ落ちてくる。
ポオは乱歩に勝ちたい。
でも乱歩との関係は続けたい。
乱歩へ難題をぶつけたい。
そして乱歩から反応も欲しい。
その少し面倒な距離感があるから、
第9わんの呼び出しにも素直に応じる姿が妙に馴染んで見える。
第4章 虫太郎はなぜ「探偵殺し」と呼ばれ、乱歩と戦った?
異能力「完全犯罪」は、乱歩の超推理と最悪の相性だった
虫太郎と乱歩の出会いは、
ポオとの推理勝負よりさらに険しい。
虫太郎は最初から、
乱歩と親しく話す人物ではなかった。
犯罪の証拠を消し、
探偵そのものを無力化する側にいた。
虫太郎の異能力は「完全犯罪」。
犯罪現場へ残った証拠を消去し、
事件を立証するための手掛かりを奪う。
犯人の痕跡。
物証。
現場へ残る違和感。
そうした推理材料そのものを消してしまう。
これは乱歩にとって厄介。
乱歩の「超推理」は、
現場に残った情報から事件の全貌へ辿り着く。
誰が犯人なのか。
どうやって犯行を行ったのか。
何が動機だったのか。
普段なら驚異的な速度で見抜いていく。
でも証拠そのものが消えていれば、
見るべき材料がない。
名探偵がどれだけ鋭くても、
事件現場そのものが加工されている。
虫太郎は真正面から推理力で勝負するのではなく、
乱歩が推理を始める足場を壊してくる。
そのため虫太郎は、
「探偵殺し」と呼ばれるに相応しい存在だった。
探偵本人を殺すのではない。
探偵が事件を解決するための証拠を殺す。
完全犯罪を成立させることで、
探偵の存在価値そのものを奪おうとする。
虫太郎自身も、
自分の完全犯罪へ強い自信を持っていた。
証拠は残らない。
警察にも分からない。
探偵にも辿れない。
だから乱歩が追ってきても、
簡単には捕まらないと考えられる。
しかし乱歩は、
その前提から外れてくる。
虫太郎が乗る送迎車へ入り込み、
すぐ近くで事件を語り始める。
虫太郎にとっては、
自分を追う名探偵が隣に座っているという異常な状況になる。
乱歩はそこで、
単純に消された証拠だけを探さない。
事件に関係する人物。
行動の不自然さ。
周囲で起きた出来事。
残された状況そのものから、
虫太郎へ近づいていく。
虫太郎は完全犯罪を持っている。
乱歩は超推理を持っている。
一方は証拠を消す。
一方は消された状況からでも追う。
この対立が、
二人の最初の関係を決定的にした。
横溝正史との過去まで入ると、虫太郎が単純な悪役ではないことが分かる
虫太郎を理解するうえで重要なのが、
推理作家・横溝正史との関係になる。
虫太郎は単なる犯罪者として、
完全犯罪を楽しんでいたわけではない。
横溝との間には、
かなり複雑な友情があった。
横溝は病床にありながら、
最後の推理小説を書こうとしていた。
そして自分の死そのものを、
作品を完成させるための材料にしようとする。
虫太郎は、
その計画へ深く関わることになる。
友人を殺す。
その犯罪を完全犯罪にする。
横溝が望んだ形で、
最後の作品を成立させる。
虫太郎にとっては、
能力を使った単純な犯罪とはまるで違う。
だから乱歩に追い詰められた時も、
虫太郎の中には横溝との記憶が残っている。
完全犯罪を破られることは、
自分が捕まるだけでは終わらない。
横溝との約束。
横溝の最後の作品。
そこまで崩されるように感じていた。
この過去があるから、
虫太郎は乱歩とポオの中へ入っても浮かない。
乱歩は名探偵。
ポオは推理小説家。
虫太郎は推理作家・横溝と深く結ばれ、
完全犯罪を成立させた人物。
三人とも、
推理小説という場所でつながっている。
