キシリカがナナホシの病気を見抜けたのは、単に魔眼を持つからではなく、7000年前の病気を知るほど長い時間を生きてきた魔界大帝だから。
人間には古代史になったドライン病も、キシリカにとっては記憶の中に残る出来事であり、そこへ「この世界の人間ではない」ナナホシの特殊な身体が重なった。
つまりキシリカとナナホシがつながった場面は、古代を知る存在と現代日本から来た異世界人が、一つの病気を通して交差した場面になる。
第1章 キシリカがナナホシの病気を知っていたのは、7000年前を知る存在だから
現代の誰も知らないドライン病へ、キシリカだけが過去の記憶から届いた
ナナホシが血を吐いて倒れ、
病名が「ドライン病」だと判明しても、
その場にいた者たちはすぐ対処法へ届かなかった。
クリフですら病名を知らず、
ルーデウスにも聞き覚えがない。
それほど古い病気だった。
ドライン病は、
人の魔力が現在より遥かに少なかった太古の病。
当時は魔力を持たず生まれる子供も存在し、
そうした子供たちが十歳前後になると発症し、
命を落としていたと伝えられている。
ところが時代が進み、
人間そのものが十分な魔力を持つようになると、
発症条件を満たす者がほぼ消えていく。
病気そのものが治療されたのではなく、
患者になる身体が存在しなくなったことで、
ドライン病は歴史の奥へ沈んでいった。
だから現在の医師が知らなくても不思議ではない。
何千年も患者が現れず、
治療する必要も無くなれば、
病名も薬草も生活知識から消えていく。
ナナホシが倒れた時、
周囲が即座に答えへ届かなかったのも当然だった。
そこで必要になるのが、
人間とは全く違う時間を生きるキシリカ・キシリス。
ルーデウスたちは、
現代の治癒魔術師だけでは足りないと判断し、
魔大陸まで足を延ばして、
神出鬼没の魔界大帝を探すことになる。
キシリカが特別なのは、
珍しい魔眼を持っているからだけではない。
現在の人間にとって「太古の病」としか残っていない時代を、
自分自身が存在してきた長い時間の中で知っている。
ここがドライン病へ届いた最大の差になる。
ナナホシの症状を見て、
魔力を持たない者へ起きる古い病気を思い出す。
さらに体内へ蓄積した魔力を排出するため、
ソーカス草が必要だという知識まで残っている。
病名だけではなく、
その先の対処法まで繋がっている。
人間にとって7000年前は、
本や伝承の中にしか残らない過去。
しかしキシリカにとっては、
自分が生きてきた世界の延長線上にある。
だからナナホシという異常な患者を前にしても、
「存在しない病気」と切り捨てずに済んだ。
ナナホシが現代には存在しない患者だったから、古代を知るキシリカの記憶が必要になった
ナナホシがドライン病へ罹ったこと自体、
現在の六面世界では極端に珍しい。
彼女は日本から自分の身体のまま転移しており、
ルーデウスのように、
この世界の赤子として生まれ直した存在ではない。
ルーデウスは日本人としての記憶を持っていても、
肉体はこの世界の人間。
幼少期から魔力を持ち、
魔力が存在する空気や食事の中で成長している。
身体の基本条件は、
こちら側の人間と同じになる。
対してナナホシは、
日本人だった身体をそのまま持ち込んでいる。
自身に魔力が無く、
この世界へ来てから長期間、
空気や食事などを通して外部の魔力へ触れ続ける。
その蓄積を身体が処理し切れない。
だからナナホシの症状は、
現代の人間を基準に診れば異例に見える。
同じ環境で暮らしているルーデウスたちは平気なのに、
ナナホシだけが衰弱し、
咳を重ね、
ついには血を吐いて倒れる。
病名が分かった後も残酷。
ソーカス草で体内の魔力を排出すれば、
今回の危機からは抜けられる。
しかしナナホシ自身に、
この世界の人間と同じ免疫や耐性が生まれるわけではない。
異世界で暮らす限り、
再び魔力は身体へ入る。
放置すれば、
また蓄積する可能性がある。
日常的にソーカス茶を飲み、
身体へ溜まる魔力を外へ出し続けなければならない。
つまりナナホシは、
現代では消えた病気を偶然拾ったのではない。
「魔力を持たない人間」という、
7000年前には存在していた身体条件を、
現代へ持ち込んでしまった人物になる。
