風間玄蕃は、第19回で本気で逃若党から離れることを考えるが、時行を敵へ売るような裏切りには進まない。もともと金だけを信じ、時行とも「国を一つ貰う」という取引から始まった玄蕃が、天狗との遭遇で自分の未熟さを思い知らされ、技を磨く面白さと逃若党で戦う自分の居場所を見つけていく。第19回の迷いは、玄蕃が初めて“金で雇われた仲間”から自分の意志で残る仲間へ変わる入口になる。
第1章 玄蕃は逃若党を離脱する?時行を裏切るのか
第19回で玄蕃は本気で「ここに残るのか」を考え始める
第19回で玄蕃の気持ちが揺れるのは、
北条泰家が諏訪へ流れ着いた直後になる。
鎌倉陥落後も東北を巡り、
北条残党と戦い続けていた泰家が時行と再会する。
頼重も新しい味方を得たことで、
次の大戦へ向けてさらに策を練り始める。
第18回では、
諏訪神党が清原信濃守と小笠原勢との戦に敗れた。
人的損害は抑えられたものの、
砦や土地を失い、
頼重たちは次の大戦を避けられないと覚悟する。
その直後の第19回で泰家まで現れるから、
玄蕃にも「次は本当に大きな戦になる」と分かる。
そこで玄蕃は、
時行たちと自分の立場を比べる。
時行には、
足利尊氏に奪われた鎌倉がある。
父の高時をはじめ、
失った北条一族もいる。
鎌倉奪還は、
時行自身の人生に直結した戦いになる。
亜也子にも、
第16回で父・望月重信のいる北の砦が陥ち、
崩れ落ちるほどの痛みがある。
弧次郎も、
第1期から時行の郎党として前線へ立ち、
時行を主として守る立場を自分の中に持っている。
頼重には、
時行を鎌倉へ返し、
北条再興へ導く目的がある。
ところが玄蕃には、
同じ種類の物がない。
第19回の公式あらすじでも、
玄蕃自身が
「己には討つべき仇も救うべき一族もいない」
という立場で身の振り方を考えることが示されている。
ここは、
ただ怖くなって逃げたくなった場面ではない。
玄蕃は、
自分だけが北条再興に命を懸ける根拠を持っていないと気づく。
これまでなら、
潜入する。
盗む。
敵を騙す。
危険になれば逃げる。
その仕事を一回ずつ片付ければよかった。
でも次の戦は、
時行が本気で鎌倉を取り戻す戦になる。
そこまで行けば、
玄蕃も「仕事だから」で済ませにくい。
足利方に捕まれば、
ただの盗人として逃げる時とは違う。
北条時行の郎党として扱われる。
命を懸けるなら、
自分にも残るだけの物が必要になる。
第19回で初めて、
玄蕃はそこを自分に問い始める。
だから、
逃若党を離れることは本気で考えている。
でも、
この時点で時行を裏切って敵へ売ろうとしているわけではない。
ここは分けて見た方がいい。
玄蕃は損得で動く。
忠義を口にする人物でもない。
それでも第6回以降、
時行との関係は単なる金だけではなくなっている。
第6回「盗め綸旨、小笠原館の夜」では、
玄蕃と時行が小笠原館へ潜入する。
狙うのは、
帝から小笠原貞宗へ下された綸旨。
玄蕃は変装と潜入の技を使い、
時行を連れて館内部へ入り、
綸旨が置かれた蔵へ近づいていく。
ところが、
貞宗の配下・市河助房が二人を捉える。
市河の武器は、
異常なほど鋭い耳になる。
足音。
衣擦れ。
息遣い。
玄蕃が姿を変えても、
音を消し切れない。
玄蕃の得意な潜入が、
初めて正面から崩される。
追い詰められた玄蕃は、
ここで時行と運命共同体になるつもりなどない。
危険なら切る。
自分だけ逃げる。
加入したばかりの玄蕃なら、
その判断は当然だった。
人より金を信じ、
生き残ることを優先してきたからこその行動になる。
でも、
玄蕃自身が危険になった時、
時行は逆の行動を取る。
玄蕃を置いて逃げない。
自分から助けへ戻り、
玄蕃を庇って傷を負う。
自分を見捨てようとした相手のために、
時行が体を張ったことで、
玄蕃の損得勘定が一度崩れる。
その後の玄蕃も、
何事もなかったように逃げない。
時行に助けられた借りを返すため、
今度は自分が危険な役を引き受ける。
追手を惑わせ、
潜入の技を使い、
最後には目的だった綸旨だけを抜き取るのではなく、
蔵を焼いて敵側の情報まで混乱させる。
第6回の前半なら、
時行が危険になれば切れる。
第6回の後半では、
一度切ろうとした相手のために自分から動く。
この差が、
第19回にも残っている。
玄蕃は忠臣にはなっていない。
でも、