乱歩は解く側。
ポオは謎を作る側。
虫太郎は証拠を消す側。
立場は違っても、
同じ「事件と推理」の周囲にいる。
第9わんでは、
そんな虫太郎が公園で乱歩を待っている。
初対面の頃を考えると、
かなり変わった光景になる。
以前なら乱歩から逃げる。
完全犯罪を守る。
正体を見抜かれないようにする。
緊張した関係だった。
今は違う。
乱歩に呼ばれる。
指定された場所へ行く。
そこでポオと出会う。
逃亡も完全犯罪も必要ない。
ポオは乱歩に勝とうとした。
虫太郎は乱歩に捕まらないようにした。
その二人が今では、
乱歩から同時に呼び出されている。
第9わんの三人が妙に馴染んで見えるのは、
急に仲良しになったからではない。
過去に乱歩と激しく関わり、
それぞれ別の形で距離が縮まった時間があるから。
公園で並んで待つ短い場面の後ろには、
ポオの六年前からの敗北と、
虫太郎の完全犯罪を巡る事件が積み重なっている。
第5章 ポオと虫太郎は「乱歩を困らせた二人」という共通点がある
ポオは難題を作り、虫太郎は証拠を消した
ポオと虫太郎は、
どちらも乱歩と推理事件で深く関わった人物。
ただし、
乱歩を困らせた方法は正反対になる。
ポオは難しい謎を作る。
虫太郎は謎を解く材料そのものを消す。
ポオは六年前に乱歩へ敗北した。
その雪辱を果たすため、
自作の推理小説を用意する。
異能力「モルグ街の黒猫」で、
乱歩と与謝野を小説世界へ閉じ込める。
小説内部では殺人事件が起きる。
犯人を見抜かなければ外へ戻れない。
ポオは、
「この事件を解けるなら解いてみろ」
という形で乱歩へ挑戦した。
つまりポオは、
乱歩の推理力そのものを認めている。
認めているからこそ、
より難しい事件をぶつける。
乱歩の頭脳を正面から試す人物になる。
虫太郎は逆だった。
異能力「完全犯罪」を使い、
犯罪現場から証拠を消去する。
犯人へつながる痕跡。
事件を立証する物証。
そうした手掛かりそのものを消してしまう。
乱歩がいくら優秀でも、
見るべき証拠が存在しなければ厳しい。
虫太郎は乱歩より難しい推理をするのではない。
乱歩が推理する前提を破壊する。
そこがポオとの最大の違いになる。
ポオは謎を増やす。
虫太郎は証拠を減らす。
ポオは乱歩へ挑戦状を出す。
虫太郎は乱歩から逃れようとする。
乱歩を中心に置けば、
二人の違いがかなり鮮明に見えてくる。
しかも虫太郎の事件には、
ポオも間接的に関係していた。
推理作家殺しを追う過程で、
ポオを始めとするミステリー愛好家たちも騒いでいた。
乱歩は、
その推理作家殺しと「隠滅屋」が同一人物だと疑い始める。
乱歩が虫太郎の送迎車へ乗り込み、
隣で事件の推理を進める場面は印象的。
虫太郎は、
すぐ横に自分を追う名探偵がいる。
乱歩は、
隣の男が犯人本人とは知らないまま話し続ける。
その車内で乱歩は、
推理作家殺し。
隠滅屋。
消された証拠。
原稿の不自然さ。
複数の材料を結び付けて、
少しずつ虫太郎へ迫っていく。
ポオの事件では、
乱歩は用意された謎を解いた。
虫太郎の事件では、
消された証拠の向こうまで追った。
どちらも、
乱歩の名探偵としての強さが大きく出た事件になる。
だから第9わんで、
ポオと虫太郎が同じ公園へ呼ばれると面白い。
二人とも過去に、
乱歩へ一筋縄ではいかない難題を与えた。
普通の知人ではない。
ポオは乱歩を試した人物。
虫太郎は乱歩を欺こうとした人物。
その二人を、
今では乱歩自身がまとめて呼び出している。
本編での推理対決を知っているほど、