だからこそ、
現代医学だけでは追い付かない。
現在の常識から外れた患者には、
現在より遥か昔の常識を知る人物が必要になる。
そこでキシリカとナナホシが、
一つの病気を通して繋がる。
7000年前の病気を知る魔界大帝。
現代日本から来た魔力を持たない少女。
時代も生まれた世界も全く違う二人が、
ドライン病という一点で交差する。
この組み合わせ自体が、
ナナホシ救出の中でもかなり特殊な場面になる。
第2章 そもそもキシリカ・キシリスは何歳なのか
見た目は少女でも、魔界大帝キシリカは人間の寿命では測れない時間を生きている
キシリカを初めて見た時、
ルーデウスの前に現れた姿だけなら、
7000年前の病気を知る存在には見えない。
小柄な身体。
大袈裟な言葉遣い。
空腹で食べ物を求め、
魔界大帝とは思えないほど自由に振る舞う。
しかし正体は、
魔族の中でも特別な存在である魔界大帝キシリカ・キシリス。
長い歴史の中で何度も名前が現れ、
魔大陸の有力者たちとも深い因縁を持つ。
見た目の年齢と、
実際に積み重ねてきた時間が全く一致しない。
ルーデウスが初めてキシリカと出会った時も、
普通の少女として終わらない。
食事を与えた礼として、
自分の身体に宿す魔眼の中から一つを選ばせ、
ルーデウスへ予見眼を与える。
この時点で、
人間とは違う存在であることが強く出ている。
さらにキシリカは、
一度の人生をそのまま長く生き続けているだけではない。
死と復活を繰り返す特殊な存在。
肉体が失われても、
時間を置いて再び戻ってくる。
人間の「死んだらそこで終わり」という生涯とは根本から違う。
だから外見だけを基準にすると、
キシリカの知識量を読み違える。
現在の姿が若く見えても、
本人が関わってきた歴史は桁違いに長い。
魔族同士の戦争も、
魔王たちの時代も、
人間社会が忘れた古い出来事も、
自分の側の記憶として抱えている。
この長さが、
ドライン病で重要になる。
7000年前という数字を聞けば、
ルーデウスやクリフには完全な古代。
書物を探し、
残っている記録から推測するしかない。
ところがキシリカには、
その距離感が違う。
何千年という単位で世界を知り、
死と復活を挟みながら存在し続けている。
だから「昔そんな病気があった」という知識が、
人間より遥かに残りやすい。
人間なら、
一世代で知識を失う。
医師が死ねば、
治療法が途絶えることもある。
何百年も患者が出なければ、
病名そのものが忘れられる。
キシリカは、
その断絶を飛び越える存在。
だから現代人が失った病気の知識を持っていても、
不自然ではない。
むしろナナホシのような例外が現れた時、
初めて長寿の価値が表面へ出てくる。
死んでも復活するキシリカだから、人間が忘れた歴史を現在まで持ち込める
キシリカの特殊さは、
単純な長寿より、
死んでも再び現れる点にある。
一度肉体を失えば全て終わる人間と違い、
キシリカは復活を繰り返しながら、
魔界大帝として歴史へ戻ってくる。
そのため、
キシリカを「何歳」と一つの数字だけで捉えると分かりにくい。
現在の身体が何年生きたかより、
存在としてどれほど長く六面世界へ関わってきたかを見る方が近い。
彼女の時間は、
一人の人間の人生とは別物になる。
ここが、
ナナホシの病気との接点で効いてくる。
ドライン病は、
現在では実際の患者を見る機会がほぼない。
普通の治癒魔術師が、
臨床経験から病名を当てることは難しい。
文献だけでも限界がある。
古い記録が失われる。
言葉が変わる。
薬草の呼び名が変わる。
生息地も変化する。
7000年という時間があれば、
病気と治療法の両方が忘れられて当然になる。
しかしキシリカは、
古い時代と現在の間を繋げられる。
昔の病名を知る。
どんな身体に起きたかを知る。
さらにソーカス草という、
体内の魔力を排出する手段まで覚えている。
だからルーデウスたちが求めたのは、
単に強力な魔眼を持つ人物ではない。
現在の医学では届かない時間まで遡れる存在。
その条件を満たす人物として、
キシリカが必要だった。
ナナホシが普通の病気なら、
ここまで遠くへ探しに行く必要はない。
治癒魔術。
解毒魔術。
クリフの知識。
ペルギウスの配下。