誰でも金次第で売れるだけの盗人でもなくなっている。
だから第19回で玄蕃が考えているのは、
「時行を裏切ろう」ではない。
「自分はこの先も時行について行くのか」になる。
似ているようで、
かなり違う。
逃若党に残るなら、
今度は玄蕃自身がその選択に責任を持たなければならない。
離脱を考えている最中でも、諏訪大社への侵入者を察知すると玄蕃は動いた
第19回で、
玄蕃の迷いをさらに分かりやすくする場面がある。
身の振り方を考えている最中、
玄蕃は諏訪大社へ入り込んだ何者かの存在を察知する。
本当に逃若党への関心を失っていたなら、
ここで知らないふりをして立ち去ることも出来る。
でも玄蕃は、
異変へ反応する。
何者かが入り込んだ。
普通の参拝客ではない。
忍としての感覚で、
敵の気配を拾う。
「もう抜けるかもしれないから関係ない」とはならない。
考えるより先に、
逃若党の忍として動いてしまう。
ここは、
玄蕃自身の口と行動が少し食い違うところになる。
頭では、
自分には仇も一族もいないと思っている。
この先の大戦へ行く必要があるのかと考える。
でも敵が入り込めば、
ちゃんと察知する。
時行たちに危険が近づけば、
放っておけない。
第7回「冬の子供たち」でも、
逃若党は頼重の反対を押し切る形で、
小笠原方の動きを探る偵察へ出ている。
腕利きの大人たちが出払う中、
時行たち子供だけで北の国境へ向かう。
玄蕃もその一員として動き、
自分の忍としての技を逃若党のために使っている。
第11回から第12回では、
保科弥三郎たちの撤退戦へ時行たちが関わる。
第15回から第17回になると、
逃若党は三つの戦場を走り回る伝令役まで任される。
時行だけではない。
玄蕃も、
子供の遊びでは済まない軍事行動の中に入り続けている。
最初は小笠原館へ潜り込む一回限りの依頼だった。
そこから一年以上、
玄蕃は逃若党に残っている。
時行と食事をする。
仲間と移動する。
敵地へ入る。
戦場でも役目を持つ。
第19回の時点では、
「雇われたばかりの盗人」と呼ぶには時間が積み上がり過ぎている。
だから迷う。
何もなければ、
迷う必要もない。
嫌なら去ればいい。
でも玄蕃の中には、
時行に命を助けられた第6回が残っている。
一緒に動いてきた第7回以降の時間も残っている。
その一方で、
鎌倉奪還へ命を懸ける個人的な目的だけはない。
第19回は、
玄蕃が裏切る前触れというより、
この矛盾を初めて正面から考える回になる。
金で始まった。
借りが出来た。
仲間として過ごした。
でも次は大戦。
では、
自分は何を求めてここに残るのか。
その答えを出す前に、
玄蕃の前へ新しい敵が現れる。
しかも、
同じく潜入や諜報を得意とする忍。
ここから玄蕃は、
「逃若党を辞めるか」という迷いだけでなく、
自分が忍としてどこまで通用するのかまで突きつけられていく。
第2章 玄蕃はもともと金と損得を基準に生きてきた盗人だった
第5回で時行に誘われた時も、玄蕃は忠義ではなく報酬を先に見ていた
玄蕃が第19回で離脱を考えることに驚くなら、
加入した頃まで戻ると分かりやすい。
玄蕃は、
弧次郎や亜也子と同じ形で逃若党へ入ったわけではない。
頼重が見込んだのも、
玄蕃の忠義心ではなかった。
必要だったのは、
変装と潜入に使える特殊な技になる。
風間玄蕃は、
信濃で盗人として動いていた。
姿を変える。
他人へ化ける。
屋敷へ忍び込む。
警戒されている場所から物を盗む。
刀を持って正面から戦う弧次郎や、
怪力で敵を押し切る亜也子とは、
最初から使う武器が違う。
しかも玄蕃は、
他人を簡単には信じない。
父から忍としての技を受け継ぐ一方で、
人より金を信じる生き方も覚えている。
だから、
北条家の御曹司から誘われたからといって、
感激して頭を下げるような人物ではない。
時行が郎党になってほしいと頼むと、
玄蕃はまず報酬を見る。
無償の忠義では動かない。
危険な仕事をさせるなら、
それだけの対価を出せという立場になる。
時行との関係は、
最初から主君と忠臣ではなく、
依頼主と盗人に近い。
ところが、
時行は玄蕃の計算から少し外れている。
玄蕃が高い対価を求めても、
時行はその欲を怖がらない。
鎌倉を取り戻すという自分の目標から考えれば、
玄蕃の要求さえ小さく見える。
この大き過ぎる感覚に、