この待ち合わせが穏やかに見えてくる。
乱歩にとって二人は、ただの敗者では終わらなかった
乱歩は、
ポオにも虫太郎にも勝っている。
それだけ見れば、
二人は乱歩に敗れた人物で終わる。
でも本編では、
その後も関係が続いている。
ポオは乱歩へ敗れた後も、
乱歩から離れない。
新しい推理小説を書く。
乱歩の反応を気にする。
必要な場面では、
自身の異能力も役立てる。
敵として登場したのに、
いつの間にか乱歩の周辺へ残る。
勝敗だけで関係が終わらなかった。
むしろ敗北後の方が、
乱歩との距離は近くなっている。
虫太郎も同じ。
乱歩に正体を見抜かれた後、
単純な犯罪者として消えるわけではない。
天人五衰の存在。
武装探偵社へ迫る危機。
その後の事件にも、
虫太郎の知識が関わっていく。
乱歩に敗れた。
だから終わり。
そうならないところが三人の関係を面白くしている。
乱歩は二人の能力を知っている。
二人も乱歩の恐ろしい推理力を知っている。
ポオは乱歩へ勝ちたい。
虫太郎は乱歩に見破られた経験がある。
二人とも、
名探偵としての乱歩を真正面から体験している。
そこが共通点になる。
だから第9わんでは、
三人が同じ場所へいるだけで成立する。
昔の事件をもう一度起こす必要はない。
ポオが再び大掛かりな推理小説を作らなくてもいい。
虫太郎が完全犯罪を使わなくてもいい。
乱歩が呼ぶ。
ポオが来る。
虫太郎も来る。
その短い流れだけで、
三人が過去から積み上げてきた関係が見える。
しかもポオと虫太郎は、
互いに同じ種類の人物ではない。
物静かな推理小説家のポオ。
自信家で芝居がかった言動も多い虫太郎。
性格もかなり違う。
それでも乱歩を挟むと並べやすい。
推理小説を作るポオ。
完全犯罪を作る虫太郎。
事件を解く乱歩。
三人それぞれの役割が、
はっきり分かれている。
第9わんの組み合わせは、
単に珍しい三人を集めただけではない。
乱歩の推理へ、
最も強く関係した二人が隣にいる。
だから本編を振り返るほど、
公園の場面に情報が詰まって見えてくる。
第6章 敵だった虫太郎が、なぜ今では乱歩側に近い位置へいる?
乱歩に敗れた後、虫太郎は天人五衰の危険を知る人物になった
虫太郎と乱歩は、
最初から親しい関係ではない。
虫太郎は犯罪を隠滅する側。
乱歩は事件を暴く側。
完全に対立したところから始まっている。
虫太郎は、
推理作家・横溝正史を巡る事件で、
乱歩に追い詰められる。
完全犯罪で証拠を消しても、
乱歩は別の材料から真相へ近づいた。
乱歩にとって虫太郎は犯人。
虫太郎にとって乱歩は、
自分の完全犯罪を破壊する危険な探偵。
最初の距離は、
第9わんの公園とはまるで違う。
しかし事件が終わった後、
虫太郎の立場も変化していく。
単純に乱歩へ復讐する方向には進まない。
むしろ、
さらに大きな危険へ巻き込まれていく。
虫太郎の背後にいたのがフョードル。
そして、
さらに天人五衰の存在が浮かぶ。
虫太郎は、
武装探偵社より先に危険な計画の一端へ触れていた人物になる。
乱歩との事件が終わった後、
虫太郎は探偵社へ警告を残す。
次に来る仕事を受けてはいけない。
受ければ武装探偵社が滅びる。
この警告は、
その後の大事件へ直結していく。
実際に武装探偵社は、
大きな罠へ巻き込まれる。
犯罪者集団として追われる。
猟犬にも追跡される。
虫太郎が警告していた危機が、
現実になっていく。
ここで虫太郎の位置が変わる。
乱歩に追われる犯罪者だった。
でも今度は、