現在の医療で対処できれば、
魔大陸まで向かう必要は無かった。
ところがドライン病は、
患者そのものが消えた古代病。
だから必要になったのは、
最新の知識ではなく、
誰より古い知識だった。
見た目は少女。
振る舞いも自由。
食べ物へ釣られ、
ルーデウスへ魔眼まで与える。
それでも何千年という世界の記憶を抱えている。
キシリカがナナホシの病気を知っていた場面は、
この奇妙な落差が最も役立った瞬間の一つになる。
普段は掴みどころのない魔界大帝が、
人間社会から消えた知識を現在へ持ち帰る。
その長い時間こそ、
ドライン病へ辿り着けた最大の武器になる。
第3章 7000年前のドライン病をなぜ覚えていたのか
キシリカにとってドライン病は、失われた医学知識ではなく「懐かしい名前」だった
ナナホシの病名がドライン病だと判明した時、
ルーデウスたちの反応は一様だった。
シルヴァリルから病名を告げられても、
誰も聞き覚えがなく、
病気に詳しいクリフまで困惑している。
この時点で、現代ではほぼ完全に忘れられた病気だと分かる。
説明された内容も、
現在の常識から大きく外れている。
人間の魔力が今より遥かに少なかった太古、
魔力を持たず生まれた子供が存在し、
十歳前後になるとドライン病を発症し、
例外なく命を落としていたという。
しかし人間が時代と共に強い魔力を持つようになると、
発症条件そのものが消えていく。
患者がいなくなれば、
医師が病名を覚えておく必要も薄れる。
治療法も薬草も、
何千年という時間の中で生活知識から消えていく。
ペルギウスでさえ、
病名を調べるため書庫を使っている。
そして7000年前という数字が出た時、
ルーデウスはようやく、
それほど昔を知る人物としてキシリカを思い出す。
かつて魔大陸で出会い、
予見眼を与えてくれた魔界大帝。
第一次人魔大戦の時代から存在し、
現在の人間では届かない時間を知るキシリカなら、
ドライン病にも心当たりがあるかもしれない。
そこでルーデウスたちは再び魔大陸へ向かう。
実際にキシリカへ尋ねると、
反応は現代人と全く違う。
知らない病名を聞いた顔ではない。
忘れられた難病を前に驚くというより、
「懐かしい名前を聞いた」と受け止める。
ここが、
キシリカという存在の異常な時間感覚を最も分かりやすく示す。
クリフには未知の病気。
ルーデウスには古代史。
ペルギウスですら書庫から調べる病名。
それがキシリカには、
自分の記憶へ直接結び付く名前になる。
7000年前という年月は、
人間なら何百世代も入れ替わる長さ。
国が滅び、
言語が変わり、
医学書そのものが失われても不思議ではない。
それでもキシリカには、
ドライン病という名称と特徴が残っている。
だからキシリカが特別なのは、
単に長生きしているからではない。
人間社会では知識が途切れた後も、
自分自身の存在が歴史を越えて続いていること。
その記憶の長さが、
現代には存在しない患者を救う入口になった。
現代の治癒魔術師が知らなくても、キシリカには当時の身体条件まで残っていた
キシリカが覚えていたのは、
病名だけではない。
ドライン病がどんな人間へ発症するのか。
魔力を持たない身体が、
外部から入った魔力を処理できず、
体内へ溜め込んでいく病気であることまで把握している。
この知識があるから、
ナナホシの状態と結び付く。
ナナホシは日本から身体ごと転移し、
この世界の人間のような魔力を持っていない。
しかも転移から八年近く、
魔力を含む空気や食事に触れ続けている。
太古の子供は、
十歳ほどで発症した。
ナナホシは年齢そのものは違っても、
この世界へ来てから過ごした年月が近い。
魔力を持たない身体へ、
長期間かけて外部魔力が蓄積したという条件が重なる。
現代の人間だけを診てきた医師には、
この発想へ届きにくい。
現代人は生まれつき魔力を持ち、
外部魔力を処理できる。
そもそも「魔力を持たない患者」を、
日常的に診察する機会がない。
だからナナホシは、
現代医学から見ると存在しないはずの患者になる。
咳が続く。
体調が悪化する。
吐血する。
体内の魔力の流れが滞っている。
症状は見えても、
それを古代病へ結び付ける経験が無い。
キシリカには逆に、