玄蕃の方が面食らう。
玄蕃が時行に興味を持つのも、
最初から人柄へ惚れたからではない。
この少年は何なのか。
普通の武士と違う。
どこまで行くのか。
自分が付いて行けば、
どれだけ大きな得があるのか。
そんな好奇心と損得が混じっている。
だから第6回の小笠原館潜入も、
玄蕃にとっては仕事として始まる。
小笠原貞宗が持つ綸旨を奪う。
正面から館へ攻め込めば大騒ぎになる。
そこで、
玄蕃の変装と潜入が必要になる。
玄蕃は館の警備を欺き、
時行を連れて内部へ入る。
ここでは、
弧次郎や亜也子では代わりにくい。
腕力ではなく、
相手に気づかれないことが勝負になる。
逃若党に入ったばかりなのに、
早くも玄蕃の技が必要な仕事だった。
しかし、
市河助房の地獄耳が立ちはだかる。
顔を変えても駄目。
暗闇に隠れても駄目。
わずかな音を聞かれる。
玄蕃が得意としていた
「相手の目さえ騙せばいい」という方法が通用しない。
ここで玄蕃は、
時行との関係を試される。
仲間だから最後まで一緒に逃げるのか。
それとも、
生き残るために時行を切るのか。
加入時の玄蕃なら、
答えは後者になる。
第19回での迷いは、
この時からずっと持っている損得勘定の延長にある。
第6回で時行に助けられたことで、玄蕃の中に「金では返せない借り」が残った
小笠原館で追い詰められた玄蕃は、
自分だけ助かる方を選びかける。
でも、
その結果として自分が市河に狙われた時、
時行は玄蕃を見捨てない。
玄蕃が自分を置いて逃げようとしたことを知っても、
助ける側へ回る。
時行は、
玄蕃を庇って傷を負う。
ここで玄蕃が初めて見るのは、
金を払う依頼主ではない。
自分が危険になっても、
仲間を切らない少年になる。
玄蕃の生き方とは、
完全に逆になる。
玄蕃の中では、
損得の計算が合わなくなる。
自分は時行を捨てようとした。
時行は自分を捨てなかった。
自分が得をするためなら他人を使う。
時行は、
自分が損をしてでも相手を助ける。
そのまま守られて終われば、
玄蕃らしくない。
今度は玄蕃が、
時行へ作った借りを返そうとする。
市河たちの注意を引きつける。
敵を欺く。
潜入で培った技を、
今度は時行を逃がすために使う。
さらに、
綸旨一枚だけを持って逃げるより、
蔵そのものを焼いてしまう。
どの文書が狙われたのか分からなくする。
証拠を消す。
敵側の判断を狂わせる。
刀で勝つのではなく、
情報を壊して勝つ。
ここで玄蕃の役割がはっきりする。
この第6回以降、
玄蕃は逃若党の中で、
単なる金目当ての雇われ人としては動かなくなる。
第7回では、
時行たちと北の国境へ偵察に出る。
大人の偵察役が不在の中、
子供だけの逃若党で任務を受ける。
危険だから契約外だと逃げることはない。
第11回から第12回では、
保科軍の撤退を助ける戦いへ関わる。
第15回から第17回では、
清原と小笠原の連合軍を相手にした大規模な戦で、
逃若党全体が三つの戦場を走り回る伝令役になる。
玄蕃も、
もう館へ一度忍び込んだだけの盗人ではない。
一方で、
玄蕃の性格まで全部変わったわけでもない。
金への執着は残る。
楽をしたがる。
危険なら逃げ道を探す。
他人のように熱い忠義を語ることもしない。
この変わらなさが、
第19回では逆に効いてくる。
弧次郎なら、
時行のために残る。
亜也子なら、
仲間と一緒に戦う。
頼重なら、
北条再興そのものが目的になる。
玄蕃だけは、
そこまで単純に決められない。
でも、
第6回以前なら、
迷う前に逃げられた。
今は違う。
時行に助けられた記憶がある。
逃若党で何度も仕事をした。
一緒に戦場まで走った。
だから、
「大戦なら辞める」で簡単には切れない。
第19回で玄蕃が止まるのは、
逃若党への気持ちが薄いからだけではない。
むしろ、
金だけで始まったはずの関係が、
金だけでは切れないところまで来たからになる。
残る根拠が分からない。
でも去るのも簡単ではない。
その迷いの中で、
玄蕃は諏訪大社への侵入者を察知する。
そして相手は、
玄蕃と同じ忍の世界にいる人物になる。
自分より上の技を持つ相手とぶつかったことで、
玄蕃は初めて
「逃若党に残るか」だけではなく、
「自分は忍として何をしたいのか」まで考えることになる。
第3章 第19回で玄蕃だけが「何のために戦うのか」で立ち止まった