武装探偵社へ危険を伝える人物になる。
敵か味方かだけでは、
簡単に分けられなくなる。
その後も虫太郎は、
天人五衰側から利用される。
知っている情報がある。
完全犯罪という特殊な異能力もある。
だから本人の意思とは別に、
大きな事件へ引き込まれていく。
この流れを見ると、
乱歩との関係も変化していることが分かる。
最初は捕まえる側と逃げる側。
次第に、
同じ巨大な敵の動きを知る者同士へ近づいていく。
乱歩も、
虫太郎をただの犯罪者として見続けているだけではない。
虫太郎が何を知っているのか。
何を恐れているのか。
どこまで事件へ関わっているのか。
そこまで含めて見ている。
だから第9わんで、
乱歩が虫太郎を普通に呼び出しても、
本編を知っていれば完全な唐突には見えない。
過去には敵だった。
でも関係はそこで止まっていない。
敵対。
追跡。
完全犯罪の崩壊。
天人五衰への警告。
その後の共通した事件。
いくつもの段階を経て、
距離が変わってきた。
第9わんの公園では、
その重い流れが一気に軽くなる。
虫太郎は逃げない。
乱歩も追跡しない。
ただ呼ばれて来ている。
それだけで、
本編との差がはっきり見える。
ポオの屋敷まで含めると、虫太郎とポオにも接点が生まれている
第9わんでは、
虫太郎とポオが隣にいる。
この二人は乱歩ほど強い因縁があるわけではない。
でも本編を進めると、
完全に無関係でもない。
武装探偵社が天人五衰の罠へ落ちた後、
虫太郎も再び事件へ関わる。
敦や鏡花。
安吾。
ルーシー。
そしてポオ。
複数の人物が、
探偵社を救うための動きへつながっていく。
その中で虫太郎は、
ポオの屋敷へ身を寄せる流れもある。
最初の推理作家殺しでは、
ポオは事件を追う側に近かった。
虫太郎は犯人側。
そこから関係がかなり変わっている。
虫太郎自身も、
横溝正史との過去を抱えている。
横溝は推理作家。
ポオも推理小説家。
乱歩は名探偵。
三人の周囲には、
何度も推理小説が現れる。
虫太郎は横溝を忘れていない。
殺したくて殺した友人ではない。
横溝が完成させようとした作品。
最後の原稿。
完全犯罪。
その記憶を抱え続けている。
ポオにとって推理小説は、
乱歩へ挑むための武器でもある。
虫太郎にとって推理小説は、
亡き横溝との記憶へつながる。
同じ小説でも、
二人の受け止め方は違う。
それでも接点はある。
ポオは物語を作る人物。
虫太郎は、
推理作家の最期へ深く関わった人物。
乱歩は、
その両方の謎へ踏み込んだ人物になる。
だから第9わんで、
虫太郎とポオが公園に並んでも、
完全な初対面の組み合わせではない。
本編を追っていけば、
同じ事件や同じ場所へ入ってきた時間がある。
ただし、
三人を単純な仲良し組として見るのも違う。
ポオは乱歩への対抗心が強い。
虫太郎は乱歩に完全犯罪を破られた。
それぞれ過去の関係が残っている。
そこを全部消さずに、
公園で待ち合わせる。
この軽さが『文ストわん!2』らしい。
本編では複数話を使って変化した距離が、
第9わんでは一つの待ち合わせ場面へ凝縮されている。
虫太郎は、
乱歩から逃げていた人物。
ポオは、
乱歩へ勝とうとしていた人物。
その二人が今では、
乱歩に呼ばれて同じ場所へ来る。
第9わんの三人を見る時、
重要なのは「いつから親友なのか」ではない。
敵対や推理勝負を経て、
普通に顔を合わせられるところまで関係が変わった。
その積み重ねが、
虫太郎とポオが並ぶ場面の後ろにある。
第7章 乱歩・ポオ・虫太郎は「友達」なのか?