その古い身体条件への記憶がある。
人間が今ほど魔力を持っていなかった時代。
魔力を持たず生まれる子供。
一定期間を過ぎると発症する病。
現代から失われた前提そのものを知っている。
だからナナホシを見た時、
「こんな患者は存在しない」で終わらない。
昔なら存在した。
昔なら同じように発症した。
その記憶を現在へ持ってこられる。
キシリカとナナホシがこの場面で繋がるのは、
二人とも現在の普通から外れているから。
一人は7000年前を知る魔界大帝。
もう一人は、
現代日本から身体ごと転移した魔力を持たない少女。
現在の六面世界では成立しない病気が、
現在の六面世界では普通に存在しない人間へ発症する。
そこへ、
現在の人間では普通に持てない記憶を持つキシリカが現れる。
この三つが揃って、
ドライン病という古代の病気が再び現実の問題になる。
第4章 キシリカの魔眼だけでナナホシの病気まで分かったわけではない
病気を見抜いた決め手は、身体を見る力より「昔その病気を知っていた記憶」だった
キシリカといえば、
真っ先に思い浮かぶのが魔眼。
ルーデウスと初めて出会った時も、
食事を与えてもらった礼として、
複数の魔眼から一つを選ばせ、
予見眼を与えている。
そのためナナホシの病気でも、
「魔眼で身体を見れば全部分かった」と思いやすい。
しかし実際の流れを見ると、
ドライン病へ届いた核心はそこではない。
ナナホシが倒れた直後には、
すでに別の方法で身体の異常が調べられている。
カロワンテは、
解毒魔術以外に外部から干渉された痕跡が無いこと、
体内の魔力の流れが滞っていることまで確認している。
つまり、
身体の中で何かがおかしいという情報は、
キシリカを探す前から存在している。
それでも病名も治療法も分からない。
症状を観察するだけでは、
7000年前の病気へ届かなかった。
ペルギウスたちは書庫を調べ、
ようやくドライン病という病名へ辿り着く。
しかし今度は、
治療法が分からない。
病名が分かっても、
患者を救う方法までは失われていた。
そこでキシリカへ会い、
クリフがドライン病の治療法を尋ねる。
するとキシリカは、
病名そのものへ即座に反応し、
今どきそんな病気へ罹る者がいることへ驚く。
ここには「見て診断する」段階がほぼ無い。
聞いた瞬間に、
病気を知っている。
しかも「治るのか」と問われれば、
治療可能だと答える。
つまり決定的なのは、
現在のナナホシを観察する魔眼ではなく、
過去のドライン病そのものを知っている記憶になる。
魔眼はキシリカを象徴する能力。
しかしナナホシ救出では、
派手な能力以上に、
何千年もの間に蓄積された経験が重要になる。
そこがこの場面の面白い部分になる。
ソーカス草とアトーフェへ繋がったのも、病名だけでなく「古い治療法」を覚えていたから
キシリカへ会えたことで、
ルーデウスたちは初めて具体的な治療へ進める。
ドライン病は治せる。
必要なのは、
体内へ溜まった魔力を排出すること。
そのための手段としてソーカス草が出てくる。
ここで重要なのは、
ソーカス草という植物を知っているだけでは足りないこと。
何の病気へ使うのか。
どのように働くのか。
どこへ行けば手に入るのか。
それらが繋がって初めて治療ルートになる。
現在の人間社会では、
ドライン病そのものが消えている。
当然、
ドライン病へソーカス草を使うという知識も必要とされなくなる。
薬草が残っていても、
用途だけ忘れられることもある。
キシリカは、
その切れた知識を一本へ繋げる。
ナナホシの病気がドライン病。
体内の魔力を排出する必要がある。
そのためにソーカス草を使う。
さらに入手先を辿ると、
アトーフェの領域へまで道が伸びていく。
ルーデウスたちが必要としていたのは、
「強い誰か」ではない。
病気を攻撃する魔術でもない。
7000年前には常識だったかもしれない知識を、
現在まで持ってきてくれる人物だった。
だからキシリカの役割は、
魔眼で全てを解決する万能人物とは違う。
現代の人間が忘れた病気を覚えている。
失われた治療法も覚えている。
現在の患者へ、
古代の知識を当て直す。
しかもナナホシは、
ソーカス草を一度使えば完全に終わる身体ではない。