泰家が現れたことで、次の戦が「仕事」では済まないと玄蕃にも分かった
第19回で北条泰家が諏訪へ現れる。
泰家は鎌倉陥落後、
東北を巡って北条残党と戦い、
敗戦を重ねながらも生き延びてきた。
その泰家を得た頼重は、
次の大戦へ向けてさらに策を練り始める。
直前の第18回では、
諏訪神党が清原信濃守と小笠原勢との戦に敗れている。
人的損害は抑えたものの、
砦や土地を失い、
頼重たちも次の戦を避けられないと覚悟する。
そこへ泰家まで加わったことで、
玄蕃にも鎌倉奪還が近いと見えてくる。
時行には、
足利に奪われた鎌倉がある。
第1回で父・高時を失い、
兄たちも失った。
頼重に連れられて諏訪へ逃げてから、
時行はずっと鎌倉へ帰るために力を蓄えてきた。
亜也子にも、
第16回で父・望月重信が守る北の砦を失った痛みがある。
弧次郎も第1期から、
時行を主として何度も前線へ立ってきた。
頼重には、
時行を鎌倉へ戻すという大きな目的がある。
周囲には戦う場所がはっきりしている。
でも玄蕃には、
同じ物がない。
北条を滅ぼした足利に個人的な仇はいない。
救わなければならない一族もいない。
第5回で逃若党へ入った時も、
北条への忠義ではなく報酬と損得から始まっている。
だから第19回で玄蕃は、
「己には討つべき仇も救うべき一族もいない」と考える。
次が小笠原館への潜入程度なら、
一仕事として受ければいい。
でも今度は、
時行が鎌倉を取り戻すための大戦になる。
そこへ命まで懸けて付いて行くのかは、
玄蕃自身が決めなければならない。
第6回では、
玄蕃は危険になれば時行を置いて逃げようとした。
市河助房の地獄耳に追われ、
二人でいれば捕まると判断したからだ。
ところが玄蕃が斬られそうになると、
時行は逆に戻り、
玄蕃を庇って背中へ傷を負った。
そのあと玄蕃は、
借りを返すため自分から追手を攪乱する。
さらに綸旨だけを盗むのではなく、
蔵そのものを焼き、
敵側に何を狙われたのか分からなくした。
第6回の前半では時行を切ろうとした玄蕃が、
後半では時行のために危険を引き受けている。
それから玄蕃は、
第7回以降も逃若党に残った。
偵察へ出る。
戦場を走る。
敵の情報を探る。
時行や弧次郎、亜也子と同じ死地を何度も経験する。
金で始まった関係の上に、
一緒に過ごした時間が積み重なっている。
だから第19回でも、
簡単には立ち去れない。
残る大義はまだない。
でも、
昔のように時行を切って終わることも出来ない。
そこで初めて玄蕃は、
「自分は何のためにここにいるのか」と立ち止まる。
離脱を考えているのに、侵入者を察知すると玄蕃はすぐ動いた
玄蕃の迷いが面白いのは、
言葉と行動が少し食い違っているところになる。
逃若党に残るか考えている最中、
玄蕃は諏訪大社へ侵入した何者かの気配を察知する。
本当にもう関係がないなら、
知らないふりをして離れることも出来る。
でも玄蕃は、
忍として侵入者を追う。
何者なのか。
何を狙っているのか。
時行たちへ危険が及ぶのか。
考えるより先に、
すでに逃若党の一員として動いている。
玄蕃には、
時行と同じ仇が必要だったわけではない。
弧次郎と同じ忠義も必要ではない。
問題は、
玄蕃自身が「ここに残りたい」と思える物をまだ持っていないことだった。
その空白へ飛び込んでくるのが、
諏訪大社へ侵入した天狗になる。
第4章 玄蕃を圧倒した天狗が、自慢だった忍の技を「手品」と切り捨てた
同じ忍の世界にいる格上と出会い、玄蕃は初めて自分の未熟さを突きつけられる
玄蕃が察知した侵入者は、
普通の盗人ではない。
足利側に属する忍、
天狗衆の一人だった。
北条残党の動きを探るため、
諏訪へ入り込んでいた相手になる。
玄蕃は第5回から、
自分の変装へかなり自信を持っている。
顔を変える。
声を変える。
館へ忍び込む。
第6回でも小笠原館へ潜入し、
綸旨の置かれた蔵まで辿り着いた。
普通の武士を相手にするなら、
その技だけでも十分通用していた。
市河助房には苦しめられたが、
あれは異常な聴覚で追われたからだった。
姿を変えても、
音で居場所を探られる。
玄蕃の変装そのものを、
同じ忍の技術で負かされたわけではない。
天狗は違う。
潜入する。
気配を消す。
相手を騙す。
玄蕃と同じ種類の技を知っている。
その上で、
玄蕃より明らかに上だった。