三人は最初から仲良しではなく、推理事件を通して距離が変わった
第9わんだけを見ると、
乱歩。
ポオ。
虫太郎。
この三人が普通に集まっているように見える。
でも本編では、
最初から仲が良かったわけではない。
むしろ逆。
ポオは乱歩へ勝つために日本へ来た。
虫太郎は乱歩に完全犯罪を破られた。
ポオにとって乱歩は、
六年前の敗北を刻み付けた相手。
自作の推理小説を使い、
もう一度勝負を挑むほど強く意識していた。
尊敬だけではない。
悔しさも対抗心も混ざっている。
虫太郎にとって乱歩は、
自分の完全犯罪を崩した探偵。
証拠を消した。
追跡を逃れようとした。
それでも乱歩は、
別の手掛かりから真相へ近づいてきた。
だから三人を、
単純な友達同士と呼ぶと少し違う。
ポオには競争心がある。
虫太郎には敗北した過去がある。
乱歩も、
二人を普通の探偵社仲間と同じようには見ていない。
ただし、
敵同士のままでもない。
ポオは乱歩との勝負を続けながら、
本編では協力する場面も増えていく。
虫太郎も、
乱歩との事件後に武装探偵社へ警告を残し、
天人五衰を巡る流れへ関わっていく。
ポオと虫太郎にも接点ができる。
推理作家。
完全犯罪。
横溝正史。
乱歩の超推理。
それぞれ違う位置にいながら、
推理小説と事件を通じて同じ輪へ入っていく。
だから第9わんの公園で、
二人とも乱歩から呼ばれていることが大きい。
以前なら、
ポオは乱歩へ挑戦状を送る側だった。
虫太郎は乱歩から逃げる側だった。
今回は違う。
乱歩が呼ぶ。
ポオが来る。
虫太郎も来る。
三人が同じ場所へ集まること自体に、
これまでの関係の変化が出ている。
仲良し三人組ではない。
でも、
もう完全な敵でもない。
乱歩を中心に、
奇妙な信頼と因縁が残っている。
その距離感が、
三人の関係を一番近く表している。
第9わんの「公園で待つ二人」が、本編からの変化を一番分かりやすく見せている
第9わんの面白さは、
大事件が起きなくても三人の関係が見えるところ。
虫太郎が公園で待つ。
そこへポオが現れる。
二人とも乱歩に呼び出されている。
それだけで、
本編との違いがはっきり出る。
ポオの初登場時なら、
乱歩に会う目的は勝負だった。
六年前の敗北を取り返す。
自分の作った謎を解かせる。
乱歩へ勝つことが、
行動の中心にあった。
虫太郎の初登場時なら、
乱歩に会うこと自体が危険だった。
完全犯罪を見破られる。
正体へ近づかれる。
逃げたい。
捕まりたくない。
乱歩は脅威そのものだった。
その二人が、
今では乱歩の呼び出しに応じる。
待ち合わせ場所へ行く。
隣同士になる。
乱歩が来るまで待つ。
この変化はかなり大きい。
乱歩も、
二人を遠ざけてはいない。
ポオの推理能力を知っている。
虫太郎の完全犯罪も知っている。
過去に何があったか理解したうえで、
今では普通に呼び出せる。
だから三人の関係は、
勝敗だけでは説明できない。
乱歩が勝った。
ポオが負けた。
虫太郎が見破られた。
それだけなら、
第9わんの公園にはつながらない。
その後も関係が続いた。
ポオは乱歩の周囲へ残った。
虫太郎も大事件の中で再び接点を持った。
敵対した過去を残しながら、
会えば話が成立する距離まで近づいている。
第9わんは、
その変化を重く説明しない。
三人で重大な会議をするわけでもない。
昔の因縁を語り直すわけでもない。
ただ、
乱歩に呼ばれた二人が公園で待っている。
だからこそ分かりやすい。
昔なら、
同じ場所にいるだけで緊張が走った三人。
今では、
乱歩を中心に普通の待ち合わせが成立する。
ポオは乱歩へ勝ちたかった。
虫太郎は乱歩から逃れたかった。
乱歩は二人の難題を突破した。
そこから時間が進み、
第9わんでは三人が同じ日常へ入っている。
この三人を結ぶのは、
単純な友情ではない。
推理勝負。
完全犯罪。
敗北。
協力。
そして再会。
それぞれの過去が残っているから、
公園で並ぶだけでも情報量が多い。
第9わんで「結局この三人はどういう関係なのか」と気になったなら、
答えは仲良しという一言では足りない。
乱歩を倒そうとしたポオ。
乱歩の推理を封じた虫太郎。
その二人を、
今では乱歩自身が呼び出している。
敵対から始まり、
推理を通して互いを知り、
普通に会えるところまで距離が変わった。
第9わんの公園は、
その長い変化を最も軽く、
最も分かりやすく見せた場面になっている。


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