この世界の人間ではないため、
魔力への免疫が出来ない可能性がある。
放っておけば、
再び体内へ魔力が溜まる。
そのため後には、
日常的にソーカス茶を飲み、
魔力を排出し続ける必要まで出てくる。
さらに将来、
キシリカすら知らない太古の病気へ罹る可能性まで残る。
ここまで見ると、
キシリカがナナホシを救った場面は、
一度きりの薬草探しでは終わらない。
古代の病気へ罹る現代日本人。
その病気を知る魔界大帝。
二人の特殊性が噛み合ったから、
ようやく治療の入口が開いた。
魔眼だけなら、
異常を見ることはできても、
7000年前の治療法までは出てこない。
キシリカの本当の強みは、
能力と同時に、
世界が忘れた時代を自分の記憶として持っていること。
ナナホシのドライン病は、
その長い記憶が最も実用的な形で生きた場面になる。
第5章 ナナホシがキシリカの知識を必要とした理由
ナナホシはこの世界の人間とは違い、魔力への耐性を持たない
ナナホシがドライン病へ罹った大きな背景には、
この世界の人間とは違う身体条件がある。
ルーデウスのように転生して赤子から育ったのではなく、
現代日本で生きていた身体そのものを六面世界へ持ち込んでいる。
そこが最初から決定的に違う。
この世界の人間は、
生まれた時から魔力を持つ。
幼少期から魔力のある空気や食事へ触れ、
身体そのものが魔力の存在を前提に出来ている。
日常生活の中で魔力を扱うことが、
ごく普通の身体条件になる。
ナナホシには、
その前提がない。
日本では魔力そのものが存在しない。
だから六面世界へ来た後、
身体の外から入り続ける魔力を、
正常に処理する仕組みを持っていなかったと考えられる。
最初は普通に暮らせても、
時間が経つほど蓄積が進む。
咳が増える。
身体が重くなる。
体調が崩れる。
そして最後には、
血を吐くほど症状が悪化する。
周囲から見ると、
原因が分かりにくい。
同じ場所で暮らすルーデウスは平気。
シルフィもロキシーも、
この世界の普通の人間は発症しない。
だから感染症のようにも見えない。
ここで重要になるのが、
ナナホシだけが持つ「異世界人の身体」になる。
現在の六面世界では、
魔力を全く持たない人間がほぼ存在しない。
だからドライン病そのものが、
現代では忘れられていた。
しかし7000年前には、
魔力をほとんど持たない子供が存在した。
その身体条件が、
現代日本から来たナナホシと重なる。
現代にはいないはずの患者が、
異世界転移によって再び現れたことになる。
だからナナホシの病気を理解するには、
現代の医学だけでは足りない。
現在の人間を基準にすると、
発症条件そのものが存在しないから。
そこで必要になるのが、
魔力の少なかった古代を知るキシリカの記憶だった。
現代では起こらない病気が、異世界人のナナホシには成立してしまった
ナナホシが特殊なのは、
病気へ罹ったことだけではない。
治療後も、
この世界の人間と同じ身体へ変わるわけではない。
そこがドライン病の厄介さをさらに大きくする。
ソーカス草を使えば、
体内へ溜まった魔力を排出できる。
それによって、
今回の危険な状態から抜け出すことはできる。
しかし身体そのものに、
魔力への耐性が生まれるわけではない。
六面世界で暮らし続ければ、
空気や食事から再び魔力へ触れる。
少しずつ体内へ入る。
そして処理できなければ、
また蓄積していく。
だからナナホシには、
一度治療すれば終わりという安心がない。
日常的にソーカス草を取り入れ、
身体へ溜まる魔力を外へ出し続ける必要がある。
治療後も、
異世界人としての弱点は残る。
ここでナナホシとルーデウスの差が、
さらに明確になる。
二人とも日本出身。
前世の文化や言葉も知っている。
しかし身体の成り立ちは完全に違う。
ルーデウスは、
この世界の人間として生まれ直した。
魔力も持つ。
幼少期から魔術を使い、
身体そのものが六面世界へ適応している。
一方ナナホシは、
日本人の身体のまま来た。
だから現代では消えた病気の条件を、
一人だけ再現してしまった。
ここがキシリカの古代知識を必要とした最大の背景になる。
普通の患者なら、
普通の医師で足りる。
普通の現代病なら、
現代の知識で対処できる。