自分が一番得意だと思っていた場所で、
正面から差を見せられる。
そこで玄蕃が浴びるのが、
「技じゃないな、手品だ」という言葉になる。
父から受け継ぎ、
盗人として生き、
頼重にも評価され、
時行の役にも立ってきた技を、
格上の忍から手品扱いされる。
玄蕃にとっては、
単に負けるより悔しい。
自分では忍の技だと思っていた。
でも相手から見れば、
人を驚かせる程度にしか見えない。
これまで通用してきた分、
その言葉は強く残る。
しかも天狗には、
玄蕃に足りない殺傷の圧まである。
玄蕃の得意技は、
変装や火焔玉、
敵の弓弦を切る工作など、
相手を惑わせて隙を作る物が多い。
一方の天狗は、
「本当に殺されるかもしれない」と思わせる技を持つ。
第19回で玄蕃は、
逃若党に残る目的がないと悩んでいた。
その直後、
同じ忍の世界で圧倒的な格上に出会う。
ここで問題が変わる。
北条のために戦うかではなく、
自分の技をこのままで終わらせるのかが気になり始める。
「手品」と言われた悔しさが、玄蕃に初めて自分自身の目標を作る
天狗との遭遇後、
玄蕃は敗北を忘れない。
自分と天狗の何が違うのか。
変装も出来る。
潜入も出来る。
敵を混乱させる道具も持っている。
それでも、
本物の忍を相手にすると通じなかった。
そこで玄蕃は、
自分の技を見直し始める。
さらに吹雪へ相談し、
何が足りないのかを聞く。
今までの玄蕃なら、
勝てない相手からは逃げればよかった。
今回は違う。
次にどうすれば通用するのかを考え始める。
吹雪から示されるのは、
相手へ本物の恐怖を与える力になる。
ただ姿を変える。
煙で惑わせる。
その先に、
「こいつなら本当に自分を殺せる」と思わせる物が必要になる。
玄蕃はそこから、
自分の道具と技をさらに強くする方向へ進む。
ここで玄蕃に、
初めて自分自身の目的が出来る。
時行の父の仇ではない。
北条再興でもない。
天狗に負けた悔しさ。
もっと強い忍になりたいという欲。
次は自分の技で騙したいという気持ちになる。
第5回では報酬で動いた。
第6回では時行に命を救われ、
借りと信頼が生まれた。
第19回では、
天狗に完敗したことで自分の目標が生まれる。
玄蕃が逃若党に残る根拠は、
突然の忠義ではなく、
こうした経験が重なって少しずつ作られていく。
第5章 天狗に完敗した玄蕃は、逃若党を辞めるより「次は勝つ」に気持ちが向いた
「手品」と切り捨てられたことが、玄蕃の技を本気で伸ばすきっかけになった
天狗との遭遇で、
玄蕃は自分の忍術が通じない相手を初めてはっきり知る。
第6回では市河助房の地獄耳に追われても、
変装や火を使って最後は任務を成功させた。
だから玄蕃の中には、
「自分のやり方で何とか出来る」という自信があった。
ところが天狗は、
その自信ごと潰す。
変装を見破る。
気配の読み合いでも上を行く。
玄蕃が父から受け継ぎ、
盗みや潜入で磨いてきた技を見た上で、
「技じゃないな、手品だ」と切り捨てる。
玄蕃にとっては、
単に負けるより腹が立つ。
自分が長く使ってきた技。
頼重にも買われた技。
第6回では小笠原館から綸旨を奪うために使い、
逃若党でも何度も役立ててきた技になる。
それを同じ忍の側から、
遊びのように扱われた。
ここで玄蕃は、
「じゃあ逃げ若党を辞めよう」とはならない。
むしろ逆になる。
自分と天狗の差は何なのか。
何が足りないのか。
どうすれば次は通じるのか。
負けた相手から逃げるより、
技を直す方へ頭が動き始める。
この変化は、
第19回の迷いとつながっている。
少し前まで玄蕃は、
自分には時行のような仇も、
亜也子のような守る一族もいないと思っていた。
だから次の大戦へ残る根拠が見つからなかった。
でも天狗に負けたことで、
玄蕃自身の中から別の目的が生まれる。
もっと強い忍になりたい。
次は見破られたくない。
「手品」と笑った相手を、
今度は自分の技で騙したい。
これは北条家から与えられた大義ではない。
時行に頼まれた仕事でもない。
玄蕃が自分で持った欲になる。
そのあと玄蕃は、
吹雪にも相談する。
天狗と自分の差は何なのか。
変装は出来る。
潜入も出来る。
煙や火焔玉を使って、
相手の判断を狂わせることも出来る。
それでも本物の忍には通じなかった。
そこで出てくるのが、
相手へ本気の恐怖を与える力になる。
姿を変えるだけでは足りない。
「こいつに騙されたら、本当に死ぬかもしれない」
そこまで相手に思わせられれば、
同じ変装でも圧が変わる。
玄蕃は、
自分の忍術へ殺傷力まで足す方向へ進む。
ただし、
弧次郎のように刀で斬り合う方向ではない。
亜也子のように力で押し切るわけでもない。
玄蕃は最後まで、
騙すことを捨てない。
変装。
工作。
煙。
偽情報。
そこへ危険な武器まで重ね、
「騙しに本物の怖さを足す」方へ技を伸ばしていく。
ここが玄蕃らしい。
天狗に負けたから、
天狗と同じ忍になるわけではない。
自分の技を捨てない。
むしろ、
今まで通用してきた変装や工作を土台にして、
その弱い部分だけを埋めていく。
第5回の玄蕃なら、
忍術は食べるための道具だった。
盗む。
騙す。
金を得る。
第6回では、
時行を助けるためにも使った。
第19回以降は、
技を伸ばすこと自体が玄蕃の目的へ変わり始める。
だから天狗との敗北は、
離脱の決定打にはならない。
逃若党にいれば、
これからもっと強い敵とぶつかる。
忍との情報戦も増える。
自分の技を試せる。
玄蕃にとって、
大戦そのものが新しい修行の場へ変わっていく。
「時行のため」だけではなく、「自分のため」に戦えるようになった
玄蕃が大きく変わったのは、
忠臣になったからではない。
時行様のためなら死ぬ。
北条のために命を捧げる。
そういう人物へ変わったわけではない。
金への執着も、
損得を見る癖も残る。
でも第5回とは違う。
最初は報酬があるから動いた。
第6回では、
時行に命を救われた借りがあるから動いた。
第19回以降は、
「自分がもっと上手くなりたい」から動く。
玄蕃の中に、
自分自身の目的が一つ増えている。
この目的なら、
弧次郎や亜也子と比べる必要がない。
玄蕃には、
父の仇がいなくてもいい。
救う一族がいなくてもいい。
自分の忍術を磨き、
強い相手を騙し、
一度負けた相手へ仕返しする。
それも十分に戦う根拠になる。
第19回で玄蕃は、
周囲の仲間に大義があることを見て迷った。
でも天狗との遭遇で、
自分には自分の戦い方があると分かり始める。
逃若党に残れば、
その技を使う場所もある。
頼重から任される仕事もある。
時行も、
玄蕃にしか出来ない潜入や工作を必要としている。
だから玄蕃は、
逃若党を離れる方向から少しずつ戻っていく。
借りがあるからだけではない。
仲間だからだけでもない。
自分の技をもっと上へ持って行ける。
そこに玄蕃自身の楽しさが生まれる。
第6章 中先代の乱で玄蕃は天狗へやり返し、逃若党の忍として大きな仕事をする
玄蕃は味方兵へ化け、天狗衆へ偽情報を流して敵の判断そのものを狂わせる
中先代の乱へ進むと、
玄蕃の技は一人を騙すだけではなくなる。
時行と諏訪勢が鎌倉奪還へ動けば、
足利側も北条方の狙いを探る。
そこで動くのが、
玄蕃を一度圧倒した天狗衆になる。
玄蕃は、
最初の遭遇で正面から負けている。
変装を見破られた。
忍としての差を見せつけられた。
「手品」とまで呼ばれた。
だから再び天狗衆と向き合う時、
同じやり方で技比べをしない。
玄蕃が使うのは、
自分が最も得意な欺きになる。
味方側の兵へ化ける。
わざと敵に見つかる。
そして、
反乱軍がどこを狙っているのかについて、
本物らしい嘘を流す。
天狗衆は、
その情報を拾う。
玄蕃が欲しいのは、
天狗本人を斬ることではない。
敵に
「北条軍はこう動く」
と思わせること。
一人の忍を騙せば、
その忍が持ち帰る報告まで間違う。
ここは第6回の小笠原館と似ている。
あの時も、
玄蕃は綸旨だけを盗んで終わらなかった。
蔵を焼いた。
何を盗まれたのか分からなくした。
敵が正しい状況を判断出来ないようにして、
自分たちの目的を隠した。
中先代の乱では、
その技がさらに大きくなる。
一つの蔵ではない。
軍全体の進路について、
敵へ誤った判断をさせる。
玄蕃の変装と嘘が、
兵の動きまで変える情報戦へ進んでいる。
これは、
天狗から「手品」と言われた技の進化でもある。
見た目だけ変えるなら、
たしかに手品で終わる。
でも、
その変装で敵の忍を騙し、
報告内容を変え、
軍の判断まで狂わせれば、
もう戦場そのものへ影響する。
玄蕃は、
弧次郎のように大将を斬らない。
亜也子のように敵兵を吹き飛ばさない。