しかしナナホシは、
現代には存在しない患者だった。
だから必要になったのも、
現代だけを知る人物ではない。
7000年前の人間の身体条件まで知る存在。
それが魔界大帝キシリカ・キシリスだった。
第6章 ルーデウスではなくキシリカだから分かったこと
同じ日本人のルーデウスでも、ナナホシの身体の異変までは説明できなかった
ナナホシが倒れた時、
最も近い立場にいる人物はルーデウスに見える。
同じ日本出身。
同じ現代知識を持ち、
異世界へ来た経験も共有している。
それでも、
ドライン病の正体までは見抜けない。
ルーデウスは、
ナナホシがこの世界の人間とは違うことを知っている。
魔力を持たないことも知っている。
転移によって身体ごと来たことも理解している。
しかし、
それだけでは病名へ結び付かない。
日本の医学知識を持っていても、
六面世界独自の古代病までは知らない。
魔力が体内へ蓄積する病気。
魔力を持たない子供が罹った病気。
7000年前に消えた病名。
そこは完全に別世界の歴史になる。
だからルーデウスは、
ナナホシと似た立場だからこそ、
身体の違いまでは理解できても、
治療法へ直接届けない。
同じ日本人という共通点だけでは、
古代の病気を解くには足りなかった。
ここでキシリカとの差が出る。
キシリカは日本を知らない。
現代科学も知らない。
ナナホシがどんな社会から来たのかも、
ルーデウスほど理解していない。
それでも、
六面世界の過去を知っている。
人間の魔力が少なかった時代。
ドライン病が存在した時代。
ソーカス草が治療へ使われた知識。
この世界側の情報量が圧倒的に違う。
ルーデウスが持っているのは、
異世界人としての理解。
キシリカが持っているのは、
六面世界そのものの長い記憶。
ナナホシを救うには、
この二つのうち後者が必要だった。
決定的だったのは知識の量ではなく、何千年もこの世界を見てきた時間だった
キシリカがドライン病を知っていた場面は、
「頭が良い人物だから解けた」という話ではない。
専門家として医学書を読破したからでもない。
むしろ彼女の強みは、
普通の人間には持てない時間そのものになる。
人間は、
一世代で見られる時代が限られる。
百年生きても、
7000年前には届かない。
古い記録を読むことはできても、
当時の空気や常識まで直接知ることはできない。
キシリカは、
その隔たりを越えている。
魔族の歴史。
人魔大戦。
古い魔王たち。
何千年という単位の変化を、
自分自身の存在の中へ抱えている。
だから現在では役に立たない知識も残る。
患者がいなくなった病気。
使われなくなった薬草。
昔の身体条件。
人間社会では忘れられた情報も、
キシリカには完全な過去になっていない。
ナナホシが倒れたことで、
その古い知識が突然必要になる。
7000年前には普通に存在した条件が、
現代日本から来た少女の身体で再現される。
そこでキシリカの時間が、
初めて現在の医療へ直結する。
ルーデウスは、
日本の知識で多くの問題を解決してきた。
魔術へ現代的な発想を持ち込み、
生活でも日本の記憶を活かしている。
しかし今回は、
日本の知識では届かない。
必要だったのは、
未来から来た知識ではなく、
遥か昔へ戻る知識。
しかも書物ではなく、
その時代を知る存在の記憶になる。
ここがドライン病編の面白い逆転になる。
ナナホシは、
現代日本から来た人物。
キシリカは、
7000年前を知る人物。
時間の方向は正反対。
それでも一つの病気を通して、
二人の特殊性が噛み合う。
だから「ルーデウスではなくキシリカだった」という点にも意味がある。
同じ日本人だから分かる問題ではなかった。
六面世界を長く生きた者だから分かる問題だった。
ナナホシの病気を知っていたキシリカの凄さは、
魔界大帝という肩書だけではない。
何千年もの時間を生き、
世界が忘れた知識まで現在へ持ち込めること。
その長い時間こそ、
今回最も決定的な能力になっている。
第7章 キシリカとナナホシの出会いは、古代と異世界が交差した場面だった
7000年前を知る魔界大帝と、現代日本から来た少女が一つの病気でつながった
キシリカとナナホシの接点は、
単に病人と治療法を知る人物が出会った場面ではない。