それでも、
敵が間違った場所を見るようにする。
本当の進路を隠す。
味方が動く時間を稼ぐ。
玄蕃にしか出来ない形で、
中先代の乱へ大きく関わる。
第19回では、
自分には大戦へ残る根拠がないと思っていた。
でも実際の大戦では、
玄蕃の技が必要になる。
しかも、
以前自分を馬鹿にした天狗衆そのものを、
今度は情報で騙す側へ回っている。
一度は圧倒された天狗を仲間と捕らえ、玄蕃は「手品」を本物の武器へ変えた
玄蕃の成長が一番分かりやすいのは、
天狗との再戦になる。
最初の遭遇では、
玄蕃一人では何も出来なかった。
相手の方が速い。
技も上。
殺傷力もある。
玄蕃は救援を求めるしかなかった。
その敗北を、
玄蕃は忘れなかった。
吹雪へ相談する。
自分の技を見直す。
殺傷力を足す。
相手へ本物の恐怖を与える。
ただ姿を変えるだけだった変装を、
戦場で通じる技へ変えていく。
そして再び天狗と向き合う時、
玄蕃は一人で意地を張らない。
時継とも連携する。
自分が騙す。
仲間が動く。
相手を誘導する。
最初の玄蕃なら、
他人を利用するだけだったところを、
今は役割を合わせて勝ちに行く。
ここにも、
逃若党で過ごした時間が出る。
第6回では、
時行を切って一人で逃げようとした。
そのあと時行に助けられ、
借りを返すために動いた。
中先代の乱では、
最初から仲間と組んで、
自分だけでは倒せない相手を捕らえる。
最終的に、
一度は自分を圧倒した天狗へやり返す。
玄蕃は、
力比べで上回ったわけではない。
変装。
偽装。
罠。
仲間との連携。
自分が得意な物を全部使い、
相手を欺いて仕留める。
ここが重要になる。
天狗から、
「手品」と笑われた。
玄蕃は、
その手品を捨てなかった。
刀の修行だけを始めたわけでもない。
自分の騙す技を磨き、
本物の忍にも通じるところまで持っていった。
第19回の玄蕃は、
自分には何もないと思っていた。
でも実際には、
変装がある。
工作がある。
情報戦がある。
そして、
それをもっと強くしたいという欲がある。
逃若党には、
その全部を使える戦場がある。
だから玄蕃は、
時行に付いているだけの人物ではなくなる。
自分の仕事を持つ。
自分の敵を持つ。
一度負けた相手へ仕返しする。
自分の技で戦場へ影響を与える。
ここまで来ると、
「金で雇われた盗人」だけでは説明出来ない。
第19回で出た離脱の迷いは、
そのまま裏切りへ進まない。
天狗への敗北を挟んだことで、
玄蕃の中に新しい目的が出来る。
自分の技を磨く。
格上を騙す。
仲間と組んで勝つ。
それが、
玄蕃自身が逃若党へ残る力になっていく。
第7章 玄蕃が逃若党に残ったのは、忠義だけではなく「ここで戦いたい」と思える物を見つけたから
金で始まった時行との関係は、第6回の命の貸し借りから少しずつ変わった
玄蕃と時行の関係は、
最初から主君と忠臣ではない。
第5回で時行から郎党へ誘われた時も、
玄蕃が先に見たのは報酬だった。
北条家への忠義を語るわけでもなく、
危険な仕事なら見返りを求める。
そこが弧次郎や亜也子とは大きく違っていた。
第6回の小笠原館でも、
その考え方は残っている。
市河助房の地獄耳に追い詰められると、
玄蕃は時行を置いて逃げようとする。
一緒に捕まるくらいなら、
自分だけでも助かる。
加入直後の玄蕃なら、
それが普通の判断だった。
ところが玄蕃自身が危険になると、
時行は逆に戻ってくる。
玄蕃を庇い、
自分の背中へ傷を負う。
見捨てようとした相手に、
逆に命を助けられる。
玄蕃の中に残った最初の大きな変化は、
この第6回から始まっている。
玄蕃も、
助けられただけでは終わらない。
借りを返すために追手を攪乱し、
最後には綸旨が置かれた蔵を焼く。
敵へ何を狙われたのか分からなくさせ、
時行と一緒に館を脱出する。
金で結んだ関係の中へ、
命の貸し借りが入った。
その後も玄蕃は、
逃若党を離れなかった。
第7回では、
時行たちと北の国境へ偵察に向かう。
第11回以降の保科軍を巡る戦いにも関わり、
第15回から第17回では、
諏訪神党の三つの戦場をつなぐ中で動いている。
つまり第19回までには、
第6回の一度きりの借りだけではなく、
仲間と過ごした時間そのものが増えている。
時行と危険な場所へ入る。
弧次郎や亜也子と移動する。
頼重から仕事を受ける。
逃若党の忍として、
玄蕃にしか出来ない役目も出来ている。
それでも第19回では、
玄蕃は一度立ち止まる。
泰家が諏訪へ現れ、
頼重が次の大戦へ向けて動く。
時行には鎌倉奪還がある。
亜也子や弧次郎にも、
主君や一族へつながる戦う場所がある。
玄蕃だけが、
「自分は何のためにそこまで行くのか」を持っていない。
ここで玄蕃がすぐ離脱しなかったことが大きい。
考える。
迷う。
それでも、
諏訪大社への侵入者を察知すれば動く。
もう関係ないと言って立ち去らない。
頭では逃若党との距離を考えながら、
体はすでに仲間を守る側へ動いている。
そして天狗と遭遇する。
自慢の変装や忍の技を見破られる。
「技じゃないな、手品だ」と切り捨てられる。
玄蕃にとって、
時行とは別の方向から、
どうしても放っておけない相手が現れる。
ここで玄蕃は、
初めて自分のために戦える物を見つける。
天狗を見返したい。
自分の技をもっと強くしたい。
変装だけではなく、
本物の忍にも通じる技へ変えたい。
北条の大義ではなく、
玄蕃自身の欲から出た目標になる。
玄蕃は忠臣になったのではなく、自分の技を試せる場所として逃若党を選んだ
天狗に負けたあと、
玄蕃はそのままにはしない。
吹雪へ相談する。
自分に足りない物を聞く。
相手へ本当の恐怖を与えるには何が必要か考える。
今までの変装と工作へ、
さらに強い武器を加えようとする。
そして中先代の乱では、
その研究が実戦へつながる。
玄蕃は味方兵へ化け、
天狗衆へ偽の情報を流す。
敵が「北条軍はどこを狙っているのか」を誤認するよう仕向け、
戦場へ入る前から相手の判断を狂わせる。
これは第6回の蔵焼きと同じ、
玄蕃らしい勝ち方になる。
相手を真正面から倒さない。
何を狙われたのか分からなくする。
嘘を本物だと思わせる。
敵が間違った判断をした時には、
もう玄蕃の術中へ入っている。
さらに、
かつて自分を圧倒した天狗とも再び向き合う。
最初は救援を呼ぶので精一杯だった。
技を手品と笑われた。
でも今度は、
自分一人で意地を張るのではなく、
時継ら仲間の力まで使って相手を追い詰める。
最終的には、
天狗を捕らえるところまで進む。
第19回では、
忍として何も出来なかった相手。
その相手へ、
自分の変装と工作を捨てずにやり返す。
玄蕃が変わったのは、
別人のような戦士になったからではない。
むしろ、
玄蕃らしさは残ったままになる。
金が好き。
損はしたくない。
正面から危険へ飛び込むより、
相手を騙して勝ちたい。
軽口も叩く。
忠義一筋の武士にはならない。
でも、
第5回の玄蕃とは違う。
昔なら金にならなければ離れられた。
第19回では、
時行への借りもある。
仲間との時間もある。
さらに、
天狗へ負けた悔しさと、
自分の技をもっと上へ持って行きたい欲まで出来た。
だから玄蕃が逃若党へ残る答えは、
「時行へ忠誠を誓ったから」だけでは足りない。
時行に助けられた。
一緒に戦ってきた。
自分にしか出来ない仕事も増えた。
その上で、
逃若党の戦場そのものが、
玄蕃の技を試せる場所になった。
第19回で玄蕃が迷ったことも、
無駄にはならない。
何も考えず残っていたなら、
金で雇われた頃と大きく変わらない。
一度、
「自分には仇も救う一族もない」と立ち止まった。
そのあとで、
自分なりに残る物を見つけた。
時行には鎌倉がある。
弧次郎には主君がいる。
亜也子には家族と諏訪がある。
玄蕃には、
自分の忍術がある。
その技を磨き、
強い相手を騙し、
仲間の役に立てる場所が逃若党だった。
だから玄蕃は、
逃若党を抜けない。
時行を敵へ売ることもしない。
第19回の迷いは、
裏切りへ向かう前触れではなく、
玄蕃が「金で雇われたから残る」状態を卒業するための時間だった。
最初は報酬。
次に、
時行から受けた命の借り。
そして天狗に負けた悔しさ。
中先代の乱では、
自分の技で格上へやり返す達成感まで加わる。
玄蕃が残る根拠は、
一つではなく、
第5回から積み上がった出来事そのものになる。
逃若党に残ったあとも、
玄蕃は玄蕃のまま。
それが一番大きい。
忠臣らしく振る舞う必要はない。
大義を大声で語る必要もない。
自分の技を使いたい。
仲間となら面白いことが出来る。
その玄蕃らしい答えで、
時行の隣に残っていく。


コメント