一方は7000年前の病気を記憶している魔界大帝。
もう一方は、
現代日本から身体ごと転移してきた少女になる。
ナナホシは、
六面世界の人間として生まれていない。
魔力を持たない日本人の身体のまま長期間暮らし、
空気や食事を通して少しずつ魔力へ触れ続けた結果、
現代では消えたドライン病を発症した。
つまりナナホシ自身が、
古代の病気を現代へ呼び戻したような存在になる。
7000年前には存在した
「魔力を持たない人間」という条件を、
異世界人であることによって再現してしまった。
普通なら、
そんな患者を診られる人物はいない。
現代の治癒魔術師は、
魔力を持つ人間を前提にしている。
病名そのものが忘れられ、
治療法まで歴史の奥へ消えている。
そこで必要になったのが、
現在ではなく過去を知るキシリカだった。
人間には古代史。
医師には失われた病気。
それでもキシリカには、
かつて実際に存在した病として記憶が残っている。
ナナホシが未来側から来た例外なら、
キシリカは過去側から残っている例外。
時間の両端にいる二人が、
ドライン病という一点で交差する。
この構図が、
ナナホシ救出をかなり特別な出来事にしている。
ソーカス草へ辿り着けたことも、
アトーフェの領域へ向かえたことも、
出発点にはキシリカの記憶がある。
現代の知識だけでは閉じていた道が、
7000年前の知識によって開かれたことになる。
キシリカの長い記憶があったから、ナナホシは「存在しない患者」のまま終わらなかった
ナナホシが怖いのは、
今回だけ治療すれば完全に普通へ戻れるわけではないこと。
ソーカス草で体内の魔力を排出しても、
日本人としての身体条件までは変わらない。
六面世界で暮らす限り、
再び魔力へ触れ続ける。
そのため、
ナナホシには継続的な対処が必要になる。
日常的にソーカス茶を飲み、
体内へ蓄積する魔力を外へ逃がす。
普通の人間なら必要のない習慣を、
生きるために続けなければならない。
さらに、
今回のドライン病が解決しても、
将来また別の古代病へ罹る可能性まで残る。
ナナホシの身体は、
この世界の人間が何千年もかけて獲得した耐性を持っていないから。
その意味では、
キシリカの知識にも限界がある。
今回の病気は知っていた。
治療法も覚えていた。
しかし今後、
キシリカすら知らない病気が現れない保証はない。
それでも、
今回ナナホシが助かる道へ進めたのは大きい。
現代の常識で見れば、
原因不明のまま衰弱してもおかしくなかった。
病名が分からず、
治療法も失われていた。
そこでキシリカが、
世界の長い記憶を現在へ持ち込んだ。
「昔こんな病気があった」
「こういう身体へ起きた」
「こうして魔力を外へ出せる」
その知識が一本に繋がり、
ナナホシはようやく治療可能な患者になる。
だからキシリカがナナホシの病気を知っていた場面は、
単なる便利な助言では終わらない。
魔界大帝として何千年も存在し、
人間社会が忘れた歴史まで覚えていたことが、
初めて生命へ直接結び付いた場面になる。
ナナホシは、
現代日本から来たことで古代病へ罹った。
キシリカは、
古代を知っていたことでその病気を見抜いた。
二人の特殊さは正反対なのに、
一つの病気を介して綺麗に噛み合っている。
7000年前を知る魔界大帝と、
現代日本から来た少女。
普通なら交わらない二つの時間が、
ドライン病によって一つへ繋がる。
キシリカがナナホシの病気を知っていたのは、
ただ博識だったからではない。
世界が忘れるほど長い時間を、
自分自身の記憶として抱えてきたから。
その長い時間こそ、
ナナホシを救う道を開いた最大の答えになる。
無職転生Ⅲまとめ
『無職転生Ⅲ』の記事を、第3期の放送範囲・ナナホシと転移事件・ペルギウスと空中城塞・未来ルーデウス・オルステッド・魔導鎧・エリスとの再会・ルーデウスの家族などに分けてまとめています。
ルーデウス、エリス、シルフィ、ロキシー、ナナホシ、ペルギウス、オルステッド、ゼニス、アリエル、クリフ、エリナリーゼなど、気になる人物や物語の謎はこちらから探せます。
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